| 何とか実香さんを私の車に乗せると、急いで私の家に向かった。
『…吐きそうなんだけど』 「待って待って!もう少しだから!」
数分後、私の家に着いた。外に出て助手席に回り、実香さんに肩を貸す。
「さ、中に入ろう。」 『ごめんね…ありがとう』
少し酔いが冷めてきたのか、実香さんはまともな会話ができるようになってきた。
ガチャッ
家の中に入り、ベッドに座らせた。
「ふぅ…」 『私、かっこ悪いね…』 「ん?そんなことないよ。」 『だって…吐く寸前だったし…』 「あはは。でもそんなの、誰だって経験してることでしょ」 『私はないもんー』 「そうなの?あ、ちょっと待ってて」
ガサガサ
「あった。はい、胃散と水」 『わー気がきくね』 「早くお腹の中がスッキリしないとね」 『ホントありがとう』 「いいってば」 『ふふ。瞳ちゃんは優しいね。あ、せっかく持ってきてくれたんだし、飲ませてもらうね』
パクッ
ゴクゴク…
「ちゃんと飲めた?吐いちゃダメだよ」 『大丈夫みたい』 「そう。良かった。じゃしばらく横になってるといいよ」 『ありがとう』
実香さんも落ち着いてきたみたいなので、私は夕食の用意を始めた。いつも夕方から夜中まで働いているので、お腹ペコペコで帰ってくるのだ。
(今日はパンと野菜ジュースと…)
ガチャン!!
突然、大きな音がした。私はすぐに実香さんの方を見た。
「どうしたの!?大丈夫!?」 『ごめん、トイレを借りようと思って立ち上がったら倒れちゃって…お水こぼしちゃった。グラスも割っ…』 「そんなのいいよ!…あ!目の下切れてるじゃん!大丈夫!?痛い!?」 『え?あ、気付かなかった』
私は慌ててティッシュに少量の消毒液を含ませ、実香さんの顔の傷を拭いた。
「動いちゃダメだよ。……良かった。血は止まったね」 『何から何まで…ホントごめんね…』 「構わないよ、全然」 『せめて片付けは私がしないと』 「え?いいよいいよ。あ、割れたグラスは素手で触っちゃダメだよ」 『…あ』
グラスを素手で片付けようとした実香さんの手を握った瞬間、なぜか彼女は下を向いてしまった。
「?」 『あ、えっと…そ、そうだよね…』 「実香さん?どうしたの?」 『あの…手が…』 「あ、あぁ。ごめん…」
すごく可愛かった。 一瞬、私の手に触れて、照れてるのかなーなんて…
『……』 「……」 『……』 「…ね、寝てなきゃダメだよ」 『え!?あ!そ、そうだよね』
バサッ!
実香さんは、慌てて布団を頭までかぶり、横になった。
(な、何なんだろう…)
私の胸は、確実に動きを速めている。 なぜか汗が止まらず、気持ちも落ち着かない。
(実香さんは照れてたのかな…い、いや…違う違う…この程度のことで舞い上がっちゃダメだ…)
一瞬でも気を緩めたら、「好きだ!」と言ってしまいそうだった。
『……』
(ふー…。ん?寝たのかな?)
少し布団をまくって、実香さんの顔を覗いてみた。
彼女は泣いていた。
「え!?」 『あっ…!』 「大丈夫!?まだ気分が悪いの!?」 『え?う、ううん…』 「じゃどうしたの!?」 『……』
実香さんは、布団に少し顔を戻して、私をジーッと見ている。
『…私、どうしたらいいんだろう…瞳ちゃんが好きなの…もうこれ以上我慢できないよ……』
消えそうなくらい小さな声は、震えていた。
「……え?えぇっ!?あ、あのっ…」
蒸気機関車みたいな鼓動が邪魔で、うまく言葉が出てこない。
「み、実香さんが…?」 『…ごめんね』 「え?」
実香さんは、急にベッドから降りて、部屋を出ようとした。私は、とっさに彼女の腕を掴んだ。
『もう帰…』 「ちゃんと話を聞かせてほしいです」 『……』 「さっき実香さんが言ってくれたことが本当なら…」 『え?』 「ほ、本当なら…その…」 『……』 「えっと…私も…実香さんのことが好きだから…」 『……』 「その…」 『…ちゃんと言う』 「え?」 『もう1回、好きってちゃんと言いたいから…聞いててほしいな…』
その答えだけで充分だった。 私は、途端にパァッと笑顔になった。そして、実香さんを抱き寄せた。
「だぁーい好き!実香さん!」
そう言って、ギューッと抱きしめた。
『…う゛〜……』 「何泣いてんのー!両思いだったんだよ!?一緒にもっと喜ぼうよ♪」 『だって、2年間も片思いしてた人と…』 「ねっ!幸せだね♪」 『もう…うふふ』 「えへへっ♪」
気持ち悪いくらい、私達はずっとニコニコしていた。
『記念にキスしたいな』
そう言ってくれたのは実香さんだった。 やったぁ!でも最初のキスなので、唇に軽く…うわ、タマゴみたい。
そのまま何度も何度もキスをしながら、私達は朝を迎えた。
続く
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