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ヤクソク
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□投稿者/ 楼
一般♪(2回)-(2012/09/08(Sat) 18:45:59)
2012/09/08(Sat) 20:24:10 編集(投稿者)
出会ったきっかけは・・・・確か、大学の入学式の時。
留年も浪人もすることなく、無事地元の高校を卒業できた。
1年生の時から憧れていた第一志望の大学にも一発合格、入学決定。
初めて地元からも親元からも離れ、他県で一人暮らしをすることになった。
春休み、両親と妹を引き連れて、これからの生活の拠点にお引越し。
先に運んでおいてもらった段ボールの山を、4人で片付けた。
部屋を決める時にも訪れたマンションだったけど、やっぱり違った。
今日からここで生活するんだなあ、って思うと、複雑な気持ちだった。
わくわく感と、寂しさと、不安と・・・・いろんな感情があった。
だけど今更実家に帰ることもできなくて、せっせと片付けに精を出した。
4人で集中して作業をしたおかげで、数時間で片付けは終了。
近くのレストランで、家族全員で引っ越し祝いのディナーを食べた。
その後、両親も妹も新幹線でとっとと家に帰っちゃったけど。
1泊ぐらいしていってもよかったけど、生憎場所がなかったから。
ホテルに泊まるのも何だかねえ、ってお母さんは笑ってた。
それから1週間経って、大学で盛大に入学式が行われた。
事前に買い揃えておいた黒のレディーススーツを身にまとい出席。
両親は共働き、2人とも仕事で入学式には出席できなかった。
だから1人で電車に乗って大学に行って、1人で出席した。
親御さんも来ている人がたくさんいたけど、羨ましくはなかった。
昔から周りの人に「意外とドライなとこあるよね」って言われる私。
確かにこういうところがドライだよなあ、って1人で小さく苦笑した。
やっぱり大学の入学式はすごくて、とにかく人が多かった。
今まで入学した学校の生徒数は少ない方ではなかったけど、比じゃない。
人、人、人で、人が多い場所が苦手な私は、うんざりしていた。
だから入学式が始まるまでの間、ちょっとそこらを散策することに。
正直電車の時間を間違えてしまって、早めに来ちゃって暇だったから。
入学式が始まる予定の時間まで、あと数十分の余裕があった。
人の流れに逆らって歩いて、適当に敷地内をぶらぶら歩いた。
先輩方の視線が多少は気になったけど、全部無視して歩く。
オープンキャンパス以来だったから、夏以来の大学の風景だ。
夏とは違って丁度いいぐらいの気温で、春らしい晴天の日だった。
携帯を弄りながら適当に歩き回っていると、1人の先輩が視界に映った。
赤いファイルやら教材らしき本やらを抱えた、1人の女の先輩。
急いでいるのか、少し多めの荷物を抱えながら走っていた。
年上だろうけどどこか危なっかしい感じで、なんだか気になる先輩だ。
つい立ち止まって、その先輩がこちらに走ってくるのを眺める。
「あっ、えっ、わわわっ!?」
「!?」
・・・・・私が立ち止まった数秒後、その先輩は盛大にすっ転んだ。
段差も何もない、本来なら転ぶ要素がどこにもない場所で、盛大に、だ。
ファイルやら本やら荷物が宙に舞い、先輩の身体は前方に大きく傾いていく。
手ぐらいつけばいいものを、腕を真っ直ぐに伸ばしたまま、顔面から、ドシャッ。
しかも転んだ後、すぐに起き上がることをせず、しばらくそのまま。
頭を打って気絶でもしたのかと思い、近くに歩み寄ってみる。
すると、むくりと顔をあげ、こちらを涙で潤んだ目で見上げてきた。
(・・・・・可愛い)
顔面から地面に着地したせいで、額に傷ができ、血が出ていた。
無言のまま身体を起こし、身体のあちこちをチェックする。
膝も少し擦りむけていたし、荷物は少し離れた場所に吹っ飛んでいる。
よくもまああそこまで盛大に転んだものだと、内心感心すらした。
「・・・・大丈夫ですか?」
未だに涙目で荷物を拾い上げていた先輩に声をかけた。
荷物を全部拾い終わると同時に、額から血を出した先輩が振り向く。
私は無言でカバンから絆創膏を取り出し、先輩に数枚手渡す。
先輩もきょとんとしたままの顔で無言で受け取った。
「あ・・・・ありがとう、ございます、」
私の顔をしっかり見ながらふにゃり、と笑った顔は、可愛らしく見えた。
私は無言で先輩の小さな手から1枚の絆創膏を抜き取った。
それにまたきょとんとした先輩の顔は、目が点になっている。
「・・・・おでこ、血ぃ出てるんで。貼ってあげましょうか?」
「えっ!?あ、じゃあ・・・・お願いします」
前髪を両手で押さえ、貼りやすいようにして、目をぎゅっと瞑る。
目を瞑る必要性なんてどこにもないけど、特につっこまず。
傷の大きさと絆創膏の大きさが合うか心配したけど、大丈夫だった。
絆創膏を貼り終えると、先輩は、必死で前髪で隠そうとしていた。
額に貼るついでに、膝の怪我の所にも絆創膏を貼ってあげた。
「本当すみません・・・・」
「いえ、別にこんぐらい・・・・じゃ」
私は荷物を両手で胸のところで抱えた先輩を置いて、来た道を戻った。
ちょっと後ろを振り返ってみたい気がしたけど、入学式の会場へと歩く。
思い出しても笑える転び方をした先輩と、これから関わることはあるだろうか。
人数が多い学校だし、多分数えるほどしか関われないとは思う。
というか、これから先、何らかの形で関われたなら、それはすごい。
私は積極的に何かの役を引き受けたりしないタイプだから余計に。
サークルには参加する予定だけど、サークルもたくさんある。
その後、入学式に出席し、その日は徐々に慣れてきた自宅に帰った。
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□投稿者/ 楼
一般♪(3回)-(2012/09/08(Sat) 19:20:01)
・・・・・また、あの先輩に出会った。
今度は、入学式の数日後、自宅の近くのスーパーにて。
私は今日から1週間分の食材を買うために、野菜売り場にいた。
ここらへんのお店はどこも安くて、学生にとても優しい。
バイトと仕送りでやりくりをする予定の私には、救世主だ。
まだバイト先は決まっていないから、早く決めないといけない。
今日はわずかしかない貯金で買い物をすることになってしまった。
ばら売りが基本のようで、人参や大根などが1本ずつ山積みになっている。
私はサラダにでもしようときゅうりを手に取り、適当にカゴに放り込む。
他にもキャベツなどを放り込んでいくと、だんだんカゴが重くなってきた。
野菜はこのぐらいでいいだろう、と肉売り場に行こうとした、その時だった。
「っきゃあ!?」
女性の短い悲鳴が聞こえて、私だけじゃなく、数人の人が振り返る。
視線の先には、山積みにされているかぼちゃが崩れそうになっている光景。
そのかぼちゃを一生懸命押さえているのは・・・・あの、先輩だった。
カゴの中にかぼちゃを入れているところを見ると、原因は彼女のようだ。
多分、かぼちゃを手に取ったら、山が崩れてきてしまったんだろう。
私はどこかデジャヴを感じながらも、かぼちゃを一緒に押し上げてあげた。
「あ・・・・・」
「・・・・どーも」
びっくりしている先輩に軽く会釈をすると、先輩も慌てて会釈をした。
そのお陰で押さえる力が弱まり、またかぼちゃの山が崩れかける。
先輩はそれを急いで押さえると、小さな声ですみません、と。
私は特にこれといった言葉を返さず、かぼちゃの山を元に戻した。
「あの・・・・こないだといい今日といい、ほんとすみません・・・・」
かぼちゃの山から手を放した先輩は、深々とおじぎをした。
周りの人はもうこっちを見ていなくて、商品と睨めっこをしている。
額と膝の絆創膏は取れ、代わりにかさぶたができていた。
「おっちょこちょいな方なんですね」
「えっ、そ、そうでもないですけどっ・・・・!」
何もないところで転び、かぼちゃの山を崩す人が否定することではない。
改めて先輩の容姿を見ると、結構可愛らしい感じの人だった。
雰囲気からしておっとりしててふわふわしていて、危なっかしい。
美人とかそういうわけではないけど・・・・・可愛い人だと思った。
「これからは気を付けて下さいね」
「はい・・・・ほんと、すみませんでした・・・・」
しょんぼりしてしまった彼女に少しばかり罪悪感的なものが芽生えた。
本当は買い物を済ませたらとっとと食事を作ってしまうつもりだったのに。
なんだか自分が悪い気がして仕方がなくなって、ひっそりとため息をついた。
「・・・・先輩。家、どこですか」
「え、」
「どこですか」
「・・・・ここから、20分ぐらい・・・・?」
ここから20分ということは、私の家よりも離れているらしい。
私の家からここのスーパーまで、10分ぐらいで来れる。
20分もかかるなら、ここまで自転車か車で来ているんだろうか。
「先輩危なっかしいんで、家まで送ります」
「それは申し訳な「送ります」・・・・はい」
先輩の言葉を途中で遮り、有無を言わさずに送ることにした。
それからそれぞれ買い物を済ませ、外で待ち合わせることにした。
私はさっさと肉売り場を回り、飲み物なども買い込んで、会計を済ませる。
スーパーの外の入り口付近で待つこと約5分、先輩が出てきた。
「あの・・・・・私、自転車なんですけど」
先輩は赤い自転車の鍵を解除すると、カゴに袋を少し強引に詰め込んだ。
私は徒歩で来ていたし荷物もそれなり、後ろに乗るわけにはいかない。
仕方がないので、先輩に自転車を手で押しながら帰って頂くことになった。
「あ、ここのマンションです」
無言のまま一緒に歩くこと数十分、確実に20分はオーバーした。
今まで私同様黙り込んでこちらを見ることもなかった先輩が、口を開いた。
高くそびえている、家賃が高そうなグレーの壁のマンションの前で。
どうやらここが先輩の自宅らしい、歩いていた足が止まった。
「・・・・・良さそうなとこですね」
「そうかな・・・・案外狭いかもしれません」
先輩の家に到着したなら、もう一緒にいる必要はない。
私は先輩が自転車置き場に自転車をしまうのを見届けて、さようなら。
もうほとんど暗くなった道を歩いて、自分の家に帰った。
その日は、シャワーを浴びただけで寝てしまった。
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■21624
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□投稿者/ 楼
一般♪(4回)-(2012/09/08(Sat) 19:44:55)
入学して1か月、いろいろと忙しかったが、徐々に慣れてきた。
友達もそれなりにできて、バドミントンのサークルにも取り組んで。
居酒屋でのバイトも決まって、毎日そこで数時間バイト。
先輩は面白くいい人ばかりの店で、まかないの料理はおいしい。
大学生活、初めての土地での生活にしては、充実している日々だ。
「今日、サークルで飲み会だって。美穂も葵も行く?」
食堂で昼食を食べている時、同じサークルに所属する里香が言った。
里香は初めて私に話しかけてきた同級生で、今では友達の1人。
隣で食べている美穂も友達の1人で、地元が近いのが分かり意気投合。
「あー、今日お姉ちゃん来るんだよね・・・・私パスだ」
「マジかー・・・・葵は?」
美穂と美穂のお姉さんは仲が良く、よくお姉さんが遊びに来る。
隣の市に住んでいるお姉さんは、既に社会人として働いているらしい。
家族が自分の所に来るどころか連絡さえあまりこない私とは大違い。
里香の家族も似たようなものらしいから、別に私は気にしていないけど。
「私は・・・・・あー、参加しようかな。バイト休みだし」
「よっし!じゃあきーまり!」
結局、里香と私が参加、美穂は欠席ということになった。
19時、指定された居酒屋に、サークルのメンバーが集まった。
駅前には多くの居酒屋があるので、集まる場所には困らない。
だいたいの人が揃ったのを確認すると、みんなで乾杯した。
私は未成年なので勿論ソフトドリンクだけど、先輩たちはお酒。
里香はこっそりチューハイを注文し、ちょびちょびと飲んでいる。
軽く横腹を小突くと、里香は人差し指を立てて唇に当てた。
先輩たちも気付いているのか気付いていないのか、誰も何も言わない。
まあ、こんなもんなんだろう、と思い、唐揚げを口に放り込んだ。
「葵も飲めば〜?」
向かいに座っている先輩は、早くも酔いが回ってしまったらしい。
ほんのり赤らめた顔をしながら、向かいに座る私に絡んできた。
先輩の手には、何杯目かのビールが入った大きめのジョッキ。
「いや、私はいいですよ」
「まあまあ、そんなことい・わ・ず・に!」
「いいですって・・・・そんなことよりこれ、おいしいですよ」
面倒臭いことになりそうなので、適当に料理を勧めてみる。
するとそれが先輩の口に合ったらしく、料理に夢中にさせることに成功。
私は他の先輩や同級生と話しながら、飲み会を楽しんだ。
帰り道、食べすぎて少し苦しいまま暗い道を歩いていた。
隣にはお酒に強い体質なのか、全く酔っていない里香。
里香は私よりも食べていたのに、全然平気そうだ。
小さめの声で歌うのを聞いて、歌が上手いことも知った。
「ねえ、葵〜?」
突然歌うことをやめた里香は、夜空を見上げながら呼びかけてきた。
向かい側から車が走り抜け、里香のスカートのすそがひらめく。
私は右隣をゆっくりと歩く里香にスピードを合わせ、そっちを向いた。
「どうかした?」
「葵はさ〜、同性愛って・・・・どう思う?」
「は?」
“同性愛”・・・・・男性同士、女性同士でする恋愛のことだ。
日本では依然として偏見の目や差別意識があるけど、自分はないつもり。
別に友達が同性と付き合っていても同性愛者でも、気にしないと思う。
「私さ〜・・・・・実は、昔、女の人と付き合ってたの」
里香はなぜか、夜空を見上げたまま、昔話を始めた。
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■21625
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□投稿者/ 楼
一般♪(5回)-(2012/09/08(Sat) 20:06:25)
あれは・・・・・私が、小学3年生の時だったかなあ?
隣の隣の家に、他県から新しく家族が引っ越してきたの。
まあ工事とかあったりしたから、分かってたけどね。
お父さんとお母さんと、双子の女の子と弟さんの4人家族だった。
その双子ちゃんは私とは1つしか違わなくて、すぐ仲良くなったの。
同じ小学校だったから、休憩時間になるたびに4年生の教室に行った。
休憩時間も放課後も休みの日も一緒に遊んで、家族ぐるみの付き合いをした。
ある日ね、放課後の公園で、双子の内の片方に、キスされたの。
ほっぺたにちゅー、っていうのじゃなくて、ちゃんと口に。
もう1人の方は確か・・・・トイレかどっかに言ってる時だったかな?
とにかく2人きりの公園でいきなり、キスされたの。
同意したうえでだったかどうか、あんまり覚えてないけどね。
その後も何回かキスしたりすることがあったし、お互い好きだった。
恋愛感情だったか聞かれたら曖昧だけど、恋人同士のつもりだったなあ。
女の子同士で何が悪いの、って、内心2人とも開き直ってた。
片方の子ともその子たちの家族とも、今まで通り仲良かったし。
周りの友達や先生や家族にも、ばれてなかったと思う。
多分、「本当に仲がいいのね」ってぐらいにしか思われてなかった。
だけどある日、キスしてるところを見られちゃったの、片方の子に。
慌てて口止めしたんだけどその子怒っちゃって、お母さんに言っちゃった。
お母さんも怒って、私のお母さんも怒って、2人してお説教されてね。
泣きながら「だって好きなんだもん」って訴えた記憶がある。
「女の子同士で何が悪いの、何も悪くないじゃん」って喚いたりして。
小さいながらに、自分が好きな人と一緒にいたくて、必死だった。
その後、しばらく、2人きりにはしてもらえなかった。
片方の子はしばらくしたら今まで通り接してくれた。
まあ私も相手の子も、まだお互いを諦めてなかったんだけど。
こっそり口パクで「好き」って言い合ったりしたし。
別に2人きりじゃなくても、一緒にいられて幸せだった。
だけどある日、また問題が起こったの。
私が中学2年生の時だから、双子が3年生の時。
双子のお父さんと私のお母さんが不倫してたらしいの。
それがお互いばれてしまって、もうほんと大騒ぎ。
結局2人とも離婚することになった。
私と双子は・・・・離れ離れになったの。
お父さんに連れられて、私が引っ越したから。
しかも離れた場所だったから、会えなくなって。
双子と連絡を取ることも、連絡先聞いてなくて無理で。
・・・・しばらく、1人になると泣いてた。
私が惚れたのは双子の片方の子だったけどね?
もう1人の子も、友達として大好きだったの。
最終的に理解してくれたから、余計にかな。
2人に会いたくて会いたくて仕方がなかった。
けど、会う手段がなかったんだよね・・・・・。
そのまま私は大学生になっちゃった。
あの子たち、今、どこで何をしてるのかな・・・・・。
まさか里香にそんな切ない過去があったなんて知らなかった。
いつもテンションが高くて明るい里香からは想像できない。
・・・・・里香は、最後は涙声になって俯いてしまった。
「・・・・ごめんね、いきなり」
「いいけど・・・・大丈夫?」
「へーきへーき!気にしないで!」
ズビッ、と鼻をすする音を最後に、里香は笑顔を浮かべた。
それからの里香はいつも通りの里香で、少し安心した。
面白い話でひとしきり笑わせてくれた後、里香と別れた。
身近に、しかも友達で、同性愛者がいるとは思わなかった。
里香は俗にいう“どっちでもイケる両刀使い”ではないらしい。
本人が言うには、「私はその子としか恋愛はできない」。
男性でも女性でも、その子が相手じゃないと恋愛ができないという。
私は「いつかまたその人と会えるといいね」、としか言えなかったけど。
私は1つ、秘密を抱えた。
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■21626
/ ResNo.4)
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□投稿者/ 楼
一般♪(6回)-(2012/09/08(Sat) 20:34:57)
それから目まぐるしく月日は過ぎ去り、9月になった。
残暑は厳しいけど、もうすっかり1人きりでの生活に慣れた。
あの先輩とは会うことはなく、里香ともあの話をすることもなく。
講義を受けてサークルの活動に参加してバイトをして家事をこなす。
そんな単調、時には刺激的な生活をひたすらに繰り返していた。
「葵ー、いるー?」
先輩に誘われてラリーをし始めて数分、別の先輩に呼ばれた。
1つ年上の川上先輩、最初見た時に男性かと思ったけど女性だった。
そこらへんの男性よりも男前な先輩の呼び名は、“兄貴”。
でも下の名前は“瑛里”という、ものすごいギャップ。
「はい、なんですか?」
「葵に会いたいって人が来てるんだけど・・・・」
「私に・・・・会いたい人、ですか?」
「いやー、私も名前知らなくてね・・・・同い年らしいんだけど」
「先輩と同い年の人なんですか?」
「そうそう、だけど違う学部らしくて、面識なくってね」
名前を知らない先輩からの呼び出しだが、一応行ってみることにした。
待っているという体育館の入り口に出てみると、1人の女性がいた。
「「あ・・・・・」」
・・・・あの、おっちょこちょいで危なっかしい先輩が、立っていた。
私より1つ年上の先輩だったなんて、今初めて知った先輩が。
「あのっ・・・・さっき、たまたま体育館にいるの見かけて・・・・」
どうやら、私が体育館にいたのを、通りすがるついでに見つけたらしく。
グッドタイミングで体育館に入ろうとした先輩に、呼んでもらったらしい。
「せめて名前を伝えてあげて下さい・・・・先輩困ってたんで」
「あっ、ほんとだ・・・・名前言い忘れてた・・・・!」
ここまでくるとおっちょこちょいというよりは、天然なんだろうか。
まあ名前を伝えてもらっても、先輩のことが思い浮かぶはずがないけど。
「で、名前、なんて言うんですか?」
「えっと、心理学部の、榎原美優っていいます、」
確かに、文学部の“兄貴”こと瑛里先輩とは、面識がないはずの学部。
先輩が名前も分からず面識もなくて戸惑うのは、納得できる。
同じサークルのメンバーでもないし、余計に戸惑ってしまうだろう。
「あなたは、なんてお名前ですか?」
「私は法学部の渡部葵です」
「わあ、賢いんですね・・・・!」
心の底から感心しました、って感じの顔をした先輩は、子供のよう。
目をきらきらさせながら見つめてくる先輩は、年上には見えない。
まあ身長が150センチぐらいだから、見た目からして子供みたいだけど。
私が165センチぐらいあるから、一層子供みたいに見えてしまう。
「あの、このあ「みーちゃん・・・・・?」・・・・・え・・・・?」
私の背後、体育館の中の入り口近くの方から、声がした。
振り返ってみると、そこには、美穂が立っていた。
「みーちゃん・・・・・」
どういうことだ、と混乱する私に、更に混乱が訪れる。
「美穂ー、いきなりどうしたの・・・・・え・・・・美優・・・・・?」
笑顔で美穂の元に走ってきた里香の笑顔がふっと消えた。
そして、驚きの表情を浮かべ、先輩を呼び捨てにして見つめる。
(なにこのドラマか何かみたいな展開・・・・・)
「みっちゃん・・・・?りぃ・・・・・?」
何かが、起きる予感がする・・・・私の胸は、ざわついた。
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■21627
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□投稿者/ 楼
一般♪(7回)-(2012/09/08(Sat) 20:50:10)
立ちつくし、お互いを黙り込んだまま見つめあう3人。
このままでは入口近くだし邪魔だから、中に入るよう促す。
3人は黙ったまま中に入り、体育館の隅に座り込んだ。
私も3人と並んで座り込んで、どうしたもんかと考える。
(・・・・これは、どういうことなんだ・・・・・?)
3人とも黙ったままで、どうしたらいいか分からない。
どうやら何かあった関係らしいけど、私はそれを知らない。
「あのさ・・・・・どういうことなの、これ。説明してくれる?」
私がこう聞くと、お互い顔を見合わせていたが、里香が口を開いた。
「前、話したでしょ、双子の話・・・・・私が好きだった方の、片割れの方」
つまり、里香の忘れられない人の、双子の姉だか妹だかが、先輩だと。
数年ぶりに突然再会したんだったら、そりゃあ戸惑うのも頷ける。
美穂は体育座りをしたまま俯き、床をじっと見つめたまま動かない。
「で・・・・・美穂と先輩は?」
「私とみっちゃんは・・・・・昔、付き合ってたの・・・・・」
「つまりは、元カノ?」
里香の忘れられない人の双子の片割れは、美穂の元恋人で、3人が再会。
なんとまあややこしく波乱が起こってしまいそうな展開なんだろうか。
それに挟まれてしまった私は、これからを想像して頭を抱えた。
「とりあえずさ・・・・場所移動しない?」
何事だと注目を浴び始めたのもあり、3人を再度促して体育館を出る。
そして私と里香と美穂は着替えを済ませ、4人で駅前のカフェに向かった。
その途中でも誰もしゃべらず、あまりおしゃべりではない私はまた困っていた。
こういう時に場を盛り上げてくれるのは里香だけど、今は無理そうだ。
私たち4人はきまずい雰囲気のまま、明るいカフェの1番奥のテーブルへ。
・・・・・空はオレンジ色に染まって、そろそろ夜を迎えそうだった。
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■21628
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□投稿者/ 楼
一般♪(8回)-(2012/09/08(Sat) 22:22:11)
それぞれ飲み物ぐらいは、と飲み物を注文してからの話は、こうだ。
里香と離れ離れになった先輩の片割れ、亜優さんは、しばらくふさぎ込んだ。
先輩は必死で亜優さんを慰め、支え、長い月日を経て元気を取り戻した。
先輩と亜優さんは母親と、弟さんは父親と一緒に暮らしていたという。
2人で一緒に地元の高校に進学し、大学を目指した。
しかし亜優さんは途中で志望を変更、専門学校に入学したらしい。
亜優さんは今は他県の専門学校でエステの技術を学んでいる。
それでも先輩とは1か月に1回は会っているとのことだ。
そんな先輩が美穂と出会ったのは、中学校生活が残りわずかな時。
同じ部活に所属していて仲が良かった美穂と、連絡先を交換。
それからメールのやり取りや電話のやり取りが始まった。
休みには一緒に遊んだり泊まりに行ったり来たりする仲になった。
そして先輩が高校に入学する前に・・・・付き合い始めた。
だけど忙しさゆえのすれ違いと先輩の気持ちが冷めたのが原因で破局。
2人は別々の高校に進学して、別れてからは会っていなかった。
「まさかこんなことになるなんて・・・・・同じ大学なんて・・・・・」
紅茶にミルクとシロップを入れた先輩は、それをゆっくりかき混ぜた。
里香も美穂も、無言でココアと抹茶オレを喉に流し込んだ。
私はコーヒーを飲むのも忘れ、どうしようかと考えを巡らせていた。
でも、何も思い浮かばない、まあある意味当たり前かもしれない。
「あの・・・・これから、どうするの?」
最初に口を開いたのは、里香だった。
「私たちはきまずかったりするけど、葵は関係ないし・・・・」
「そうだよね、葵は関係ないよね・・・・」
1番気まずいのは、元の関係が恋人同士だった、先輩と美穂だ。
里香も里香で戸惑うかもしれないが、先輩と美穂の方が気まずいだろう。
先輩が亜優さんとやらだったら、里香も気まずいかもしれないけど。
「まあ私はとりあえず、重い空気にならなければ構わないです」
そうは言ったものの、果たしてその願いが実現するのだろうか?
しばらくは特に先輩と美穂が気まずいだろうから。
「・・・・・分かった。努力はする」
美穂はそう言ってくれたけど、私の気持ちはいまいちなままだ。
その日は結局、特に何も変化がないまま、解散した。
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■21648
/ ResNo.7)
楼さんへ
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□投稿者/ nico
一般♪(1回)-(2012/09/26(Wed) 05:39:23)
面白いです(>∀<)
続きが気になりますので
是非ともお願いします!!
(携帯)
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■21775
/ ResNo.8)
Re[1]: ヤクソク
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□投稿者/ 夢
一般♪(1回)-(2013/11/12(Tue) 23:11:23)
面白いです!!
ちなみに、この名前は適当に付けられましたか?
って聞くのは、年上の知り合いと同姓同名なので…。
宜しくお願い致します。
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■No21623に返信(楼さんの記事) > > > > > > ・・・・・また、あの先輩に出会った。 > > > > > > > > > > > 今度は、入学式の数日後、自宅の近くのスーパーにて。 > 私は今日から1週間分の食材を買うために、野菜売り場にいた。 > ここらへんのお店はどこも安くて、学生にとても優しい。 > バイトと仕送りでやりくりをする予定の私には、救世主だ。 > まだバイト先は決まっていないから、早く決めないといけない。 > 今日はわずかしかない貯金で買い物をすることになってしまった。 > > > > > ばら売りが基本のようで、人参や大根などが1本ずつ山積みになっている。 > 私はサラダにでもしようときゅうりを手に取り、適当にカゴに放り込む。 > 他にもキャベツなどを放り込んでいくと、だんだんカゴが重くなってきた。 > 野菜はこのぐらいでいいだろう、と肉売り場に行こうとした、その時だった。 > > > > > 「っきゃあ!?」 > > > > > 女性の短い悲鳴が聞こえて、私だけじゃなく、数人の人が振り返る。 > 視線の先には、山積みにされているかぼちゃが崩れそうになっている光景。 > そのかぼちゃを一生懸命押さえているのは・・・・あの、先輩だった。 > カゴの中にかぼちゃを入れているところを見ると、原因は彼女のようだ。 > 多分、かぼちゃを手に取ったら、山が崩れてきてしまったんだろう。 > 私はどこかデジャヴを感じながらも、かぼちゃを一緒に押し上げてあげた。 > > > > > 「あ・・・・・」 > > > > 「・・・・どーも」 > > > > > びっくりしている先輩に軽く会釈をすると、先輩も慌てて会釈をした。 > そのお陰で押さえる力が弱まり、またかぼちゃの山が崩れかける。 > 先輩はそれを急いで押さえると、小さな声ですみません、と。 > 私は特にこれといった言葉を返さず、かぼちゃの山を元に戻した。 > > > > > 「あの・・・・こないだといい今日といい、ほんとすみません・・・・」 > > > > > かぼちゃの山から手を放した先輩は、深々とおじぎをした。 > 周りの人はもうこっちを見ていなくて、商品と睨めっこをしている。 > 額と膝の絆創膏は取れ、代わりにかさぶたができていた。 > > > > > 「おっちょこちょいな方なんですね」 > > > > 「えっ、そ、そうでもないですけどっ・・・・!」 > > > > > 何もないところで転び、かぼちゃの山を崩す人が否定することではない。 > 改めて先輩の容姿を見ると、結構可愛らしい感じの人だった。 > 雰囲気からしておっとりしててふわふわしていて、危なっかしい。 > 美人とかそういうわけではないけど・・・・・可愛い人だと思った。 > > > > > 「これからは気を付けて下さいね」 > > > > 「はい・・・・ほんと、すみませんでした・・・・」 > > > > > しょんぼりしてしまった彼女に少しばかり罪悪感的なものが芽生えた。 > 本当は買い物を済ませたらとっとと食事を作ってしまうつもりだったのに。 > なんだか自分が悪い気がして仕方がなくなって、ひっそりとため息をついた。 > > > > > 「・・・・先輩。家、どこですか」 > > > > 「え、」 > > > > 「どこですか」 > > > > 「・・・・ここから、20分ぐらい・・・・?」 > > > > > ここから20分ということは、私の家よりも離れているらしい。 > 私の家からここのスーパーまで、10分ぐらいで来れる。 > 20分もかかるなら、ここまで自転車か車で来ているんだろうか。 > > > > > 「先輩危なっかしいんで、家まで送ります」 > > > > 「それは申し訳な「送ります」・・・・はい」 > > > > > 先輩の言葉を途中で遮り、有無を言わさずに送ることにした。 > それからそれぞれ買い物を済ませ、外で待ち合わせることにした。 > 私はさっさと肉売り場を回り、飲み物なども買い込んで、会計を済ませる。 > スーパーの外の入り口付近で待つこと約5分、先輩が出てきた。 > > > > > 「あの・・・・・私、自転車なんですけど」 > > > > > 先輩は赤い自転車の鍵を解除すると、カゴに袋を少し強引に詰め込んだ。 > 私は徒歩で来ていたし荷物もそれなり、後ろに乗るわけにはいかない。 > 仕方がないので、先輩に自転車を手で押しながら帰って頂くことになった。 > > > > > > > > > > > 「あ、ここのマンションです」 > > > > > 無言のまま一緒に歩くこと数十分、確実に20分はオーバーした。 > 今まで私同様黙り込んでこちらを見ることもなかった先輩が、口を開いた。 > 高くそびえている、家賃が高そうなグレーの壁のマンションの前で。 > どうやらここが先輩の自宅らしい、歩いていた足が止まった。 > > > > > 「・・・・・良さそうなとこですね」 > > > > 「そうかな・・・・案外狭いかもしれません」 > > > > > 先輩の家に到着したなら、もう一緒にいる必要はない。 > 私は先輩が自転車置き場に自転車をしまうのを見届けて、さようなら。 > もうほとんど暗くなった道を歩いて、自分の家に帰った。 > > > > > > その日は、シャワーを浴びただけで寝てしまった。 > > > > >
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