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午後を回ったときにアリサの携帯からアラーム音が鳴り響いた。
白い手を無造作に動かして掴んだ携帯のボタンを押し、小さな伸びをしてベッドから起き上がる。
「ん〜…っと。さて、お風呂でも入ろうかな♪」
着ていたシャツとズボンを脱ぎ、バスタオルと下着を持ってバスルームへと移動をする。
〔今日はバラの香りのお風呂にしよっかなぁ♪〕
下着を籠の中に用意した瞬間、突然チャイムが鳴った
〔え…。こんな時間に来る奴なんて優奈くらいだな〕 アリサはバスタイムを邪魔された事に多少不満げながら、なんの支度も無しに玄関の扉を開けた。
「もぉ〜、来るならメールくらい入れてって…」
『こんにちわ…あっ…』
アリサの目の前にいたのは優奈ではなく、エリナだった。 アリサの下着姿に目の行き場を失って俯いてしまっている。
「あっ…え?ごめん!ちょっと待ってて!」
アリサは勢い良くドアを閉め、急いで服を着た。
「あはは♪お待たせ♪」
『…………いえ』
アリサよりも恥ずかしそうに、俯いたままのエリナを部屋に招き入れた。
「散らかってるから座るのちょっとだけ待って♪」
散らばった服を投げ遣りにソファにまとめ、雑誌を棚に戻しながら言う。
部屋の間取りや家具自体は落ち着いたモノトーンだが、アリサの散らかった私物達がその雰囲気を壊していた。
『きたな……。こういうのはちゃんとさぁ…』
エリナは手早く服を畳み片付け、食器を洗って部屋に掃除機をかけた。
見違えるほど綺麗になった部屋に、エリナは安心したようにカーペットの上に座りこむ。
「エリナすごい♪マヂで綺麗な部屋になった♪」
エリナの働く姿を、ぼんやりと見つめていたアリサが抱きついた。
『これくらいして下さいよ。まったく…』
子犬のようにじゃれるアリサを身体から離し、呆れるように笑ってキスをした。 アリサは嬉しそうにエリナの膝に頭を乗せて寝転がる 「えへへ♪もう一回♪」
エリナの首に腕を絡ませ、自分の方へと引き寄せる。エリナは微笑み、何度もアリサの唇にキスをした。
『あ…。忘れるトコだった』 キスの後、アリサの頭を撫でていたエリナが、手を伸ばして紙袋をアリサに見せた。
「何?これ?」
不思議そうな顔をして身体を起こし、手渡された紙袋の中を覗く。
『それを渡したくて。』
袋の中には紗織のおばあさんから貰ったお金が入っていた。
「これはエリナの…んっ」 言い掛けたところでエリナの指がアリサの唇にあてられた。
『元は私のじゃないですよ。それに、誰もがそのお金をアリサさんに使って欲しいと思ってる』
困惑しているアリサの目の前に、クスクスと笑いながら紙切れを差し出した。
メモにはたくさんの走り書きがあり、アリサの母が入院している病院の名前や入院費用、手術代までも記されていた。
『初めからアリサさんに渡すつもりだったみたいですよ♪』
「でも…。こんな大金」
『お願いです、私がもらっても使い道ないし。アリサさんのお母さんを早く助けてください』
エリナの暖かい体温が、握られた手から伝わる。 それは今まで母親の入院費や手術代を休みなく稼いできたアリサに、やっと与えられた温もりに感じられた
「…っ…ヒック…あ…りがと…エリナ…エグ…う…わぁああぁん…」
今まで何かに追われていた緊張の糸が切れたのか、アリサは声をあげて泣いた。
『頑張ったね…。頑張った…。』
アリサを自分の胸に引き寄せ、エリナはアリサが泣き止むまで優しく頭を撫で続けた。
(携帯)
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