| 「ハル!」
そう叫んだ時には
ハルの体は鉄の塊に跳ね飛ばされていた。
冷たいアスファルトに
ハルの身体は
鈍い音を残し
叩き付けられた。
救急車のサイレンが耳に残っている。
集中治療室の静けさがまだ身体に焦りを残してる。
触れた頬の冷たさや
異様な固さが
今も掌に蘇る。
名前を呼ぼうとしても
口は開くのに
声が出せない。
予備の煙草は
まだ木の箱に入ってる。
洋服は
綺麗に畳んで衣装ケースにしまってある。
2人で行こうねって
夏になったら行こうねって
いろんな所に行って、写真もいっぱい撮ろうねって
貯めてた貯金箱に
ちゃんと月に二回、貯金してる。
ベッドの左側
いつでも寝れるようにあけて寝てる。
いつ帰ってくるの?なんて言わない。
どこに居るの?なんて言わない。
帰ってこないのなんか
わかってる。
ただ
怖いんだよ
こうしてないと
もっと遠くにあんたが行っちゃいそうで
こうしてないと
帰ってきてよって
言っちゃいそうで
あんたのご飯まで
作りそうになる
作ったら
冷たくなって乾いたご飯
捨てなきゃならない
捨てたら
あんたが居ないって
また思わなきゃいけないじゃん
1日の何百も何千回も思ってるのに
帰ってこないのなんかわかってるのに
また一つ
思わなきゃいけないじゃん
あんたが
あのとき言いかけた掠れた声が
耳にこびりついて離れてくれない
(携帯)
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