| レイは彼女から引き抜いた指を見て、ひどく後悔した。 どうしてこんなことしちゃったんだろう? しかしもう取り返しがつかなかった。
一方、待ち合わせ場所で待っていたアヤは、ナミからのメールに戸惑った。
《やっぱり会えません。私のことは忘れて下さい。 あなたは何も悪くありません。すべて私の我が儘です。ごめんなさい。》
訳がわからなかった。急いで返信する。
《今、どこにいるの?意味がわからない。とにかく会おうよ。》
‥‥‥‥けど、それきりだった‥‥‥
数年後、アヤは大学も卒業して介護の仕事に就いていた。 ナミとのことは、心の奥深くにしまい込み忘れるようにした。 あれからレイとは別れた。もっとこじれるかと思ったが、 レイは意外にすんなりと別れを受け入れた。 介護の仕事を目指したのは、ナミとのことが影響している。 障害のある人の少しでも役に立ちたかったのだ。 大学では何人かの女性と付き合ったが、長続きしなかった。 そんなある日、介護関連の情報誌を眺めていた時、 小さな記事に目が釘付けになった。それは新人絵本作家の紹介だった。 その作家がろう者なので紹介されていた。 アヤが気になったのは、その作家の名前だ。『アヤナミ』。 もしかして?! ネットで検索してみると、顔写真はなかったが、女性であることがわかった。 代表作は、『人魚の涙』。
続く
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