| もう帰っているみたいだ。
事実─ 私の鼻はサトの匂いを確実に捉えて。
家路に着くまでのルートを確認していた。
慎重に目的地に近付いた頃、
灰色の空から、 雨が降り始めていた。
サトのマンションは、あの頃と変わってない。
結婚する前に、 同棲するつもりは無いのだろうか…。
─オートロックの方が安全じゃない?
─んー…そうかな?
─心配だよ
─こんなオンボロマンションに泥棒入る人なんていないよね。ふふ
こんな話、 したっけなぁ…。
管理人さんの部屋の窓からは見えない位置をすり抜けて。
集合ポストからは離れて、
ぶるぶるぶる─
体の水滴を払った。
務めて静かに、 階段を昇る。
んしょ、んしょ。
足が短いもんだから(涙)
5階に着くと、 私は舌を出して熱を発散させた。
はぁ。はぁ。
502…、と。
あったあった。
さて、ここからだ。
………むん(気合い)
私が思い付いた、
“案”
と言えば。
………せーの!!
─タタタタ、ドン。
いて!
─タタタタ、ドン。
あいたたたた!
ただただ単純に。 ドアを、
“ノック”
しようと思った。
─タタタタ、ドン。
いち〜。
だって難しい事は考えつかないし。
─タタタタ、
「…はい、どちらさま?」
何となく、 これが一番かなって…。
「………あれ。」
いた。 …………サト。
訪問者が、 “かなり”小さかった事が意外だったか。
足元に座る私を見て。
「この前の…、」
サトはドアを支えたまましゃがんで。
「また会ったね。」
一つ、笑顔を見せた後に私の頭を撫でた。
「冷たい…。寒くないの?」
そう、 サトは優しいから。
きっと私を迎え入れるだろうと。
どこか確信めいた自信があった。
─どうして雨の日には良く来るの?
─なんだろ……物悲しいからかなぁ
─じゃあ、毎日雨ならいいのにね。
─……はは。
私はいつもその優しさに甘えていた。
(携帯)
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