ビアンエッセイ♪

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■21656 / inTopicNo.1)  scene
  
□投稿者/ もの 一般♪(1回)-(2012/10/08(Mon) 18:04:06)
    「そういうことじゃなくてさ」

    灯子が澄まし顔で言う。
    澄まし顔…と表現していいものか、いつもの、涼しげな顔で。
    指先が、グラスに触れて持ち上げた。細くも女性的でもない、ただ、お母さんみたいな、生活に使っていることがよく分かる指で。

    「私が益田に好きって言ったとするじゃん。そしたらさ、………。
    別に今更、友達って関係を壊すのが怖いとか、
    疎遠になるのが怖いとかね。そんなことは言わないんだけどさ」

    口元にだけ仄かに笑みが浮かぶ。大きめの、意思の強そうな黒目が此方を見て。あー…その笑い方、不敵って感じ。
    その後に瞼を伏せたりなんかするから、ちょっと色っぽい、なんて思ってしまった。

    「益田と私は、付き合い長いじゃん?
    えーと…何年だろ、高校からだから…、…12年?
    その間さ、あいつ、何度も失恋して私に泣きついてるし、私達そういう。
    ……こう、さばさば?したみたいな、関係だったからね。
    何かあると頼り合うけど、何もなければ特につるまない、っていう」

    「うん、知ってる」

    「そしたらさ、私が…まあ、好きとか言い出したらって話しね。
    益田ってさあ、あいつ、悩みそうじゃない?
    あの時はどうだったんだろう、あの時は…って延々と。
    自分を好きな灯子に、あんな話した、泣きついた、慰めてもらってたって」

    益田沙織の名前を出す灯子の顔が妙に優しい。穏やかっていうんだろうか。
    そんなに好きなのに、どうして気持ちを伝えないの?
    素朴な疑問をぶつけたあたしに返ってきているのがこの答え。

    「そうやってね、私達の思い出…ってもう、言っていいよね!?
    28だもん」

    からからと笑う明るい声が、強がっているわけじゃなく、本心だとあたしに伝えてくる。

    「私達の時間、汚したくないなって。自分の気持ちで」

    長めの黒髪が頬に影を作る。
    二人で薄暗い、バーと言って差し支えないお洒落な場所の椅子に座って。
    そうだ、あたし達、もう28歳だ。
    こんな場所に腰掛けて、割り切った恋の話しなんかをするようになった。

    存在感を感じさせない優しい曲が流れている。
    あたしの目の前にはピンクのカクテル、灯子の前には透明のカクテル。
    お互いにグラスに口をつけて、沈黙が流れた。

    「ねーねー」

    「ん?何?」

    「あたしはさあ、灯子に恋愛感情とかまじでないけど」

    「知ってるから!」

    吹き出さないで欲しいんだけど!

    「でも、応援してるよ。
    灯子が益田と12年ってことは、あたしと灯子も12年でしょ?
    二人のことずっと見てきたからさ。
    気持ちが通じるとか、そういうのを幸せの形と考えずにね。
    上手くいくといいなあって」

    「それを言うなら、今、上手くいってるんじゃない?」

    あたしは黙り込む。
    ……ああ、うん、そうだ。
    今、上手くいっている。
    灯子の長い片思いと、益田の思いやりが、全部を上手く運んで来たんだ。

    「……本当だ」

    あたし達は、小さく笑った。
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■21657 / inTopicNo.2)  scene-before3years.0122
□投稿者/ もの 一般♪(2回)-(2012/10/08(Mon) 18:24:48)
    「ふーらーれーたー…」

    益田がそう電話してきたのが、今から大体13時間も前。
    もう2年も3年も前からくっついたり別れたりしてきた彼女と、ついに今日、本当に破局したらしい。
    にも関わらず益田がどうしようもない程荒れたりしていないのは、もう随分前から今日のことを予感していたからだろう。

    益田の彼女は私に言わせれば、端的に言えば、あざといこだった。
    益田がそういうところを好きなことも分かっていて、愚痴に付き合いながらいらいらした日もあったんだから、私なんていう人間も相当マゾい。

    なんだかんだと沈んだ顔はしている彼女を飲みに誘ったけれど、人のいるところでは口数が少なくて。
    ただ料理ばかり見ているから、程よく酒が入ったところで自宅に誘った。
    それが夜中過ぎ。
    飲んだり、寝たり、DVD見たり、そんな風にしながらぽつぽつと零れる益田の言葉を全部聞いて、拾った。
    どれだけ好きだったかよく知っているから、どれだけ同じことが繰り返されても面倒だとは思わなかった。

    一頻り飲んだり食べたりすれば、いくら在庫豊富な私の冷蔵庫の中身もそろそろ心もとなくなってくる朝。
    勿論、心もとないのは酒類部門だけれど。
    お互い仕事のない日曜日。二人でなんとなく、言葉にすることもなく、コンビニへ向かう朝。

    益田は来た時の格好そのまま、ジーンズに深い緑のファー付きジャケット。
    私はもういい加減着古して捨てた方がいいだろうという感じの、擦り切れかけたジャージプラス白色パーカー。
    指先があんまりにも寒いからポケットに突っ込んで擦り合わせていたら、隣にいる益田も同じことをしていたから、なんだかおかしくなった。

    二人とも無言。
    喋ることもないし?
    唇から零れる息が白い。
    あー…そうだ、煙草買おう。そろそろ切れるんだった。

    「なんか、さ」

    「ん?」

    益田の声が弱い。
    横を見たらちょっと笑ったりなんかしている。
    あーもう、嫌だな。そんな遠く、見ないでよ。戻って来い。

    「人のでもいいから、…傍、……居て欲しかった」

    「……………」

    背の高い益田を睨みつけると、自然と視線が上を向く。

    「そういうこと言う?」

    「…だって、ほんとだし…」

    こいつ、本当に、だめなやつ。
    そんなことちっとも思ってないくせに。
    本当は、誰のものでもなく自分のものでいて欲しかったくせに。
    自分で分かってて言っているから、そんな風に遠く見て笑うことになるんだって、知ってるんなら、さあ。
    言うな。

    でも、私は黙っていた。

    本人が分かっているだろうことを、もう一度他人が言うなんて馬鹿げている。
    だから代わりに空を見た。

    「煙草買わなくちゃなあ。切れそう」

    「灯子、禁煙しなよ……」

    余計なお世話だっつーの。

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■21658 / inTopicNo.3)  scene-before3years.0122
□投稿者/ もの 一般♪(3回)-(2012/10/08(Mon) 18:49:13)
    益田と私は高校の同級生だった。
    今時?って思われるかも知れないけど、私はどっちかっていうとヤンキーみたいなすれたグループにいて、美術部の益田は穏やかな人たちばかりが集まる、地味なグループの成員だった。
    だから当然の如く関わりなんて何もなくて。
    でも、私は割りと始めの方から益田が気になっていたんだから、今思えば長い片思い。

    高校入学当時から益田は背が高くて、156cmあるかないかの私は羨ましい人だなあなんて思っていた。
    それが、入学式で益田を見た第一印象。
    正面から見たら、綺麗な子だなと思った。
    綺麗っていうか…造りが繊細?
    私は鋭い猫目で造作もきついし、どうやら表情も冷たいみたいで、よく怖い、って言われていた。
    チビだけど怖いってどういうことよ、と思いながら、可愛いなんて言われるよりは嬉しかったから、あーそって。
    そんな自分を受け入れていたけど。
    でも、益田を見たら、この人私の理想だって思ってしまったんだよね。
    全体的に色素が薄くて、優しい顔立ちをしていて。
    睫が長くて、顔の濃くない外国人みたいな。

    「……何?」

    コンビニに入ると中が暖か過ぎて脱力。
    そのままぼんやり益田の顔なんか鑑賞してしまっていたらしい。
    不思議そうに聞かれたから眉をしかめたら、益田が笑った。

    「また、そんな顔してる」

    「不機嫌そうな?」

    「うん」

    「………慣れてんでしょ」

    「うん」

    口数の少ない益田は、私といても大体聞いていることが多い。
    高校の頃からグループの中では聞き役をやっていた。
    大勢に囲まれて大勢の話を聴いているけれど、自分からはあんまり喋っている様子のない益田が、気になっていた。
    十代の女の子って構って欲しがりじゃない?自分の話、沢山しない?
    でもあの人は穏やかに笑いながら聞いているだけだなあと思ったら、なんだか気になって。

    「灯子ー」

    「何?」

    「もうこれくらいでいいんじゃない?」

    益田の声を合図に会計をして、行きと同じ道を帰る。
    私達は行きよりも更に無口で。

    なんでだろう、コンビニなんて人の多い空間に出向いたからだろうか。
    それとも途中で、益田が手に取っていた炭酸飲料のせいだろうか。
    益田が、彼女が好きだからなんて、いかにも幸せボケしたへらへら笑いでそれを買い込んでいるのを、幾度か見たことがある。

    隣を行く足は長くて、歩幅も大きいから、自然私は早足になる。
    益田はさあ、絶対、気付いてないけど。

    コンクリートの上、彼女の歩幅に合わせて歩くことに専念していたら、益田がぽつりと言った。

    「………一人だなあ」

    「………………」

    自分が思わず半眼になったのが分かる。
    あーあーあー。
    それは他のどの台詞より言っちゃいけない台詞でしょうが。
    隣に誰がいるか、見えてないの!?あんたの親友、灯子様でしょうが。
    私の怒りのオーラが伝わったらしく、こっちを見た益田がへらへら笑う。
    幸せそうじゃない、なんだか諦めたみたいな顔で。

    「違うよ、そういう意味じゃないよ」

    「知ってるっつーの」

    地を這う自分の声。でも気遣ったりなんかしない。
    仕事の後の半日と、貴重な休日を潰して付き合っているのにその台詞はあんまりだ。
    思い切り睨みつけたら、嬉しそうに益田が微笑む。
    何こいつ、前から思ってたけどMなんじゃない?

    「……灯子、いつも変わんないね」

    「それ、10年後にもっかい言って。30越えたらきっと喜ぶから」

    「……救われてるなあ」

    そうでしょ?
    当たり前でしょ。

    この私があんたのために、どれだけ我慢して苦労して、今の私になったと思ってるんだろう。
    この私がそれだけやってるんだから、あんたはそうやって救われてくれてないと困る。
    コンビニで買った煙草に、もとからパーカーのポケットに入っていたプラスチックの安物ライターで火をつける。
    あー…煙草美味い。

    「帰ろ、寒い」

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