| 開かれた扉の前にいる人物に目が釘づけになった。 エリナが19年見続けていた人物。
「お…母さん…」
母と呼ばれた女、涼子はうっすらと笑みを浮かべて、エリナからは見えない扉の横にいる人物に話し掛けている。
笑みを浮かべられただけで自分には目もくれず話し込む涼子に、エリナは頭に血が上った。
「なんとか言えよ!何話してんだよ!!」
勢い良く扉に向かい、涼子の胸ぐらを掴みあげた。
涼子は冷たい顔でエリナを見ていた。 今までに見たこともない涼子の顔にエリナは体が固まった。
(……こんな顔…あんた出来たんだね…)
一瞬考え事をしていただけで、涼子の胸ぐらを掴んでいた腕は離された。 同時にエリナの体が床に崩れ落ちる。
「ぅ…ゲホ……かは…」
みぞおちに強烈な痛みが走り、うずくまったまま腹を押さえ込んだ。
苦しさで目の前が歪む。 自分が母親だと思っていた女は、目の前で封筒を受け取って消えた。
(今度は私を使うのか……本当…むかつくよ…)
首が持ち上げられ、態勢がきつい。 息苦しさと痛みで、エリナの意識は飛びそうだった。 男だと思い込んでいた人物は、後ろに結っていた髪をほどいた。
驚くほど整った顔が夕日に照らされる。何も見えていないとような冷たいガラス玉の眼がエリナをじっと見つめていた。
今のエリナにはその美しさが恐怖にしか感じられない。 何の為に自分は売られたのか。 何の為にこの人は女を買ったのか。
『気に入ったわ……』
その日、エリナはくらい闇に引きずり込まれた。 エリナの光が失われる。
『あの人に渡すなんて…。あなたの価値が無くなってしまうわ…』
あの女の声が頭をよぎった
(携帯)
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