| 『どいて!どいてよ!』
アリサの涙まじりの叫び声がエリナの耳に届く。 ぼんやりと見える周りの客達は、エリナを見て驚いた顔で道を開けていく。
控え室の扉を開け、エリナをソファに横にさせる。
『アリサ!エリナどうしたの!?』
優奈が駆け寄るが、アリサは耳も貸さずに救急箱を必死に探している。
『どこ?無いよ…。優奈!優奈!どこにあるの!』
パニック状態になり、なかなか救急箱を見つけられないアリサを、優奈が落ち着かせる。
『落ち着いてアリサ!あたしが探すから!アリサはタオルでエリナの身体拭いてやりな!』
崩れるようにエリナに寄り添うアリサ。
『ごめんね…ごめんね…痛いよね…ごめん…』
たくさんの涙が頬を伝い、やがて涙は握られたエリナの手にも伝わりはじめた。 「ケホ……泣かないでください…っ……。大丈夫ですから…」
アリサを安心させる為、エリナは一生懸命に背中の痛みをこらえた。
『ヒッ…グシュ…エリナ…あたしのせいだ……』
「……?」
ぼんやりと泣いているアリサを見つめていると、優奈が救急箱を掴んで駆け寄ってきた。
『エリナ、痛むけど我慢してね…』
消毒液をたっぷりとしみ込ませたガーゼを背中に付けられる。 ヒリヒリとした痛みが走ったが、エリナは黙って耐えた。
手当てが済み、店においてあったバスローブを借りて上から羽織った。
優奈は仕事に戻り、控え室にはアリサとエリナの二人だけになる。
手当てが済み、安心したのか、アリサは座っているエリナの膝に頭を乗せて手を握った。
『よかった…間に合って』
「どうして…来てくれたんですか?」
エリナの問いに、顔を曇らせる。ぎゅっと握られた手に力が加わる。
『知ってたんだ…』
「え?……」
『綾がエリナにひどい事するって…』
アリサの顔はどんどん俯いていく。
『沙織は…綾を愛してる…。綾が望むことは必ず叶える…』
エリナの身体は固まった。綾が望むことは…… アリサと付き合うこと。
「……必ず?」
アリサがこくりと力なく頷く。エリナの背中には嫌な汗がにじみ出た。ズキズキと胸がえぐられているような痛みに顔が歪んでいく
「どうして…紗織さんがそんな事出来るんですか」
『沙織は…ここの地域を仕切ってるヤクザの跡取りなんだ…』
「……だからって何をするんです…」
『あいつが声をかければ私はもちろん、お姉ちゃんも働けなくなる!お金が無いとお母さんが手術出来ないの!』
涙をぽろぽろとこぼしながら、アリサは痛いくらい悲しい声で叫んでいた。
「手術……」
エリナの声で我に返り、アリサは背を向けて控え室から出ていった。
(携帯)
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