| 紗織と一緒に塔から出てきた道程を、うっすらとした記憶を頼りにアリサは進んだ。 明かりは無く、まだ火は階下まで広がってはいなかったがむせ返るような煙の匂いと蒸し暑さがアリサを襲った。
[きゃ―――――!!!] [助けてくれ!誰か!]
[火がまわる!ダメだ!逃げられない!]
上から聞こえてくるたくさんの悲鳴はやがて一つ一つ消えていくようにアリサの耳から遠退いていった。 口元を押さえて階段を駆け上がる。
もう一つ上の階にエリナはいる。そう思い、必死に階段を上ろうとした。
エリナがいるのはもう一つ上の階。 頭では分かっていても身体が目の前の光景に動きを失っていた。
紅い火の粉がアリサの視界を覆う。 真っ赤に染められた廊下には人影が見え隠れを繰り返し、拷問をうけているかのようなひどい叫び声をあげて火だるまになっていた。
熱気によって流れ出る汗が、床に落ちた。 その汗をなんとなく目で追うと自分の足首を人が掴んでいた。
「きゃああぁ!!」 恐怖で頭がパニックを起こしそうになる。 足から力が抜けて、アリサは床に崩れ落ちた。
握られた足首に絡まる手は、離されまいとものすごい力で締め付けた。
「ぁ……あぅ…お願いだ……俺を…助けて………お願い………だ…」
身体中に火傷を負った男は、誰が見ても人間には見えなかった。
外に連れ出しても、ここにいても時期に死ぬことが分かっている。
アリサは男のただれた身体に恐怖を抱いた。
「い…いや…離して…」
震えながらも、アリサは男の手を振り払おうと足をずらす。 しかし男は余計に力を強めていく。
足首にあった手は、次第に両足を抱えるように上がり、男の身体はアリサの腰辺りまで這うように乗り掛かった。
「俺を助けてくれ……死にたくない……助け…てくれよ…」
「いや…来ないで…来ないで…いや…」
ただれた顔面がアリサの顔を覗いた。涙が溢れ、アリサは動くことが出来なかった
「何してんの!バカ女!」 絡み付く男が廊下に投げ出される。
軽がるとアリサを抱きあげる紗利はそのまま階段を上がりはじめた。
階段の下からは、先程の男であろう断末魔のような叫び声が上がった。
(携帯)
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