| 《A面》 「先輩、お早うございます!」 オフィスに入るなり、Kがいつもの元気だけが取り柄みたいな声で私に言った。 「おはよう。」 「あ!この前先輩が言っていた映画観ました。面白かったです。」 「そう、良かった。」 「それと、」 「ごめん、午前中に提出しないといけない書類が終わってないの。」 「あ、はい。すみません。」 Kが通路を譲ったので私は自分のデスクへ急いだ。 どうしてKは私にばかり話しかけてくるのだろう。Sさんみたいな、 お喋り好きの人に話しかければいいのに。 女子校のノリが抜けてなくて、青く見える。 席に着いたから、スマホを確認してみる。返信がまだきていない。 小さな溜息を一つつく。結婚したいって言ってたのは、嘘だったのかな。 仕方ないよね。飛行機でも13時間かかるところに、あなたはいるから。
《B面》 先輩、今日も綺麗だった。話を遮ったのはどうしてだろう。 本当に急いでただけだよね。普段は優しい先輩だもん。 前の彼女と別れた時は、もう誰も好きになりたくないと思ってた。 どうして心は変わるのかな。 先輩が好き。休みの日以外は毎日会えるから嬉しい。 「ねぇ。」 ビックリして左後ろを振り返ると先輩が立っていた。心拍数が急上昇した。 「はい!」 「ここの箇所、間違ってるから作成し直して。」 用紙を持っている先輩の指に見惚れる。 「はい。すみません。」 「今やっているのは後でいいから、そっちを先にね。」 「あの先輩。」 もうそろそろ、誘ってもいいと思う。女同士だから普通だもん。 「何?」 「お昼、一緒に…あの、一緒に食べませんか?」 「私、近くのパスタ屋に行くんだけど、パスタで良いの?」 「パスタ大好きです。」 「そうなんだ。作成し終わったら、T課長の所にね。」 デスクに戻っていく先輩。あたしは作ってきたお弁当の事は忘れる事にした。
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