| こんな所に呼び出すのは思いっきり…。
ベタかな。
んー…。
ハラリと─
綺麗、だな…。
早咲きの桜は、私の背中を押してくれているみたいに満開で。
川沿いの遊歩道─
木製のベンチに腰掛けていた私の頭の中には。
仰げば尊い夢とか、余りある可能性とか。
そんな大義名分なんて、どこにも無かった。
思い出は“ただ一人”に彩られたものばかり。
その一人に憧れ続けた崇高な想いを、
「……違うや」
自分を諭すように左右に頭を振る。
崇高な想いなんて、それも多分大義名分だね。
けれど─
“今この時を” 逃してしまえば。
きっと後悔する事になる。
膝に置いた手に力を込める。
短いスカートの裾に皺が出来そうな程に。
…落ち着かなきゃ。
でも…。 何て言おう…。
実は決めてない。
伝えたい“内容”はあるにしても。
実際に言葉にする事は、難しい。
ダッハハハ!
って。 笑い飛ばされるかな。
実際にはその方がいいのかもしれないけど…。
はぁ………。
とその時─
ぽん。
ふいに、 頭に乗せられた筒。
体がぴくんと跳ねる。
………きききき来た?
やば…。
「………ア、」
特別な響きを持つその名前を、
呼ぼう、と。
「おうピノ」
したのに。
振り返った私の視線の先には─
やたら短いスカートでも細い足でもなく。
洗い晒しの長くてサラサラな金髪でもなく、
「何やってんの?」
腰までだらしなく下がった学生服。
ツンツンと固められた短い髪。
さほど大切にするでもなく卒業証書を片手に。
…は。
なななななんで?
「なんつー顔してんだ…?」
むむむむむ………。
「何で陽太郎なのー!!!」
「え」
当の“本人”は現れることはなかった。
18歳の春─
それは私が人生で初めて体験した、
特別な人との“別れ”に他ならなかった。
あの時伝えたかった言葉達は今ではもう、
思い出せない。
(携帯)
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