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■17912 / inTopicNo.1)  くもりのち
  
□投稿者/ 野良 一般♪(1回)-(2007/02/14(Wed) 03:25:10)
     

    「みんな、勘違いしとんのよ」


    と、彼女は言う


    「うちはそんなに出来た人間やない」


    自己中心的で、
    誰もに愛されたくて

    感情を理屈で押し殺しているだけの薄っぺらな人間なのだ、と




    「人気者を演じとんねん」




    内緒の話やで?、と

    私の顔を覗き込むようにして彼女は言った




    その日から、
    或いは
    初めて出会ったあの日から

    私は、彼女を独占したいと願っていたのかもしれない
     


    (携帯)
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■17913 / inTopicNo.2)  くもりのち:00-A
□投稿者/ 野良 一般♪(2回)-(2007/02/14(Wed) 04:17:27)
    2007/02/14(Wed) 04:20:10 編集(投稿者)

     

    「お名前、何ていいますのん?」


    彼女がこの学校にやって来たのは、半年前のこと


    隣のクラスで、同じ美術科


    関西から来たというその娘は、他クラスとの合同授業で同じ班になった私に、屈託のない笑顔で問い掛けてきた


    「……笠原。笠原 椿」


    その笑顔と、初対面なのに物怖じしないテンション

    あまり人と会話をするのが得意でない私はその雰囲気に圧され、質問に答えるまで少し間をおいてしまった


    「かさはら つばき……椿ちゃんか」


    うんうん、と頷いて

    ええ名前やね、と
    またあの笑顔で此方を見る


    今時めずらしい、幼い子供のような表情


    「うちは相田 たまきっていうねん。仲良うしたってなぁ」


    口元を緩めて笑う

    その顔があまりにも無邪気で、穏やかで

    初対面で硬くなっていた気持ちが、ほぐれていくのを感じた


    分かりやすく言えば、脱力系




    「よろしくね、相田」




    初めて交わした握手

    きっと、あのとき

    彼女の笑顔に釣られて、私の顔も綻んでいたのだろう
     

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■17914 / inTopicNo.3)  くもりのち:00-B
□投稿者/ 野良 一般♪(4回)-(2007/02/14(Wed) 10:57:24)
     
    身長165センチ

    体重は教えてくれなかったけれど

    すらりとした手足に、抜けるような白い肌、長い睫

    ショートヘア

    右目を隠すかのように伸ばした前髪が印象的で、
    一見おとなしそうに見えるその娘は


    実は結構なやんちゃ娘で

    それでいて食いしん坊で


    そして“多趣味”という、意外性No.1の転校生だった


    「そんな褒められたら図に乗ってまうわ!」


    外見と、その愉快な言動とのギャップが激しくて

    でもイヤミでなく、誰にでも分け隔てなく接する彼女“相田 たまき”は、あっという間に殆どの美術科の人間と仲良くなっていた




    対する私、“笠原 椿”はどうだろう?

    手入れを怠ってきた、肩につく髪

    まぁ平均的な、日本人らしい肌色

    目つきは割と鋭いほうで、それでいて人付き合いが苦手で

    話し掛けられても「はぁ」とか「うん」とか

    私から話題を持ち掛けることなんて滅多にないし、相手が望んでいるような反応も、きっと出来ていない
    (一応努力はしているのだけど)


    私が自信を持っていることといえば、数学の成績と身長の高さぐらい
    (それでも167センチで相田との差はそれ程無いのだけど!)




    彼女はそんな私でも仲良くしてくれる

    一緒に居て楽しいのかな?と、時々疑問に思うのは、まだ内緒の話
     


    (携帯)
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■17915 / inTopicNo.4)  くもりのち:00-C
□投稿者/ 野良 一般♪(5回)-(2007/02/14(Wed) 13:00:02)
     

    「うち、デッサン苦手やねん」

    「…うん」

    「物の形とか、位置関係とか…左右対称に描くのも苦手で……コレ、絵描きとしてはかなり致命的やんなぁ?」

    「そうだね」

    「椿ちゃんってめっちゃスラスラ形とっていくけど…もしかして、デッサン好き?」

    「……。……まぁ…」

    「?」

    「好きではないかな」

    「えっ、そうなんや?」

    「意外?」

    「うん。だって上手いこと描きよるから、好きでデッサンやってんのかと思って」

    「まぁ、やらないことには実力はつかないから」

    「ま、そりゃそうやな」

    「……うん」

    「……」

    「……」




    主に一緒に行動するのは、合同授業

    相田は作業に行き詰まると、こうやって話し掛ける癖がある


    私以外の人間なら、もっと会話は弾んでいただろうに

    相田は、それでも私に

    他の誰かではなくて、私に話し掛けてきた




    「……あ、でも」

    「ん?」

    「…色とか、影をつけていくのは、結構好きだよ」




    拙い言葉だし

    もしかしたら、私の声は聞き取りにくいかもしれない

    会話を返すのが遅くなることだってある


    でも、それでも




    「あっ、分かる!うちも影つけていくんは好きやねん!」




    少ない私の言葉一つひとつを、逃すことなく受け取ってくれる彼女が傍にいて

    そして、笑いかけてくれる


    それはとても心地良い感覚


    退屈で空っぽになった私を満たしてくれるような

    そんな、安心感


    “相田が傍に居る”


    もう、それだけで良い

    それ以上のことなど、今は………
     


    (携帯)
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■17916 / inTopicNo.5)  ご挨拶と物語について
□投稿者/ 野良 一般♪(6回)-(2007/02/14(Wed) 13:38:20)
     
    初めまして。
    拙い文章書きの野良という者です

    この度は“くもりのち”を閲覧していただき、有り難う御座います


    以前から皆さんの投稿小説や他のサイト様の小説を読んではいたのですが、自分自身で小説を書き始めてからは日が浅い“ひよっこ”なため、内心ドキドキしながら投稿しています(笑)


    ある女子校を舞台に、対照的な二人の出会いと変化していく感情が織り成す物語

    対照的で在りながら、共通するもの


    表にしてはいけない感情をひた隠しながらも、彼女たちの距離は近くなっていく




    ありきたりな作品かもしれませんが、それでも貴女の胸に届く“何か”を表現出来たなら、と思います




    感想等ございましたら、是非お聞かせ下さい
     


    (携帯)
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■17927 / inTopicNo.6)  初めまして
□投稿者/ 向日葵 一般♪(1回)-(2007/02/15(Thu) 01:47:53)
    野良さんの作品メチャクチャ好きです。
    これからの展開を楽しみにしてます♪

    寒くなるんで暖かくして下さい。

    (携帯)
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■17930 / inTopicNo.7)  TO.向日葵さん
□投稿者/ FROM.野良 一般♪(1回)-(2007/02/15(Thu) 16:45:20)
     
    上手く纏められるかどうかが不安なのですが、向日葵さんの感想にとても励まされました

    これからも精進していこうと思います

    コメント、有り難う御座いました!
     


    (携帯)
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■17944 / inTopicNo.8)  くもりのち:01
□投稿者/ 野良 一般♪(7回)-(2007/02/17(Sat) 23:53:53)
    2007/02/18(Sun) 00:21:55 編集(投稿者)

     
    緩やかに
    しかし、振り返れば一瞬。
    時間は、誰の意志にも構うことなく過ぎていく

    この女子校に入学してから訪れた、二度目の春。
    見事に咲き乱れた桜でさえも


    「あー…散っていきよったなぁ……」


    相田が、すっかり寂しくなった桜の木を見上げて言った


    「春休みの練習んときは、お世話になりましたっ」


    と、大袈裟に敬礼する

    この学校に来てから間もなくして、彼女は私と同じ演劇部に入部した

    春休みの練習に参加する部員達の楽しみと言えば、この桜の木の下で昼食を採ることだった


    「また来年もここで花見をしたいな。みんなと」


    私がそう言うと、うんうんと相田が頷く

    きっと、頭の中で次の春を思い描いているのだろう








    「たまちゃーん!」




    しばらく桜の木の下で話をしていたら、背後から相田を呼ぶ誰かの声がした


    「あっ、笠原さんも……」


    声の主は、相田と同じクラスの生徒だった

    面識はあるが、会話をしたことはない

    だから名前も思い出せない


    (それにしても、何で私の姿を見るなり小声になるんだ…この人は)


    「たまちゃん、次の授業…移動だって!」

    「えっ!?」


    報告を聞くや否や、相田は私の方を振り返り、
    「ごめん…また放課後、部室でな!」
    と、言い残し、迎えに来たクラスメイトの娘と共に教室へと走っていった


    あっという間の出来事


    「……さて」


    (私もそろそろ戻るとするか)


    青空の下の校庭を、一人歩く


    “隣のクラス”というもどかしさは、
    2年生になっても私を悩ませた
     

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■17948 / inTopicNo.9)  くもりのち:02-A
□投稿者/ 野良 一般♪(8回)-(2007/02/18(Sun) 01:40:33)
     
    人付き合いは苦手だ。
    でもそれは“苦手”なだけで、人が嫌いというわけじゃない。
    出来ることなら、多くの人と仲良くなりたいと思う

    だけど私は“人付き合いが苦手”なわけで

    だから私は、同じ空気感を持つ人間とでしか、仲良く出来ない




    「うぃーす、かっさん」




    気だるそうな声が、私の耳に入った。
    私を“かっさん”と呼ぶ人間は、一人しかいない


    「何か用?南」


    “南 潤子”
    数少ない、私と似た空気感を持つ生徒

    ふわふわの巻き毛と、いつでも眠たそうに垂れ下がった眼

    よく授業を抜け出す割に、成績は学年でも上位にランクインしているため、教師もどう扱って良いのか悩む…という、
    何だかひとクセある人物

    私が“友達”と呼べる人間で

    そして、相田のクラスメイト


    「あれ…?そっちのクラス、移動教室なんじゃ……」


    …と、言いかけて

    にまーっ、と笑う南


    ……ああ、またか


    「かっさんのクラス、次…誰の授業?」

    「……佐藤先生」


    はぁ、と
    溜め息混じりに答える

    それは苦手な現代社会の授業、という溜め息と

    次に南の口から出る言葉が何なのか…分かってしまった、という溜め息


    「一服、付き合っておくれ」


    南は、自分の制服の“何か”が入っているだろう右ポケットを、ぽんぽんっと叩いてみせた

    サボる、という行為に後ろめたさは感じるけれど

    本音を言えば、「抜け出したい」


    肩をすくませることで、“了解”の意志を見せる


    南がまた、にまーっ、と笑った
     


    (携帯)
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■17954 / inTopicNo.10)  くもりのち:02-B
□投稿者/ 野良 一般♪(9回)-(2007/02/18(Sun) 03:24:16)
     
    どこまでも青く、澄みきった空。
    たなびく煙は、セブンスター・メンソールライト


    「かっさんってさーぁ……」


    ふぅっ、と有害な煙をひと吹きして、南が切り出した


    「たま吉のこと、すげー好きだよなー」

    「………」




    ……

    ………


    「……何を…」


    “何を言い出すかと思えば!”

    そう、
    これが模範解答。
    自分の本音をはぐらかすのに、最も適した言葉

    だが悲しいかな、
    口下手な私はそれを無駄にしてしまった


    「うん、やっぱり」


    こくこくと頷く南

    やっぱりって……


    「たま吉と一緒にいるときのかっさん、すげー優しい表情してんの」


    何も言い返せない私を横目に、南は続けた


    「たま吉も言ってたよ。“椿ちゃんといると落ち着く”ってさ」


    良かったね

    …と、他人事のように言い放つ南を、私は精一杯睨みつける

    楽しんでいるのか、と

    だが、彼女の言動とは裏腹に、その表情は眠そうでありながらも真剣さを帯びていた


    「……かっさん」


    改めて、南が口を開く


    「……なに?」


    広大な青色の下に、しばらくの沈黙

    じわじわと侵食していく、煙草の灰


    「君は今のままでいいのか?」


    とんっ、と
    溜まった灰を冷たいコンクリートの上に落とす


    芝居がかったような口調の、その言葉に

    心臓が、跳ねた

     


    (携帯)
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■18079 / inTopicNo.11)  くもりのち:02-C
□投稿者/ 野良 一般♪(10回)-(2007/02/22(Thu) 23:30:41)
     
    わあああぁぁっ

    校庭から生徒たちの歓声が聞こえる

    体育の授業。
    種目はハンドボール

    白熱する試合

    きっと彼女らは、屋上にいる私達の存在に気付いていないのだろう


    「………」


    屋上の二人。
    しばしの沈黙

    びゅうっ、と吹き抜ける風


    「……相田を…どうしたい、とかは無いよ…」


    私の口から、ようやく言葉が紡がれた

    ドッ ドッ ドッ

    心臓の鼓動が徐々に強くなっていく


    「それは嘘だね」


    まるで私を見透かしたような目で、南が言い切った


    「……嘘じゃない」

    「虚勢だよ、かっさん」


    すっかり短くなった煙草を、持っていた空き缶の中に詰める


    「我慢してるようにしか見えないよ」


    “我慢”

    その言葉に心臓が強く脈打った。
    思い出したのは、先程の相田の姿

    私を置いて他の誰かと共に行く、あの背中


    「……」


    何も言い返せなかった

    強がっても無駄だろう。
    南には全て見抜かれている


    「……どうすればいい?」


    ふと口を突いて言葉が出た

    私の中の淫らな妄想と、薄汚い感情

    そうした爆弾を抱えながら相田と接していれば、いつか爆発するのではと不安になることがある

    そして、そのたびに思うのだ


    “なら、どうすればいい?”


    私は、今もその答えを出せずにいる
     


    (携帯)
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■18157 / inTopicNo.12)  くもりのち:02-D
□投稿者/ 野良 一般♪(11回)-(2007/02/26(Mon) 02:36:39)

    相田の周りには人が集まる。
    私はその中に入れない

    触れてはいけない

    まばゆいほどの笑顔。
    私みたいな人間には…

    私には……


    「…どうすれば……」


    手に残る、初めて彼女と握手をしたときの感覚

    思い出せば胸が軋んで

    近付けば、動き出してしまいそうで


    「……アタシはさ、」


    南が2本目の煙草に火を付け、切り出した


    「たま吉と居るときのかっさんが好きだよ」


    ふぅっと空に煙を吹きかける


    「独占欲ってのは、多かれ少なかれ皆抱えてるものさね。
    大事なのは、“それ”とどうやって付き合っていくかでさ」


    校庭から聞こえる歓声が、ずっと遠いところから響いているような気がした

    私の耳が、鼓膜が、脳が

    南の言葉だけを捉えようとしている


    「たま吉と一緒に居て楽しいのなら、もっと自分から歩み寄るべきだよ。
    周りがどう、とか。
    自分はどうだ、とか考えないで」


    抜ける空気は、抜いておけばいい

    楽観的とも思える彼女の意見はシンプルで、
    だけど、重く張り詰めた私の心を救ってくれるには充分だった


    「…そうか。うん、そうだね」


    あっけなく出された答えに、今まで葛藤していた自分が馬鹿バカしく思えて

    ずっと強張ったままの顔が、自然と弛んでいく


    「ほら、その表情!たま吉と居るときの顔になってるよー、かっさん」


    南がからかうように、にまーっと笑った

    気付けば授業の終わりを告げるチャイムの音

    「アタシ、応援するよー」なんて言いながら、背中を突っついてくる南に

    うるさいな、とボヤきながら屋上を後にする私


    見上げれば、澄み切った空に飛行機雲が一筋


    心は晴れやかだった
     


    (携帯)
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■18190 / inTopicNo.13)  野良さまへ★☆
□投稿者/ ひより 一般♪(1回)-(2007/02/28(Wed) 02:44:56)
    初めまして!いつも拝見させもらっていたのですが、思い切って書き込みしてみました(^O^)/
    南さんが好きすぎて。。。(*^_^*)
    続きがとても楽しみです!頑張って下さいね★

    (携帯)
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■18192 / inTopicNo.14)  初めまして☆
□投稿者/ 夏菜 一般♪(4回)-(2007/02/28(Wed) 16:05:17)
    私も女子高育ちなんで、なんか共感できます(●*vωv*艸)
    読みやすぃし、この先の展開がめっちゃ楽しみです♪♪

    実は・・・相田サンのイメージが友達にそっくりなんですょ(*OUO艸藁)+.゜
    その子はソフト部なんで、逆に真っ黒ですけど★ワラ

    これからも更新頑張って下さぃ.。*((●艸/∀≦*.+♪
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■18196 / inTopicNo.15)  TO.ひよりさん
□投稿者/ FROM.野良 一般♪(12回)-(2007/03/01(Thu) 01:15:44)
    2007/03/01(Thu) 01:16:59 編集(投稿者)

     
    初めまして。
    コメント、有り難う御座います!

    南 潤子は、私も個人的に愛着のあるキャラクターなので、気に入って頂けるととても嬉しいです

    未熟ながらも精一杯頑張りますので、これからも彼女たちの行く末を見守ってあげて下さいね
    (*^_^*)
     


    (携帯)
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■18197 / inTopicNo.16)  TO.夏菜さん
□投稿者/ FROM.野良 一般♪(2回)-(2007/03/01(Thu) 01:39:09)
     
    初めまして!

    私の女子校生活での経験も取り入れて書いている物語なので、共感して下さる方がいると何だか親近感を感じます(笑)

    内心、“間をとりすぎてやしないか”、“話の中身が見えてこないのではないか”と心配ではあったのですが、“読みやすい”との評価を頂き安心しました

    相田に似ているというご友人が、とても気になるところ……
    (^_^;)

    拙い文章ですが、これからも頑張っていこうと思います

    コメント、有り難う御座いました!
     


    (携帯)
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■18233 / inTopicNo.17)  くもりのち:03-A
□投稿者/ 野良 一般♪(13回)-(2007/03/05(Mon) 00:12:36)
     
    新しい学年に進級してから、数週間が過ぎた

    私の通う瀬尾女子高等学校では、毎年この時期になると“新入生歓迎会”と称して、文化系の部活による舞台の催し物がある

    参加する部活は、
    軽音楽部
    ダンス部
    吹奏楽部

    そして
    私が所属している、演劇部


    「………は?」


    3日後に本番を控え、今日も追い込み練習。
    私は当然のことながら裏方、音響担当…

    ……だったのだけど……


    「ぶ、部長……今、なんて…?」


    一瞬、
    我が耳を疑った

    部長を除く演劇部員も、目をぱちくりさせている

    そこには、口をあんぐりと開けた相田の姿も


    「だ か ら!
    次の新入生歓迎会、負傷しちゃった村松の代わりにアンタが舞台に立つの。
    何度も言わせないでよね」




    ……ぶっ

    ぶ…ぶ…ぶっ!!!!


    「舞台っ……!?」


    いっそ叫んでしまいたかったが、ギリギリのところで理性が働いた

    落ち着け、落ち着くんだ

    部長は何か勘違いをしている!


    「わ、私…どう考えたって舞台に立てるような人間じゃあないですよ」


    おずおずと、遠回しに拒否の意を示した

    しかし、部長の中ではすでに私を代理にすることが決定しているらしい


    「容姿、衣装、役柄……村松の代わりになり得るのは、アンタしかいないの!これは部長命令よ、笠原」


    分かったわね?
    と、有無も言わさぬ勢いで台本を突きつけられた

    かなり使い込まれたであろう冊子

    表紙には“村松 雅代”と書かれてある


    「これから45分間、各自練習!笠原は台本のチェックをすること!!」


    部長の指示を受け、それぞれ自分のポジションに移動する部員たち

    そんな中
    呆然と立ち尽くす私に、相田の声が掛かった


    「外、行かん?」


    …と
     


    (携帯)
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■18237 / inTopicNo.18)  くもりのち:03-B
□投稿者/ 野良 一般♪(14回)-(2007/03/05(Mon) 12:56:12)
     
    演目は、ルイス・キャロルの“鏡の国のアリス”を演劇部なりにアレンジした“不思議の国のアリス”

    私が村松先輩の代わりに演じろと言われたのは、お茶会のシーンで有名な“いかれ帽子屋(マッドハッター)”


    「うちもイメージに合ってると思うで」


    部長が切り出したときはビックリしたけど、と
    食堂で買ってきたサンドイッチを片手に相田が言う


    村松先輩の身長は166センチ

    確かに、部員たちの中で最も先輩に近い体型をしているのは私だろう。
    加えて、台本の中の“帽子屋”は口数が少ない


    ……だけど


    「…だけど、私には無理だ」


    発声場に続く階段に腰掛け、呟いた


    「そうかなぁ?」


    その隣に相田も腰掛ける。
    頬いっぱいに詰まったサンドイッチをごくりと飲み込むと、今度は私のほうを向いた


    「いっぺん練習に参加してみたら?案外性に合ってるかもしれんし……
    っていうか、うちが椿ちゃんの帽子屋を見たいんやけど!」


    むふふっ、とイタズラっぽく笑う相田

    “椿ちゃんの帽子屋が見たい!”
    その言葉が少し嬉しくて

    くすぐったくて

    「簡単に言ってくれるな」と、照れ隠しに相田の頬を突っついた

    ああ、駄目だ。
    何でこの娘は、こんなにも……


    「うちかて“三月兎(マーチヘア)”の役をもろたのに、このまま中止になるなんて嫌やもん」


    むぅ、と今度は頬を膨らませ、拗ねたように相田が言った

    そうだ、彼女も舞台に立つんだ


    「“与えられた舞台を無駄にしたくはない”って、部長も言っとった」


    と、今度は私の手元に視線をやる

    視線の先にあるのは、一冊の冊子。
    ボロボロになるまで読み込まれた、村松先輩の台本だった
     


    (携帯)
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■18313 / inTopicNo.19)  くもりのち:03-C
□投稿者/ 野良 一般♪(15回)-(2007/03/11(Sun) 17:31:23)

    台本を開く。
    中は、村松先輩が帽子屋を演じる際の注意点や、メモ書きでいっぱいだった

    先輩がどれだけ真剣に役と向き合っていたのかが伝わってくる

    舞台を成功させたいというのは、誰だって同じなんだ


    「…やってみるよ」


    私では役不足かもしれない。
    だけど私がやらなければ、舞台は始まる前に終わってしまう

    ならば、やってやれるだけのことを


    「うんっ」


    相田が嬉しそうな表情を浮かべる

    そう、
    この笑顔に応えられるのなら、私は……




    「覚悟を決めたって顔ね。良い心構えよ、笠原」




    外から戻った私達を見て、部長がふふっと笑った

    すでに立ち稽古の準備が整っている部室内

    学習机を並べて、一つの大きなテーブルに見せている

    これは、そう

    マッド・ティーパーティのシーン


    「じゃあ早速、お茶会のシーンから始めるよ」


    とりあえず今日は台本を持ったままでいい、と言われたが、
    セリフなら既に頭の中にインプットしている

    音響とはいえ、私も演劇部 部員

    裏方から、役者たちの練習風景をずっと見守っていた




    あとの問題は……


    ……私が、どれだけ村松先輩に近付けるか、だ
     


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