| アキと別れー
自分の部屋に続く階段を昇る私の身体は
鉛のように重い。
でも
頭の中はやけにクリアで。
取り乱す?
泣きわめく?
そんなことはなく。
私の姿を
遠くからもうひとりの私が見ていてー
薄く笑っているような感じ。
“また繰り返しちゃったんだね”
そう言って。
自分の愚かさを
私が笑う。
玄関の鍵を開け
部屋に入る。
昼間無人の私の部屋は。
7月の蒸し暑さをいっぱいにため込み
不快な湿気が肌にまとわりついた。
‥‥‥
終わっちゃった、
かな。
‥当然か。
床に座り
自分の膝を抱く。
私
ひとりじゃダメなんだよね。
でも
ふたりだからもっとダメになっちゃった‥‥。
正しい愛し方ー
理屈ではもうわかってるの。
傷つけ傷つくたび
何度も学んだの。
でも
いつのまにか‥
自分にブレーキが効かなくなる。
一度甘い毒の味を知ってしまったら
それに身体が慣れてしまったら。
毒を抜くのは
とても難しい。
‥‥
私の欠落した部分を埋めるように注がれた。
アキの
‥‥‥
‥‥
愛。
不思議だね
アキと過ごした時間を思い出すと。
幸せな気持ちになれる‥
短い時間でも。
私があなたに愛されたことは
真実だよね?
‥‥
あ‥
何でかな。
私結構幸せな気持ちなのに
‥‥‥
また泣きたい。
‥‥っ
素敵なあなたに
こんな言葉しか見つからなくてごめんね?
‥‥
好きよアキ
大好き。
大好きだった‥
その時ー
電気も付け忘れていた暗い部屋に。
ピンポ〜ン♪
気の抜けたインターホンの音が響いて。
‥‥
玄関のドアの向こうから聞こえてきたのは。
「‥サキ助」
アキの声。
「外はめっちゃ暑いねんぞ。開けな火つけたるブツブツ‥」
意地悪で
優しい。
アキの声だった。
(携帯)
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