| 大きな病院だった。 状況を聞いてくる看護師に、ナイフで刺されたとだけ告げた。
出血性ショック・・・緊急手術になった。 彼女がストレッチャーで手術室へ運び込まれるのを、僕は呆然と見ていた・・・
手術室の近くの待合から少し離れたところで、 僕は手術が終わるのを、待っていた。 病院の床が、やけに白く見えて、僕の頭の中も真っ白だった・・・ 悠稀・・・ 手術は何時間かかったのか覚えていない。 もしかしたら、そんなに時間はたっていなかったのかもしれない。 真っ白な病院の床・・・なに・・・やってんだ・・・僕・・・。 手術が終わったと声がかかるまで、僕には永久にも思える時間が続いた。
「終わりました、もう面会できますよ。」 看護婦さんにそういわれて、僕は悠稀の病室に入った。
手術が終わった後の悠稀は、青白い顔をして、ベットに休んでいた。 僕が部屋へ入ると、ゆっくりと目をあけて、僕を見上げる。 青白い顔で、それでも微笑もうとする彼女に、 僕は糸が切れたように怒鳴りつけていた。
「なんでっ、なんであんなことしたんだっ! こんな怪我して・・・僕のために死んじゃうとこだったじゃないか・・・ 何考えてるんだっ!」
彼女はうっすらと微笑みながら、枕元に立つ僕の手に、自分の手を重ねる。
「あなたのことが好きなの」
・・・えっ。
一瞬意味がわからなかった・・・。 僕のことが好き?なに・・・それ・・・
立ち尽くしている僕を、彼女が悲しそうに見上げている。 「天・・・」 名前を呼ばれて、僕はなんていって良いのかわからず、 病室から逃げ出してしまった。
彼女になんて言って良いのかわからなかった。 悲しそうな目をしているのに、 それでも微笑もうとする彼女の視線に、耐えられなかった。
病院から逃げ出した僕は、行く場所もなくて、コテージへ戻った。 戻ると、いつも通りデュークが迎えてくれた。 クゥ〜ンと鼻をならして近づいてくるデュークを 僕は膝をついて抱きしめる。
悠稀に大怪我をさせちゃった・・・ 僕のせいだ。 血がいっぱい出てて・・・ 死んじゃったらどうしようかと思った・・・デューク・・・
ほんとはわかってたんだ。 悠稀が寝ている僕に毛布をかけてくれたり、 僕がいないときはデュークの世話をしてくれたり・・・。
なのに僕は、彼女を憎むことしか・・・ 彼女に対して、怒りをぶつけることが、 父さんや母さんを亡くした悲しみを取り除く方法だと思ってた。 彼女に怒りをぶつけて、 ひどい言葉を投げつけて、 そして悲しみから逃げてたんだ。 認めなくちゃいけない現実や、悲しみを、 彼女に八つ当たることでごまかしてた・・・ ほんとはそんなこと・・・わかってた・・・。 でも、そうでもしないと・・・
父さん・・・母さん・・・ 僕は、僕のこと心配してくれる人まで、なくすところだった・・・ 怖かった・・・
僕は・・・馬鹿者だ。
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