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その後も未春のダンスを覗き見し、見とれる度に圭織にからかわれるというやりとりを繰り返していると
「…こら、圭織。お前はまた生徒さんイジって…」
突然背後から声をかけられる。
振り返ると、スパイラルパーマがかかった長い髪を高い位置で結んだ女性が、呆れた表情をして立っていた。
「静花さん!」
直ぐ様飛び付こうとする圭織の頭を片手で掴んで制すると、藍原静花(あいはらしずか)は苦笑いして頭を下げる。
「すみません、このバカが失礼な事をしたようで」
「違うもん!…愛友美ちゃんが未春さんの事好きだって言うから、協力しようと企んでたんだもん。」
静花の言葉にムスッとして圭織が言い返すと、静花はきょとんとする。
そして何かを考えたような表情をした後で、愛友美に微笑みかけた。
「…もしかして、私と圭織の事聞きましたか?」
「あっ…、すみません。聞きました。ごめんなさい…。」
愛友美が謝ると、静花はいやいやと首を横に振ってから、丁寧に頭を下げる。
「挨拶が遅れました、ヒップホップクラスのインストラクターで、藍原静花と言います。…で、一応こいつの恋人です」
「一応って何ーっ!?」
「あーはいはい、分かったよ分かった」
何だかんだ言いながらも騒がしく喚く圭織の頭を撫でると、静花は再び愛友美に視線を戻した。
「…で、ホントに未春の事が好きなんですか?」
「は、はいっ…」
愛友美が頷くと、静花はそうかぁ…と言いながら、室内でダンスをする未春に視線を移す。
「随分と人気がある人を好きになっちゃいましたね…、モノに出来ても苦労しますよ?」
静花の言葉に、愛友美はシュンとした。
『やっぱり未春さん、人気なんだ。』
「ちょっと静花さん、落ち込ませたらダメ!愛友美ちゃん、大丈夫♪私も無理だと諦めてたけど静花さんと付き合えたもん。」
そう言って嬉しそうに微笑む圭織を、静花が優しく見つめた。
そんな二人を羨ましく思っていた時、レッスンを終えた生徒に続いて未春が出てくる。
「あれ…愛友美ちゃん?と、静花と小西」
「何、未春…うちらオマケな感じ?」
冗談を言う静花を苦笑いで流すと、未春は愛友美の頭を優しく撫でた。
「今日も頑張ろうね?」
「…はいっ」
そんな二人を見てぽかーんとする静花とにやける圭織の姿など、もはや愛友美の視界には入っていなかった。
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(携帯)
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