| 「子供産むんだって?友達」 寝ているものだと思っていた六つ年上の彼女の声に、私は読んでいた雑誌から顔を上げた。 見れば、タオルケットにくるまったままベッドで寝転がっている。 私に背を向けた格好で。 床のラグマットの上に突っ伏していた私は、再び雑誌に目を落として、 「うん」 短く返した。 「アヤの大学の友達だっけ」 もう一度「うん」と頷き、 「もう辞めたけど」 付け加える。
そう、昨年の今頃に友人である彼女は大学を自主退学した。 彼女の家は少しばかり複雑でその関係がごたごたしていただとか、一回り年の違う彼氏と結婚するだとか、それを家族に反対されていただとか。 事情は色々あるけれど。 どんな理由であろうと彼女自身の意志でそうなったのだ。 決して軽い気持ちからではない事は、私にはわかっていた。 だから退学届けを出す前の彼女にそれを聞かされた時、 「そっか」 ただ、そう一言だけを答えた。 「驚かないの?」 彼女は拍子抜けしていたけれど。 私には関係のない事だし。 それは突き放しているわけではなくて、あんたは大丈夫だと思っているから。 それにどうせさ、あんたが決めた事に私がどんなに口を出しても無駄だとわかっているしね。 そんな風に言ったら、 「アヤらしいね」 可笑しそうに笑っていた。
それからあまり日を置かない内に彼女は大学を去り、すぐさま籍を入れた。
それが昨年の話。 妊娠を告げられたのは今年の四月だった。 その時も私は、 「そっか」 と。 それだけ答えた。 この間と違うのは、 「おめでとう、ナナ」 この一言が加わっていただけ。 その短い言葉だけでも、 「ありがと」 ナナは満足そうに頷いてくれた。
七月に入ったばかりの現在。 あと二週間ほどで新たな命が産まれるだろう。
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