| 彼のプロポーズから二週間── とうとうはっきりさせなければならない日がやって来た。
「それで?お前はどうしたいんだ?」
互いの仕事が終わってから私の部屋で夕食を摂り、帰る彼を途中まで送ろうと、駅への通りを二人並んで歩いていた矢先の事だった。
「───…え?」 街灯の下で思わず立ち止まる。
「この先どうしたいんだ?結婚する気はあるのか?」 そう問う彼の顔が明かりに浮き出され、私を責めているようだった。 何も答える事が出来ずにいる私に、すっと近寄る。 「なぁ、俺の事好きだろ?この先も一緒に居るつもりなら──」 柔らかく私の肩を抱こうとする彼の手を、私は無意識に避けた。 彼の目の色が変わった事には気が付いたが、私にはどうする事も出来ず。 乱暴に肩を掴まれ、引き寄せられる。 唇を寄せられ──しかし、私は顔を背けて拒絶した。 「何で…」 彼の手がゆっくり離れ、力なくうなだれる。 「どうしてだよ…なぁ?泣いてないで何とか言えよっおい!」 荒げる彼の声に、ようやく私は自分が涙を流している事を知った。 「泣く程嫌か?そんなに?」 もはや苦笑すら浮かべている彼に、 「ごめっ…ごめ、ん…ごめんなさいっ…」 私はただただ謝るしかなかった。 そんな言葉しか出てこなかった。 嗚咽が止まらない。 涙も止まらない。 彼の溜め息が一つ聞こえて。
─結婚しないなら…別れよう。
そう一言残し。 私一人を残し。
彼はその場から、私の元から去って行った。
街灯の下。 佇む私。 涙はとうに枯れた。 悲しかったわけでは、決してないけれど。 何故だか無性に、寂しくなった。
だからかもしれない。 街灯の明かりで映し出された一つだけの私の影に、別の誰かの影が重なり。 はっとして顔を上げた瞬間に、その誰かが私に向けている瞳を見て、また涙がこみ上げてきてしまったのは。
「…そう言えば、この辺りに住んでるって言ってたわね」
栗色の野良猫は、 口角をにっと上げた。
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