| カタカタカタカタ・・・
オフィス内に乾いた音がひっきりなしに響いている。 「夏風さん、これお願いします」 隣のデスクに座っている女性が、ホチキスで留められている書類を何枚かこちらのデスクに置いた。 「は〜い、ありがとうございます」 私はパソコンから目を離すことなく答えると、慣れた手つきでテンキーを打つ。 入力が終わると山のような書類の束をほんの少しよけて、さっき置かれた書類の処理に移る。
ふと周りを見渡すと、みんな仕事に没頭している。 彼女たちとは殆ど話したことがない。 中には名前すら知らない人もいる。 私達の仕事はグループに分かれており、例えば私の目の前に広がるシマは、総勢十数人からなるグループで、 私の感覚からすると大所帯だ。 対する私のグループはこのオフィスで最も人数が少ないグループで、メンバーはたったの二人。 私と、さっき私の机の上に書類を置いた彼女だけ。 少し寂しい気もするが、逆に余計な人付き合いをしなくて済むことが幸運に思えた。
私の隣に座っている女性、紫良美咲は私の仕事のパートナーである。 私より彼女の方が年上であるが、会社に入ったのはわずかだが私の方が早かった。 それが丁度プラマイゼロとなって、私達は対等な関係を築いていた。
|