| 「あ、覚えてるかな?私、高校で一緒だった…」
知らない番号からのモーニングコール。
電話の向こうは私が10年前に離れた田舎。 電話の向こうは私が10年ぶりに聴く声。
「秋野です」
退化の一路を辿る脳にキーンと蘇る記憶。 少し震え出した手と、カーンと熱くなる自分の頬。
「あ、きのさ、ん…?」 「うん。久しぶり」
ある晴れた土曜の朝の、 晴天の霹靂。
3番線から─
“秋野さん”から電話があった朝の翌日、私は特急電車に乗っていた。
“秋野さん”との世間話の後、逢えないかと切り出したのは私だ。
「秋野さん、明日は暇?」 「うん」
扉が閉まります─
実に片道3時間の道のり、そのスタート地点に立つ私の弾む心は。 …そう、あの時と同じ。
10年昔彼女に恋をしていたあの時と同じだった。
同級生。 初めての恋。 蝉鳴くグラウンド。 目を反らしては目で追い。 恋焦がれては胸焦がし。 失望と切望を重ね。
私は夜ごと彼女の唇を犯し続けた。
頭の中で。
「はぁ…」
車窓の外では桜花が雪のように吹き荒れ、 初恋には苦い結末がつきまとう。
卒業の日に書いて送ったラブレター。 思いのたけを込めたそのラブレターに彼女からの返事は無かった。 来る日も来る日もポストを覗き電話の前にいても彼女からの返事は、 うんともすんとも無かった。
それから10年経った昨日、彼女からの電話。
「なんか、懐かしい声が聴きたくなっちゃって…」
3650日のうち。 彼女の夢を見て虚しく目覚めた朝は何日あったことだろう。
ずっと好きだった。 再び彼女に逢える事を夢見て生きてきた。
「……」
高まる鼓動を沈めるようについた息。
〇〇駅〇〇駅─
そこには、私が10年想い続けた人の姿があった。
これはとても崇高な片思いだから─
何というか、問題ではないのだ。
「ねえ英会話に興味ない?すごくいい教材があるの」
彼女の商売っケ満載の笑顔や、電話をくれた本当の理由。 \298,000の現金一括払いも。
崇高な想いの前には、チリに同じ。
それにほら、 英語の勉強だって出来ちゃうんだし。
それにほら私。
彼女のこと好きだから。
fin.
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