ビアンエッセイ♪

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■20927 / inTopicNo.1)  夜の音が聴こえる。
  
□投稿者/ 淡紫 一般♪(1回)-(2008/06/18(Wed) 01:01:10)
    2008/06/18(Wed) 01:02:02 編集(投稿者)

    夜の音が、湿り気を帯びた優しい音色が聴こえてくる。
    目の見えない私にも分かる、目が見えない私だから分かる。
    人にはそれぞれ、その人にしか奏でる事のできない音色がある事を、私は知っている。彼女の音は、色で言うと濃い青。六月の雨を降らす夜の青。しとしと、しとしとと、春と離れ離れになった悲しみを夏に伝えて尽きる事のない涙を流す。
    その涙の一粒一粒を愛おしむ様に眺めていたあなただから。
    春でも夏でも秋でも冬でもない、この季節を彼女はこよなく愛した。そして私も、彼女を愛する様にその季節を慈しんだ。昔も、今もである。

    何故なら彼女は、この季節にしか生きられないのだから。


    (携帯)
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■20928 / inTopicNo.2)  夜の音が聴こえる。2
□投稿者/ 淡紫 一般♪(1回)-(2008/06/18(Wed) 01:33:23)
    毎晩ひと気も失せる時間になると、家を抜け出し町外れの川縁へ行く事がここ最近の日課になりつつある。
    毎年毎年、この季節になると必ずこの場所へと足を運ぶ。いつもは絶対に手放す事のない白い杖を置き去りにして、不思議と恐怖心は消え失せ、全てが見えている様に私の二本の脚は自然とそこにたどり着く事ができるのだ。
    町外れのその場所はちょうど山のふもとに位置していて、川の向こう側は木々が川面に覆いかぶさる様に生い茂り、真っ黒な闇に溶け込んでいる事だろう。
    ザラザラとした砂にしゃがみ込んで耳を澄ませる。ああ、空気が湿っている、木々の息遣いが、花々の産声が、水の囁く声音が、風が、私を抱く。自然が、命を、讃えている。暫く息を潜めて感じ入ると、大きな見えない何か、言うなれば生命そのものの様なものが自分の中に入り込む感触があった。その時だった。ふと鼻を掠める匂いにゆっくりと目を見開くと、私の見える筈のない瞳に映る人影があった。


    「蛍」


    蛍、私の恋人。彼女は眩い光を滲ませて微笑んだ。

    (携帯)
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■20929 / inTopicNo.3)  夜の音が聴こえる。
□投稿者/ 淡紫 一般♪(2回)-(2008/06/18(Wed) 02:07:47)
    川の中に佇む彼女は囁いた。

    こっちに来て


    爪先を水に漬けると私ではなく水の方が震えた。初めて他人に触れられた時の様に小さく震え、やがて私を受け入れた。

    彼女は美しかった。青白い光を放つ肢体はしっとりとした気配を漂わせ、一歩、一歩と近付くにつれ輪郭をはっきりとさせた。気付くと止んでいた筈の雨がまた降り出していた。お願いだから消えないで、蛍、蛍、ほたる。
    あと少し、一瞬川面に視線を落とし再び歩を進めようとしたその瞬間、彼女は私の目の前に居た。


    「会いたかった」


    そう言うとゆっくり私の首に腕を回し、彼女の頬が私の頬に触れた。青白い光が二人を包み込み水の中で私達はしっかりと抱き合った。やがて音が聞こえてきた。
    夜の、音だ。

    今年も蛍がやって来たのだ。一夜限りの蛍の命が、私の元にやってきた。
    夜の音と共にやってきた。

    気が付くと川面が柔らかな光に包まれ、こまやかな粒子となって浮き立っていた。まるで季節外れの雪が私達の元に集まって来たかの様だった。

    (携帯)
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