| 彼女の御両親は憔悴しきっていた それもそうだろう 私とは比べものにならないほどの 時間を彼女と過ごしてきたのだ 片身を引き裂かれるような悲しみだろう
ご挨拶に伺うと彼女からの手紙を渡された 自分の死を覚悟していたのか もしもの時に渡すように言われていたらしい 自宅に帰り、手紙の封を切った それはこんな書き出しから始まっていた
『ごめんね この手紙を読んでいるということは わたしはもうこの世にはいないのね あなたをわたしの病気に巻き込んでしまった 実はわたしは あなたの思ってるような女じゃないの 自分の病気が分かったとき すごく怖かった 彼と別れたばかりだったし どうしてわたしばっかり こんな目にと思ったわ わたしはすごく寂しかった そんな時 あなたの言葉を思い出したの 一緒に死んでもいい そう言ってくれた 誰でもいい とにかく愛して欲しかった そう わたしはあなたを利用したの わたしは本当はレズビアンじゃない ごめんなさい どうしても謝っておきたかった でもあなたに愛され わたしは幸せだった あなたの瞳は真っ直ぐで わたししか見ていない 嬉しかった でもいつも罪悪感を感じていた わたしはあなたに愛される資格がない わがままでずるい女 でも最後のわがままを言わせて 早くこんな女のことは忘れて 次の恋を見つけて お願い あなたは自分で思ってるより ずっと素敵 きっと 運命の人がいる こんな形で別れることになったけど いずれ別れる運命だったの ごめんなさい さようなら』
私は手紙を抱きしめ、泣き崩れた これは最後の彼女の優しさだ 彼女は確かにビアンではなかったのだろう でも間違いなく 私を愛してくれたのだ 私は彼女を忘れられないだろう これからたとえ恋ができなくても生きよう それが彼女の望みなのだから
fin
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