| 真奈美は、最近マンネリだ。
希望を持って地方都市の女子高の教師になって4年、
毎日がわくわくすることなんてなんにもなかった。
学生時代、恋人はいた。もちろん女性、年下だった。
体育会系の真奈美は、下級生によくもてた。
自分で言うのもなんだけれど、真面目な性格だ。正義感が強い。
女子高の教職の道を選んだとき、女性との恋愛関係は封印した。
学校では、生活指導担当の厳しい融通の利かない きらわれものだ。
結婚願望ももてない、私生活も砂漠のような日々だった。
そんなある日、理事長室に呼ばれた。
部屋には、少年のようなショートカットの生徒が座っていた。
背が高い、真奈美自身も女性としては高いほうだが、
座っていても真奈美より10センチ以上背が高いことはわかる。
無表情で、入室した真奈美にあいさつもない。
「この子って、転校生・・・」
と思ったとき
理事長がようやくニコニコしながら紹介した。
「牧 紗江さん、転校生よ」
ははーん・・・ようやくわかった。
普通の転校生じゃ、理事長室から担任を呼びつけるようなことしない。
「学校の特待生ってわけね。」
この学校では、社会貢献の一環として年間数人の特待生制度がある。
なんらかの不遇の身におかれている生徒を迎えている。
この子は、幼児期の体験で失語症になったという。
「成績優秀なのよ、真奈美先生お願いね。」
それにしても無愛想な子だわ、
すねたような、横顔、何を考えているのか計れない、
といきなり膝のうえに長い手がのせられた。
「えっ」
その時、ようやくこちらを見て、にっこり。
「まあ、可愛い子」
思わず、どぎまぎしてしまう。
理事長からちょうど死角のデスクの下で、
牧 紗江のそのしなやかな手が膝からふとももに移動していた。
真奈美は、その手を払うことなく紗江の横顔にただ見とれていた。
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