| 「ねぇ、ピアス開けてくれないかな。」
一月上旬
まだ薄暗い朝
熱が去らぬ内に依子が言った。
「いいよ。でも急にどうしたの?」
鬱陶しくなったボブヘアをかきあげながら実里が聞いた。
「なんとなく。耳が寂しい。」
依子の髪は細く柔らかい。
実里は撫でるように耳にかかった髪をすきあげた。
「そのままでもいいのに。」
親指でそっと耳のふちをなぞった。
「こわい?」
依子は実里を見つめた。
「こわくはないけど…。しばらく噛めなくなるのは少し嫌かな。」
「開けたら、出来ないね。」
依子は血に触れられるのをひどく嫌がる。
「開ける時、少し血が出るよ?」
実里は依子の耳たぶをなぞった。
「手袋して。終わったら手を洗って。お願い。」
依子の目は切なそうに実里を包んだ。
−あぁ、またこの目だ
実里は苦しくなった。
依子がこの瞳になると
いつも胸が苦しくなる。
依子の心の傷が見えた時
実里の心を僅かに傷つける。
「わかった。大丈夫だよ。ちゃんとそうする。」
なだめるように優しく言う
「良かった。ありがとう。」
ほっとしたと依子の瞳が緩む。
実里は何かに耐えれず
依子を抱き締めた。
−ねぇ
あたしは
ずっと触れられないの?
あなたの血液と
あなたの傷に−
(携帯)
|