| 「まぁ忘れろっては言えないけどさ。‥そろそろいいんじゃない?新しい恋するのも。」
いつも私につきまとうのは綾香の影。
「あんたのせいじゃない。」
痛い、痛い思い出。
清水さんの声が優しく心に響くけれど、どうにも出来ない過去。
‥綾香は私のせいで。
私が綾香を愛してしまったせいで。
‥胸が苦しくなる。
うまく声を出せなくて、喉からかすれた音だけが外へと出る。
「柚羅‥?」
清水さんは私の背中にそっと手を置くと。
「あんたのせいじゃない。」
もう一度、強く言った。
「‥恐いんです。」
やっと出た声。
「何が?」
周りの雑音もBGMも。 全てが止まってしまったように。
「また‥愛した人を失うのが‥愛することが――」
ねェ、いつから私はこんなに臆病になってしまったのだろう。
いつから私は‥。
淡い水色の清水さんのカクテル。 赤く光る私のグラス。
じっと見つめていたら眩暈を覚えた。
どこかで聞いたような‥透き通る歌声を聞きながら。
私は椅子から落ちて。 床に倒れこんだ。
『‥?柚羅――っ!?』
周囲の騒めきと。 慌てたような清水さんの声が遠くに聞こえたけど。
もう辛いの。 胸が苦しいの。
だから私は、 そのまま自分の意識を手放した。
(携帯)
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