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■21891 / inTopicNo.1)  少女たちの物語
  
□投稿者/ 無花果 一般♪(1回)-(2015/04/08(Wed) 09:50:40)


    少女たちの物語(1) 「水槽の魚とミルクティー」










    透明な水槽に入れられた魚は、死ぬまで水槽の外には出る事が出来ない。
    ただ、他の数匹の魚と水中に揺らめく人工の草と一緒に生きて死ぬ。
    もしかしたらそこには、他に灰色の砂利が沈んでいるかもしれない。
    水は汚いかもしれないし、自分以外の魚は生きていないかもしれない。
    何であれ、狭い世界に生きて、狭い世界の中で死んでいくのだ。
    空の広さも地上の広さも海の広さも知らないまま、その生涯を終える。





    ぽちゃん、と音を立てて紅茶に垂直に飛び込んだ砂糖が沈んでいく。
    立て続けに3個がダイブし、少しだけ角が崩れ、溶け込んでいく。
    私は銀の細いスプーンでぐるぐると紅茶をかき回し、紅茶の渦を作る。
    2、3回混ぜた後、スプーンの裏で固形の砂糖を押し潰した。
    ぐしゃり、と形を崩し、ティーカップの底に沈殿する小さな粒たち。
    その粒も銀色の楕円にかき乱され、紅茶に溶け込んでいく。
    砂糖は少しずつ姿を消していき、最後には1粒も残らず消えていった。


    「はい、」


    角砂糖を3個入れた以外には、レモンもミルクも何も入れていない紅茶。
    そんな甘めの茶色いだけの紅茶を、彼女はとても好んで飲む。


    「・・・・ありがとう」


    分厚い書物を読みふけっていた彼女は顔を上げ、銀色の眼鏡を外した。
    眼鏡の銀色の細いフレームと、あまり日焼けをしていない色白の肌。
    それらのコントラストはとても綺麗で、私の視線を釘付けにする。
    その白い指が白い陶器のティーカップに絡まり、空中に持ち上げる。
    彼女の指と同じく白い喉が上下に動き、液体は彼女の体内へと吸収される。
    彼女自らの意志で彼女の体内に取り込まれる紅茶が、心底羨ましい。
    私だって彼女の体内に吸い込まれて吸収されて、彼女の一部になりたい。






    私も、水槽の中で生きる魚のように、彼女の中で生きる魚になりたい。



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■21892 / inTopicNo.2)  少女たちの物語
□投稿者/ 無花果 一般♪(2回)-(2015/04/08(Wed) 10:07:35)


    少女たちの物語(2)「付喪神」










    いつのことであったか、ひとりの少女はその短い生涯の中で恋をした。
    彼女の名前も何も知らない、ただ自分を使い捨てるだけの存在に恋をした。




    彼女はまだ高校生になりたての若き少女で、青春真っ只中の時期の女の子だった。
    本当は黒いはずの髪は明るい金色に染められ、濃いめのメイクが顔を彩る子。
    制服のスカートは短く、いつもだるそうに退屈そうに時間を過ごしている。
    それでも少女は知っていた、その瞳の中には寂しさと諦めがあることを。
    本当は誰か頼れる人が、傍に居てくれる人が欲しいと少女が願っていたことを。
    少女は、自分がその女の子の願いを叶えてやることができないことも知っていた。
    だから少女は願った、誰かが彼女の本当の気持ちに気が付きますようにと。
    毎日毎日、太陽にも星にも月にも雲にも何にでも祈りの気持ちを捧げ続けた。




    最近の彼女は機嫌がいい、分かりづらいが前よりも少し表情が明るくなった。
    一見無表情で無愛想に見える彼女の隣には、知らない女の子が笑って立っている。
    明るい彼女は少女の願いを聞き入れ、そして叶えてくれたいわば恩人である。
    孤独な少女の寂しさも、諦めも、微かな表情も、全部を包み込める「おともだち」。
    自分がなりたくてもなれなかった、彼女の理解者、彼女の支え、彼女の恩人。
    毎日願った必死の願いが聞き入れられたというのに、少女は素直に喜べなかった。
    本当は自分があそこに立ちたかった、本当は自分の方が先に彼女の魅力に気が付いたのに。
    願いが聞き入れられたのにも関わらず、無邪気な救世主である彼女の存在を憎んだ。




    だからだろうか、せっかくの彼女の恩人を憎むような真似をしたからであろうか。
    遂に少女は大好きな彼女の元を離れる時、すなわち別れの時がやってきてしまった。
    彼女はひどく辛そうな顔で少女の身体を持ち上げ抱き締め、そして手放した。


    「さよなら、どうか貴女が幸せであらんことを」




    次の日、彼女のお気に入りのぼろぼろになった筆箱は、炎に消えた。



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■21893 / inTopicNo.3)  少女たちの物語
□投稿者/ 無花果 一般♪(3回)-(2015/04/08(Wed) 10:26:32)


    少女たちの物語(3)「独占欲」










    義理の母は今日も私を殴る、殴って殴って殴って、この身体を痛めつける。
    ほんとうのおかあさんの妹である彼女は、私のことが心底嫌いなのだろうか。
    何年も前から服で隠れるような場所を殴って抓って蹴って傷をつける。
    だから先生も友達もみんな傷のことは知らない、義理の父は帰ってこない。




    義理の母は言う、私の娘でありたいならば完璧な人間になりなさい、と。
    とうの自分は完全ではない癖に、私に対しては常に完璧を求め続ける。
    成績も一番、運動も一番、クラスの人気者で先生にも信頼される女の子。
    それが私が被り続ける仮面であり、私が掲げ続ける努力の結晶だ。
    周りの人間も私のことを完璧だと感心し、褒めたたえ、頼りにする。
    それでも義理の母は私のことを認めてはくれないし、見てもくれなかった。
    もとより私のことを義理の娘とすら思う気持ちが微塵もないのだから。




    今日も義理の母は帰宅した私を呼び出し、制服姿のままの私を痛めつける。
    拳で殴って、手のひらで叩いて、勢いをつけた足で殴って、そして床に転がす。
    近所の人にばれないように口にはガムテープを貼って、私の全ての声を奪う。
    そして自分の気が済むまで私のことを痛めつけた後、放置という名の解放。
    私は自分の部屋で傷の確認と手当てをして、毎日毎日それの繰り返し。




    本当はこのどこか狂った人に抗う術も、この人から離れる方法も知っている。
    だって私は賢い子、勉強も運動もできて性格もいい完璧な子なんだもの。
    それでも私はそれをしない、この痛みから抜け出す方法はずっと使わない。
    それは私がこの人に義理でもいいから娘だと認めてもらいたいからじゃない。
    この人に一度でもいいから褒めて欲しい、私のことを見て欲しいわけでもない。
    実の姉に恋をしてその姉を亡くしてその姉の娘である私に恋をしたこの人に。
    私が寝ている真夜中に、私の部屋の中でひとり淫らに乱れるこの人に。
    寝た私の身体を使って自分の欲を発散し、日中は暴力を振るうこの人に。
    本当は私の気持ちも部屋にある隠しカメラも盗聴器も全て把握しているこの人に。




    おかあさんごめんなさい、私は悪い子です、なんて思ってもいないけど。


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