| 日曜日はご飯が出ない。 そんな事は寮に住む者として当然の事なので、今日もいつものように寮生達と日曜の正午に昼ご飯を食べに外へ出て、誰もいないはずの部屋へと戻りドアを開けたら。 彼氏とデートと言って朝から出掛けていた同室の彼女が入り口に背を向ける格好で体育座りをしながらそこに居た。 背中を丸めた彼女を見て、あぁまたか、口には出さずに内心呟く。
こんな時、同室というのは何とも忌々しいものだと思う。 知らなくてもいい事や知りたくもなかった事を、こちらの都合もお構いなしに伝えてしまうから。 そしてそれは私にはどうする事も出来ないのだと、改めて気付かされてしまうから。
今度は何? 喧嘩? 別離? どっちだっていい。
私は無言で彼女の後ろまで歩み寄ると、くるりとその場に背を向けて座り込んだ。 背中越しにぴくりと動く気配を感じて。 「そんなとこに座り込まれちゃ邪魔なんですけどー」 声を掛けた私に、 「……うっさい」 掠れ声で返しながら、彼女は私の背に自身の背を預けた。 背中合わせの二人の間にわずかな熱が宿る。
しばらくの無言の後。 「……浮気」 ぽつりと呟く彼女。 「…浮気してた。向こうが」 私は黙ってその震える声を聞く。 「でもわたしにも悪いとこはあったのかなぁって」 へへへと、弱々しい笑い声を上げる彼女に、はぁぁぁぁと大袈裟に溜め息をついてみせた。 「ちょっとぉ。人が真剣に話してるのにっ──」 「だって」 そんなの。 そんなのさ。 言われなくてもわかってるから。 「あんたが浮気するわけない」 言うと、「へ?」彼女は間抜けな声を上げた。 構わず私は続ける。 「喧嘩も別れも、いつだってあんたに非はないじゃんって言ってんの。それでいちいち落ち込んでさ」 何だか今日は饒舌だ。 顔を合わせていない分、余計にかもしれない。 蓄積された日頃の言葉が口から飛び出て止まらない。 「どうせこっちも悪かった、なんて笑って許したんでしょ。相手の男もバカだから、あんたが大して怒ってないって安心して?結局また同じ事繰り返すんだ」 そう同じ事の繰り返し。 あんたは涙すら見せず。 相手は痛くも痒くもない。 「それで部屋で泣いてちゃ世話ないよ」 私は憤慨して言った。 「寛容なのはあんたの美徳だけどね、あんたの悪いとこは男を見る目が皆無だって事だ」 ふんと、鼻を鳴らす。 「何でそんなに怒ってんのよ…」 呆れ声で問われたから、 「室内でいじけられたらこっちまで湿っぽくなるっての。てゆーか、あんたがそんなんだから私が苛つくのっ」 傷つくのはいつでも、あんただから。
私の言葉が言い終わっても。 彼女は何も言わない。 ちょっと言い過ぎたかな、と。 口を噤んで彼女の出方を待っていると。
「ありがと」
すんと鼻を鳴らしながら彼女は漏らした。 その言葉に、眼の奥がジクリと痛む。 けれど。 負けず嫌いの私の頬をその熱さが濡らす事もなく。 「ばーか」 いちいち男の事くらいでへこまないでよね、そんな軽口を叩いてみるだけ。 「ひどーいっ」 彼女は憤慨したような声を上げたが、けれど背中は楽しそうに揺れていた。 相変わらず立ち直りの早い奴…と、ぽつりと呟いてみると、それが聞こえたのかそうでないのか、 「もうちょっとだけこうしてていい?」 そう言って彼女は、預けた背に少しだけ体重を加えて私に寄りかかった。 あったかいねと、彼女の安堵の息が聞こえ。 私は彼女に聞こえないようにこっそりと息を吐いた。
抱き締める事も、手を握る事さえしない。 これが今の、一番近い二人の距離。
背中越しに彼女の体温を感じながら、そう思った。
|