ビアンエッセイ♪

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■22024 / inTopicNo.1)  クリスマスの夜に1
  
□投稿者/ いちこ 一般♪(31回)-(2015/12/23(Wed) 08:10:15)

    今宵はクリスマスイブ、街が浮かれ騒いでいる時、
    榛原節子 80歳は、死の床についていた。
    長いようで短い人生だった。子供の時に戦争も経験した。
    空襲に逃げ惑う日々。兄達はみな戦死してしまった。
    18歳で見合結婚をした。叔母の勧められるままだった。
    相手は38歳、大学の助教授だった。彼も彼の両親も子供を強く望んだ。
    しかし夫とのセックスは苦痛でしかなかった。一度もいいとは思わなかった。
    そのせいではないかもしれないが、子宝には恵まれなかった。
    子供が出来ないとわかると、夫は急に冷淡になり、他所に愛人を囲った。
    でも節子は内心ほっとしていた。夫とのセックスから解放されたのだ。
    40歳の時、彼女は恋をした。隣に引越してきた笠原真理子に。
    彼女には商社マンの夫と高校生の男の子、中学生の女の子がいた。
    まさか自分が女性に恋をするとは、思いもしなかった。
    真理子とは歳も近いこともあり、お互いの家をよく往き来して、おしゃべりを楽しんだ。
    彼女はとても魅力的な女性だった。明るく元気で、何でも良く知っていた。
    南米原産のグラスウィングバタフライは、透明の羽根を持つ蝶だとか
    節子には初めて聞く話が多かった。
    会うたびに、どんどん惹かれていく自分が怖かった。
    彼女の勧めでテニスも始めた。ちっとも上達しなかったけれども。
    彼女に自分の想いを告げられないまま、
    あっと言う間に2年が過ぎ、彼女は夫の転勤で海外に行ってしまった。
    しばらくは手紙のやり取りをしていたが、
    ある日から宛先不明で届かなくなり、それきりになった。
    しかし節子は、いつまでも彼女のことを忘れることはできなかった。
    そして節子は年老い、夫も失いひとり暮らしになった。
    最近の節子の楽しみは、藤井めぐみと会うことだった。
    めぐみは20歳の訪問介護士で、一週間に一度、家事全般をしてくれる。
    真理子と似たタイプで、明るく元気でよく話し、よく聞いてくれた。
    めぐみは節子のことを、自分の祖母のように接し、
    仕事以外でも ちょくちょく遊びに来ていた。
    あまりに歳の差はあるものの、節子は恋心に近い物を抱くようになっていた。
    明日のクリスマスにも、プレゼントを持って来るという。
    実は節子もプレゼントを用意していた。
    遺書だ。そこには、全財産をめぐみに譲ると書かれていた。
    全財産と言っても、少しばかりの預金とこの土地と家屋だけだが。

    ああ、息をするのも疲れてきた。
    明日、私の遺体を見つけためぐみは泣いてくれるだろうか。

    節子は静かに息を引き取った‥‥

    プルルルル‥‥プルルルル‥

    どこかで電子音が鳴っている。
    節子は静かに目を開けた。

    続く
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■22025 / inTopicNo.2)  クリスマスの夜に2
□投稿者/ いちこ 一般♪(32回)-(2015/12/24(Thu) 05:52:25)

    いや、正確には自分の意志ではなかった。
    誰かの目を通して見ていた。誰かとは結城友香里15歳。中学三年生だ。
    今日は◯◯年12月25日、節子が息を引き取る五年前になる。
    友香里は慌てて身支度をすると、キッチンへ行き朝食の用意をする。
    「おかーさん!朝御飯の用意したから後で食べてね。」
    うーんと返事か寝言かが隣室から聞こえてきた。
    彼女の母親は看護士だ。夜勤明けで眠ているらしい。
    父親はいない。友香里の夢は介護関連の仕事に就くことだ。
    今日は冬休みでクリスマスだが、遊ぶ相手がいない。
    図書館で介護関連の書籍を探してみるつもりだ。

    図書館で介護の本を数冊選び、棚の角を曲がった時だった。
    何か柔らかい物にぶつかってしまった。
    「きゃっ!」「ごめんなさい!」
    女の子にぶつかったみたいだ。
    バラバラと本が散らばって、慌てて拾い集めると、相手の手に触れてしまった。
    はっと、お互いに見つめ合うと、友香里の口から突然、
    「あっ‥‥ふじい‥‥めぐみさん?」

    節子が言わせたのだが、言った本人も驚いた。

    「えっ、どうしてわかったんですか?初めて会いますよね?」
    友香里もきょとんとして
    「‥‥‥‥さぁ?!」
    「さぁって。ふふふっ、へんな人。」
    「へへへっ、そうですね〜!」
    散らばった本を見て、めぐみが
    「あらっ、あなたも介護士を目指しているの?」
    「も、ってあなたも?」

    それから二人は同い年ということもあり意気投合して、たびたび会うようになった。

    節子は嬉しかった。自分の身体ではないが、まためぐみと会えたのだ。
    会えば会うほど、やはりめぐみのことが好きになった。

    一方、友香里は自分の気持ちに戸惑っていた。
    なぜ、めぐみのことが気になるのだろう。
    会っている時は楽しいのに、別れる時は寂しくて仕方がなかった。
    もしかして、あたしは恋してるの?相手は女の子なのに!
    そう自覚した途端、友香里の恋心は加速した。
    想いを告げたい!めぐみに触れたい!
    知らず知らずに、めぐみの唇やうなじを熱く見ていた。
    ある日、友香里は意を決してめぐみに告白した。
    「あの、引かないで聞いてほしんだけど。」
    「なに?」
    「あ、あのね‥‥‥‥‥‥‥めぐみのことが好きなの!だから付き合ってほしいの!」
    「うん、いいよ!」
    「えっ、ウソッ 本当?」
    コクリとうなづくめぐみ。
    「キスしていい?」
    目を閉じるめぐみ。顔を近づける友香里。

    節子は舞い上がった。とうとうめぐみとキスができるのだ。

    続く



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■22027 / inTopicNo.3)   クリスマスの夜に3
□投稿者/ いちこ 一般♪(34回)-(2015/12/24(Thu) 22:59:10)

    ふたりの口唇がまさに触れようとしたその時、めぐみが笑いだした。
    「ぷっ、ハハッ、ハハハハハハ。ごめん。」
    「なによ!」
    「ごめん、あたし緊張すると笑っちゃうの。本当にごめんさない。」
    「ムードないなぁ‥‥ふふっ、ははっ。ごめん、あたしも笑えてきた。くくっ。」
    「もう!、だめだよっ!」とめぐみが友香里の口唇に軽くキスした。
    「あっ、ずるい!!あたしも。」
    「いや〜、助けて〜!」
    とめぐみは逃げ回った。

    それから二人の仲は急速に進んで、
    何回目かのめぐみの家でのお泊まりの時、ベッドで友香里が、
    「ねぇ、気になっていたんだけど聞いていい?」
    「うん。なに?」
    「あのさ、あたしが告ったときにさ、何故あっさりとOKしてくれたの?
    怒らないでね。誰でもよかったのかなとか。不安で。あたしはすごい悩んだから。」
    「‥‥‥‥そうなんだ‥‥実はね、女同士の恋愛に免疫があったんだよね。」
    ちょっと待っててねと言ってめぐみは、裸のままベッドを抜け出した。
    机の引き出しをゴソゴソしたと思ったら、本のような物を持って戻ってきた。
    「なに、それ?」
    それは蝶の絵の表紙の、鍵の付いた日記帳だった。
    鍵は4桁の数字を合わせるタイプのやつだ。
    「おばあちゃんの日記帳。あたしが小さい時に亡くなったんだけど、
    あたしが蝶々の絵を気に入って離さなかったんだって。
    南米原産の透明な羽根を持つ蝶々らしいんだけど。
    それで形見分けでもらったの。鍵が付いてるから誰も読まなかったの。
    大きくなってあたしも色々試したけど、ダメだった。
    でもこないだのクリスマスの前の日に、突然数字が浮かんで試したら
    開いちゃったの。読んでみて。」
    「えっ、いいの?」
    「えっとね、ここから読んでみて。」

    そこには、隣家の人妻との出会いから別れまでの恋を
    赤裸々に綴った内容だった。相手の気持には気づきつつも、
    どうしても一歩が踏み出せないもどかしさや、相手への想いが切々と書かれていた。
    途中から友香里の瞳から、涙がこぼれ始めた。

    節子が泣いていた。嬉しくて泣いていた。

    泣きながら友香里は、
    「ねぇ、おばあちゃんの名前はなに?」
    「えっ、笠原真理子だよ。」

    節子は号泣していた。あぁ、神さま、ありがとうございます!ああ。

    その時、節子は突然、上へと引っ張られた。
    眼下には、号泣し出した友香里に戸惑いながらも、一生懸命に慰めているめぐみが見える。
    やがて地球が見えて、天空の光に吸い込まれていった。














完結!
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