| どうしたの? ううん。何でもない。 会話の途中俯いてしまったあたしを、圭が心配げに覗き込む。
ドウシタノ、トウコ?ボクトイルトキニソンナカオシナイデ。
圭の瞳は、どんな言葉より雄弁に物事を語るのだ。 いつもあたしだけを見てくれる。あたしだけに向けられる。 だから時々、その瞳がうるさくて堪らない。 側にある煙草を一本取り出して、あたしはそれに火をつけた。 「でね、その映画なんだけど…」 圭が話を続ける。最近やっと探し出したという、あたしがすすめたイギリス映画について。 「神様にすがっても、結局どうにもならないと思ったよ。人間の創り出した虚像に救ってくれなんて。主人公が救われたのだって、あの女の子のおかげなんだし…聖職者が『救う』だなんて、おごりでしかないよ」 ああほんとうに。 彼女はあたしの望んだ通りの答をくれる。 なんて素直。なんて純粋。「圭、あなたはいい子ね」あたしがそう言うと、彼女の白い肌が少しだけ紅く染まった。
(携帯)
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