ビアンエッセイ♪

HOME HELP 新規作成 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 発言ランク ファイル一覧 検索 過去ログ

[ 最新記事及び返信フォームをトピックトップへ ]

■10314 / inTopicNo.1)  ∞∞ 逆行する、青。 ∞∞
  
□投稿者/ しいな 一般♪(5回)-(2005/06/20(Mon) 13:13:39)
    彼女の指は、とても的確だ。

    欲しいところを、欲しいと思う前に弾いてくれる。

    「ねぇ。どうしてそんなに上手なの?」

    そう聞いてみたことがあるが、彼女はその涼しげな目を細めて唇に軽いキスを落としただけだった。



    気怠い真夏の午後。

    ベッドの上でいつまでも起きあがろうとしない私の髪を撫でると、

    ユラは窓を少しだけ開け、細い煙草に火をつけた。

    エアコンの効いた室内に一陣の生温い風が舞い込む。

    閉め切られたカーテンがはためく度、薄暗い室内に差し込んだ光が彼女を照らす。


    …綺麗だ。


    いつも、そう思う。

    煙草は自分では吸わないしどちらかというと苦手だが、

    彼女がふうっと煙を吐き出すのを見るのは好きだった。


    「サツキはいくつになったんだっけ?」

    突然の問いに、ぼうっと煙の行方を見ていた私は妙な間を作ってしまう。

    「……32、だよ。」

    そう、彼女と出会ってからもう3年も経つのだ。

    当時29歳だった私の年に、3つ下のユラはやっと追いついた。

    「今日も暑いね。」

    窓を閉めて立ち上がった彼女は、その美しい身体を隠すことなく私の前までやってくる。

    「…これからしばらく、来られないかも。」

    「え…。」

    どうして?と聞く前に、キスで言葉を封じられる。

    …そうでなくとも、理由は聞けないのだけれど。
引用返信/返信 削除キー/
■10315 / inTopicNo.2)  
□投稿者/ しいな 一般♪(6回)-(2005/06/20(Mon) 13:15:04)
    “ユラ”も“サツキ”も本名ではない。

    所謂HN(ハンドルネーム)だ。

    ネットのとある掲示板で知り合い、ずっとセフレという関係を続けてきた。

    月に一度、或いは2,3ヶ月に一度。

    私の家で、抱き合う。それだけ。

    家庭のある私は、最初から割り切りの関係を望んでいた。

    結婚してから自分のセクシュアルに気付き、昔一度だけ“彼女”という存在を作ったことがあるが

    結局うまくはいかなかった。

    別れ際は揉めに揉めて疲れ切ってしまった私は、

    それ以来心と身体の寂しさを埋めるだけの関係を何度か持ったが、今も続いているのはユラだけだ。


    私は、ユラを愛している。


    もちろん、そんな素振りは見せない。

    家庭を第一に考える私はそれ以上に大切に思えるものを持つ訳にはいかないし、

    それ以上に“ただのセフレ”と考えているであろうユラに本心を告げることで

    彼女を失くしてしまうことが怖かったから。
引用返信/返信 削除キー/
■10316 / inTopicNo.3)  
□投稿者/ しいな 一般♪(7回)-(2005/06/20(Mon) 13:16:37)
    ひとしきり私を抱いた後、茶色がかったショートヘアを手櫛で撫でつけながら

    「時間、だね。」

    と彼女は言った。

    心臓がズキン、と痛む。

    3歳になる娘のお迎えの時間まで、後30分足らず。

    用意して出かけたら…ぎりぎりかな。

    「うん。また時間ができたら連絡してよ。」

    もう少し…とは言えない。

    私は軽く、明るく笑顔でそう答える。

    「ん…。」

    一瞬淋しげな光がユラの瞳をよぎった気がしたが、

    彼女はすぐに後ろを向いて、服を着始めた。

    身に纏うものは、下着と薄い水色のタンクトップとジーンズだけ。

    華奢だけれど長身の彼女にそれは良く似合っていて、

    無防備に伸びをする姿は少年のそれを思わせた。


    「じゃ、また。」

    軽く手を振り、彼女は部屋を出て行った。

    パタン、とドアの閉まる音で、

    私は自分がまだ裸のままであることにようやく気がつく。

    「しばらく、来られない、か。」

    小さく声に出してみると、余計胸が痛くなった。

    でも。

    「しょうがない、よね。」

    起きあがってシーツを身体に巻き付けると、

    ずんずんと窓辺まで歩いて行き一気にカーテンを開いた。

    眩しさに思わず目を閉じる。

    まるで沈まないかのような太陽。

    少しずつ目を開けてみるが、家の前の道をまっすぐ歩いて帰ったはずのユラの姿は

    もう何処にも無かった。
引用返信/返信 削除キー/
■10393 / inTopicNo.4)  
□投稿者/ しいな 一般♪(9回)-(2005/06/25(Sat) 12:29:17)
    あれから3ヶ月。

    季節は色を変え、風の温度を変えていた。

    そろそろコートを、と。

    ふらりと出かけたデパートで、夫と子供の服やらを買った帰り際。

    結局自分のものは何も買わなかったことに気付き、苦笑する。

    いつものこと、だけれど。

    自分のことは、後回しになっていることが多い。

    たまには…

    自分の為に何か買っても、バチは当たらないよね。

    駐車場へ向かう通路に背を向け、歩き始める。





    あ。





    見覚えのある、後ろ姿。

    「…ユラ。」

    思わず口に出してしまった名前にはっとする。

    この距離なら聞こえるはずがない。

    が、彼女は…




    振り向いた。





    「ユラ!」

    しかし彼女は私を見てはいなかった。

    駆け寄り腕を絡ませているのは…

    やはり、私ではなかった。

    20歳くらい?

    もしかしたら高校生かもしれない。

    金髪に近い程色の抜かれた巻き毛をふわふわさせながら、

    ユラの左腕に絡みつく女のコ。


    そういう、ことだったんだ…


    予想はしていたけれど。

    実際目の当たりにしてしまうなんて。
引用返信/返信 削除キー/
■10400 / inTopicNo.5)  しいなさんへ
□投稿者/ 萌 一般♪(1回)-(2005/06/25(Sat) 14:39:32)
    なんかすごく続きが気になりますo(><)o

    応援してるんで頑張ってください☆

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10465 / inTopicNo.6)  萌さんへ。
□投稿者/ しいな 一般♪(10回)-(2005/06/27(Mon) 10:01:50)
    わわ、コメントありがとうございます!
    嬉しいです☆
    更新は遅いと思いますが、
    また読んでくださると幸いです♪
引用返信/返信 削除キー/
■10466 / inTopicNo.7)  
□投稿者/ しいな 一般♪(11回)-(2005/06/27(Mon) 10:02:29)
    髪を切らなきゃ、なんて、考えて。

    思わず苦笑が漏れる。

    いつ頃だったかな…あれは、そう。中学の時だ。

    生まれて初めての告白に玉砕した友人は、泣きながらこう言った。

    『ねぇ、髪切るから、着いてきて?』

    そういうのが流行っていた。

    失恋したら髪を切る。

    あの時は内心、そんなことをして何になるの。と。

    半分馬鹿にした様な気持ちでそれを見ていた。

    でも今は…

    何かしなければいけないような気になっている。


    あぁ、そういえば。


    私は、失恋するのは初めてなのかもしれない。



    もちろん、“おつき合い”というのをしたことが無いわけではない。

    けれど、どれも本当に好きだったのか、恋していたのか、愛していたのか、と聞かれると、

    曖昧なのだ。

    結婚にしても、それなりの年齢になればすべきもの、と漠然と考えていた。

    そして流れのままに結婚。

    優しい夫に可愛い子供。平穏な日々。

    今、普通に幸せなのだと思う。


    けれど。


    ユラは。


    彼女に関しては、何かが違うのだ。

    この感情…





    ユラがあの女のコに笑顔を向けた時。

    私は反射的に踵を返した。

    まっすぐに駐車場へ向かい、車に乗り込み、

    エンジンをかけた。

    家まで25分の道のり。

    どくどくどく、と存在を主張していた心臓はいつの間にか静まっていたが

    身体の内側が、キュウ、と何かに強く握られているようだった。

    突然視界が揺らぐ。

    仕方なく車を路肩に寄せ、ハザードをつけて止まる。


    私は泣いていた。


    しょうがないことなのだ。

    結末など、そういうものなのだ、と。

    自分で自分をなだめてみる。

    涙は止まらない。

    けれど、私は日常に帰らなければいけないのだ。

    時計を見る。

    14:55

    後5分だけ。

    背もたれに身体を預け、静かに目を閉じた。

    生温い液体が首筋までつたう。



    涙って。



    こんなに、気持ち悪いものだったっけ。
引用返信/返信 削除キー/
■10550 / inTopicNo.8)  Re[2]: 5
□投稿者/  千 美  一般♪(6回)-(2005/06/29(Wed) 19:43:51)
    切ないなぁ。
    続きたのしみです☆
引用返信/返信 削除キー/
■10715 / inTopicNo.9)  千美さんへ。
□投稿者/ しいな 一般♪(13回)-(2005/07/06(Wed) 07:19:03)
    感想ありがとうございます☆
    更新遅いですが、また読んでくださると嬉しいです(^-^)
引用返信/返信 削除キー/
■10716 / inTopicNo.10)  
□投稿者/ しいな 一般♪(14回)-(2005/07/06(Wed) 07:22:37)
    2005/07/06(Wed) 07:23:45 編集(投稿者)

    ちゃんと、“普通の顔”ができていただろうか。



    家族が寝静まった後。

    私は自分の部屋の窓を開けた。

    冷たい指先が、更に冷たくなっていく。

    時間は、確実に過ぎているのだ。

    なのに肌に触れれば、あの暑い日の、それより熱いユラの残した痕跡が疼く。

    彼女が触れた、全てが。

    赤い跡は消えてしまったのに…


    重症…かな。


    無音の空間に、小さく息を吐いた。



    ふと、パソコンデスクの上の携帯電話が着信を知らせていることに気付く。

    夜は音もバイブも消してある為、小さな光の点滅だけが蛍の様に光っている。

    こんな時間に誰から?

    手にとって、開いてみる。


     【メール着信アリ】

      yura


    思わず息を呑む。


    …ユラ?



    どうして…
引用返信/返信 削除キー/
■11718 / inTopicNo.11)  
□投稿者/ しいな 一般♪(17回)-(2005/08/04(Thu) 21:26:45)
    パコッ



    携帯を折り畳む音。

    そこまで、ほぼ無意識だった。




    “ひさしぶり。元気?”




    昼間、あのデパートで見てしまったこと。

    気付いているのか、いないのか…





    “明日13時。”





    来るの?本当に?


    私に、会いに?


    私を…



    抱きに?





    相変わらずの簡潔な文章。


    私の指は、勝手に動いて。




    気がついたら、送信ボタンを押していた。





    “分かった。待ってる。”







    どうしてだろう。

    髪を切りに、行くはずだったのに。
引用返信/返信 削除キー/
■11966 / inTopicNo.12)  NO TITLE
□投稿者/ ゆぅ 一般♪(1回)-(2005/08/10(Wed) 05:41:22)
    続きが楽しみです!!(*^o^*)
    頑張ってくださいな♪

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■11981 / inTopicNo.13)  ゆぅさんへ。
□投稿者/ しいな 一般♪(18回)-(2005/08/10(Wed) 23:34:06)
    ありがとうございます♪
    更新ホント遅いですが…(^-^;
    ガンバリマス☆
引用返信/返信 削除キー/
■11982 / inTopicNo.14)  
□投稿者/ しいな 一般♪(19回)-(2005/08/10(Wed) 23:35:00)
    「…ん、あぁ」


    時計に背を向けた私は

    正確な時間を、もう計ることは出来ない。

    彼女を招き入れてから、まだ数分?

    けれどもう、この空間は普段とはまるで違うモノになってしまったかのようだった。


    「ひ…ぁんん…」


    彼女の指の的確さは衰えてはいなかった。

    むしろもっと深い感覚が、身体の芯を捕らえて放さない。

    慣れているはずのシーツの手触りまでもが

    いつもより滑らかに感じるのは、何故だろう。


    「あ…あぁ…」


    強く、弱く。

    優しく、激しく。


    高められていく波と共に。

    日常が消え去っていく。


    「んっ…ぁ、もう…」


    もう、何も考えさせないで。

    今だけでいいから…


    宙に伸ばした手が、強く包まれる。

    「名前、呼んで?」


    ゆら…


    ゆら。


    「ゆら。もう…あぁ…っ」


    ゆら。

    ゆら。

    ただ名前だけを呼び続ける声が。

    掠れて出なくなるまで。
引用返信/返信 削除キー/



トピック内ページ移動 / << 0 >>

このトピックに書きこむ

Mode/  Pass/

HOME HELP 新規作成 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 発言ランク ファイル一覧 検索 過去ログ

- Child Tree -