|
「メイちゃん、時間だよ」
控え室でくつろいでいるとこに、マネージャーのマキさんが迎えに来た。
「はーい」
元気に返事をして控え室を後にした。
私はメイ。 本名は上橋 メイ。 うえはし、なんて言われるけど、かんばしが正解。 人からはよくメイちゃん、って呼ばれる。 っていうのも私がまだ15歳だからだ。 でも仕事はしている。 これでも人気アイドル、っていう肩書きもあったりする。
今日は人気番組のゲストとして出演する事になっていたりする。 仕事は楽しい。 学校だって充実している。 私の人生、なかなか充実しているなんて思ったりしている。 仕事が恋人、なんて思って仕事に力を入れる。 恋なんかしてたら、体がもたない。 そう思っていた。
だからまさか、この日恋に落ちるなんて思いもしなかった。
今はリハーサル中だ。 スタッフさんが立ち位置を指示する。
「この線の手前でまっててくださいね。司会者が本日のゲストですっていったら〜」
スタッフさんが説明を聞きながらそういえば、卒業式の日は仕事をいれないようにマキさんにいっておかなきゃな〜なんて考えていた。
今は10月で少し肌寒くなってきた。 私は今中学3年生。 つまりは受験生で、来年の春には卒業式だ。 まあ、中高一貫の学校だから、受験の心配はしなくてもいいし、友達と離れることもない。 でもやっぱり卒業式には出たい!
あれ?そういえば、明日までの宿題があったような・・・ もしかして今日は徹夜かな?
「メイちゃんっ!!危ない!!」
いっきに現実に引き戻される。 突然のことすぎて頭がついていかない。 考え事をしていた私は反応が遅れた。 ほんの一瞬だったはずだけど、スローモーションのように感じた。
上からバチンとワイヤーが切れる音 何かの破片が降ってくる 避けるまもなく何かが落ちてくるのがわかる 小さな破片の後に続いて、大きな影が頭上に迫る ダメだ、間に合わない
誰かの悲鳴
そう思ったのと同時に私の体は吹っ飛んだ。 いや、正確には誰かが私をかばって、その勢いで倒れたみたいだ。
「大丈夫?」
静まりかえったスタジオに声が響く 綺麗な声だと思った 透明感があってハリがあって、よくとおる声
「メイちゃん?大丈夫?」
いつの間にか目をつぶっていたみたいだった。 恐る恐る目を開けてみる。
「どこか痛いところは?」
私をかばってくれた人が優しい声で尋ねる。 目と目があう。 優しい目 少し色素の薄い茶色の目
「大丈夫...です」
静まりかえっていたスタジオのあちこちから安堵のため息が遠くに聞こえる。
その人は顔をそらし「マキ!」と呼ぶ。
目をそらす事ができない。
白い肌 通った鼻筋 大きな目
本当に綺麗だと思う 今はその綺麗な顔が不機嫌そうにゆがんでいた。
「ナツ!!!大丈夫?メイちゃんも!」
マキさんの声で我にかえる。
「あたしは大丈夫。この子、いったん控え室に戻ったほうがいいと思うけど」
「そうね。メイちゃん、控え室でしばらく休憩しようか」
私は答える事ができなかった。 まだ何が起きたのかよくわからなかったし、今は目の前で私の顔を覗き込んでる、ナツ、と呼ばれた人からなんとなく離れ難かった。 私が黙っていると知ってか知らずか、マキさんがその人の細い手首を、がしっと掴んだ。
「ナツもだよ!」
当たり前でしょ、といった顔をするマキさん。
「なんで私まで」
どうやら二人は知り合いのようだ。 マキさんはナツさんの腕を無言で指さす。
その細い腕からは血がぽたぽたとたれていた。
仕方ない、といった顔をしたとこで私とナツさんをひっぱってスタジオを後にした。
|