ビアンエッセイ♪

HOME HELP 新規作成 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 発言ランク ファイル一覧 検索 過去ログ

ツリー一括表示

Nomal 和美のBlue /つちふまず (05/06/29(Wed) 23:16) #10567
Nomal 和美のBlue 1 /つちふまず (05/06/29(Wed) 23:19) #10568
Nomal 和美のBlue 2 /つちふまず (05/06/29(Wed) 23:22) #10569
Nomal 和美のBlue 3 /つちふまず (05/06/29(Wed) 23:26) #10570
Nomal 和美のBlue 4 /つちふまず (05/06/29(Wed) 23:31) #10571
Nomal 和美のBlue 5 /つちふまず (05/06/29(Wed) 23:37) #10572
Nomal 和美のBlue 6 /つちふまず (05/06/29(Wed) 23:41) #10573
Nomal 和美のBlue 7 /つちふまず (05/06/29(Wed) 23:50) #10574
Nomal はじめまして。 /かな (05/06/29(Wed) 23:56) #10576
Nomal 和美のBlue 8 /つちふまず (05/06/29(Wed) 23:54) #10575
Nomal 和美のBlue 9 /つちふまず (05/06/29(Wed) 23:58) #10577
Nomal 和美のBlue 10 /つちふまず (05/06/30(Thu) 00:03) #10579
Nomal 和美のBlue 11 /つちふまず (05/06/30(Thu) 00:09) #10580
│└Nomal NO TITLE /由兎魔 (05/06/30(Thu) 10:00) #10591
Nomal 初めましてm(_ _)m /ちび (05/06/30(Thu) 01:02) #10583
Nomal かなさん&読者の皆さんへ /つちふまず (05/06/30(Thu) 00:16) #10581
Nomal 由兎魔さん /つちふまず (05/06/30(Thu) 11:25) #10597
Nomal 和美のBlue 12 /つちふまず (05/06/30(Thu) 11:29) #10598
Nomal 和美のBlue 13 /つちふまず (05/06/30(Thu) 11:33) #10599
Nomal 和美のBlue 14 /つちふまず (05/06/30(Thu) 11:36) #10600
Nomal 和美のBlue 15 /つちふまず (05/06/30(Thu) 11:39) #10601
Nomal 和美のBlue 16 /つちふまず (05/06/30(Thu) 20:41) #10619
Nomal 和美のBlue 17 /つちふまず (05/06/30(Thu) 20:57) #10620
│└Nomal すみません、 /ちび (05/07/01(Fri) 15:49) #10633
Nomal 和美のBlue 18 /つちふまず (05/07/01(Fri) 07:57) #10628
Nomal 和美のBlue 19 /つちふまず (05/07/01(Fri) 08:00) #10629
Nomal 和美のBlue 20 /つちふまず (05/07/02(Sat) 09:41) #10655
Nomal 和美のBlue 21 /つちふまず (05/07/02(Sat) 09:45) #10656
Nomal 和美のBlue 22 /つちふまず (05/07/03(Sun) 12:32) #10669
Nomal 和美のBlue 23 /つちふまず (05/07/03(Sun) 12:36) #10670
Nomal 和美のBlue 24 /つちふまず (05/07/03(Sun) 13:12) #10671
Nomal 和美のBlue 25 /つちふまず (05/07/03(Sun) 13:16) #10672
Nomal ちびさん /つちふまず (05/07/03(Sun) 14:44) #10674
Nomal 和美のBlue 26 /つちふまず (05/07/04(Mon) 08:07) #10676
Nomal 和美のBlue 27 /つちふまず (05/07/04(Mon) 08:10) #10677
Nomal 和美のBlue 28 /つちふまず (05/07/04(Mon) 08:13) #10678
Nomal 和美のBlue 29 /つちふまず (05/07/05(Tue) 08:05) #10687
Nomal 和美のBlue 30 /つちふまず (05/07/05(Tue) 08:09) #10688
Nomal 和美のBlue 31 /つちふまず (05/07/06(Wed) 08:19) #10717
Nomal 和美のBlue 32 /つちふまず (05/07/06(Wed) 08:22) #10718
Nomal 和美のBlue 33 /つちふまず (05/07/06(Wed) 08:28) #10720
Nomal 和美のBlue 34 /つちふまず (05/07/07(Thu) 08:52) #10741
Nomal 和美のBlue 35 /つちふまず (05/07/07(Thu) 09:02) #10742
Nomal 和美のBlue 36 /つちふまず (05/07/07(Thu) 23:14) #10760
Nomal 和美のBlue 37 /つちふまず (05/07/07(Thu) 23:22) #10761
Nomal つちよりみなさまへ /つちふまず (05/07/07(Thu) 23:27) #10762
Nomal 和美のBlue 38 /つちふまず (05/07/11(Mon) 08:07) #10803
Nomal 和美のBlue 39 /つちふまず (05/07/11(Mon) 08:10) #10804
Nomal 和美のBlue 40 /つちふまず (05/07/11(Mon) 08:14) #10805
Nomal 和美のBlue 41 /つちふまず (05/07/11(Mon) 08:18) #10806
Nomal 和美のBlue 42 /つちふまず (05/07/12(Tue) 08:17) #10824
Nomal 和美のBlue 43 /つちふまず (05/07/12(Tue) 08:22) #10825
Nomal 和美のBlue 44 /つちふまず (05/07/12(Tue) 08:28) #10826
Nomal 和美のBlue 45 /つちふまず (05/07/13(Wed) 10:12) #10878
Nomal 和美のBlue 46 /つちふまず (05/07/13(Wed) 10:16) #10880
Nomal 和美のBlue 47 /つちふまず (05/07/13(Wed) 10:31) #10882
Nomal 和美のBlue 48 /つちふまず (05/07/13(Wed) 10:36) #10883
Nomal 和美のBlue 49 /つちふまず (05/07/14(Thu) 08:41) #10898
Nomal 和美のBlue 50 /つちふまず (05/07/14(Thu) 08:44) #10899
Nomal 和美のBlue 51 /つちふまず (05/07/14(Thu) 09:58) #10901
Nomal 和美のBlue 52 /つちふまず (05/07/14(Thu) 20:52) #10915
Nomal 和美のBlue 53 /つちふまず (05/07/14(Thu) 20:55) #10916
│└Nomal NO TITLE /由兎魔 (05/07/15(Fri) 00:21) #10928
Nomal 和美のBlue 54 /つちふまず (05/07/15(Fri) 08:03) #10935
Nomal 和美のBlue 55 /つちふまず (05/07/15(Fri) 08:06) #10936
Nomal 和美のBlue 56 /つちふまず (05/07/15(Fri) 08:10) #10937
Nomal 和美のBlue 57 /つちふまず (05/07/15(Fri) 23:23) #10949
Nomal 和美のBlue 58 /つちふまず (05/07/15(Fri) 23:26) #10950
Nomal 和美のBlue 59 /つちふまず (05/07/15(Fri) 23:33) #10951
Nomal 和美のBlue 60 /つちふまず (05/07/15(Fri) 23:41) #10952
Nomal 和美のBlue 61 /つちふまず (05/07/15(Fri) 23:44) #10953
Nomal 和美のBlue 62 /つちふまず (05/07/15(Fri) 23:49) #10954
Nomal 和美のBlue 63 /つちふまず (05/07/15(Fri) 23:52) #10955
Nomal 和美のBlue 64 /つちふまず (05/07/15(Fri) 23:55) #10956
│└Nomal すごい! /hiromi (05/07/16(Sat) 01:36) #10962
Nomal 和美のBlue 65 /つちふまず (05/07/17(Sun) 00:21) #10982
Nomal 和美のBlue 66 /つちふまず (05/07/17(Sun) 00:26) #10983
Nomal 和美のBlue 67 /つちふまず (05/07/17(Sun) 00:30) #10984
Nomal 和美のBlue 68 /つちふまず (05/07/17(Sun) 00:34) #10985
Nomal hiromiさん /つちふまず (05/07/17(Sun) 11:15) #10998
Nomal 和美のBlue 69 /つちふまず (05/07/17(Sun) 11:25) #11000
Nomal 和美のBlue 70 /つちふまず (05/07/17(Sun) 11:27) #11001
Nomal 和美のBlue 71 /つちふまず (05/07/17(Sun) 11:30) #11002
Nomal 和美のBlue 72 /つちふまず (05/07/17(Sun) 11:35) #11004
│└Nomal Re[2]: 和美のBlue 72 /蓮 (05/07/17(Sun) 22:01) #11010
Nomal 和美のBlue 73 /つちふまず (05/07/18(Mon) 23:18) #11027
Nomal 和美のBlue 74 /つちふまず (05/07/18(Mon) 23:22) #11028
Nomal 和美のBlue 75 /つちふまず (05/07/18(Mon) 23:26) #11029
Nomal 和美のBlue 76 /つちふまず (05/07/18(Mon) 23:31) #11030
Nomal 蓮さん /つちふまず (05/07/18(Mon) 23:37) #11031
Nomal 和美のBlue 77 /つちふまず (05/07/19(Tue) 08:26) #11037
Nomal 和美のBlue 78 /つちふまず (05/07/19(Tue) 08:33) #11038
Nomal 和美のBlue 79 /つちふまず (05/07/19(Tue) 08:39) #11039
Nomal 和美のBlue 80 /つちふまず (05/07/20(Wed) 00:33) #11070
Nomal 和美のBlue 81 /つちふまず (05/07/20(Wed) 00:35) #11071
Nomal 和美のBlue 82 /つちふまず (05/07/20(Wed) 00:38) #11072
Nomal 和美のBlue 83 /つちふまず (05/07/20(Wed) 00:40) #11073
Nomal 和美のBlue 84 /つちふまず (05/07/20(Wed) 00:43) #11074
Nomal ★読者の皆様へ★ /つちふまず (05/07/20(Wed) 00:54) #11077 完結!
Nomal 和美のBlue 85 /つちふまず (05/07/20(Wed) 00:49) #11076
Nomal 和美のBlue 85 /つちふまず (05/07/20(Wed) 00:46) #11075


親記事 / ▼[ 10568 ] ▼[ 10569 ] ▼[ 10570 ] ▼[ 10571 ] ▼[ 10572 ] ▼[ 10573 ] ▼[ 10574 ] ▼[ 10576 ] ▼[ 10575 ] ▼[ 10577 ] ▼[ 10579 ] ▼[ 10580 ] ▼[ 10583 ] ▼[ 10581 ] ▼[ 10597 ] ▼[ 10598 ] ▼[ 10599 ] ▼[ 10600 ] ▼[ 10601 ] ▼[ 10619 ] ▼[ 10620 ] ▼[ 10628 ] ▼[ 10629 ] ▼[ 10655 ] ▼[ 10656 ] ▼[ 10669 ] ▼[ 10670 ] ▼[ 10671 ] ▼[ 10672 ] ▼[ 10674 ] ▼[ 10676 ] ▼[ 10677 ] ▼[ 10678 ] ▼[ 10687 ] ▼[ 10688 ] ▼[ 10717 ] ▼[ 10718 ] ▼[ 10720 ] ▼[ 10741 ] ▼[ 10742 ] ▼[ 10760 ] ▼[ 10761 ] ▼[ 10762 ] ▼[ 10803 ] ▼[ 10804 ] ▼[ 10805 ] ▼[ 10806 ] ▼[ 10824 ] ▼[ 10825 ] ▼[ 10826 ] ▼[ 10878 ] ▼[ 10880 ] ▼[ 10882 ] ▼[ 10883 ] ▼[ 10898 ] ▼[ 10899 ] ▼[ 10901 ] ▼[ 10915 ] ▼[ 10916 ] ▼[ 10935 ] ▼[ 10936 ] ▼[ 10937 ] ▼[ 10949 ] ▼[ 10950 ] ▼[ 10951 ] ▼[ 10952 ] ▼[ 10953 ] ▼[ 10954 ] ▼[ 10955 ] ▼[ 10956 ] ▼[ 10982 ] ▼[ 10983 ] ▼[ 10984 ] ▼[ 10985 ] ▼[ 10998 ] ▼[ 11000 ] ▼[ 11001 ] ▼[ 11002 ] ▼[ 11004 ] ▼[ 11027 ] ▼[ 11028 ] ▼[ 11029 ] ▼[ 11030 ] ▼[ 11031 ] ▼[ 11037 ] ▼[ 11038 ] ▼[ 11039 ] ▼[ 11070 ] ▼[ 11071 ] ▼[ 11072 ] ▼[ 11073 ] ▼[ 11074 ] ▼[ 11077 ] ▼[ 11076 ] ▼[ 11075 ]
■10567 / 親階層)  和美のBlue
□投稿者/ つちふまず 大御所(924回)-(2005/06/29(Wed) 23:16:00)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    私の好きな人を…。
    紹介します。


    歳は六つ上です。


    バイト先のオーナーです。


    多忙の為か、一週間に一度位しか会えません。


    背が高くて。


    頭のサイズはこれくらい(掌を広げます)しかありません。


    大抵スーツで現れます。


    滅多に笑う人じゃないし、


    仕事に厳しい人みたいだし。


    (社員さんはよく怒られています。)


    全然読めないというか、


    住んでいる世界の次元が違うとしても。


    でも好きなんです。


    どうしようもなく好きなんです。


    届かない想いだとしても。


    絶対に諦められない予感があるから。


    計画を練ります。


    あの人の中で私は少しでも。


    素敵に映りたいから。


    だから。


    この夏。


    ちょっと頑張ろうと思います。


    近付きたい。


    伝えたい。


    この海と。


    空の青さに。







    私の想いを乗せたいです。


    ※御意見感想は、下記HPまで。宜しくお願いします(^O^)

    (携帯)
[ □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10568 / 1階層)  和美のBlue 1
□投稿者/ つちふまず 大御所(925回)-(2005/06/29(Wed) 23:19:35)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    p.m 20:00



    「カズ、一番テーブルね。」


    「はーい。」


    海沿いのレストランバー。


    R134沿いの。
    鎌倉と逗子の中間に。


    私のバイト先はある。


    ウッドのテラスと。
    大きなオウムがいるお店。


    店内はアジアンな家具でまとめられている。


    御要望があれば、


    奥に個室もある。ゆったりしたソファで、寛げる。


    「お待たせしました。」


    料理をテラス席のカップルへと。


    海風が心地良くて、


    だからこのお店で働いているって言っても…。


    過言ではないんだけど。


    特に夏場には。


    このテラス席からは花火も楽しむ事が出来る。


    もっとも私は。


    花火なんて見る暇もないんだろうな…。


    「和美、ちょっと5番。」


    「あ、うんわかった。」


    和美、が私の名前。


    カズ、と呼ばれる事も多い。好きなように呼んで下さい。


    「お待たせしました。」


    オーダーを取る為に。


    サロンのポッケから、
    ボールペンを取り出して。


    かち、と芯を出した。


    「はい。シャンディーガフを御一つ…、コロナ…、」


    ふと目に。


    車道から店へと入る。
    赤いアルファロメオ。





    …来た。


    「あ、すみません…。もう一度お願いします。」


    ボーッとしてしまった。


    だめだめ。


    「…はい。」


    オーダーされたメニューを。


    一つ一つなぞる。


    一品一品確かめる毎に。


    胸が。


    ドキドキしてくる。


    「お待ち下さいませ。」


    ボールペンをノックして。


    サロンにしまって。


    伝票を裏にして。


    テーブルに静かに置いた。






    聞こえる。


    バタンと地下で、


    ドアの閉まる音。


    うちのお店は裏口はないから、


    トントン、と。


    ウッドの階段を歩く音。


    ブラウンのショート。毛先に緩いウェーブ。


    大きめのサングラス。


    パンツにインされた体にフィットされた七分丈の白いシャツ。


    細身のパンツに巻かれた、ヴィトンのベルト。




    全てがナツさんを彩るラグジュアリーで。


    ナツさんの歩く道は、


    日本ではないような。


    デッキに座る全ての客が。


    振り返る瞬間。




    「おはようございます。」


    頭を下げると。


    足早にナツさんは。
    私の声に。


    小さく右手を上げて。





    何も言わずに店内へと入った。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10569 / 1階層)  和美のBlue 2
□投稿者/ つちふまず 大御所(926回)-(2005/06/29(Wed) 23:22:20)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ナツさんは同性愛者だという事は。


    結構前から知ってる。


    「ナツさんならアリだよね…。」


    バイト仲間はいつかそう言ってた。


    私にしてみれば。


    同性愛など。
    考えた事もなければ、


    人生の内で意識するはずもないと、思っていた。




    何故、好きになったのか。





    …そんなのわかんない。


    いろんな事が理由として上げられるけれど。


    どれも取ってつけたような理由になりそうで。


    口にしたくない。


    でも何処か浮き世離れした雰囲気と。


    ビジュアル的なものと。


    あまりにも完璧な存在として、私の中に入り込んで来たから。


    好きにならずにはいられなかった、と言うのが…、


    私なりのイイワケ、かな。





    いつか聞いた事がある。


    凄くドキドキしながら。


    「オーナーみたいな人って…いるんですね。」


    って。


    確か開店三周年の、
    打ち上げの時だったと思う。


    ナツさんはその時。


    テキーラを口にしていた覚えがある。


    グラスに口を付けながら。


    「一県に一人は、いるよ。」


    と。


    口の端を持ち上げながら。


    その言葉を聞いた。


    “一県に一人”


    どういう基準かはわからないけれど。


    ナツさんの交遊範囲が想像出来てしまう気がして。


    ほんのちょっと寂しかった。


    完璧にナツさんを意識したのは。


    去年の夏だった。


    その日は金曜日で。


    ナツさんが現れるとは思っていなくて…。


    嬉しかった。


    でも悲しかった。


    何故なら。


    「個室空いてるよね。」


    「……はい。どうぞ。」


    ナツさんの隣には。


    見たことのない。


    でも何処かナツさんと同じ雰囲気を纏った。


    綺麗な女性。


    “彼女”


    の存在を初めて実感した夜。


    料理やドリンクを。
    運ぶたび。


    重なり合った指。


    絡まっていた視線。


    目に入らない訳がなかった。


    私はデザートを運んだ後に。


    トイレに入って、
    鍵をかけて泣いた。


    好きなんだと。


    実感した夜だった。




    あれから一年─







    私は勝負に出ようと思う。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10570 / 1階層)  和美のBlue 3
□投稿者/ つちふまず 大御所(927回)-(2005/06/29(Wed) 23:26:33)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    作戦その壱─


    テーマ。


    “まずはコミュニケーション”


    「お疲れ様です。」


    店内のフードとドリンクが全て配膳済みである事を確認して。


    ナツさんの座る、


    店内では奥まったテーブルに。


    私はアイスティーを置いた。


    竹で出来たトレイを持ちながら。


    「サンキュ。」


    売り上げのデータが入力されている、端末のPCを。


    ナツさんはジッと見て。


    目を反らす事はない。


    やっぱり…。


    素敵だな。


    私はこの人の。


    目尻が凄く好き。


    鋭いようで、でも…。


    「どうした。」


    フッと私を見上げた。


    PCを睨んでいた目と同じ。


    鋭い目。


    凄く濃い睫毛…。


    思わず目を反らした。


    「あ、あの…。」


    言わなきゃ。


    「?」


    手を休めてナツさんは。


    頭を傾けた。


    「あの、オーナー?」


    「何?」


    「オーナー、時間のある時でいいんですけど…。」


    「ん?」


    鋭い目が。


    ふと優しくなった気がして。


    ほら、やっぱり。


    この目尻が好きなの。


    睫毛が触れるか触れないかの。


    「カクテル、教えて頂けませんか?」


    作戦の具体的内容─


    小さなテーマその壱。


    “教えを乞う”


    ナツさんはうちの店では。
    客が多い時に。
    シェイカーを振る。


    その技術には。
    バーテンダーも舌を巻いていて。


    「カクテル?」


    「はい。私もフロアだけじゃなくて…、ドリンクも手伝えたらなって。」


    これは本心。


    「ん。」


    ナツさんは腕を組んで。


    バリ製のチェアに背をもたれた。


    だめ、かな。


    やっぱり…。


    するとナツさんは、


    背もたれから体を離して。


    「カズ。」


    「は、はい。」


    「フロアも大事。ほら。」


    ナツさんは外の。


    テラスを指差した。


    「あ…すみません!」


    見ると男性客が。


    手を挙げていた。


    「すみません。失礼します…。」


    私の言葉には答えずに。


    ナツさんはまた、


    PCに目を向けた。


    作戦その壱─


    さっそく失敗(涙)


    教訓─


    『コミュニケーションはタイミングを考える。』


    全然駄目じゃん私…。


    はぁ……。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10571 / 1階層)  和美のBlue 4
□投稿者/ つちふまず 大御所(928回)-(2005/06/29(Wed) 23:31:08)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    作戦その壱─


    『教えを乞う』─×


    ふう。


    やっぱりダメ、か。


    ふに(涙)


    どうやって近付けばいいんだろう…。


    困ったなぁ。


    早いな、くじけるの。


    ─11時を過ぎて。


    客もまばらに。


    静かな店内へと。


    私は土曜日はラストまで。
    (ナツさんが来るから)


    でもナツさんは。
    日付が変わる前には。


    大抵帰って行く。


    でもこの日は。


    新メニューの確認もあったせいか。


    ナツさんは日付が変わっても。


    厨房にいた。


    私にしてみれば…。


    ラッキー♪


    話せなくたっていいの。


    同じ空間に居るだけで…。


    ドキドキする。


    凄く嬉しい。




    テラスをクローズにして。


    店内のお客だけを、


    接客していた。


    サウンドをアップテンポな物から、メローな物に変える。


    私はお気に入りの、


    ダイアナロスのベストをオーディオにセットした。


    「好きだな、それ。」


    バーテンダーのヤスさんが、ニコニコしながら話し掛けて来る。


    「はい。すんごい好きなんです。ダイアナロス。」


    「若い子からそういう言葉が出るのは…いいね。」


    モミアゲと繋がったヒゲを。


    ヤスさんは撫でた。


    店内に流れる、


    古き良きラブソング。


    ふとナツさんが、


    厨房から出てきた。


    店内をグルっと見渡して。


    長い足を優雅に。


    こちらに向かって来る。


    …なんだろ。


    「ヤスさん。もう上がっていいですよ。」


    ナツさんの。


    低くて良く通る声。


    「ん、いいの?」


    ヤスさんは磨いていたグラスを、棚に戻した。


    「後は私が。お疲れ様でした。」


    ナツさんはそれだけ言うと。


    頭を小さく下げて、テラスに出た。


    「ふっふ。やったね。」


    ヤスさんは嬉しそうに。
    私に笑いかけた。


    「お疲れ様でした。」


    「珍しいな…。オーナー残るのか?」


    あ、そっか。
    確かに珍しい…。


    「ですね…。」


    「言葉に甘えて。お先に。」


    ヤスさんは私に手を振りながら、カウンターから姿を消した。


    店内にはあと一組…。


    外に目をやると。


    ナツさんは店の看板である、


    オウムに餌をやっていた。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10572 / 1階層)  和美のBlue 5
□投稿者/ つちふまず 大御所(929回)-(2005/06/29(Wed) 23:37:19)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ─am1:00


    「ありがとうございました。」


    最後のお客を見送って。


    テーブルの食器を厨房へと下げる。


    あれ?
    電気が…消えてる。


    見るとキッチンには誰もいなくて、


    ウォッシャーの電源だけが着いていた。


    帰っちゃったんだ。


    クスン。


    ひどいな…もう。


    カチャカチャと。


    食器をウォッシャーの中に入れて、スイッチをオンにした。


    あとは放って置けば、


    乾燥もやってくれるから…、


    「カズ、おいで。」


    ウォッシャーの向こうから。


    声がした。


    え。


    あ、そうだ…。


    オーナー。


    帰ってなかったんだ。


    って事は…。


    ぐるっと。
    周りを見渡した。


    ふ、ふたりっきり!!


    「…カズ!」


    ホールの向こうから。


    さっきより大きな声。


    「はい!い、今行きます!」


    パタパタとサロンを揺るがせて。厨房を走る。


    ガチャン─


    「いた!…い。」


    カランカランと。


    大きなボウルを。


    ひっくり返してしまった。


    ひゃあ〜(涙)


    痛い痛い、と。
    スネをさすりながら。


    ホールへと出ると。


    バーカウンターに。


    ナツさんがいた。


    私を見ずに、リキュールのボトルを片手に。


    “来い来い”


    と、白いシャツの手が。
    揺れていた。


    あ……。


    もしかして。


    「おいで。」


    カウンターの中を指差した。


    教えて…くれるのかな!


    きゃーっ!!


    どどどどうしよう。


    ドキドキドキドキ。


    「は、…はい。」


    緊張しながら。


    ナツさんの隣に立った。


    何本かのボトルを。


    テンポ良くトントンと。


    そしてシェイカーを。


    用意する。


    ナツさんは私よりも。


    頭一つ分位背が高い。


    私はチビッ子。


    見上げると彫りの深い綺麗な横顔。


    形のいい耳に。


    薄いピンクの石。
    綺麗なピアス…。


    「カズ。」


    見上げていた横顔が突然。
    こちらを見た。


    「えっ!あ!…はい!」


    「まずは…。」


    ナツさんは指を自分の頬に当てた。考えている時の癖なのは。


    私も良く見ているから知ってる。


    「でも…。」


    「…はい?」


    「カズ、小さいね。」


    カウンターの高さと。私の頭を交互に見て。


    「フッ。」


    小さく笑った。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10573 / 1階層)  和美のBlue 6
□投稿者/ つちふまず 大御所(930回)-(2005/06/29(Wed) 23:41:54)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    そんなぁ。
    もー。


    クックッと。


    ナツさんは笑いを堪えるように。


    「チビッ子は無理ですか…?」


    悲しい…。


    「そんな事ない。教える。」


    流台の蛇口をひねって、
    ナツさんは手を洗っていた。


    良かった…。


    ホッ。


    「まずは…と。簡単な物から。」


    綺麗なブルーのボトルと。


    透明の液体が入ったボトル。


    それと冷蔵庫から。


    グレープフルーツジュース。


    「何ていうカクテルですか?」


    テキパキと。


    分量を計り、


    手早くシェイカーの中に。


    それを注ぐ。


    「チャイナブルー。」


    小さな声で。


    ナツさんは手を休める事なく。


    作業を進めた。


    「チャイナブルー。飲んだ事あります。ふふ。」


    「分量は後でメモ取って。」


    「はい。」


    全てを注がれたシェイカーに。


    キャップをして。


    ゆっくりそれを持ち上げた後。


    「これが知りたいんでしょ。」


    と一言言った後。


    上下に。


    リズムよく。


    ナツさんの腕がしなって。


    シェイカーが振られた。


    か。


    か、


    カッコいい…。


    クラクラしてきた。


    もう、なんていうか。


    「振ってごらん。」


    「え。」


    はい、とシェイカーを。
    手渡された。


    びっくりする位冷たい。


    「こう…ですか。」


    見よう見まねで。


    振ってみる。


    「もうちょい。」


    スッとナツさんは。
    私の背後に回って。


    後ろから手を回す形で。


    私の両手に手を沿えた。


    「ん。そう。」


    密着する体。


    白いシャツから伸びた腕。


    肘の辺りに、


    小さなかさぶた。


    傷なのかな。


    ちょっともう…。


    振られるシェイカー。


    その中で踊るのは。


    氷じゃなくて。







    私の心臓そのもの、かな。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10574 / 1階層)  和美のBlue 7
□投稿者/ つちふまず 大御所(931回)-(2005/06/29(Wed) 23:50:29)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    シャカ、シャカ、と。
    店内に響く。


    すごくすごく。
    一秒一秒が、
    ゆっくりな気がする。


    好きな人が、
    真後ろで私を包んでる。


    リアルに思えない程、
    胸が高まった。


    「もう、いいよ。」


    ナツさんの手が離れて。


    私はキャップを外した。


    「……注いで。」


    声を合図に。
    グラスに注ぐ。


    トポトポトポ…、



    「わぁ…綺麗…。」





    海の色?


    空の色。


    どっちだろう…。


    私を守るように、


    カウンターにもたれていたナツさんの腕の存在も…。


    忘れる位。


    とっても綺麗だった。


    「飲んでごらん。」


    「はい。」


    恐る恐る。
    グラスを持ち上げて。
    口に含んだ。


    「おいしー…。」


    ライチの甘みと。
    ちょっとのアルコール。


    「ん。」


    頭上からナツさんの声。


    今更ながらに…。


    ドキドキ。


    店内に優しく響く。


    ダイアナ・ロス。


    「ナツさんも、どう、ぞ。」


    遠慮がちに。


    前を向いたまま。


    グラスを持ち上げた。


    「…私は車だから。」


    フッと耳に。


    息がかかったのは。


    気のせいだったのかな。




    you're everything …


    everything is you…


    優しく響く。


    ダイアナの声に混じって。


    「もう遅いね。」


    頭上で響く、


    ナツさんの声。


    「…はい。」


    このままでいたい。


    もっと話したい…。


    「今日はおしまい。」


    フッと頭のてっぺんを。


    左手で撫でられた。


    それと同時に、


    割と近い位置にあった。


    ナツさんの体が離れた。









    ドキドキの夜。


    ナツさん。









    眠れる訳が、なかったよ。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10576 / 1階層)  はじめまして。
□投稿者/ かな 一般♪(1回)-(2005/06/29(Wed) 23:56:25)
    こんばんわ。すごくいいおはなしなので頑張って書いてくださいね。つちふまずさんは神奈川の人ですか?私は神奈川在住でよく鎌倉方面にいきます!この話のレストランは珊○礁ですか?違うかな?この話は実話ですか?知りたいです。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10575 / 1階層)  和美のBlue 8
□投稿者/ つちふまず 大御所(932回)-(2005/06/29(Wed) 23:54:34)
    “教えを乞う”


    とりあえず…○?


    これを期に。
    ステップアップしたい。


    作戦その弐─


    “ナツさんを知る”


    とりあえず。
    この前のお礼をしよう♪


    次の木曜日─


    いきなりチャンス到来☆


    雑誌の取材があったので。ナツさんがお店に現れた。


    土曜日の事もあり。


    ナツさんがお店に来た瞬間。やっぱり胸がドキドキして。


    全然集中出来ません。


    「ええ。じゃ、写真はそちらで。」


    料理を並べたテーブルに、ナツさんは案内した。


    なんていうのかな。
    ナツさんって…。
    見た目怖そうなんだよね。


    笑わない人だからかな。


    出版社の人とのやりとりを。オープンの準備をしながら。


    私は見ていた。


    パシャ、パシャ、と。
    フラッシュがたかれる。


    「ええ。そうですか。あ、それなら…。」


    背中に聞こえる。


    ナツさんの声。


    どうやってお礼…。
    なんてったってナツさんだし。


    どんなお礼をすればいいか…。


    想像つかないなぁ(涙)


    「カズ。おいで。」


    「え?あっはい!」


    いきなり名前を呼ばれて。


    びっくりした。


    「写真取るよ。」


    「ええっ!?」


    「すみません…スタッフの顔写真も欲しいので。」


    出版社の人は。
    少し申し訳なさそうに。


    「カズ、テラスで。」


    ナツさんは出版社の人を無視して、私の背中を両手で押した。


    「えっ!ちょっ!オーナー?」


    やだやだ。


    写真なんてー!


    恥ずかしいよ!!


    「頼むよ。オウムじゃダメだって言うからさ…。」


    甘い声が。


    耳元で聞こえて。


    「えー…。」


    「看板娘。お願い。」


    「オーナーが写った方がいいですよ〜。ううー。」


    言いつつも体を押されて、


    夕陽の差し込むテラスへと。


    「…写真は苦手。」


    正面にナツさんは向き合った。


    今私の手に。


    カメラが有ったら。


    写したい。


    夕陽と。海と。ナツさん。


    「カズ?」


    「え…あ、はい。」


    「お礼するよ。今日の仕事はこれで終わりでいい。」


    ポン、と。


    肩を軽く叩かれて。


    ナツさんは店内へと。


    入って行った。


    え?今…。


    なんて?


    お礼?


    今日の仕事は終わり?


    本当に?







    変なニヤケ顔で。
    雑誌に写ってしまったのは。


    言うまでもない。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10577 / 1階層)  和美のBlue 9
□投稿者/ つちふまず 大御所(933回)-(2005/06/29(Wed) 23:58:16)
    「乗って。」


    真っ赤な。


    アルファロメオ。


    これに乗る日が来るなんて…。


    思わなかったよー!!


    わ〜ん(涙)


    「……カズ?早く。」


    不思議そうな顔で。


    ナツさんは中々車に乗らない私を見ていた。


    「あ、失礼します…。」


    バタン、バタン、と。
    二人で車に乗り込む。


    レザーの匂いが。
    鼻をかすめた。


    外の波音と喧騒が。
    無くなる瞬間。


    何も言わずにナツさんは、キーを差して車にエンジンをかけた。


    発進しながらシートベルトをスルスルと絞める動作を見て。


    私も慌ててベルトを付ける。


    海沿いの国道に。
    車はスムーズに合流した。


    「…………。」


    何。


    話せば…。


    いいのかな、なんて…。


    ドキドキが。


    聞こえちゃいそう。


    恥ずかしくて嬉しくて。


    窓の外の海しか見えない…。


    「クックッ。」


    「え?」


    笑い声が聞こえて。


    運転席を見た。


    「カズ、変な顔してたね…。」


    雑誌の事…(涙)


    「CG加工、とかしてくれないですかね…。」


    くすん。
    悲しい…。


    「売り上げ上がる。きっと。」


    クックッと。
    ナツさんは口の端を持ち上げて。また少し笑った。


    「ああもう…海に飛び込みたいです…。」


    「大丈夫。可愛いよ。」


    「……………。」


    今。


    可愛いって聞こえた。


    可愛いって…。


    「……カズ?また変な顔。」


    可愛いって言われちゃった…。


    いやーんどうしよう!!


    ドキドキするよ〜!


    「何が食べたい?」


    「え?」


    「好きな物でいい。」


    運転席を見ると。


    ナツさんは前を向いたまま。


    口の端を持ち上げた。


    好きな物…。


    ハンバーグ?

    やだやだ。子どもみたい。

    カレーライス?

    違うよもう〜(涙)


    好きな物…。
    かつナツさんに、
    ふさわしい食べ物…。


    ダメ。


    ぜんっぜん思い付かない。


    ふるふると。
    頭を振って。
    泣きそうになっていると。


    「ラーメン食べようか。」


    甘い声が。


    また車内に響いた。


    ラーメン!?


    ナツさんが?


    い、意外…。


    「嫌い?」


    「すっ好きです大好きです三食ラーメンでも生きられる位…。」


    「…………。」





    クックッと。
    またナツさんは笑った。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10579 / 1階層)  和美のBlue 10
□投稿者/ つちふまず 大御所(934回)-(2005/06/30(Thu) 00:03:53)
    割と小汚い(お店の人ごめんなさい)ラーメン屋さんに。


    入った瞬間─


    注がれる視線。


    男女共に…。
    注目を浴びる、ナツさん。


    め、目立つ…。


    気付いているのかいないのか。


    ナツさんはカウンターの丸椅子に、すぐに着席した。


    「ネギミソチャーシューと餃子一つ。」


    甘い声で。


    言わないで〜(涙)


    しかもそんな濃いメニュー!


    「カズは?」


    「あ、私もそれで。」


    ああ。


    流されやすい私…(涙)


    「カズ、学校は?」


    ナツさんはジャケットのポッケから、カラフルなパッケージの煙草を取り出した。


    「あ、はい。楽しいです、すごく。」


    「そう。良かった。」


    一つを取り出して、


    トントン、と先っぽをカウンターに。煙草を鳴らした。


    「はい。ありがとうございます。」


    「早いね。もう二年生か。」


    うちのお店のマッチを。
    早い動作で。
    すぐに火が着く。


    「そうですね…早いです。」


    ナツさんには。
    返しても返しきれない。
    恩が実はある。


    「今年は好きに使いなさい。去年と同じ金額が振り込んであるから。」


    「そういう訳には…行かないです。」


    ナツさんには。
    学費を借りていて。


    それには訳がある。


    私には両親がいない。


    正確にはいるけれど。
    いないのと同じ。


    ここでは詳しくは言わないね。


    どうしても大学に行きたかった私は。


    バイト先のオーナーであるナツさんに。


    「学費を稼がせて下さい。」


    と、相談した。


    私にしてみれば、シフトを増やして欲しい、という意味で言ったんだけれど。


    ナツさんの答えは違った。


    「学費の面倒は見る。その代わり、卒業までは働いて欲しい。」


    という答えだった。


    それからはバイト代から少しずつ、学費を返している。


    私の住む小さなアパートも。
    住宅手当てという形で。


    半額に近い値段で借りていて。


    普通のバイトなら。
    ありえない位の待遇。


    私はバイトでどんなに疲れていても。


    絶対に単位を落とす事がないように、学校に通っている。


    今年一年終れば。


    栄養士の資格が取れる。


    「本当にありがとうございます。」


    頭を深く下げると。


    「……食べよう。」


    運ばれたネギミソチャーシューからは。




    とってもいい匂いがしてた。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / ▼[ 10591 ]
■10580 / 1階層)  和美のBlue 11
□投稿者/ つちふまず 大御所(935回)-(2005/06/30(Thu) 00:09:02)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「美味しかった…ネギミソチャーシュー。」


    お腹いっぱい。


    苦しいくらい…。


    帰りの車中。


    隣のナツさんを見た。


    満足したように、口の端を持ち上げている。


    んー。


    やっぱりやっぱり。


    素敵…。


    綺麗?カッコいい?


    全部当てはまってしまう。


    こんな人がいる事自体。


    何だかやっぱり信じられない。


    また海沿いの道に出る。


    「口の中が…。ネギ。」


    ぼそ、と。


    ナツさんが呟いたので。


    「ふふっ。アハハ。」


    思わず笑った。


    確かに口の中が。


    ちょっとネギ臭い(笑)


    「あ、そうだ。」


    確かガムが…。


    バッグの中を探った。


    板ガムを見付けて。


    「いりますか?」


    「ん。」


    はい、と手渡そうと思ったら。


    ………。


    手は差し出されてなくて。


    ナツさんはハンドルを握ったまま。


    小さな口を開けていた。


    これは…。その。


    「頂戴。」


    あ、とまた口を開ける。


    入れてって事ですか!?


    きゃあー!!


    慌ててガムのパッケージを、ペリペリと捲って。


    おそるおそる。


    端を持って。


    ナツさんの口に入れた。


    「サンキュ。」


    モグモグと。
    形のいい口が動いて。


    ああ。


    もう…。


    め、めまいが。


    「どうしようか。…まだ七時だ。」


    ナツさんは右手にしていたフランクミューラーを見た。


    え!?


    まだ。


    まだいて、いいのかな。


    どうしようどうしよう。


    またドキドキしてきた…。


    「うっ。」


    「カズ?どうした?」


    「す、すみません。」


    「食べ過ぎたかな。」


    「いえ、何か…。めまいが起こり過ぎて気持ち悪くなりました。」


    体が付いて行かない〜。


    「そうか。帰ろうか。」


    「えっ!!違います違います!元気ですー!」


    「クックッ。…ふっ。」


    ナツさんから見たら…。


    私絶対変な女だ。


    間違いない(涙)


    ナツさんの。


    含み笑いと。


    私の溜め息が。


    アルファロメオの中で響いた。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10580 ] / 返信無し
■10591 / 2階層)  NO TITLE
□投稿者/ 由兎魔 一般♪(27回)-(2005/06/30(Thu) 10:00:52)
    新作ですよね!?待ってましよ〜♪やっぱ、夏・海・空と言ったらナツさんですよね〜続きが待ちどうしいです!!つちふまずさんにはつねに応援してますんで、頑張ってさい★♪
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10583 / 1階層)  初めましてm(_ _)m
□投稿者/ ちび 一般♪(5回)-(2005/06/30(Thu) 01:02:17)
    ちびと申します。

    私事ですが、今、ラーメン屋さんで働いているので、思わず『ネギミソチャーシュー』、反応してしまいました(^^;)

    それと、『ナツ』という名前。

    これにも反応してしまいます…。


    チャイナブルーは今の相方が好きで、ちびも好きになったカクテルで。

    反応しまくりの、お話です(笑)

    なんだか、心が、あったかくなりました。



    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10581 / 1階層)  かなさん&読者の皆さんへ
□投稿者/ つちふまず 大御所(936回)-(2005/06/30(Thu) 00:16:19)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    はい初めまして(^O^)
    つちふまずです。

    珊瑚礁、じゃないんですよ(笑)
    おしいですけどね!

    でも実在するお店です。

    今は神奈川に住んではいませんが、近い内に戻ります。

    良かったらHPにも遊びに来て下さいね♪(下にアドがあります)

    さてさて…。
    フライング?
    いやいやすみません。

    本来なら七月から…、
    始めようと思ってたんですが。

    バトンが回されたので(笑)
    始めちゃいます!

    そう、今回は…。
    ナツさんでーす!
    来ると思わなかったですか?
    いやいや書いちゃいます!

    夏。海。空。
    そしてナツさん。

    皆さんも。
    恋しちゃってくれたら…、
    嬉しいつちふまずです!

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10597 / 1階層)  由兎魔さん
□投稿者/ つちふまず 大御所(937回)-(2005/06/30(Thu) 11:25:59)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    つちふまずです(^O^)

    はい、今回はナツさんです。
    ブラックナツさんしか…、
    今まで書いて来なかったんですけどね。

    改めて書く機会が出来て良かったです。

    最後までお付き合いよろしくです!

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10598 / 1階層)  和美のBlue 12
□投稿者/ つちふまず 大御所(938回)-(2005/06/30(Thu) 11:29:41)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    車はお店を通り過ぎて。
    逗子から葉山へと。


    海沿いを走る。


    音を抑えたBGM。


    こんなチャンスない。


    絶対ない…。


    急遽変更して。


    作戦その弐─


    “ナツさんを知る”


    「ナツさん。」


    「ん。」


    「あの…彼女さんとは上手く行ってるんですか?」


    小さなテーマ。


    “彼女とはどうですか?”


    「彼女?」


    「はい。去年連れて来てたじゃないですか…綺麗な人。」


    忘れもしない。


    そういう人に限って。


    細かく覚えてる。


    「去年…。」


    ふむ、と長い指で頬に触れた。


    これ、ナツさんのクセ。


    すっごい好き…。


    「彼女はいないよ。」


    ハンドルを握り直す。


    右に大きく、
    車は曲がった。


    「え?」


    何!?


    「多分カズが見たのも…彼女ではないと思う。」


    言いながらナツさんは。


    防波堤近くまで車を寄せると。


    サイドブレーキを引いて。


    エンジンを止めた。


    「彼女じゃないんですか!?」


    「違う。…降りよう。ここは綺麗だから。」


    「え……あ。」


    慌てて車から降りる。


    「飲み物買ってくる。」


    スタスタと。


    自販機に向かうナツさん。


    え、あ。


    待って〜。





    アイスコーヒーを二本買って。


    ナツさんは防波堤の上に。


    ヒラリと登った。


    見上げると。


    ………高い。


    無理だよナツさん(涙)


    うーん、とうなだれると。


    「おいで。」


    手を差しのべられた。


    か。


    カッコいい…。


    だめだめ。


    めまいしないように…。


    「んっ……と。」


    ナツさんの手を取ると。


    強い力で防波堤の上に。


    すぐに持ち上げられた。


    「やーっ綺麗〜!!」


    右手に。
    私達が辿って来た海沿いの国道。


    小さく何台も、車のテールランプが流れて…。


    正面に。
    小さな江ノ島。


    「ん。」


    ポン、とアイスコーヒーが渡されて。


    ナツさんはスーツなのもおかまいなしに。


    防波堤に座った。


    「あ、りがとう、ございます…。」


    ナツさんは答えずに。


    煙草を取り出して。


    それに火を着けた。


    ナツさんの一つ一つの動作は。ゆっくりだから。


    すごく見とれる。


    あ、いけない。


    作戦その弐。


    まだ途中だったっけ…。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10599 / 1階層)  和美のBlue 13
□投稿者/ つちふまず 大御所(939回)-(2005/06/30(Thu) 11:33:36)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「彼女さんじゃなかったんですね…。」


    じゃあの人は一体…。


    トイレで泣いたんだけどな。


    っていうか暫く、


    バイトするのも辛かった位…。


    「と、言うよりは…。」


    「はい?」


    「カズが…どの娘の事を言ってるのか、見当が付かない。」


    え。


    本当に!?


    隣のナツさんを見ると。


    『普通』の顔。


    「あの、今まで、何人位…いるんでしょうか。」


    一体…。


    「ん?ん〜。」


    ナツさんは。


    小さな頭を傾けた。


    やだ…。


    変な質問するんじゃなかった。


    胸が滅茶苦茶痛い。


    そりゃそうだよ…。


    こんな素敵な人だもん。


    彼女の100人や200人…。


    「そういうの、もういい。」


    小さく呟くのが聞こえた。


    「………え。」


    「無理してたし。」


    “無理?”


    聞いた事のない。


    溜め息が聞こえた。


    「疲れちゃったんだよ。」


    フッとこちらを見て。




    ナツさんは微笑んだ。


    彫りの深い二重が、
    細く。


    あ。


    あ……。


    なんか。


    悔しい。


    見た事のない表情を見る事が。


    余計に。


    “好き”


    を感じさせる事に。


    気付いた気がして…。


    私はうつ向いた。


    「もうすぐ夏だ。」


    ナツさんの声の後に。
    また煙を吐いた気配。


    言葉が…。


    出ないよう(涙)


    でも。


    あんな顔見ちゃったら…。


    「あの…なんていうか。」


    「ん。」


    「うまく…言えないんですけど。」


    いや、まだ早いよね。


    これを言うのは。


    作戦立ててないし。


    「ん?」


    えーとえーと。


    どうしよどうしよ(涙)


    作戦…作戦。


    作戦その参は何だっけ?


    えーと。


    あ、そうだ!


    「カズ?」


    「あの!番号…教えて下さい!」


    「え?」


    あ、あれ。


    やだ私…。


    ああ…んもう。


    何言って、


    「教えてなかった?」


    そうか、と。


    ナツさんはジャケットのポケットから、携帯を取り出した。


    え。


    ホント?


    「赤外線で送る。携帯出して。」


    はい、とナツさんは。
    携帯を私に向けた。


    う、嘘でしょ…。


    こんな簡単に。


    「早く。」


    「あ、は、はい。」


    慌ててバッグから携帯を取り出した。


    赤外線。





    アドレスもゲット(歓喜)

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10600 / 1階層)  和美のBlue 14
□投稿者/ つちふまず 大御所(940回)-(2005/06/30(Thu) 11:36:25)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「じゃ。」


    「はい、土曜日に…。」


    私のアパートの前で。


    アルファロメオは止まった。


    車のエンジン音は静かだったけれど。


    私のテンションは上がりっぱなしだった。


    …だって。


    ナツさんの車に乗れた事。


    ラーメンを食べた事。


    綺麗な夜景が見れた事。


    携帯の番号とアドレスを、
    聞けた事。


    嬉し過ぎて。


    「ありがとうございました。」


    「ん。」


    煙草を右手の指に、
    挟んだまま。


    ナツさんは口の端を持ち上げた。


    車から降りると─


    ナツさんのアルファロメオは静かに、去って行った。


    はー。


    胸を抑えて。


    天を見た。


    心臓が…。


    口から出るかと思った。


    よろよろと。
    アパートの階段を登る。


    なんか。


    なんか…。


    凄い日だった。


    “好きな人”と。


    一緒に居る事が…。


    こんなに…。


    ─カチャ、バタン、と。


    部屋に入る。


    「ふふっ。…ふふ。」


    電気も付けずに。


    何故だか笑えて来て。


    すごくすごく、
    嬉しすぎて。


    「は〜。」


    トコトコ、ドサ、と。


    そのままベッドに。
    倒れこんだ。


    ナツさん…。


    やっぱり好きだよー。


    「う〜っ!!」


    バタバタと。
    ベッドの上で泳いでみた。


    ふう…。


    寝返りをして。


    天井を見上げる。


    今日は…。
    いわゆる夢みたいな一日。


    だったな…。


    けど。


    さっきまで一緒に居たのに。


    あ。


    …あれ。


    あれれれ。


    “もう会いたい”


    会いたい(涙)


    私…こんなに好きなんだ。


    改めて感じてしまった。


    途端に。


    切なくなる。





    ─作戦その壱。


    “まずはコミュニケーション”


    …クリア?


    ─作戦その弐。


    “ナツさんを知る”


    一応クリアかな?


    ─作戦その参。


    “携帯の番号を聞く”


    …クリア!


    じゅ、順調過ぎて…。


    何だか怖いかも。


    いいのかな、なんか。


    でも、


    ─バッグに手を伸ばして、


    携帯を開いた。


    さっき赤外線で受信したデータを、表示させた。


    んー。


    うん。


    聞いたからには…。


    やっぱり今日のお礼をしよう。







    メール新規作成、
    の画面を表示した。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10601 / 1階層)  和美のBlue 15
□投稿者/ つちふまず 大御所(941回)-(2005/06/30(Thu) 11:39:56)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ん〜っと…。


    暗い部屋。


    光る携帯。


    〉今日はありがとうございました。


    出だしはこれでいっか。


    後は…、


    〉今日はありがとうございました。また連れてって下さいね!


    ………。


    んー。


    違う気がする…。


    何か図々しくない?


    カタカタ、とクリア。


    えーと。


    〉今日はありがとうございました。これからも頑張ります!売り上げアーップ!


    …。


    違うなぁ(涙)


    あーん何て書けばいいの〜!


    「うーっ!!」


    ジタバタと。


    またベッドの上を泳いだ。






    その時。


    〜♪〜♪


    ………。


    突然の、メール着信。


    慌てて携帯を持ち直した。


    ま、まさか。


    ゴクリ。


    震える指で、


    メールを確認するボタン。


    ピ、と押すと。







    差出人─




    『村上 奈津』




    ぎゃあ!!


    ナツさん!




    顔、が。
    にやける。




    さらにドキドキして…。


    メールを開く。







    〉ネギミソ気に入ったかな?今日はお疲れ様。

    〉カズさ。土曜日、出来たら早く出勤出来ないかな?

    〉新しいユニフォームを試着して貰いたいんだ。

    〉来れたら来てねヾ(*'-'*)






    ………。





    え。


    あ、あの。


    土曜日…は。


    もちろん早く行くけど…、


    最後の。


    これ。


    ヾ(*'-'*)


    これよ。


    ナツさん…。


    顔文字とか、使うんだ。


    意外………。


    っていうか…ね?




    「かわいいーっ!!」





    ジタバタジタバタと。


    また泳いだ。




    好き。
    本当に好き。


    こんなに好きになった人。


    今までいない。


    メールの返信を、急ぐ。







    〉はい!行きます!
    〉ご馳走様でした♪(^人^)♪







    送信完了。





    携帯を見ては。


    閉じては。


    見ては。


    ウフフと。


    ニヤニヤと。


    ナツさんからのメールを表示したまま。







    握ったまま眠った。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10619 / 1階層)  和美のBlue 16
□投稿者/ つちふまず 大御所(942回)-(2005/06/30(Thu) 20:41:24)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    金曜日─


    作戦その四。


    “自分を磨く”


    まずは…。


    ここから。


    ─いらっしゃいませ


    「17:00に予約してます…。相川です。」


    “はい、承っております…お荷物、お預かりしますね?”


    まずは。


    美容院。


    「いらっしゃい。」


    小さく頭を下げながら。


    私の頭の形から、


    髪質まで知り尽した…。


    美容師のマイさん。


    ベリーショートの銀髪が。
    色白の肌に。
    キマってる人。


    「今日はどうする?」


    私の背後に回って、


    手を後ろ髪に差し入れる。


    どれ位伸びたか確認してくれている。


    「あの…マイさん。」

    「ん?」

    「ガラっと変えちゃって下さい。」


    あの人に。


    あの人にもっと、


    気付いてもらえる位…。


    「ガラっと?」


    「お願いします…。時間がないんですよ〜。」


    「あれ、今日は急ぎ?」


    背の高いマイさんは、
    私の顔を覗き込んだ。


    「あ、ううん今日は急いでは…ないけど。」


    「そう?んーガラっと。ガラっとか…。」


    そうだなぁとマイさんは。
    苦笑いした。


    「はい。イメージチェンジってやつ、したいんです。」


    「イメチェンか。…ばっさり切る?」


    似合うと思うよ、と。


    マイさんは私の肩に乗った髪を。持ち上げた。


    「ショート…は。幼く見えそうだから、ちょっと…。」


    ただでさえチビっ子だし(涙)


    だから怖くて、


    ショートにした事ない。


    「短くした事ないよね?」


    いつも毛先だけだもんね、
    と、マイさんは手ぐしで。
    私の髪を整えた。


    「うん。ないです。」


    似合うのかな〜。


    全然想像つかない。


    「切っちゃダメ?」


    ふふん、とマイさん。


    え。


    本当にショート?


    「ショートですか?」


    「うん。絶対似合う。前からずーっとそう思ってたよ。」


    「本当ですか?」


    ショートかぁ。


    うーん。


    「任せて。大人っぽくしてあげる。」


    どうぞ、とシャンプー台に。


    案内された。


    大丈夫なのかな…。


    ううん。


    マイさんの腕、信じようっと。


    だってマイさんの言った…、


    “大人っぽい”


    これ。


    作戦その四の…。


    キーワードだもん。






    超重要!

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / ▼[ 10633 ]
■10620 / 1階層)  和美のBlue 17
□投稿者/ つちふまず 大御所(943回)-(2005/06/30(Thu) 20:57:18)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    シャンプーが終わり。


    「でもまた何でイメチェン?」


    シャキシャキと。


    マイさんのハサミは。


    テンポ良く私の髪を切る。


    「んー。んー。」


    「恋かね?」


    確信してます、とばかりに。鏡越しのマイさんは微笑んだ。


    「あい。ふふ。」


    「いいねーいいねー。」


    切りがいがある、と。
    マイさんはまた笑った。


    「すっっごい大人なんです。」


    生きてる世界さえも…。
    きっと違うんだけど。


    「大人、かぁ。」


    「うん。でもやっと…少しだけ。ほんのちょっとだけ近付いたような気がして。」


    ほんのちょぴっとだけど。


    「あら、まあ。」


    「わかんないですけどね?」


    「大丈夫。可愛く仕上げましょう。」


    鏡越しに。
    またマイさんは微笑んだ。


    「大人になりたーい。」


    「動かない動かない。」


    「はーい。」


    どんどん減っていく、
    髪を見て。


    ちょっと不安になったけど。


    「伝わるといいね。」


    「うん。伝わるといいな。」


    胸の中に。


    暖めていた小さな想い。


    少しずつでいいから。


    伝えて行きたい。







    二時間後─


    「はい、終了…。」


    タオルで服に付いた、
    小さな毛を。
    マイさんは払ってくれた。


    「…………。」


    「どう?」


    「………。」


    初めて見た。


    私のショート。


    こんな感じになるんだ。


    ………っていうか。


    いい。


    いいじゃん!!


    長い前髪を残して。


    オレンジ系のカラーを入れて。


    重く見えない。


    「小悪魔ショートボブ。」


    いっちょ上がり、と。
    マイさんは鼻を擦った。


    「小悪魔…。」


    す、素敵な響き。


    「柔らかい上に細いから、ペッタンコにならないようにね。」


    内側からドライヤーかけて、と。マイさん。


    「仕上げにスプレーワックス軽くかけたらツヤが出るから。」


    かけますかけます!


    「お疲れ様でした。」


    「あ、ありがとうマイさん!」


    「いいえ。」


    小悪魔…、


    いい♪


    会計を済ませて─


    「ありがとうございました。」


    閉まる自動ドア。




    小悪魔でも…。


    相手は多分。







    閻魔様なんだけど★


    でも。


    頑張ろうって気になった。







    早くナツさんに見せたいな。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10620 ] / 返信無し
■10633 / 2階層)  すみません、
□投稿者/ ちび 一般♪(6回)-(2005/07/01(Fri) 15:49:26)
    鼻血出そうです、私!!

    私の初めての人も『奈津子』と言いました。


    ちびも小悪魔になりたい!!!



    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10628 / 1階層)  和美のBlue 18
□投稿者/ つちふまず 大御所(944回)-(2005/07/01(Fri) 07:57:52)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    土曜日─


    シフトは17:00からだったけれど、一時間早めて。


    ドキドキしながら出勤。


    「おはようございま〜す。」


    バーカウンターの近くで。


    リキュールの入った段ボールを抱える人影。


    「おはよ、…あ!カズ?」


    髪切ったね、と。
    ヤスさんは両手をチョキの形にして。チョキチョキと。


    「はい〜ふふ。」


    「いいじゃねぇか。ダハハ。」


    照れながら厨房へ。


    「おはようございまーす。」


    と、誰もいない…。


    休憩時間か。


    ナツさんは…と。


    いないなぁ。


    まだ来てないのかな。


    厨房を抜けた先に。


    スタッフルーム。


    その向かいに。


    オーナールーム。


    現場主義のナツさんは店内にいる事が多いから、


    このオーナールームに居る事は少ない。


    でもドアが少し、


    開いている事に気付いて。


    コンコン、と。


    ノックして。


    「おはよう…ございま、」


    あ。


    あらら。


    ナツさんがいた。


    でも。


    来客用のレザーのソファに。


    もたれるように。


    寝てる。


    寝てる…。


    きゃーっ!!


    ドキドキと。
    ウキウキが。


    混じり合った心で。


    そっとオーナールームに。


    入って後ろ手にドアを閉めた。


    とても低くて、
    大きなソファ。


    店内と同じ物。


    肘置きの部分に。
    もたれるように。


    体にフィットした、
    黒のロンT。


    ビンテージ物かな。
    色褪せた細身のジーンズ。


    シンプルが。
    高級に見える人。


    ホントに本当に。


    素敵な人…。


    吸い込まれるように。


    ソファの下に敷かれたラグの上に、ちょこんと座って。


    その寝顔を見つめた。


    スースーと。


    聞こえるか聞こえないかの。


    寝息…。


    白い頬に、細い顎。


    あ、ソバカス発見(笑)


    二重の瞳。
    長い長い睫毛。


    外人さんみたいな…。
    ゆるゆるパーマのかかった、


    ショートカット。


    疲れてるのかな…。


    ふふ。


    寝顔は意外と、幼いかも。


    普段はギラギラ、


    してる感じだけどね…。




    触っても、いいかな。


    触りたい、な。


    そーっと。


    手を伸ばして…。


    短い前髪に。


    触れ、


    「…………!」


    スッとナツさんの右手が伸びて。




    私の手首を掴んだ。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10629 / 1階層)  和美のBlue 19
□投稿者/ つちふまず 大御所(945回)-(2005/07/01(Fri) 08:00:51)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    あ……。


    え。


    掴まれた右手が。
    熱い。


    「ナツ、さん…。」


    目を少しだけ開けて。


    「ん………。」


    眠そう、な、顔。


    視線が絡まって。
    思わず目を反らした。


    やだ。


    ナツさん。


    無防備は見たことないから。


    恥ずかしくて見れない。


    「………誰。」


    えっ。


    あ、そうか。
    髪、切ったから…。


    「…私です、カズ、です。」


    「………。」


    「え。」


    グッと手を引かれた、


    と思ったら。





    ナツさんの上にいた。


    訂正。


    ナツさんの上に重なるように。


    乗ってた(涙)




    う、


    うわーっ!!


    ちょ、ちょっと。


    これ。


    どしたら…。


    グッとナツさんの手に。
    力が込もって。


    抱き締め…られて、る。


    っていうか、


    ほそっ、細いーっ!


    ちゃんと食べてるのかな?


    それ、
    どころじゃないけど。


    ナツさんの腕の中。


    暖かい腕の中。


    いい匂い…。


    顔が首筋に、
    埋まるように。


    ナツさんの跳ねた短い髪が。私の鼻をくすぐる。


    「な、…ナツさん。」


    出来るだけ小さい声で。


    呼んだ。


    「ん………。」


    寝惚けてる。


    完全に。


    誰と…。


    間違えてるのかな。


    ひーん(涙)


    でも…、


    間違いでもいいや。


    もうちょっと…、


    こうして…。






    「髪…切ったの…。」


    え。


    閉じていた目を開けた。


    体を起こすと。
    眠そうな目をしたナツさん。


    手を伸ばして。


    私の前髪に触れた。


    「あ、切りまし、た。」


    目を反らして、
    体を離そうとしたら。


    「いいね。」


    触れていた手は。


    両手に増えて。


    前髪と。


    私の耳にかかっていた髪に。


    そっと触れた。


    ………。


    顔、に。
    血が登る。


    「お、起きてたんですか。」


    上から見下ろす。


    ナツさんの彫りの深い顔。


    「起きてた。」


    よ、とナツさんは言った。


    「おはよう、ござい、ます。」


    なんでこんな体制で(涙)
    私が押し倒したみたい…。


    「カズ。」


    え。


    髪に触れていた両手に、


    力が込もって。


    上から下に。


    頭が移動したと思ったら。


    ナツさんの顔が超近い…、


    訂正。





    唇が重なった。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10655 / 1階層)  和美のBlue 20
□投稿者/ つちふまず 大御所(946回)-(2005/07/02(Sat) 09:41:18)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    目の前に─


    綺麗な鼻筋。
    長い睫毛。
    形のいい耳。


    柔らかい、唇。


    あ。


    う。


    キス、してる。


    キスだ。


    リアルに。





    何秒かして─


    ナツさんの顔が離れた。


    「ユニフォーム、着ようか。」


    いつものように、


    口の端を持ち上げて。


    しかも。
    ちょっと意地悪そうに。


    左の眉だけが上がってた。


    「あ、は、はい。」


    何がなんだか。


    パニック状態。


    慌ててナツさんから。
    体を離して、


    ソファから降りた。


    キス…。


    しちゃった。


    っていうかされちゃった。


    きゃあ〜!!!


    顔を両手で抑えて。
    興奮を落ち着かせようと。


    「………と。これね。」


    振り返るとナツさんは。


    いつの間にか、
    デスクの横にあった段ボールから、ラップされた袋を手にしていた。


    「カズ。ほら。」


    着て、と。


    手を伸ばして。


    あの、


    ナツさん?


    なんでそんな、普通…、


    あのー…。


    「あの、ナツさん?」


    キスって。


    どうして。


    「ん。」


    何?という顔。


    その時─


    コンコン、と。
    背後にノック音。


    「あ、もう来た。どうぞ。」


    あれれ。


    「ハイ、ナツ。」


    振り返ると。


    ガチャ、と開くのと同時に。


    背が高くて。


    髪が長くて。


    いわゆる美人が。


    そこにいた。


    ジーンズにノースリーブを、二枚重ね着して。


    華奢な腕がすっごく白い。


    カラーのエクステンションが、よく似合う。


    「これから着る所。待ってて。」


    かけて、と。
    ナツさんは。
    ソファに促した。


    「どうも。」


    小さく頭を下げられたので。


    「あ、ど、どうも…。」


    私もぎこちなく挨拶。


    「カズ、着替えて。」


    袋を立っていた私に。
    ポンと差し出されて。


    「あ、はい。」


    慌てて部屋を、


    出ようとした時。


    ドアの取っ手を回して、


    また閉めようとした時。


    「………」
    「………」


    何かを囁き合う声がして。


    そこに視線を向けると。


    デスクにもたれて立つナツさんの首に。


    美人さんの腕が絡まって。







    キスしてた。


    こちらに体を向けた、


    ナツさんの目が、


    私の目と合った。


    ナツさんは。







    笑ってた。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10656 / 1階層)  和美のBlue 21
□投稿者/ つちふまず 大御所(947回)-(2005/07/02(Sat) 09:45:08)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    何。


    何………?


    なんで。


    どうして?


    ナツさん笑ってた。


    意味がわかんない。





    更衣室に入って。


    荷物をロッカーに入れる。


    ラッピングされたそれを。
    カサカサと開ける。


    中には。


    ベージュのパンツと、スリットの入った細身の麻のロンスカ。


    2パターン出来るのかな。


    そしてサロン。


    上は…。


    ノースリーブの。
    アジアンな模様、
    綺麗なオレンジと紫の。
    ラインが無数に入った、


    ノースリーブのサマーニットだった。


    かっこいい。


    夏っぽい。


    ナツっぽい?


    ナツさんのセンスかな。


    着てみよう。


    手早く服を脱いで。


    ロンスカに手をかけた。


    全てを身に付けて。


    鏡の前に立った。


    アジアンだ。


    うん、可愛い…。


    靴はサンダルにするのかな。


    上から下まで。


    見てみた。


    あ。


    顔。


    私…。


    見ると私の顔は。


    涙で溢れそうに。


    情けない顔をしてた。


    「う。」


    何でキスなんか。


    あの人は…。


    誰?



    鏡の前で。


    混乱した胸の内が爆発しそうに。


    なったけれど。


    「…………だめ。」


    泣かない。


    泣かないもん。


    まだ泣かない。


    ゴシゴシ、と。
    両方の瞼をこすって。


    私は更衣室を出た。




    ─コンコン、


    「失礼します。」


    恐る恐る開けたドア。


    ホッとした。


    ナツさんはソファに。
    例の美人さんは。


    向かい合うように別の椅子に。
    二人は離れて座ってた。


    「やっぱり私の腕、いいのね〜。」


    美人さんは立ち上がると。
    嬉しそうに私に近付いて。


    肩の辺りや、
    スカートの出来を。
    確かめていた。


    あ、わかった。


    デザイナーさんだ、この人。


    「カズ。こっち。」


    来て、とナツさんは。


    手招きをして。


    私はデザイナーさんから離れて、ナツさんの前に立った。


    腕を組んで。


    私の体を。
    上から下までチェック。


    「うん……。」


    真剣な目。


    ナツさん。


    ね、ナツさん。


    何でキスしたの?


    ただの挨拶?


    「うん。これで注文する。」


    ナツさんは立ち上がると。


    「お疲れ様。戻って。」


    私の肩をポンと叩いた。




    リセットボタンを。









    押されたみたいだった。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10669 / 1階層)  和美のBlue 22
□投稿者/ つちふまず 大御所(948回)-(2005/07/03(Sun) 12:32:58)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    p.m20:00─


    「いらっしゃいませ…。」


    ナツさんは。


    デザイナーさんとの打ち合わせを済ませた後。


    “出かけてくる”


    と言って。


    お店を去ってしまった。


    「お待たせしました…。」


    どんな動作も。


    なんだか手に付かなくて。


    自分で言うのも何だけど。


    上の空。


    「ありがとうございました…。」


    顔が。


    どんどん。


    歪んでくのがわかる。




    ナツさんとキスした。


    ナツさんは違う人と、


    キスしてた。


    ナツさんにとっては。


    多分キスは。


    「いらっしゃいませ。」


    と同じ位の。


    コミュニケーションの一つ。


    …なのかな。


    …やだ。


    やだな。


    はぁ……。


    テラスで。
    夜の闇の中。


    小さく砕ける波音を聞いた。


    今頃ナツさん…。


    あの人と。




    ………あ。


    ダメ。
    抑えてたものが…。


    出ちゃう。


    「…ちょっと、抜けます。」


    パタパタと。


    更衣室に駆け込んだ。




    ナツさん。


    好きだよ。


    すっごい好き。


    滅茶苦茶好き。


    でもナツさんのレベルに。


    中々付いてけない。


    ナツさんの、


    “当たり前”


    が、私には…。


    “当たり前じゃない”


    全てが基準外で。


    全てが大人。


    ダメなのかな。


    やっぱり私は、


    子どもかな。


    こんなに泣けちゃう位…。


    好きになっちゃうなんて。




    「うぇ……。」







    泣いて泣いて。



    フロアに立つのは。







    30分経った後だった。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10670 / 1階層)  和美のBlue 23
□投稿者/ つちふまず 大御所(949回)-(2005/07/03(Sun) 12:36:10)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    作戦その伍…。


    家に帰って。
    日記を開く。


    今日の日付と。
    お天気を書いたけど。


    その先が進まない。


    作戦その伍。


    その伍、は…。


    ダメ(涙)


    バッテンを書いて。


    作戦その伍を消去。


    完全に。
    ふりだしにリターン。


    作戦なんて…、


    もう立てられないよ〜!


    ジタバタと。
    またベッドの上で泳いだ。


    はぁ…何やってんだろ。


    馬鹿みたい…。


    手を伸ばして。
    バッグから携帯を出した。


    ナツさんが入れてくれた、
    この前のメール。


    何度も読み返してみる。


    「ふぇ〜ん。」


    バサ、と枕に撃沈。


    今頃ナツさんは…。


    あのデザイナーさんと。


    …ダメ。想像すると頭おかしくなる。


    考えないようにしよう。


    ベッドから降りて。
    キッチンまで歩く。


    小さな冷蔵庫を開いて。


    ミネラルウォーターのペットボトルに口を付けた。


    ふぅ…。おいし。


    シャワー浴びて、
    寝ようかな…。




    〜♪〜♪


    携帯。メールだ。


    開いて中身を確認する。


    あ、ヤスさんだ。


    件名:ブルーポイントクルーの皆様へ。


    “今度の月曜日。急遽BBQ開催。用事ない人は来てね〜♪(余り物処分&リキュール再搬入の為)”


    バーベキュー。


    か。どうしよう。


    月曜日は授業はない。


    だから土曜日と日曜日は。


    大抵ラストまでバイト。


    んー。
    でもなぁ。


    何かバーベキューなんて行く気分じゃ…。


    ん?


    カタカタ、と。


    画面を下へと移動した。


    転送された文章に。
    ヤスさんが付け足したのか。


    “オーナーも来るよ、カズ☆”


    とだけあった。


    ………。


    あ。


    ほ、本当に?


    「くーっ!!」


    またジタバタジタバタと。


    ベッドで遊泳。


    ナツさん来るんだ!
    珍しい〜!


    絶対行く!!




    …っていうかヤスさん。


    知ってるのかな(汗)


    バーテンダーには。


    人を見る目が。


    すごーく備わってなきゃ出来ない仕事だって…。


    いつかヤスさん言ってたけど。




    ……よし。


    作戦は、やめよう。


    サラサラと。


    日記にペンを走らせた。






    “嫌な事は気にしない”






    その一行をでっかく書いて。




    「むん!」




    バスルームに入った。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10671 / 1階層)  和美のBlue 24
□投稿者/ つちふまず 大御所(950回)-(2005/07/03(Sun) 13:12:45)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    月曜日─


    雨じゃなくて良かった〜。


    快晴!
    サンサンと。
    照り付ける太陽。


    梅雨時とは思えない、強い日差し。


    アパートからお店までは。
    歩いて五分。


    海で行われるバーベキューの為に、ビーサンを履いて。


    お店までペタペタと走った。




    「おはよーございます!」


    テラスを駆け上がりながら。


    勢い良く店内に入ると。


    ヤスさんを始め、


    キッチンの人。
    フロアの人。


    合わせて八人位が。


    バーベキューの準備をしてた。


    「おーカズ、手伝え〜!」


    兎がたくさん跳ねているアロハシャツを着たヤスさんが、


    クーラーボックスにザラザラと、製氷器から氷を移していた。


    「は〜い!」


    お店の目の前は海だから、


    夏のハイシーズン前には。


    よくこうしてバーベキューをする。


    クルーの親睦を深める為に、ヤスさんが毎年。


    企画するんだって。


    いつも突然だから、全員は集まれないみたいだけど(笑)


    下ごしらえをキッチンで。


    クーラーボックスを抱えて。


    テラスの階段を降りようとした時。


    一台の車が。


    お店に入って来た。




    あ。


    ナツさん、だ。


    車が違ったから。
    一瞬わからなくて。


    黒のマセラティ。


    セクシーな車…。


    一瞬だけ見えた。


    白のノースリーブに。


    サングラス。


    か。


    カッコいい…。


    思わず地下に入る車を。
    目で追い掛けてしまった。




    階段を全部降りて。


    地下に続くスロープを見ると。


    バタン、と。
    ドアを閉めるナツさんが見えた。


    スタスタ、と。


    白いベルトをした。


    ベージュの細身のパンツの足が、こちらに向かって来る。




    「おはよう、ございます。」


    何だか会うたび。


    緊張しちゃう。


    「おはよ。」


    サングラスを外さずに、


    ナツさんは私の前を通り過ぎて。


    トントン、とテラスの階段を登って行った。


    背中を見ると。


    パンツを腰履きしている為か。


    腰の辺りに地肌が見えた。


    あ。


    …タトゥー。


    チラッとでもわかった。


    結構大きな、
    タトゥーが入ってる。


    ナ、ナツさんらしい…。


    きゃあ〜っ。


    ドキドキしながら。





    クーラーボックスを持ち直して。海へと向かった。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10672 / 1階層)  和美のBlue 25
□投稿者/ つちふまず 大御所(951回)-(2005/07/03(Sun) 13:16:37)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ズンチャ、ズンチャ、と。
    レゲエのリズム。


    砕ける波音。


    「始めるぞ〜!」


    「カンパーイ!」


    イエーと。
    グラスを片手に。


    BBQスタート。


    タープ(日陰を作る為の屋根ね)の下で。


    即席とは思えない位。
    豪華なバーベキュー。


    食べ物と飲み物のプロが集まってるから…。


    とっても美味しい♪


    私はメンバーの中では、
    一番歳下という事もあり。


    お肉を焼いたり、ヤスさんを手伝ったりと。


    そんな中でもやっぱり…。


    目で追ってしまう。


    折り畳みのビーチチェアに座って、料理長と目を細めて話してる。


    やっぱりいいなぁ♪


    ナツさん…。


    目が離せない。


    「カズよそ見しなーい!ほら、氷!」


    「あ、す、すみません。」


    金髪のモヒカンで。モミアゲと髭が繋がっている、ヤスさん。


    シェイカーを振る腕は。


    ポパイみたい♪


    ブラックフライの緑のサングラスをしてるけど。


    本当は人の良さそうな優しい目をしてるんだよね。


    「オーナーにこれ、持ってって!」


    トン、と即席で設置した木製のバーカウンターに。


    ヤスさんはグラスを置いた。


    「はーい。あ、これ何ていうカクテルですか?きれーい。」


    ヤスさんはふふんと笑うと。


    「セックスオンザビーチ!」


    「す、すごいカクテル…。」


    何てハレンチな…。


    「ちゃんとオーナーに、カクテルの名前言ってから出すんだぞ!」


    イヒヒ、とヤスさんは嬉しそうに笑った。


    「ええっやだ〜!」


    「ほらほら温くなる!」


    「ひ〜ん。」


    グラスを持って。


    チェアに座るナツさんに近付く。


    ヤスさんを見ると。


    “言え、言え、”


    と。ニヤニヤしてる(涙)


    「あ…飲み、物です。」


    座るナツさんに屈んで。
    グラスを渡すと。


    「何?これ。」


    ナツさんもニヤニヤと。
    やりとりを聞いていたのか。


    「あ、セッ、セッ、」


    「せ?」


    「セックスオンザビー…チで、す。」


    ボソボソと言う。


    恥ずかし〜(涙)


    ナツさんはクックと笑った後、


    グラスに口を付けて。


    「カズ。…これはロングアイランドアイスティーだよ。」


    ふっとナツさんは笑った。


    「たまってんなーカズ!」


    ワハハと料理長は笑った。





    んもうヤスさん!!(怒)

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10674 / 1階層)  ちびさん
□投稿者/ つちふまず 大御所(952回)-(2005/07/03(Sun) 14:44:26)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    はいどうも(^O^)
    つちふまずです。

    良かったらHPに感想板がありますので、そちらにもお越しくださいね〜♪

    和美は書いていてとても楽しい一人です。
    今回は恋に対して前向きで、無器用な女の子が…。
    書きたかったんですが。
    いかがでしょう。

    走り回る女の子は、書いていて私も元気になれます。

    辛い恋も。
    書けばドラマになるんでしょうけれど…。

    やっぱり明るい物が、
    つちふまずは好きなので。
    皆さんが笑ってくれたら、
    つちふまずは嬉しいです。

    今後もカズを。
    応援してやってくださいね!


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10676 / 1階層)  和美のBlue 26
□投稿者/ つちふまず 大御所(953回)-(2005/07/04(Mon) 08:07:31)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「ワハハハ!」
    「キャー!!」


    お酒も回って来て。
    みんないいカンジ。


    私はというと…。
    みんなに飲まされて。


    ヘロヘロ。


    うい〜。


    「よーっし今年も禊、するぞ〜!!」


    上半身裸のヤスさんが。


    気合いだーっ!と。
    叫んでる。


    背中から腕にかけて。
    ファイアーパターンの、
    いかついタトゥー。


    おおっ来たな〜!
    とみんな大騒ぎ。


    ミソギ?


    って…なんだろ?


    「今年は…。カズ!お前だぁー!!」


    ザッザッと砂を舞い上がらせて。


    向かってくる熊…。
    間違えたヤスさん。


    えっ。


    「あ〜和美!頑張って!」


    可哀想に、と。
    みんなパーッと散ってく。


    え!?


    ……きゃあ!!


    アッと言う間に。
    ヤスさんに抱えあげられて。


    「いやー!!」


    ジタバタジタバタと。


    バシバシ叩いて見たけれど。


    アッという間に。


    波打ち際。


    ま、まさか!!


    「カズ。覚悟せい。」


    「いやいやいやー!!」


    ザブザブと。
    海に入るヤスさん。


    浜の向こう。


    ナツさんを見ると。


    クックッといつも以上に、口を抑えて笑ってる。


    「和美のミソギー!おりゃ!」


    「きゃあっ!!」


    ふわっと体が浮いた後。




    ─ザブン。


    多少加減されたのか。


    ヤスさんのほぼ真下に。


    落下。


    「ぷわっ!!」


    顔を上げると。


    「今年の夏はいい事あるぜ。」


    ニッとヤスさんは。


    全身濡れた私に。


    笑顔。



    ワッハッハと。
    浜の向こうでは。
    大爆笑。


    「んもー!ヤスさん!!」


    体を起こして。


    後ろから大きなヤスさんの背中に。


    思いっきりしがみついて、


    引っ張った。


    「うわっ!!」


    ─ザブン。


    「ふふーんだ。」


    「このやろ〜!」


    「きゃあー!!」


    真夏日だったから良かったけど。


    良かったけどさ?(涙)


    水を吸って重くなった服を引きずりながら。


    「おーカズ最高!!」


    みんな盛り上がり過ぎ。


    ふぇ〜ん(涙)


    「シャワー浴びて来いや。カズ近いんだから。」


    料理長がワッハッハと。
    豪快に笑った。


    「ふぁーい。」


    ビーサンを片手に。


    一旦おうちに戻る事になった。


    和美のミソギ……。




    いい事あるかなぁ(涙)

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10677 / 1階層)  和美のBlue 27
□投稿者/ つちふまず 大御所(954回)-(2005/07/04(Mon) 08:10:28)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    うう〜。


    ち、ちべたい。


    ペタペタと。
    上から下まで水分を含んだ体を引きずって。


    ゴーホーム。


    まぁ近いからいいけど。


    いいけどさ(涙)
    ふぇ〜ん。


    よれよれと。
    アパートの階段を上がり、


    鍵穴にキーを差し込んだ時。


    「男前。」


    下から声が聞こえた。


    え?


    下を見ると、


    トントンと。


    階段を登る…。


    外人さん。
    間違えた。


    ナツさんじゃん!


    「あ。」


    「シャワー貸して。」


    スタスタと。


    私の正面に立つ。


    「え。」


    「カズの次でいいから。」


    ひどい頭、と。
    ナツさんは長い指で。
    私の前髪を撫でた。


    「あ……はい!」


    慌てて鍵を開ける。


    シャワー?


    シャワーって!!


    「どどどどうぞ。」


    「ん。」


    ナツさんが。


    うち。


    うちにーっ!!


    パタンと閉めると。

    ナツさんはサンダルを脱いで、

    中に入って行った。


    「す、すみません散らかって…、」


    慌てて私も。


    ビーサンを脱いで、
    部屋に入ろうとすると。


    「そのまま。ゴー。」


    バスルームを指差して。


    ナツさんは口の端を持ち上げた。


    「ははは、はい!」


    また慌てて。


    バスルームへ入る。


    濡れた服を。
    最速で脱いで。


    すぐにお湯を出した。


    ちょ、


    ちょっと待って。


    変な物なかったかな…。
    部屋の中。


    ああっ!
    食べかけのピザ…。
    そのまんまだ(涙)


    トリートメントもそこそこに。


    多分8分位で、
    バスルームを出た。


    あ。


    やば。服…。


    着替えがない(涙)


    うぇ〜ん。


    バスタオルを巻いて。


    「失礼、します…。」


    自分の部屋なのに。


    無茶苦茶緊張して。
    ドアを開けると。


    わわっ!!


    ベッドに寝そべる、
    ナツさんがいた。


    何かをジッと見て。


    「あ、シャワー、どうぞ、」


    ナツさんを見ずに。


    前屈みで。


    クローゼットを開けると。


    「ん。」


    ナツさんは体を起こして。


    私の横を通り過ぎようとした時。


    「可愛いパンツ。」


    ええっ!!


    ナツさんを見ると。


    あれ、と。


    指を差した先に。


    下着干し。


    水玉のパンツが。


    そこにはあった。




    撃沈↓


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10678 / 1階層)  和美のBlue 28
□投稿者/ つちふまず 大御所(955回)-(2005/07/04(Mon) 08:13:26)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    サー、サーと。


    水が流れる音。


    「…………。」


    服を着た私。


    ベッドであぐらをかいて。


    考え中…。


    ナツさんが。


    シャワーを浴びてる。


    いやナツさんだって人間だから…汗ばんだらシャワー位。


    浴びるんだろうけど。


    うわ〜っ!!


    バタン、とベッドに横たわると。


    クンクン。


    あ。これ、


    ここに寝てたから…。


    いい匂い。
    甘いようでいて。
    柑橘系。


    あーこのまま。


    死んでも…、


    「眠いの?」


    えっ!


    顔を上げると。


    いつの間にバスルームを出たのか。


    バスタオルを頭から被って。


    黒のフレアパンツ。


    上も。黒。


    ホルターネックタイプの。
    キャミソール。


    シルバーのチェーンタイプの、ベルトをしてる。


    「あ、あれ?」


    服が違う…。


    良く見ると手に。
    白い袋があった。


    「さっぱりした。」


    化粧水、借りるよ、と。


    小さな鏡台の前に。
    ナツさんは立った。


    「は、はい。……あ。」


    背中が大胆に開いているデザイン。


    初めて見る、
    背中のタトゥー。


    「すご…い。綺麗…。」


    鏡越しにナツさんは。
    ん?と眉を上げた。


    「人魚、ですね。」


    こちらを振り返るような、
    姿勢の。
    セクシーなマーメイド。


    「ああ…これ。」


    ナツさんも背中の人魚みたいに。こちらを振り返った。


    「はい。」

    「ん。」


    とだけ言うと。
    私の隣に。


    ゆっくり近付いて。
    座った。


    わわわわ。


    「焼けたね。」


    頬の辺りを。
    長い指の腹で。


    触れられた。


    「あ、は、はい…。」


    恥ずかしくて。
    うつ向いた。


    だって凄く凄く。


    湯上がりで。


    かっこいい服で。


    全然なんだか、


    違うんだもん。


    「あの、どこか…行くんですか?」


    ナツさんの格好は。
    さながら。
    パーティー仕様。


    「うん。ちょっとね。」


    外していたフランクミューラーを。右手にした。


    「そうですか…。」


    寂しいな。


    今日は夜まで一緒に…。


    いられるかなって、


    ちょっと期待…。


    「カズ。」


    「え?」


    「カズも行くか。」


    だな、という顔。


    「ええっ!」


    「行こう。」


    ど。







    何処行くんですか??


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10687 / 1階層)  和美のBlue 29
□投稿者/ つちふまず 大御所(957回)-(2005/07/05(Tue) 08:05:53)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    夕陽に染まった。
    海岸線。


    静かに進むマセラティ。


    窓を開けていたから、
    風になびくのがわかる、
    私の髪。


    口に入った長い前髪を、頭を振って払った。


    「私です。…はい。」


    ナツさんはハンドル片手に。電話中。


    「ええ。カズ、連れて行きます。…はい。」


    相手は…ヤスさんみたい。


    それにしても。


    道路交通法なんて。
    ナツさんには。
    関係ないんだろうなぁ。


    だけどね?ナツさん。


    マセラティ。


    外車ってよくない。


    すれ違う、車、車。


    みんなこっちを見るのが。
    助手席からありありと。


    「はい、失礼します。」


    ヤスさん…。


    ニヤニヤ顔が。
    目に浮かぶ(涙)


    ナツさんはBGMの音量を。
    少し上げた。


    なんか。


    え、映画みたい…。


    感動(涙)


    「少し走るよ。」


    見るとナツさんはサングラスをしてるので、


    口の端が持ち上がるのだけ。確認出来た。


    「あの…何処に行くんですか?」


    「ん。レストラン。」


    レストラン。


    って…。


    ナツさんが言う、
    レストラン、とは?


    ガストじゃないよね…。


    「こ、こんな格好で、いいんですか?」


    私の格好。
    裾を絞れるタイプの。
    楽なカーキ色の綿パンと。


    青いタンクトップ、と。
    サンダル。


    「いい。カズらしい。」


    よ、と。
    こちらを見ながら。


    ナツさんは煙草をくわえた。


    う。


    うわわわわわ。


    まためまい、が。


    私最近こればっかり(涙)


    「どこまで、行くんですか?」


    車は海岸線から離れて。


    大きな道路へ。
    合流していく。


    「都内。」


    とだけナツさんは言った。


    都内…。


    こ、これはもしや。


    デートというやつでは。


    「お腹は空いてる?」


    「空いてます!」


    ミソギのせいで全然食べてないし(涙)


    「期待していい。」


    と言って。


    灰皿にトントン、と。
    灰を落として。


    またそれをくわえた。


    何処まで行くんだろう。


    流れて行く景色。


    静かに流れるサウンド。







    何処までも連れてって。







    なーんて言えるはずもないけど。







    大・興・奮!

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10688 / 1階層)  和美のBlue 30
□投稿者/ つちふまず 大御所(958回)-(2005/07/05(Tue) 08:09:39)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    車は高速に入り。


    チャカ・カーンが静かに響く。


    暫く沈黙だったけど。


    「カズさ。」


    ナツさんが口を開いた。


    「はい?」


    なんでしょう。


    「卒業したら、どうする?」


    あ。…進路かな。


    「ん…それ話そうと思ってました。」


    そうだ。


    ナツさんには話さなきゃ、と思ってた。


    「ん?」


    「今のお店で…働いちゃダメですか?」


    栄養士の資格を取ったら。
    フロアだけじゃなくてキッチンもやってみたい。


    「…………。」


    ナツさんは長い指を。
    頬に当てた。


    「やっぱダメ、ですか…。」


    「…いや、そうじゃない。」


    「え?」


    ナツさんを見た。


    「やりたい事、やりなさい。」


    「…………。」


    「うちに縛られる事はない。」


    学費の事…かな。


    「違います。働きたいんです。ダメですか?」


    私あのお店、
    凄く凄く。
    好きだもん。


    「そうか。」


    ナツさんはフフ、と。
    一つ笑った。


    「はい。…ふふ。」


    「ありがとう。」


    え…。


    “ありがとう”


    やだ。


    なんか凄く。


    嬉しい…。


    「頑張ります。」


    もっともっと。


    「ん。」


    ナツさんは満足したように、微笑んだ。


    「あ、ナツさん。ナツさんのお店って…、他にもあるんですよね?」


    あと二店、あるって聞いた。


    「ん。中目黒…。恵比寿。…と、鎌倉。」


    中目黒。
    お洒落っぽーい。


    「行ったみたいです。」


    どんなお店なんだろ。


    「………ん。」


    あれ。


    ナツさんの答えが。


    一瞬遅れた、ような。


    「今度ね。」


    「はい!」


    やったぁ。






    車はいつの間にか、


    高速を降りて。


    市街地へと入った。




    海とは違う。


    人の波と。


    たくさんの車。


    ナツさんは本当は。


    こっちがホームなんだよね。


    海も似合う人だけど…。




    「何処に停めるかな。」


    少しスピードダウンして。


    ナツさんはタイムズを見付けて、そこに入った。


    「到着。」


    ナツさんはすっかり暮れた回りを眺めた後。


    サングラスを外しながら、


    車を降りた。


    ビルの谷間。


    黒いセクシーな服に、


    身を包んだナツさん。


    やっぱり何処でも。







    カッコいい。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10717 / 1階層)  和美のBlue 31
□投稿者/ つちふまず 大御所(959回)-(2005/07/06(Wed) 08:19:09)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ビルの谷間から。
    一本入ると。


    そこはびっくりする位。
    古い民家が立ち並ぶ。


    下町。


    歩いていた私達の前を。
    三毛猫が横切った。


    こんな所にレストラン…。
    どんな店だろ。


    それにしても。
    ナツさん…。


    コンパスが長い!
    ひえ〜。


    少し小走りに、
    ナツさんの後に続くと。


    突然ナツさんが止まった。


    トン、と背中に。
    ぶつかってしまった。


    「…あ、すみません。」


    「ここだよ。」


    「え……。」


    これ!?


    ナツさんを見ると。
    赤いレンガの建物。


    古ぼけた電飾の、
    看板があった。


    電球が切れかけているのか。点滅してる…。


    “ブランカ”


    と。片仮名で書いてあった。



    「来て。」


    カランカランと。
    古いドアを開けた。


    店内には、


    誰もいない。


    赤茶気た革の椅子。
    明るみを抑えた照明。


    あ、南野陽子のポスター(笑)


    うん、すごく…。
    なんていうんだろ。


    古き良き、洋食屋さん。


    「いないな。」


    ナツさんはキョロキョロと、見渡すと。


    キッチンかな。
    奥から小さな人影。


    「いた。…ママ!」


    ママ!?


    ナツさんは笑顔で。


    その人影に。


    駆け寄った。


    そこには、小さな小さな。


    ─おばぁちゃんがいた。


    ナツさんを見て。
    たくさんの皺を、
    抱えた顔を。


    もっとくしゃくしゃにした。


    ナツさんはしゃがんで。


    「元気だった?」


    「…………。」


    おばぁちゃんは。


    うんうんと頷くだけで。
    言葉はなかった。


    「食べに来たよ。」


    ナツさんの目は。
    すごーくすごーく優しくて。


    まるで娘を見る母親みたいで。


    何故かすごく。
    胸がグッとなった。


    おばぁちゃんはナツさんの肩を、二、三回擦った後。


    静かに、
    ゆっくりと。
    また奥へと。
    下がって行った。



    ナツさんは振り返ると。


    「かけて。」


    そこに、と。
    促してくれた。


    「ママ、って…。」


    まさか母親じゃ、ないですよよね。


    「ああ…。」


    ナツさんはまた、懐かしい目をした後に。


    「昔、お金が無かった。いつもここで…。」


    「食べてたんですか。」


    なるほど。


    「ん。中学生の時。」


    …………。


    そうなんだ。


    でも。


    聞く事はしなかった。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10718 / 1階層)  和美のBlue 32
□投稿者/ つちふまず 大御所(960回)-(2005/07/06(Wed) 08:22:31)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    15分程して─


    おばぁちゃんは二つ。
    お皿を持って。


    私達のテーブルに。


    「わぁ……。」


    トン、と置かれたお皿には。


    デミグラスソース。


    綺麗な目玉焼き。


    人参のグラッセと。
    手作りかな?…ポテト。


    とっても美味しそうな。


    ハンバーグだった。


    「ハンバーグだぁ。」


    大好き♪


    おばぁちゃんはウンウン、と頷いた後に。


    また下がって行った。


    ハンバーグから。
    ゆらゆらと上がる湯気。


    「よだれが出てきました。」


    「ん。」


    ナツさんも目を細めた。


    おばぁちゃんは。
    今度はライスのお皿を二つ持って。再び、テーブルへ。


    「たくさんお食べ。」


    おばぁちゃんの。
    しゃがれた声。


    「はい…頂きます。」


    「頂きます。」


    二人で手を合わせて。


    ナイフとフォークを手に。


    いざ…。


    ………あれ。


    見るとナツさんは。


    手にフォークとナイフを持ったまま。


    ハンバーグを見つめていた。


    「…ナツさん?」


    どうしたんだろ。


    「あ……。いや。」


    食べよう、と。


    思い直したように。
    ハンバーグにナイフを入れた。





    「おいしーい!!」


    こんな美味しいハンバーグ。食べた事なーい!


    見るとナツさんも。


    一口一口。
    味わうように。


    笑顔で食べてた。


    「このソース、どうやって作るんでしょう…。」


    デミグラスソースが。
    とにかく特徴的で。


    「これで昔はご飯食べてた。」


    ナツさんは。
    苦笑いで。


    「何杯でも行けそうですね…。」


    見るとおばぁちゃんは。
    ニコニコしながら、


    私達が食べる姿を。
    満足そうに見てた。








    「ママ、ご馳走様。」


    ぴったり\1400。
    ナツさんは払って。


    またしゃがんでおばぁちゃんの、肩を抱いた。


    口元をモグモグしながら。
    おばぁちゃんも笑顔で。


    「ありがとね。」


    おばぁちゃんは。
    しっかりそう言った。


    「…………ん。」


    ナツさんはまた立ち上がって。


    「ご馳走様でした。」


    私が頭を下げると。
    ウンウンと笑った。


    カランカランと。


    また夜のネオンが目に飛び込む。


    ナツさんは外に出た後に。


    ブランカの外観を。







    ジッと見つめてた。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10720 / 1階層)  和美のBlue 33
□投稿者/ つちふまず 大御所(961回)-(2005/07/06(Wed) 08:28:14)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    見上げる顔が。


    彫りの深い横顔が…。
    何て言うのかな。


    “思わず抱き締めたくなる”


    顔。


    図々しいかなぁ。


    だって…。
    切ない顔なんだもん。


    「閉店なんだ。」


    え?


    「…………。」


    「今日で店じまい。」


    ナツさんは。


    フッと消えた電飾を。


    長い指でそっと撫でた。


    「そうなんですか…。」


    確かに、
    おばぁちゃん…。
    待ってたみたいだった。


    「………。」


    「食べれて良かったです。」


    とってもとっても。


    美味しいハンバーグ。


    「行こうか。」


    「…はい。」



    ビルの谷間を。
    また二人で歩く。


    長いコンパス。


    すぐに差がつく。


    あ…。


    ナツさんの背中の、人魚。


    泣いてるみたいに、


    見えたのは。









    眩しすぎる街の、
    せいだったのかな。









    帰りの車中─


    今までのドキドキは。


    ちょっと変化していた。


    私を包むのは。


    心から一緒にいたいと。
    思える人が。


    側にいる、安心感。


    暖かい何かが。
    産まれてて。


    隣のナツさんは。


    何も言わずに。


    タバコをくわえて。


    ほんの少し開いた窓から入る、風に前髪が揺れていた。


    「カズ。それ。」


    ナツさんは後部座席を。
    親指で差した。


    「はい?」


    取ってって事かな。


    振り返って。


    CDがたくさん入った、ケースを取った。


    「好きなのかけて。」


    「はい。」


    ペラペラと捲ると。


    ボサノバ、


    レゲエ、


    ラテン…。


    「ダイアナロス、ない?」


    「え。」


    「違った?」


    いつもかけるから、と。
    ナツさん。


    うん。


    好き。



    ……すごく。






    私。




    「……好きです。」




    「…………。」




    「すごく。」







    手を止めて。


    ナツさんを見た。


    ナツさんは変わらずに。


    左手でタバコを持ったまま。


    前を見ていた。




    ナツさん。









    「…一番後ろ。」


    「え?」


    「ダイアナロス。」


    「……あ。はい。」




    ペラペラとめくると。


    手書きのCDR。


    ダイアナロス、と。
    筆記体の綺麗な文字。


    オーディオにセットすると。





    切ないダイアナの声が。





    聞こえて来た。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10741 / 1階層)  和美のBlue 34
□投稿者/ つちふまず 大御所(963回)-(2005/07/07(Thu) 08:52:31)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    帰って来た頃には。
    もう日付を回っていて。


    「すみません。」


    「ん?」


    遠いのに…。


    「送って貰っちゃって。」


    「大丈夫。」


    アパートの前に。


    車は停まった。


    サイドブレーキを引いた瞬間。


    「泊まるから。」


    珍しく。
    少し大きな声。


    え?


    何、今なん…、


    「泊めて。」


    こちらを見て。


    ナツさんは真っ直ぐに。


    私を見た。


    「……………。」


    見つめる、目。


    おばぁちゃんを見てた時と。


    ちょっと違う。


    なんだろう。


    艶が、ある。みたいな。


    「…え、……あ。」


    そんな目で。


    見ないでナツさん。


    見れない。


    「駄目?」


    甘い声に。


    顔を上げると。


    微笑むナツさんがいた。


    「…………。」


    プルプルと。


    頭を左右に。


    私は振った。





    「どうぞ。」


    「ん。」


    部屋に入ると。


    ドキドキ復活。


    でも不思議。


    “一日一緒”


    にいると。


    親近感?


    ちょっと違うかな。


    “一体感”みたいな…。


    錯覚しちゃう。


    あ。


    でも一つ。


    問題発見。


    テレビの前のクッションに、ナツさんはちょこんと座った。


    「あの……ですね。」


    「ん?」


    何?とナツさんは見上げた。


    「あの、えっと…。」


    小さい頭を。
    ナツさんは傾げた。


    「来客用の…お布団、ない、んですよね…。」


    うちにはシングルベッドのみ。


    するとナツさんは。
    いつもの如く。


    クックッと笑った。


    「いえ!あの!床で私、寝ます!はい。」


    「一緒じゃ駄目なの。」


    ここで、と。
    ナツさんはベッドを見た。


    「いえっ、駄目、ダメじゃ、ないです、けど…。」


    「じゃ、そうしよう。」


    ナツさんは立ち上がると。


    シルバーのチェーンのベルトと。フランクミューラーを外して。


    テーブルの上に置いた。


    その足で、
    ベッドにドサ、と。


    寝転んでしまった。


    一連の動作…。


    私はただ。


    見てるだけ(涙)


    「シャワー…は。」


    「さっき浴びたからいい。」


    クア、と一つ。
    ナツさんは欠伸。


    「で、すよね…。歯、磨いてきます…。」


    トボトボと。


    バスルームへ。


    この展開…。




    急展開!?

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10742 / 1階層)  和美のBlue 35
□投稿者/ つちふまず 大御所(964回)-(2005/07/07(Thu) 09:02:22)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    電気を消して。


    ベッドに入ると。


    さすがはシングル。


    ナツさんと私。




    超近い(赤面)


    恥ずかしくて。


    背中を向けていた。


    ナツさんの寝息は。


    聞こえない位、静かで…。


    「カズ。」


    起きてた。


    …びっくりした。


    「…はい。」


    体に力が入る。


    「何でもない。」


    「………。」


    寝返りを打つような。


    気配を感じた。


    「な、なんですか。」


    思わず私も。


    体を反転させた。


    あ。


    タトゥー。


    背中を向けていたナツさんの。


    人魚が目に入って。


    見とれた。


    綺麗。


    マジマジと。


    見るのは初めてで。


    「今日はありがとう。」


    え。


    あ……。


    ナツさん…。


    優しい声。



    「……いいえ。」



    思わず私の。


    顔が緩んだ。


    それから直ぐに。


    静かな寝息が聞こえて。


    ナツさんは眠った。




    ナツさん…。


    知らなかった面。


    一杯見せてくれた。


    ありがとう。


    凄く嬉しいです。









    ……でもね?







    っていうかね。







    私眠れないし!
    眠れる訳ないじゃん!
    んも〜。

    そりゃ、ね。
    期待してなかったって言ったら、嘘になるよ?
    だってナツさん。
    100人斬り?200人斬り?
    わかんないけど…。


    手出して来ないって事は。
    やっぱダメって事?


    は〜。
    そういう対象じゃないのかな…。


    あ、だったら何で。
    キスしたの!?
    っていうか。
    この前のデザイナーさんは?


    あ〜もうわかんない。







    多分この夜は。
    ずーっとこんな感じで。







    羊なんて数える暇さえなかった。






    頑張れ私……(涙)


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10760 / 1階層)  和美のBlue 36
□投稿者/ つちふまず 大御所(965回)-(2005/07/07(Thu) 23:14:51)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    翌朝─


    眩し…。


    今日は、学校。


    起きなきゃ…。


    「いて。」


    え!?


    パッと目を開けると。


    ナツさん。


    の顔の上に。
    私の右手。


    わわわわ!


    「す、すみません!」


    慌てて手を引っ込めた。


    そうだナツさん。
    泊まったんじゃん!


    「おはよ。」


    フッと口の端を持ち上げて。


    て、照れる。


    「おはよう、ござい、ます。」


    「ん。」


    スルッとナツさんは。
    ベッドから抜けて。


    んーっと一つ。
    私の前に立って伸びをした。


    「カズ、学校?」


    「あ、はい。二限からですけど…。」


    時計を見た。
    まだ六時を過ぎた頃で。


    「そう。まだ寝てたら。」


    布団から出ない私の。
    ベッドの端にナツさんは座った。


    「いえ、起き、ます…。」


    ナツさんすぐに帰ってしまいそうだし。


    「ん。タオル借りるよ。」


    ナツさんはまた立ち上がると。バスルームへ向かった。


    仕事、だよね。


    そりゃそうだ。


    シャワーを浴びて。


    再びナツさん。


    その間に私は。


    アイスコーヒーを入れた。
    (インスタントだけど。)


    「どうぞ。」


    「ん、サンキュ。」


    見るとナツさんは。
    昨日の昼間の格好に。


    戻ってた。


    白いノースリーブに。


    全く変幻自在…。


    「あ、と。灰皿、が確か。」


    ゴソゴソと。
    竹で出来た物入れを探る。


    「煙草、どうぞ。」


    ナツさんの前にある、
    テーブルに。
    小さな灰皿を置いた。


    「さすがホール。気が効く。」


    ナツさんは満足したように、煙草を一本取り出した。


    「あ、いえ…。」


    朝から褒められちゃった♪


    私もアイスコーヒーに。
    口を付けた。





    ナツさんの朝の一服時間。


    凄くゆったりしてて。


    何だか幸せ♪




    一本吸い終わって。


    「行くよ。ありがとう。」


    長い足を伸ばして。
    ナツさんは立ち上がった。


    「いえ…。」


    玄関に向かうナツさんの背中を追って。


    「じゃ。」


    サンダルを履いたナツさん。


    「はい。気を付けて。」


    寂しい気持ちは。


    とりあえず我慢…。


    「忘れてた。」


    パチンと指を鳴らせて。


    ナツさんはまたこちらを見た。


    「え。」


    「久しぶりだから。」




    はい?


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10761 / 1階層)  和美のBlue 37
□投稿者/ つちふまず 大御所(966回)-(2005/07/07(Thu) 23:22:57)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    忘れてた?


    久しぶり?


    何が?


    すると─


    私の右手を取って。
    いつかみたいに。


    スッと胸の中に。
    収まった。


    訂正。


    抱き寄せられた。


    わわわわわ。


    と思ったら。


    頬に手を沿えられて。


    ナツさんの顔が超近い…。


    訂正。


    キス、


    「目、いつも開けてるの。」


    じゃなかった。
    寸止めで言われた。


    「だって…突然、なんだもん。」


    ひゃ〜。
    顔が熱い(涙)


    「……ふっ。」


    口角が上がるのが。
    いつもより近くで見えて。


    目を閉じた。


    と同時に。


    ちゃんと唇が合わさった。





    今回は、
    目を瞑るだけの間が。


    私には与えられたから。




    「…………。」




    私からも。


    ぎこちないけど。


    唇を動かして。


    ゆっくり。
    ナツさんを求めた。


    うちのシャンプーの匂いと。


    ナツさんの服に付いた。
    香水の残り香。


    あいまって。


    ナツさんは私の唇の動きに合わせてくれてるみたい。


    上唇から。


    下唇。


    の間から、


    感じる舌。



    「………ふ。」



    膝が…。


    震えちゃうよ。


    知ってか知らずか。


    ナツさんは。
    私の背中に手を回して。


    しっかり支えてくれた。


    胸から下が。


    熱いものに覆われるような。


    感覚。







    先に唇を離したのは。
    ナツさんで。


    「じゃ。」


    それだけ言うと。


    ナツさんはとびっきり。
    優しい顔で微笑んでくれた。


    「あ、は、はい…。」


    アッと言う間に現実。
    同時に来る恥じらい。


    慌ててナツさんの体から離れた。


    でも。
    今日は。


    「ナツさん…。」


    ナツさんの背中に。


    “私の事…どう思ってるんですか?”


    「私の…事。」


    言おう。


    「どう……。」


    「カズ。」


    え。


    顔を上げた。


    振り返っていた、
    ナツさんは。
    まだ優しい目を。


    してくれていた。


    「私も好きだよ。」


    ……え。


    あ。


    今、なん、て


    「ダイアナロス。」


    もう一度私の頬に触れて。


    チュッと軽く。


    私の頬にキスをした後。


    「じゃ。土曜に。」


    ナツさんはパタンと。


    ドアを閉めて。


    帰って行った。







    へなへな、ペタン。


    擬音語です。


    玄関に一人。






    呆然。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10762 / 1階層)  つちよりみなさまへ
□投稿者/ つちふまず 大御所(967回)-(2005/07/07(Thu) 23:27:20)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    2005/07/07(Thu) 23:28:56 編集(投稿者)

    ぶちゅ〜♪

    きゃっ失礼しました(^O^)

    連日更新かけて参りましたが、金土日おやすみしまーす☆

    なので七夕の夜。
    久しぶりに夜に更新しときました。

    明日は分刻みのスケジュールで、彼女の所へダイビング(>_<)

    月曜日にお会いしましょう。

    ※感想等、HPまでよろしくですのん!!

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10803 / 1階層)  和美のBlue 38
□投稿者/ つちふまず 大御所(968回)-(2005/07/11(Mon) 08:07:11)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    水曜日─


    暑かった月曜日から一転。


    梅雨に逆戻り…。


    学校から帰り、ポツポツと小降りになった雨を見て。


    梅雨明けはまだ先かなぁと、一つ溜め息を着いた。


    時間はまだ18時前なのに。
    外はすっかり暗くて。


    部屋の中に干していた洗濯物をたたんで、クローゼットにしまった。


    あれからナツさんとは、特に連絡を取っていない。


    朝の電車。
    学校での実習中。
    帰りの電車。
    夜のテレビ。


    思い出してはニヤニヤと。


    …ちょっと気持ち悪いかな。


    恋をすると不思議な物で。


    例えば電車から眺める、
    広い車道に。


    赤いアルファロメオが視界に入ると、ナツさんが乗っているんじゃないかと。


    目で追ってしまったり。


    目の前にどんなに綺麗な人が座っても。


    ナツさんの方が綺麗だな、と。比べてしまったり。


    テレビでラーメン特集が流れた時は。


    ネギミソチャーシューの味を思い出したりして。


    多分私の五感の持つ全てが、ナツさんに関連づけようとしてる。


    思い出さない時はない。


    改めて私は。


    人を好きになったと実感出来る。


    「……さて、と。」


    夕飯、の前に。


    今日は行きたい所があった。


    外を見ると。


    雨は止んでいて。


    束の間かもしれないから、


    「今がチャンスかなぁ。」


    自転車の鍵を取り。


    アパートを出た。





    私の住む鎌倉は。


    歴史と文化は深い土地である事はもちろんの事。


    割とお金を持っている都会人が移り住む、ちょっとした別荘地としても、人気のある場所で。


    良く考えたら凄い場所で、一人暮らしさせてもらってる。


    自転車を飛ばして、
    海沿いを走った。


    雨上がりの生温さと、潮風が混じって。


    湿気の高さを感じる。


    由比ヶ浜から、稲村ヶ崎。
    七里ヶ浜から、腰越へ。


    自転車でおよそ。
    15分もかからない位。


    江ノ島が大きくなった頃。


    私はそのお店の前で止めた。


    「こんにちは〜。」


    客は見当たらない。雨上がりを狙って良かった。


    混んでたら迷惑だしね。


    ウォン!と。
    奥から慣れた声。


    「やっほージュニア。」


    ラブラドールのジュニアの頭を撫でると。


    ふんふんと私のTシャツのお腹の辺りの匂いをかいだ。


    「あ、いらっしゃい。」


    トン、と奥から。
    店長さんが出てきてくれた。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10804 / 1階層)  和美のBlue 39
□投稿者/ つちふまず 大御所(969回)-(2005/07/11(Mon) 08:10:53)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    私の趣味は。とは言っても結構忙しいから…。


    あまり行けないんだけど。


    「ジュニアにおみやげ。」


    はい、と。“籠せい”のちくわを渡すと。


    「ふがふがふが。」


    夢中で食べてる。
    ふふっ。


    「ありがとう。今日は学校は?」


    もう終わり?
    と店長は小さく幾重にも三編みにされた長い髪に手を触れた。


    「やっと試験が終わったんで〜。真っ先に来ました。」


    「そっかそっか〜。板の具合いはどう?」


    「いいです♪今日はそのお礼で。」


    鳩サブレを店長さんに渡すと。


    「わお♪大好きこれ。」


    嬉しい〜と。
    真っ黒に焼けた顔から、
    白い歯が見えた。


    サーフィンを始めたのは。
    実はヤスさんの影響で。


    ヤスさんと店長さんは、かなり前からの波乗り仲間だったらしい。


    去年、オープンした際に。ヤスさんはお店の売り上げに貢献する意味もあって。


    私に板を買ってくれた。


    『お前は現金ボーナスないからな!これはその代わり!ウハハハ!!』


    と問答無用だったんだけど。


    後から値段を聞いて、本当にびっくりしちゃった。


    どうやら私の板は。


    ちゃんと私の身長や体重に合わせてカスタムメイドしてくれたロングボードだったらしく。


    それ以来、ヤスさんの休みと、私の休みが重なる時は。


    海に行く事が多い。


    「ヤスさんこの前来たよ?」


    パリパリと店長さんは鳩サブレに口を付ける。


    「うるさくなかったですか?」


    「ふふ。ジュニアは拉致されちゃったんだよね。」


    ね?とジュニアを見ると。
    ジュニアはまだもの足りないのか。


    私の顔をジッと見た。


    「可哀想にジュニア…。」


    またウハハハ!とか言って連れ回したんだろうなぁ。


    「今日はケイさんは…いないんですか?」


    このお店には。
    実は二人店長がいて。


    その人は、ジュニアの御主人様。足が不自由なんだけど…、


    「ケイ?んーまたどっか行っちゃったんだよね…。」


    どこ行ったのやら。と。


    ケイさんはフットワークが軽い。


    ケイさんとこの店長さん…。冴子さんって言うんだけど。


    この二人は凄く仲が良くて。


    彼女達の経営するこのサーフショップは。


    すごく雰囲気がいい。


    ジュニアの効果もあるんだけど。


    女の子一人でも入れちゃう。


    すごくいいお店だと思う。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10805 / 1階層)  和美のBlue 40
□投稿者/ つちふまず 大御所(970回)-(2005/07/11(Mon) 08:14:52)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「そうそう。花火大会の日さー。和美ちゃんのとこ、まだ予約取れる?」


    ジュニアを囲んで。
    しばしの団らん。


    花火大会…。


    「まだ取れると思いますよ?」


    「本当!?良かった〜!じゃお願いします。」


    うちのお店は。
    花火大会の日だけは、
    完全予約制になる。


    目の前の海で、
    花火が上がるので。


    毎年ベスポジで見たい人達で満席になる。


    「じゃ、予約入れますね♪」


    「うん。三人ね!」


    「あれ?冴子さんとケイさんと…。あと一人は…。」


    「この子♪」


    ジュニアを見下ろした。


    あ、そうか。


    「ふふ、ですよね。」


    うちはテラス席だから。
    ペットもオッケー。


    「それより和美ちゃんさ。」


    「はい?」


    「髪切ったよね?」


    最初誰かわからなかった、と。冴子さんは目を細めて。


    「ふふ、そうなんです。」


    「何か大人っぽくなった〜。」


    「本当ですか!?」


    う、嬉しい…。


    「うんうん。すごく似合うよ。」


    「良かった〜。」


    「失恋、とかじゃないよね…。そうだったら悪いなと思って。」


    言えなかったんだけど、
    と冴子さん。


    「違いますって。ふふ。」


    「だよね。何そのふふって。」


    「いえ…ふふ。」


    「ふふっ何?何?」


    「なんでもないですー。」


    顔が緩むのがわかる。


    「教えて教えて〜。」


    ジュニアが交互に。
    私と冴子さんの顔を見て。


    頭を傾げていたのは。


    私は気付かなかったんだけど。


    ちょっと話すのはもったいないというか。


    とても恥ずかしかったので。


    笑ってごまかしちゃった(笑)







    帰り際─


    「じゃあ予約入れときますね。」


    「うん。お願い。」


    ありがとう、と。冴子さんは鳩サブレの箱を持ち上げた。


    一回頭を下げて。


    「じゃね、ジュニア。」


    バイバイと手を振ると。


    ジュニアは太いシッポを、パタパタと左右に振った。


    外に出て、


    海風を一回大きく吸って。


    また私は自転車をこいで。


    帰路に着いた。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10806 / 1階層)  和美のBlue 41
□投稿者/ つちふまず 大御所(971回)-(2005/07/11(Mon) 08:18:35)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ─木曜日


    23時。お店にはもうお客さんがいなかったのを狙って。


    シャカ、シャカ。
    シャカ、シャカ。


    「おーカズ。大分慣れたな。」


    カウンターにもたれる、


    ポパイの腕。
    ファイアーパターンの、
    タトゥー。


    「ええ。ちょっとだけ。」


    シェイカーのキャップを取って。カクテルグラスに注ぐ。


    「どれどれ。」


    ヤスさんはグラスに口を付けると、一口で。


    「どうですか?」


    うまく出来たかな〜。


    ヤスさんは口の中で転がした後。ゴクンと飲み干した。


    「ん〜。バカラ?」


    「そうです。」


    「ホワイトキュラソー。もうちょい。」


    「はーい。」


    カクテルは。
    ナツさんに教わったあの夜から。少しずつ勉強して。


    今は、チャイナブルー、シーサイド、ブルーハワイ、ブルーダイキリと…、


    「なんだよ、ブルーばっかだな。」


    カクテルグラスに注がれた、いくつもの青い液体。


    「ふふ。」


    「ブルー系が好きなのか。」


    ふうんとヤスさんは。
    髭を撫でる。


    「だって綺麗なんですもん。」


    ブルーのボトルを持って。
    照明に透かして見る。


    青。


    空みたいな、海みたいな。


    カクテルならではの。


    「作ってやろう。」


    ヤスさんはカウンターの内側に入ると。


    手早くいくつかのボトルを片手で持って。冷蔵庫から勢いよく。


    レモンジュースを出した。


    「やれ〜ばでき〜るよ〜♪♪」


    クレイジーケンバンドを。
    エコーを聞かせて歌いながら。


    シャカシャカシャカシャカ。


    さすがプロ。
    あっという間に。


    トポトポトポ。


    マラスキーノチェリーを添えて。


    「出来上がり!」


    御賞味あれ、と。


    私にグラスを。


    少しだけブルー。


    口を付けると。
    ジンの香りと…。
    グリーンペパーミント?


    「おいし。何てカクテルですか?」


    「カンガルージャンプ!」


    手を胸の辺りに当てて。ヤスさんは大きな体に似合わない位、


    可愛くピョンと。
    ジャンプして見せた。


    「カンガルー♪」


    「おうよ。カズはカンガルーみたいだもんな。」


    「え?」


    「ポッケに入ってる小さいやつ。」


    「ひどい…。」


    ワハハハと。ヤスさんの笑い声。


    カンガルージャンプ。


    あの人にも。





    飲んでもらおっと。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10824 / 1階層)  和美のBlue 42
□投稿者/ つちふまず 大御所(973回)-(2005/07/12(Tue) 08:17:25)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ─土曜日。


    ナツさんの来る日。


    予定通り…。


    ドキドキ。


    でもこういう日に限って…。




    混む(涙)


    ホールを汗だくになりながら、右へ左へ…。


    「お待たせしました。」


    大皿に盛られた料理を運ぶ。


    ふう…。


    今何時だろ。


    時計を見ると、22時。


    クェッと店内のオウムが、
    一回鳴いた。


    ナツさん…。来ないな。


    どうしたんだろう…。


    事故、とかじゃないよね。
    縁起でもない…。


    プルプルと頭を振る。


    「カズ!持ってって!」


    「あ、はい!」


    ヤスさんの声に。
    またフロアを駆けた。







    日付が変わる間近に。


    ナツさんのアルファロメオ。


    到着。


    きたぁ〜♪


    ドキドキする胸。


    私の頭には。
    月曜日のキスがよぎって。


    体が熱くなった。


    好きな人が。
    現れる瞬間。



    高揚感。



    トントントン…。


    テラスを上がる、


    ナツ、さ、


    え。


    「………。」


    思わず、目を凝らした。


    ブラックのスーツ。


    手にはアタッシュケース。


    それはいつも通り。


    でも。


    違った。


    目の下に、クマ。


    ツヤのあるブラウンの髪も、水分を失っていて。


    しっかり歩いてるのにも関わらず、私には。


    今にも倒れそうに見えた。


    ナツさん…。


    「お疲れ様です。」


    すれ違い様。


    「ん。」


    間近で見ると。
    リアルに分かる。


    疲れた、顔。


    フッと一瞬見えた。


    こめかみの辺りに、


    白髪…。


    「どうし…、」


    たんですか?


    と言い切る前に。


    ナツさんは店内に入って行った。


    ふと視線の先に。


    ヤスさん。


    目が合った。


    ヤスさんもナツさんを。
    目で追った後。


    私に顔を向けて、


    “来い来い”と。


    手招き。


    急いでバーカウンターに向かうと。


    ヤスさんは手を動かしていた。



    「これ、オーナーに。」


    トン、と白色の液体。


    「あ、はい。」


    「あんまーいチャイだ。」


    持ってけ、とヤスさん。


    うん。


    やっぱりヤスさんも、
    ちゃんと気付いてた。


    「わかりました。」


    バンブートレイに乗せて、




    オーナー室へ向かった。


    何があったんだろう。






    ナツさん。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10825 / 1階層)  和美のBlue 43
□投稿者/ つちふまず 大御所(974回)-(2005/07/12(Tue) 08:22:25)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「失礼しま、す…。」


    オーナールーム。


    チャイを乗せたバンブートレイを片手に、恐る恐るドアを開いた。


    あ。


    あららら。


    また寝てる…。


    今日はフォーマルなスーツだけど、同じ体勢で。


    ナツさんは眠っていた。


    ソロソロと入り、
    テーブルにトレイを置いて。


    以前のように、
    ナツさんの側に座る。



    ナツさんの。
    疲労を抱えた顔。


    包みたいとか、
    触れたいとか、
    聞きたいとか。


    様々な動詞が頭に浮かんだけれど…。


    右手を伸ばして、
    ナツさんの柔らかい髪に。


    そっと触れてみた。


    以前のようにナツさんが、
    起きる事もなくて。


    “泥のように眠る”


    そんな感じ。


    「………。」


    こめかみの辺りに、
    触れてみる。


    やっぱりあった。
    何本かの白髪。


    元々色素の薄い人だけど…。


    マスカラはおよそ必要ないと思われる長い睫毛。


    どれくらい。


    大変なんですか。


    ナツさん。


    私は。


    私は知ることは、


    出来ないですか。


    「ん……。」


    あ。


    起きちゃったかな。


    眉間に皺を寄せて。


    イヤイヤをする子どもみたいに。頭を左右に揺らせた。


    「……風邪ひきますよ。」


    顔を寄せて、
    ナツさんの耳元で囁いた。


    ………!


    これ。


    ……やだ。


    目を反らした。


    ナツさんの首筋に、


    三つ四つの。
    紫の花びらみたいな。


    ………ハァ。


    思わず溜め息を着いた。


    そりゃ、ね。
    そういう人なのは、


    知ってるけど、さ。


    スパンコールがあしらわれた、カットソーでは。


    キスマークは隠せてない。


    私の家に、
    ナツさんが泊まったのは。


    月曜日。


    今日は土曜日。


    火・水・木・金…。


    四日間。


    誰と。


    何処で。


    何人。


    …抱いたんだろ。




    穏やかに眠るナツさんとは、裏腹に。


    私の心には。


    言いようのない、
    花を握り潰したような。


    水分の無い気持ちが。
    産まれてた。


    がっかり?


    違う。


    認識したから。


    この人は、


    「大人」


    ただそれだけの事。




    薄いブランケットを、
    ナツさんにかけて。



    私はオーナールームを出た。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10826 / 1階層)  和美のBlue 44
□投稿者/ つちふまず 大御所(975回)-(2005/07/12(Tue) 08:28:07)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「どうだ?」


    オーナールームから。
    出たらすぐに。


    太い腕を組んだ、
    ヤスさんがいた。


    「…眠ってます。」


    なんとなく。
    ヤスさんの顔は見れなくて。


    「そうか。」


    ヤスさんが溜め息を着く、気配だけが感じ取れた。


    「疲れてる…みたいです。」


    見た目にもわかる位。


    「中目黒の店が…ヤバイみたいなんだよな。」


    中目黒。


    「ヤバイ?」


    顔を上げてヤスさんを見た。


    「うん。元々競争が激しい土地だけど…。」


    「売り上げが厳しいって事ですか?」


    そんな感じはしなかったけど…。


    「いや、大手のカフェが狙ってたみたいなんだよな、店の土地。」


    「………。」


    そうなんだ。


    「オーナー的には、プラマイ、いや逆にプラスになる話だろうけどな。店で働く従業員には…。」


    「クビになっちゃうんですか?」


    「リストラせざるを得ないだろうなぁ。続けても…潰されちまうよ。」


    うーんとヤスさんは、
    髭を撫でた。


    「何か…大変なんですね。」


    土地とかお金とか。
    全然分かんない。


    「ゲームになりきれないんだろう。」


    ヤスさんはニッと笑うと。
    頬に深い皺が出来た。


    「オープンさせる時よりも、引き際が肝心なんだよ。経営ってのは。」


    「ふーん。」




    …………あ。


    一つの関連性に。


    気付いた。


    おばぁちゃん。


    ブランカの閉店日。


    ナツさんが。


    行った理由。


    あの時のナツさんは。


    もしかしたらすでに。


    自分のお店をたたむ事。


    決めてたのかもしれない。


    「…………。」


    ナツさん。




    「カズ?」


    「あ…すみません。」


    もしかしたら。


    ナツさんは私が思う以上に。


    「とりあえずクローズの準備するか。」


    ヤスさんは、
    静かにホールへ入って行った。


    「はい。」


    一回オーナールームを見て。


    それからホールに入った。







    私が思う以上に。


    本当は…。




    大人で。


    ううんそれはわかってる。


    一県に一人。


    そうかもしれない。


    お金儲けとか、事業とか、そこに絡む裏切りとか。


    全然わかんないけど。



    でも。


    本当は。




    「…………。」



    思い浮かばなかった。


    それだけナツさんの、


    首元のキスマークは。


    威力がありすぎた。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10878 / 1階層)  和美のBlue 45
□投稿者/ つちふまず 大御所(976回)-(2005/07/13(Wed) 10:12:18)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    それから二週間。


    ナツさんはお店には現れなかった。


    ヤスさんの話では。


    中目黒のお店に勤める社員さんの、再就職先を探す為に。


    毎日走り回っていたらしく。


    閉店させるまでにはかなり揉めたらしい。


    土曜日─


    暑い暑い熱帯夜。


    お客さんの入りはそこまで多くなかった。




    ヤスさんから中目黒の話を聞いていた時。


    「きついよなぁ。でもさすがだよ。」




    ヤスさんは。
    ナツさんを。


    オーナーとして凄く凄く認めてる。





    ヤスさんは見た目、
    ちょっと(かなり)怖い感じの人なんだけど。


    金髪だし。
    モヒカンだし。
    背中から腕まで、タトゥーだし。乗ってる車は、
    インパラだし。


    あ、そうだ。


    「そういえばヤスさんって何歳なんですか?」


    空いている店内を見渡しながら。聞いてみた。


    「俺?よんじゅーご。」


    45!?


    気持ちは20歳だけどな、と。


    ワッハッハと笑った。


    み、見えない…。


    「そうだヤスさん。」


    「なんだ和美。」


    私は。


    ある事を考えていて。


    でもヤスさんの協力が、


    ちょっと必要。


    だから思い切って、




    「ナツさんちって何処ですか?」


    見上げながら聞いた。


    「…………。」


    鼻の下を伸ばした後。


    ヤスさんはニッと。


    笑った。


    「な、なんですか。」


    「いやいや。」


    オーナーは、確か…、と。
    言いながら。


    ヤスさんはホールから、一旦消えて行った。


    やっぱり。
    笑われた(赤面)


    わかってたけどさ、


    でも…。


    心配なんだもん。


    ちっともバイト、


    集中出来ないし。


    「あったあった。」


    メモ用紙を片手に。


    ヤスさんがまた現れた。


    「港区…、六本木、ったく金持ってるよなー。」


    ほら、と。


    その紙を渡された。


    六本木…。


    まさかヒルズ族?


    んなわけないか。


    紙に書かれた住所を見つめた。


    ナツさん。


    行っちゃうからね。




    「ミソギが…効くかな…。」


    「え?」


    ヤスさんはふんふんふーんと。鼻唄を歌いながら去って行った。


    そのメロディは。


    やっぱり、


    ヤスさんの好きな。


    クレイジーケンバンドだった。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10880 / 1階層)  和美のBlue 46
□投稿者/ つちふまず 大御所(977回)-(2005/07/13(Wed) 10:16:36)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    夜の六本木─


    ここ…かなぁ。


    うわっ!


    た、たかい(汗)


    てっぺんが見えない、
    そのマンションを見上げた。


    すぐ近くに、
    六本木ヒルズ。


    ヒルズ族じゃないのは、
    安心したけど…。


    でもこれ、ちょっと。
    入りにくいよ〜(涙)


    鎌倉とは違って。
    周りを見渡すと。
    たくさんの人、車。


    浦島太郎気分で。


    恐る恐る、
    タワーマンションに入った。


    ピンポン、は…。


    あれかな。


    壁に埋め込まれた、
    四角いそれに。


    近付いて。


    「2207」と、ゆっくり押して、呼び出しのボタンを押した。


    ピーンポーン


    うちのチャイムとは違う、
    上品な音。





    …………。


    いない、かな。


    時計を見た。
    20時…。


    まだ外かな。


    もう一度。


    ピーンポーン





    ………。




    うーん(涙)
    いないかぁ。


    残念。




    背後にブーンと。
    自動ドアが開いた気配。


    慌ててその場を、
    離れようとして。


    「あ、すみません。」


    入って来る人の、
    行く手を阻んでしまった。


    右にずれると。
    その人も右にずれたので。


    と思ったら。


    左にずれると、
    何故かその人も左。


    あらら。


    顔を上げると。



    彫りの深い顔。


    「…………あ。」


    「ん。」




    ナツ、さん。


    ひぇ〜!!


    見るとナツさんは。
    やつれた顔は。
    少し良くなっていて。


    それでもやっぱり。


    こめかみの白髪が見えた。


    「こん、ばんわ…。」


    恥ずかしすぎて。
    顔が見れない。


    「学校帰り?」


    見上げるとナツさんは。
    私の胸に抱えていた、
    クリアケースを見つめた。


    「あ、はい。」
    「そう。おいで。」


    え。


    ナツさんは持っていた、ヴィトンのキャンパス地のバッグから。


    キーケースを取り出して、


    正面ドアの鍵穴に差し込んだ。


    わわわわ。


    スタスタと、
    歩いて行ってしまうナツさん。


    慌てて追い掛ける。


    エレベーターのボタンを、
    ポンと押すと、


    すぐに扉が開いた。


    二人で乗り込む。


    「………。」
    「………。」


    う、
    うわわわ。


    うつ向くだけの、私。


    何せ会うのは、


    二週間と、三日ぶり…。


    ドキドキする。




    心拍数と共に。




    エレベーターも上昇。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10882 / 1階層)  和美のBlue 47
□投稿者/ つちふまず 大御所(979回)-(2005/07/13(Wed) 10:31:18)
    2207、の意味が。
    わかりました。


    22階って事ですね(汗)


    「上がって。」


    静かなフロアの中で、
    上等そうなドアを。


    ナツさんは開けた。


    「お、じゃまします…。」


    一万円弱の、
    私のミュールが。
    全然似合わない玄関で。


    ナツさんは電気を付けながら、中へと入って行った。


    私もゆっくり、
    中へと入る。


    う、わ。


    「……………。」


    マンションって。
    違うよ…。


    ここはマンションじゃなくて。


    展望台。


    壁1面に大きな窓。


    パノラマの夜景が見えた。


    「かけて。」



    ナツさんはいつの間にか、
    荷物をリビングに置いて。


    キッチンへと向かっていた。


    すご…い。
    こんな所に、一人で?


    広すぎるリビング。
    もちろん家具の一つ一つが。


    モダンで。
    シャープで。


    大きな液晶のテレビ。


    計算された配置。


    絶対フカフカだろうなと、
    想像出来るソファに。


    キョロキョロしながら座った。




    夜景がきれい…。


    目の前に、
    六本木ヒルズ。


    ちょっと先に。


    恵比寿?
    ガーデンプレイスかな?


    って事はこっちが渋谷で、


    あ、東京タワー?


    夢中になって。
    見ていると。


    「はい。」
    「あ、すみません…。」


    冷えたタンブラー。


    アイスティーを持って、
    ナツさんは隣に座った。


    「ふー。」


    背もたれに深く腰かけて。
    頭をだらんと。


    ナツさんは上を見た。


    「だ、大丈夫、ですか。」


    うまく言えない(涙)


    ん、とナツさんは。
    頭を起こして。


    「疲れた。」


    固い顔で言った後に。
    すぐに口の端を持ち上げた。


    今日のナツさんは。
    ストライプのパンツに、
    シャツをインしたスタイル。


    素敵だけど、


    首筋は、見えない。


    見たくない。


    目を反らした。


    だってもし見えたら。


    私は多分。


    多分……。



    今更だけど。


    ここに来てしまった事が、すごく意味のない事に思えて。



    ヤスさんにクレイジーケンバンド、歌ってもらいたかった。


    やればできる。
    出来るよやればって。






    「変な顔。」


    「え?」


    我に返って隣を見ると。
    深く腰掛けたナツさんが、


    こちらを見て、クックッと。またいつもの笑い方。


    でもちょっと。









    寂しい笑い方に見えた。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10883 / 1階層)  和美のBlue 48
□投稿者/ つちふまず 大御所(980回)-(2005/07/13(Wed) 10:36:36)
    「無理、しないでください。」


    タンブラーを見ながら、私が言うと。


    「ん。」


    ナツさんはそれだけ。


    「…………。」


    それ以上は言えない。
    何て言っていいのか、


    わかんない。


    ナツさんは無口だから。
    絶対に、


    “なんで来たの?”


    とは、言わない。


    「ここから見ると…。」


    「…え?」


    隣を見た。
    ナツさんは目を細めて。
    でも口は笑ってなくて。


    「人は見えないね。小さすぎて。」


    ふう、と一つ。
    息が漏れたような。


    「そう、ですね…。」


    どんな意味なんだろう。


    大した意味は、
    含まれてないのかな。


    「多すぎる、人が。」


    フン、と。
    鼻で笑うような。


    「鎌倉とは…。」


    ん?とナツさんが。
    私の方を見たので。


    「あ、鎌倉とは…違うなって。ここまで来るのに、本当迷いました。日比谷線と大江戸線、どっち乗ればいいか分からなくて。」


    「………ふ。」


    何言ってんだろ。
    んも〜(涙)
    田舎っぷりアピールして、
    どうすんの…。


    「あ、でも私。あそこ、行った事あります。」


    窓の向こうを。
    指差すと。


    「ん?」


    「恵比寿の。ガーンプレイス。クリスマス…だったかな。」


    「そう…誰と?」


    「その時は…彼、…。」


    彼氏とだったっけ(汗)
    わわわわ。
    過去自慢してどーすんの〜。


    「彼氏と行ったの。」


    「あ…はい。今は何をしてるか、全く知らない、ですけど。」


    本当に知らない。


    「そう…。あそこで、いい事してるかもよ?」


    ナツさんは遠くに見える、高いタワーを指差した。


    「え?なんですか?」


    「新しく出来たホテル。」


    「…………。」


    「ふっ。」


    ナツさんを見た。


    何と無く。


    わかったのは。


    “投遣り”な。


    感じがして。


    すごく寂しくなった。


    今のナツさんは。


    私が知ってるナツさんとは。ちょっと違う気がする。




    目の前に見える、
    東京の景色のせいなのか。









    私にはわからなかった。


    「カズ。」


    「は、はい。」


    びっくりした。


    ナツさんは私に、
    体を向きなおすと。


    手に持っていたタンブラーを抜いて、


    テーブルにトン、と置いた。


    ゆっくりした動作はそこまでで。


    突然ナツさんは強引に。


    私を抱き寄せた。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10898 / 1階層)  和美のBlue 49
□投稿者/ つちふまず 大御所(982回)-(2005/07/14(Thu) 08:41:19)
    あ……。


    抱き寄せられて。
    ナツさんの胸。


    背中に回された、手。
    撫でられるように。
    確かめるように。


    首筋に、
    ナツさんの息。


    チュ、チュッと。


    唇を当てられる、音。


    う、わ。


    あ………。


    ナツさんの髪が。
    私の鼻をくすぐる。




    ゆっくりソファに。
    押し倒された。


    また首筋から、鎖骨にかけて。


    また音を立てて。


    ナツさんの唇が弾む。


    埋められる、小さな頭。


    「んっ。」


    刺激。


    ナツさんの唇。


    音がしなくなったら。


    今度は。


    暖かい感触。


    舌、が。


    這う。


    ああ。



    「ん、ん……。」


    目を瞑って。


    身を任せていると、


    ナツさんの唇が。


    今度は私の唇に。


    「ん、……っ、……。」


    絡む舌。


    ん…。


    唇が離れる。


    私のノースリーブのシャツのボタンが、外れる感覚。


    一つ、


    一つ…。


    目を開けた。


    ナツさんは。
    怖い位。
    真剣な目。


    何かにとりつかれてるみたい。


    ボタンに手をかけて。


    かけて……。



    角度がよく、なかった。


    ナツさんの首筋。


    見える。


    この前と同じ。


    同じ濃さで。


    首筋に、残ってた。


    日は経ってるのに、


    同じ濃さ。


    新しく付けられた物だと。


    すぐに認識した。


    …………。


    左を見た。


    大きなガラスに映る、


    横たわった私の上に。


    胸を愛撫する……。


    「……っ、あっ!」


    生肌に。


    ナツさんの長い指。


    強い刺激に。


    また夢の中へと。


    戻される。


    せわしなく動く手。


    私の荒い息。


    ナツさん。





    私は。


    左を見た。


    シャツがはだけて、


    ブラが外されて、


    胸を口に含む。


    愛しい人。


    見なくていい。
    見なければ、


    首筋の跡なんて。




    い、や。


    ダメ。


    「いや………。」


    ナツさん。


    「いや……。」


    好きなのに。


    好きだから、


    会いに来たのに。


    「いやぁ!!」


    いやだよ、ナツさん。


    私は、出来ないよ。


    「…………。」


    顔を上げた、ナツさん。


    驚いた瞳。


    「………。」


    「やめて……。」


    私の顔には。







    涙が伝ってた。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10899 / 1階層)  和美のBlue 50
□投稿者/ つちふまず 大御所(983回)-(2005/07/14(Thu) 08:44:10)
    「いやです…。」


    私は。
    あなたが好きなの。


    「…………。」


    でも、
    大勢の一人は…。


    ダメなの。
    身を任せれば、


    「……ごめんなさい。」


    それなりに、
    満足出来る事は。


    なんとなくわかる。



    「抱かれに来たんじゃないの?」


    …………。



    そんな。


    体を起こしてナツさんを見た。


    ………。


    見なければ、良かった。


    知らない、顔だった。


    人間は多分。
    こういう時、


    こんな顔をするんだと思う。


    “つまらない”


    ………時。


    「帰ります、ね。」


    立ち上がって。
    ソファの後ろに回る。



    ナツさんの声は、しない。



    足を止めて。
    目を瞑った。


    噛んだ唇のすぐ近くを、
    涙が流れて。


    広いリビングを、
    また歩く。



    玄関で─



    ミュールに足をかけた時。
    もう一度振り返ると。


    ナツさんが。
    その顔のまま。


    壁にもたれて立っていた。


    「………。」


    何も言えない。


    「手を出すつもりは、なかったんだけどね。」


    見るとナツさんは。
    まくったシャツの腕を、
    組んでいて。


    「…やめて下さい。」


    そんな事、
    言われたくない。


    「結構可愛くなったから。」


    油断した、と。
    ナツさんは笑った。


    「…………嘘。」


    見たくなかった。
    わかってたけど。


    知りたくはなかった。


    「でも寂しそうな顔してたから。」


    ついね、と。


    ………いや。


    ナツさん。


    嫌だよ。


    ボロボロと。
    涙が流れてくのが、
    わかる。


    「あなたじゃない…。」


    何言ってんだろ、私。


    「………?」


    「寂しいのはあなたでしょ…?」


    「………。」


    「…一人じゃ乗り越えられないくせに。」


    多分私は。
    あまりよくない目つきで。


    ナツさんを見たと思う。


    「………ふ。」


    クックッと。
    いつものように。


    ナツさんは口を押さえて、
    笑った。


    「何がおかしいんですか?」


    全然笑う所じゃない。


    「いや…大人になったな、と思って。」


    ……?


    「……涙も綺麗になったよ。」




    もう、限界。



    振り返って。
    私はドアを開けて。
    外に出た。





    上等なドアは、あまり。







    音がしなかった。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10901 / 1階層)  和美のBlue 51
□投稿者/ つちふまず 大御所(984回)-(2005/07/14(Thu) 09:58:49)
    ガタン、ガタンと。
    必要以上に、
    揺れる電車。


    飲みすぎたサラリーマン。


    疲れたOLさん。


    いわゆる普通の、
    “世間”に生きる人達。




    …馬鹿みたい。


    なんにも伝えないまま。
    終っちゃった。




    終電間際の、


    横須賀線。


    窓の向こうに流れる、


    ビルのない景色を。
    ただ眺めてた。



    “……カズ……”


    反芻する、
    低くて。甘い声。


    思わず目を閉じる。


    あのまま抱かれれば…。


    頭を振る。


    違う。


    私が求めてたのは。


    そんな事じゃないの。


    ただ私は。


    ナツさんが心配で…。


    ううん。


    違う、それも違う。


    抱かれたかった。


    …それは正しいよ。


    けど私は。



    あ。


    そっか。


    妙に納得出来た。


    あれだ。


    “独占欲”


    が産まれたんだ。


    そっか…。


    いつの間にか私。


    欲張りになってたんだ。


    所詮は手が届かない、
    存在だと思ってた。


    けれど。


    『ありがとう』


    少しの優しさに触れて。


    『ネギミソチャーシュー…』


    少しの意外な面を見て。


    『いつも目、開けてるの』


    気まぐれにも触れられて。





    その気になって、たんだね。


    はは。


    そうだ…。




    “〜横浜。〜横浜。”



    華やかな街並み。


    ネオンやビル達は。


    やっぱり私には、合わない。


    それと同じ。




    ナツさんは。
    私とは違い過ぎる。


    ナツさんに何が有ったかは。私にはわからない。


    “疲れちゃったんだよ。”


    明らかにあの時葉山の防波堤で、見たナツさんとは違っていた。


    精神的な何かに、ナツさんは追い込まれていたのかもしれない。


    再び女性に、手を伸ばしたのは。何か理由があったのかもしれないけれど…。







    もう、やめようかな。





    結構…頑張ったし。


    唇をまた、噛んだ。





    気を張ってないと。


    涙が溢れそうになる。


    なるべく違う事を考えたくても。


    うまく行かない。


    こういう時長い前髪は都合がいいから。


    うつ向いていよう。





    流せない涙は。


    鎌倉に着いたら、


    思いっきり解放しよう。


    泣くだけ泣いたら。







    土曜日までには。








    笑顔を取り戻そう。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10915 / 1階層)  和美のBlue 52
□投稿者/ つちふまず 大御所(986回)-(2005/07/14(Thu) 20:52:09)
    それからは─
    ナツさんと顔を合わせても。


    「お疲れ様です。」


    「ん。」


    いわゆるオーナーと、
    バイトとして。


    必要最低源のコミュニケーションのみを取り、


    ユニフォームもリニューアルされ、夏本番を迎えた。


    夏の繁忙期には。
    毎年三人ほど、
    ホールはバイトを雇う。


    今年も新しいメンツを迎えて、せわしなく仕事をこなした。


    ナツさんもこの時期は、
    土曜日だけでなく。
    木曜日や日曜日にも現れる。


    中目黒をクローズさせた事は、鎌倉へ足を運ぶ時間が前よりも出来たのか。


    言葉を交しにくい私にしてみれば微妙だった。


    それでも。
    中目黒が閉店してから。


    少しナツさんは変わった。


    あの時見た白髪は、もう綺麗なブラウンに変わったけれど。


    より一層、


    はっきり言ってしまうと。


    厳しい人になった。


    もっと笑わなくなった。


    言葉を発しなくなった。


    テラスから海を眺める姿が、


    多くなった。


    ヤスさんが言うには。


    「何だか戻っちまったな。」


    らしい。


    ナツさんの過去は、


    想像もつかなければ、


    ほとんど知らない。


    けれど。


    一時期ナツさんと、
    近い距離にあった事。


    何だか嘘みたいに見えた。






    「カズちゃん、カズちゃん。」


    金曜日のクローズ前。


    食器を片付けていた、
    私の背中に。


    「ん、何?」


    臨時バイトで雇われている、希ちゃんに声をかけられた。


    希(ノゾミ)ちゃんは女子大生。以前から良く、うちのお店に食べに来てくれていたらしい。


    長い髪と。
    方エクボが特徴的。ナツさんとまでは行かなくても、背が高い。


    「今日オーナーってラストまでかなぁ。」


    希ちゃんは。
    テラスのオウムに餌をやっている、ナツさんを見た。


    「ん…どうだろうね。」


    さほど気にせずに、
    手を動かした。


    「素敵。もー遊ばれたい!」


    「………。」


    頼んでみたら、と。
    心に思ったけど。


    口にはしなかった。


    「ね、カズちゃんはオーナーと話した事、あるんだよね?」


    「…少し、だけどね。」


    本当に少し、なんだろうけど。


    「ね、どういう人?」


    ね、ね、と。


    「んー。」


    「ん?」


    「どういう人、なんだろうね…。」


    わかんないや、と。





    私は苦笑いした。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / ▼[ 10928 ]
■10916 / 1階層)  和美のBlue 53
□投稿者/ つちふまず 大御所(987回)-(2005/07/14(Thu) 20:55:23)
    希ちゃんを見ていると。


    何だか少し前の、
    私を見るようで。


    「やめといた方がいいよ。」


    と、喉元まで。


    その言葉が出かけていたけれど、敢えて口にしなかった。


    そんな言葉を言う資格、
    私には無いと思っていたから。


    でも。


    ナツさんの気まぐれは、
    相変わらずだなと。


    ある日感じた。


    それは土曜日のクローズ前。


    店内には、


    あと二組ほど。


    ホールには私と、希ちゃんだけが残る形になり。


    ナツさんは。
    奥の席でノートパソコンに向かっていた。


    一組が帰ったので。


    食器を片付けようと、
    同じサイズのお皿を。
    手早く重ねていた時。


    「オーナー。」


    「ん?」


    希ちゃんが、
    ナツさんを呼ぶ声がした。


    私はさほど。
    気にせずに手を動かした。


    「カクテル…教えて頂けませんか?」


    希ちゃんの、緊張した声。


    私の耳にハッキリ聞こえた。


    思わず手を止める。


    振り返るとナツさんは。


    あの時みたいに、


    チェアに深く腰掛けて、腕を組んでいた。


    希ちゃん、


    …多分。


    チャイナブルーから。


    教えて貰えるよ。


    良かったね。




    私はまた手を動かして。


    食器をまとめた。


    でも。


    「ごめん。…ホールに専念して。」


    ナツさんの。


    低くて甘い声。


    思わず手を止めて、


    また振り返った。


    「そうですか…。はい。」


    残念そうな、
    希ちゃん。


    ナツさんはまたパソコンに、真剣な目を向けた。




    気まぐれ、だね。


    ナツさん。


    相変わらず。




    でも。


    私は一瞬、


    喜んでしまった。





    だけど。


    そんな気持ちは、


    今の私には必要ない。


    手を動かして。


    また仕事に集中した。




    それから二日後─




    「お疲れ様〜。」


    自転車に乗る、希ちゃんに声をかけて。


    店を後にしようとした時。


    ファン、ファン、と。


    派手なクラクション。


    「カズ!乗れや!」


    大きくて、


    いかつい。


    ヤスさんのインパラが。







    私の真横に停車した。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10916 ] / 返信無し
■10928 / 2階層)  NO TITLE
□投稿者/ 由兎魔 一般♪(28回)-(2005/07/15(Fri) 00:21:39)
    続きがメッチャ気になります!!カズはナツさんとどうなっていくんでしょうか〜??新しくバイトに来た希ちゃんがひょっとしたらくせ者になってしまうんでしょうか??気になって仕方ありません。。。続き待ってますんで頑張ってさいね♪♪

[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10935 / 1階層)  和美のBlue 54
□投稿者/ つちふまず 大御所(988回)-(2005/07/15(Fri) 08:03:41)
    ヤスさんのインパラの。


    車中で。


    「んもーヤスさんボリューム下げていいですか?」


    ガンガン流れる、
    ボブマーリー。


    近所迷惑上等の、
    大音量。


    「ワハハ!うるさいか?」


    スマンスマンと。
    ヤスさんは音量を下げた。


    “軽く飯でも食おうや”


    無理矢理車に乗せられて。


    ヒュー、パチパチと。
    海で花火を楽しむ。


    若者を横目に見ながら、
    海沿いを走る。


    「リプテーションソ〜ング!イエ!」


    ヤスさんは夜でも…。


    元気(涙)


    リズムに体を揺らせて。


    深夜でも営業している、


    デニーズに入った。




    「おうおうこんな時間でも混んでるなぁ。」


    ガキは早く寝ろ!と。


    混んでいた駐車場を見渡して。


    「私まだ22ですけど…。」


    呆れた目で見つめると。


    「俺もまだまだガキだ。」


    ダハハ!と。


    ベンチシートの肩の辺りに、


    太い腕を乗せて、


    急旋回でバックで駐車。


    んも〜危ないなぁ(涙)



    ─店内に入って。


    「腹減ったなぁ!」


    何にしようかな、と。ヤスさんはメニューをめくる。


    深夜一時なのに。


    「ヒレカツ定ライス大盛り。」


    私はドリンクだけを、


    注文した。






    「なぁカズ。」


    もりもり、という擬音後が。ピッタリな食べっぷり。


    「なんですか?」


    レモンスカッシュのストローをくわえたままヤスさんを見る。


    「オーナーとは駄目か?」


    口いっぱいに。
    ヤスさんはご飯を入れて。


    「ど、どーいう意味ですか。」


    直球の言葉に。
    動揺。


    「ブランカに行ったろ?」


    ゴクン、と飲み込んで。
    ヤスさんは。
    優しい目を私に向けた。


    「行きましたけど…あれ、ヤスさん知ってるの?ブランカ。」


    「おう。長い付き合いだしな、オーナーは。」


    またもりもりと。


    ヒレカツを二口位で、


    食べてしまった。


    「ふーん。でも…。」


    行ったけど…。


    だから何かがある訳じゃ…。


    「お前は特別みてーだったからよ。俺、嬉しかったんだよ。」


    特別。


    「え?」




    そうは見えない。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10936 / 1階層)  和美のBlue 55
□投稿者/ つちふまず 大御所(989回)-(2005/07/15(Fri) 08:06:49)
    「あいつはさ…。あ、オーナーな?」


    「うん。」


    ズズ、とヤスさんはお味噌汁をすすった。


    「男前だろ?男の俺が言うのもなんだけどよ。」


    「ふふ、そうですね。あ、ヤスさんお漬物下さい。」


    「おう食え。…ま、昔はもっと手辺り次第だったんだよな。」


    全く羨ましい、と。
    ヤスさんは箸を置いた。


    「まぁ…モテるのは分かりますけどね。」


    「モテるどころじゃねーよ。何人店に乗り込んで来たか。」


    「え。」


    「そのたんびにあれだ、まーまーってな。俺が抑えてた。」


    は〜。
    そうなんだ。


    でもま、何と無く。


    納得。


    「でもな、いつか聞いたんだよ。どーすりゃそんなモテるのかってな?」


    ナツさんに聞いたんだ(笑)


    何かヤスさん。
    可愛いかも。


    「そしたら?」


    「それがびっくりだ。」


    「え?」


    「何にもしてないんですけどね、って言われちまった。」


    ………。


    「変わってるよなぁ。」


    「ナツさんらしい…。」


    何にもしなくったって。


    人を惹き付ける。


    それは私も、
    良く良く承知。


    「でもよ、カズは違ったみてーだからよ。」


    「え?」


    「ブランカには誘われたんだろ?」


    「ええ、まぁ…。」


    「多分ブランカは俺とオーナーしか知らないよ。」


    珍しいよ、と。
    ヤスさんは笑った。


    「…………。」


    やだ、な。


    もう期待はしたくない。


    「あいつは、基本的に人に執着しないしな。でも…。」


    「え?」


    「中目黒の件もあって、少しは失う辛さも認識したみたいだな。」


    「失う事。」


    「ああ。人も店もゲームみたいなもんだって、いつか言ってたし。」


    ゲーム。


    そんな感じはする。


    「辛かったって事は、ゲームになりきれない心も、あるんだろ。」


    ちょっとホッとするよ、と。
    ヤスさんは水を飲んだ。


    「ヤスさん。」


    「あ?」


    「私とオーナーは、違い過ぎます。」


    全部。


    持ってる物も。


    見えない物も。


    ヤスさんは、ワハハハと笑った。


    「?」


    「何が違うんだよ。」


    「え?」


    「変わらねーよ。俺から見たら。まだまだ子どもだ。」


    ガハハ、と。
    またヤスさんは笑った。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10937 / 1階層)  和美のBlue 56
□投稿者/ つちふまず 大御所(990回)-(2005/07/15(Fri) 08:10:52)
    「そりゃヤスさんから見たら…。」


    子どもかもしんないけどさ。


    ふん(涙)


    「いい事教えてやろう。」


    ニシ、とヤスさんは笑って。


    Tシャツから伸びた、タトゥーの腕を組んだ。


    「なんですか?」


    「来週の土曜日。オーナーの誕生日なんだよ。」


    「え?そうなんですか?」


    「おう。そうだ。」


    そうだったんだ…。


    「で?」


    「で?じゃねーよ。祝うの!」


    ヤスさんはポッケから。
    ガラムを取り出して、


    火を着けた。


    「パーティーでもするんですか?」


    「それはしないな。多分喜ばない。」


    ですよね…。


    苦手そうだし。


    「カズの出番だ。」


    プハーと。
    ガラム特有の甘い煙。


    「なななんで?」


    そりゃ誕生日…。


    祝ってあげたいけど、さ。


    「任せろ。」


    またニシシと。


    ヤスさんは笑った。


    「……………。」


    「ミソギの力を信じろ、うまく行くから。」


    ははは…。


    「どうするんですか?」


    「それはな…。」







    ……………。







    全てを聞いて。



    「………やる。」


    やりたい。


    「だろ?そう言うと思った。」


    ダハハ、と。
    またヤスさんは笑った。







    私の作戦。


    最終章…。


    ううん違う。


    ここからにしよう。




    もう一度、勝負に出よう。







    夏はまだ。



    始まったばかりだから。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10949 / 1階層)  和美のBlue 57
□投稿者/ つちふまず 大御所(991回)-(2005/07/15(Fri) 23:23:31)
    翌週の土曜日までに…。


    ヤスさんと連絡を取り合い、綿密に計画は進んで。


    向かえたナツさんの、
    28歳の誕生日。


    従業員にしてみれば、
    オーナーの誕生日は。


    知らせていなければあまり関係ないみたいで。


    いつも通りに、
    お店はオープンした。


    この日は混む事は予想していたのか、


    ナツさんも18時過ぎに、
    お店に現れて。


    「おはようございます。」


    「ん。」


    いつも通り。





    …でも今日は、


    ちょっと違うんだ。


    「オーナー。」


    ナツさんの背中に、
    声をかけた。


    だってあなたの。


    やっぱり好きなあなたの。


    「ん?」


    誕生日なんだもん。


    この日のナツさんは。
    夏らしいベージュのスーツ。


    「今日、予定はありますか?」


    ドキドキしながら。


    「いや、ラストまでいるよ。」


    テラスは、
    夕陽が差し込んでいたから。


    眩しそうな瞳で。


    私を見た。


    「そうですか。わかりました。」


    良かった。


    「どうして?」


    「終わったらお時間頂けますか?」


    「ん、わかった。」


    すぐに振り返って、


    ナツさんは店内へと。


    入って行った。





    ふー。


    ドキドキした…。


    何度もセリフを、
    練習したかいがあった。


    バーカウンターを見ると。


    ヤスさんがニッと。
    白い歯を見せた。


    よし。


    準備は出来てるから…。


    後は仕事をこなすだけ!






    15分後─


    ぼちぼち混んで来た。


    あ。


    ……え?


    店内を歩く、その人に。


    びっくり。


    ナツさん。


    私達と同じ、
    ユニフォーム。


    でもオーナー特注かな。
    サロンが、
    私達と違う、黒。


    しかもすごく…。
    長い。


    素敵。


    「珍しいな。」


    ヤスさんもびっくり。


    ナツさんは、
    手を挙げていたお客に。


    すぐに注文を取る動作。


    ナツさん、
    立つんだ…。


    ホールに。


    珍しい…。


    でも私と変わらない動作を、してるはずなのに。


    「かしこまりました。」


    「お待ち下さいませ。」


    プロだ。やっぱり。


    素敵。


    「どういう心境の、変化かな。」


    ヤスさんはカウンターに肘をついて、








    私を見て微笑んだ。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10950 / 1階層)  和美のBlue 58
□投稿者/ つちふまず 大御所(992回)-(2005/07/15(Fri) 23:26:22)
    pm.20:00─


    ザワザワと。
    満席状態の店内。


    「カズ、三番。」


    「は、はい。」


    ナツさんの指示。


    同じユニフォームで。


    同じ仕事。


    なんていうか、


    こんなに嬉しい事はない。


    キッチンも、バーテンも。


    これにはかなり。
    驚いたようで。


    フル回転。


    ナツさんは。


    オーダーも取るし、


    会計もするし、


    レセプションもするし、


    シェイカーも振るし、


    盛り付けもしていて、


    どれも完璧な仕事のこなし方に。


    その日入っていたどのスタッフも。


    びっくりしてた。


    やっぱりこの人がオーナーなんだと、


    改めて実感した。







    pm23:15─


    「ありがとうございました。」


    良かった…。


    最後のお客さん、
    今日中に帰ってくれた。


    これなら間に合う。


    「お疲れ様。」


    ナツさんはサロンを取ると、


    私の肩をポンと叩いて。


    キッチンに向かい、


    「お疲れ様です。」


    一人一人に。
    声を掛けてた。




    ─全部の片付けが済んで。


    「カズ。」


    ナツさんの声。


    オウムに餌をやっていた手を止める。


    キッチンもホールも、
    みんな帰ったかな。


    「あ、すみません。オーナールームにいて頂けますか?」


    「わかった。」


    ナツさんが下がるのを確認して。


    「じゃ、頑張れよ。」


    テラスの下から、


    ヤスさんの声。


    下を覗き込むと。


    ヤスさんが手を振っていた。


    「ヤスさん。ありがとう。」


    「礼はいらねえぜ。」


    ダハハと笑って、
    地下の駐車場へと。


    消えて行った。







    よし。


    やるかな。


    サロンを取りながら、


    店内を抜けて、






    キッチンへと入った。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10951 / 1階層)  和美のBlue 59
□投稿者/ つちふまず 大御所(993回)-(2005/07/15(Fri) 23:33:10)
    好きな人の。
    誕生日。


    それは多分自分の誕生日より。


    大切な日。




    ─コンコン


    「失礼します。」


    ここに入るのも…。


    結構久しぶり。
    中に入ると、


    既に着替えたナツさんは。


    ソファに座って、
    煙草を吸ってた。


    「…………。」


    ナツさんの、
    驚いた顔。




    やば。


    すっごいドキドキして来た。


    「失礼します。」


    抱えていた、
    二つのお皿。


    静かにナツさんの前に、
    並べた。


    ナツさんは。
    ジッとお皿を。


    眺めていた。


    私も隣に座り。


    「お誕生日、おめでとうございます。」


    小さく頭を下げると。


    「よく知ってるね。」


    こっちを見て、
    目を細めた。


    あ、


    すっごい優しい、目。


    ホッとした。


    「ヤスさんから聞きました。」


    ナツさんは。
    口の端を持ち上げて。


    「そうか。」


    言いながら煙草を消した。


    「食べて下さい。」


    「ん。」


    ナツさんは。


    フォークとナイフを、
    手に取ると。


    それにナイフを入れた。


    うまく…出来てるかな。


    「…………。」


    もぐもぐ、と。
    小さく口を動かして。


    「ど、どうですか?」


    やっぱりダメ、かな。


    ひーん(涙)


    「どうやって…。」


    「え。」


    「どうやって作ったの?」


    これ、と。
    ナツさんは。


    本当に驚いた顔。


    「覚えてる人がいたんです。」


    「…………。」


    「長い付き合いなんですね、ヤスさんとは。」



    “俺、ブランカで働いてたから”


    “あっそうなんですか!?”


    “おうよ。あそこのハンバーグはオーナーの好物だよ。”


    “そうだったんだ…”


    「おばぁちゃんに直接聞いた方がベストだったんでしょうけどね。」


    「…………。」


    「でもヤスさんはブランカの味をちゃんと覚えてました。」


    おいしいおいしい、


    ハンバーグ。


    デミグラスソースは、
    苦労したけど。


    「辛い時、よく、食べに行ってたんじゃないですか?」


    だからこの前も。


    「…………。」




    「私もナツさんの為に、作らせてください。」





    「………カズ。」



    「これからは。」



    凝った愛の告白かな。


    でもナツさん。


    私はあなたが辛い時。


    こんな事しか出来ないけど。









    でも私の精一杯なの。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10952 / 1階層)  和美のBlue 60
□投稿者/ つちふまず 大御所(994回)-(2005/07/15(Fri) 23:41:37)
    「…………。」


    ナイフとフォークを、
    お皿に置いて。


    ナツさんは目を伏せた。


    「いえ、そんな…、た、食べて下さい。ねっ?」


    こういう時位、
    テンパらずにいたいけど。


    できない私(涙)



    「おいしい。」



    ナツさんは満足したように、またハンバーグにナイフを入れた。


    「良かったー。」


    胸を撫で下ろした。


    「カズの分は?」


    ないの?とナツさん。


    「いえ、実は…。」


    あります。
    ちゃんと(笑)


    「ホールで食べようか。」


    「あ、はい、」


    二人同時に、
    立ち上がった瞬間。


    ブーブーと。
    携帯のバイブが鳴る音。


    ナツさんのだ。


    「ちょっと待って。」


    デスクの上にある、
    携帯を手に取る。


    私に背を向けて。


    「…もしもし。」


    “あ!ナツ!やっと繋がった〜!!”


    相手の声は、
    かなり大きいのか。


    丸聞こえ(汗)


    「何?」


    ナツさんはあくまでも、
    冷静。


    “何?じゃなくて…誕生日でしょ?今から家に…”


    「悪いけど。」


    一つ息を吸い込むような。


    そんな感じがした後、


    「今日はダメ。」


    “えー?何で?…”


    「ん…。」


    ナツさんは、


    少しの間を空けた後。


    また息を吸い込んで、



    「…今日だけじゃない。もう会わない。」




    え、


    あ。あら…。




    “ちょ、待って、なんで…”



    せっぱつまった、
    声が聞こえる。


    その瞬間。
    ナツさんは振り返った。









    「好きな子がいるから。」







    “…え?”










    「今わかったんだ。じゃ。」





    ピッとナツさんは。


    携帯を切って。


    デスクに置いた。




    今、わかった。


    …………今。




    「行こうか。」


    テーブルの上にある、


    ハンバーグのお皿に。


    手を伸ばした瞬間。





    「待ってナツさん。」



    「ん。」



    声が震えた。


    でもその腕を、遮って。







    私はナツさんの胸に、
    飛込んだ。



    「……ナツさん。」


    「ん。」


    背中に回される、手。
    少し力が籠るのがわかる。


    「……本当に?」


    首筋には。
    何も見えなかった。


    「………ん。」


    本当、と小さく。
    聞こえた瞬間。


    私の体は、







    どうしようもなく震えた。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10953 / 1階層)  和美のBlue 61
□投稿者/ つちふまず 大御所(995回)-(2005/07/15(Fri) 23:44:40)
    抱き合ったまま。



    「ハンバーグ…冷めちゃいますね。」


    「…もう少し。」



    背中に回された手に。
    もっと力が篭って。



    泣けて来そうな、
    予感がした。




    「………。あ、」




    ナツさんは首にしがみついていた、私の体を。


    スッと持ち上げて。


    ナツさんはそのまま、
    ソファに座った。


    「…………。」


    ナツさんの膝に。


    ちょこんと座る私。


    「あの………。」


    「ん?」


    「いえ、……。」


    て、


    照れる。


    改めて。


    「何?」


    ナツさんの目は。


    とっても優しい。


    「うふふ。」


    笑っちゃう。


    なんか。


    「ふっ。」


    ナツさんも。
    私の背中に手を回したまま。


    少し照れたように笑った。


    「嫌われてると、思ってた。」


    ふう、とナツさんは。


    溜め息を着いた。


    「嫌い、じゃないです…。」


    嫌いな訳ないよ。


    こんなに好きなのに。


    「カズ。」


    「はい。」


    「ごめん。」


    「え。」


    「この前。」


    どう言えばいいかな、
    とばかりに。


    ナツさんは頬を掻いた。


    ふふ。


    ナツさんてば。


    やっぱ可愛いかも。




    「いいんです。だって…。」


    「ん?」


    「……いえ。」


    だって抱かれたかったのは。本当だもの。


    言わないけど、ね。


    でも。






    「大好きです。」








    こう伝えるまでに。


    結構時間かかっちゃった。







    「カズ。」





    額と額を付け合って。


    「……はい。」


    目を瞑って。


    その空気に。


    「……カズ。」


    酔う。


    「なんですか。ふふ。」


    「………和美。」


    「ん。………んっ。」




    重なる唇から。


    漏れる気持ち。


    あなたを感じれる、


    最大限の方法。




    好き。


    すっごい好き。




    キスを交すのは。


    もう何回目だろう。




    でも今日は。


    違うよ、ナツさん。


    嬉しいキスは。


    初めてかも。


    いつも突然だったもの。








    唇を離して。




    「晩御飯に、しようか。」


    笑顔のナツさん。


    「はい。」





    私も笑顔で答えた。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10954 / 1階層)  和美のBlue 62
□投稿者/ つちふまず 大御所(996回)-(2005/07/15(Fri) 23:49:50)
    閉店後の─


    お店で。


    ライトは。


    少しの灯りでいいよね。


    音楽は。


    音量を抑えた、ダイアナロス。


    「いただきまーす!」


    「ん。」


    二人だけの。


    晩御飯。


    「ふふ、おいしー。」


    自分で作ったのに。
    我ながら、上出来。


    「そうだ、カズ。」


    「はい?」


    ナツさんはナイフとフォークを置いて。


    両肘を付いて、こちらを見た。


    優しい目が。
    ふと真剣に。


    「恵比寿も売るつもりなんだ。」


    「………え?」


    「鎌倉だけでやる。」


    鎌倉だけ、って…。


    「そう…ですか。」


    「腹を決めた。」


    「……はい。」


    「ん。だから、」


    「?」


    「ここに、いるよ。」


    え!?


    いるよって…。


    「今日、わかった。ホールに立って。」


    頭が。


    いい加減爆発しそう。


    「ランチも始めよう。カズ。」


    「え?」


    ランチ?


    「ここの客は、地元客が多い。…ランチを始めても、問題ない。」


    「ランチ…ですか。」


    うん、とナツさんは。
    大きく頷いた。


    「来年は、頼むよ。」


    ナツさんは笑顔で。
    ワインに口を付けた。


    「へ?」


    来年?


    「店長候補で頼むよ。」


    「えーっ無理ですよ!」


    そんなそんな!


    むーりー!


    「大丈夫。」


    ふっとナツさんは笑った後。


    「そうでしょ!父さん!」


    は。


    と、父さん?


    って?


    ナツさんの視線を追うと。


    バーカウンター。


    下から少しずつ。


    金髪が見えて…。


    「見付かっちゃった。ニヒ。」


    手を挙げて。


    ヤスさんが出てきた。


    「えっ!えーっ!!」


    ととと、


    父さんって!!


    「いやいや…ワッハッハ!」


    大笑いで。
    ヤスさんは。


    こちらに歩いて来た。


    「盗み聞き…全く趣味が悪い。」


    ナツさんは。
    肘を付いて。


    「おや、こ…。え?」


    二人を見て。
    私は口を開けるだけ。


    「娘の心配をして何が悪い!」


    ヤスさんは、
    ナツさんの背中を。


    ドン、と叩くと。


    「痛いって。」


    ナツさんはヤスさんを。


    思いっきり睨んだ。




    親子…。


    親子。





    全っ然信じられない!!

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10955 / 1階層)  和美のBlue 63
□投稿者/ つちふまず 大御所(997回)-(2005/07/15(Fri) 23:52:20)
    テーブルを囲む。
    三人。


    「ダハハハハ!!」


    「……静かにして。」


    「ふふっ。それにしても…びっくり。」


    ヤスさんと。
    ナツさん。


    まさか父娘だなんて…。


    「おう。内緒だぞ?父親にはならなくていいから、店長になってって言われたんだからな。」


    全くひどい娘だ、と。
    また笑った。


    「父さんに経営は無理。」


    子どもだから、と。
    ナツさんは呆れたように。


    「でも随分若いパパですよね…。」


    ナツさんとヤスさんを。
    交互に見た。


    「俺が20歳の時の子どもだからなぁ。大きくなったぜ、全く。」


    「父さんは変わらないよ。」


    フン、とナツさんは。
    ワインに口を付けた。


    普段は全然、
    そんな感じはしないのに。


    今日は父、娘。


    いいなぁなんか♪


    「恵比寿も手引くんだろ?」


    ヤスさんはタトゥーの腕を組んだ。


    あ、よく考えたら。


    タトゥーは親子揃って…。


    いかついなぁ(涙)


    「ん。そのつもり。」


    「鎌倉に越せよ!なぁカズ!」


    そーだそーだと。
    ヤスさん。


    あ、そうか。
    恵比寿がなくなれば、
    都内に住む理由も…。


    でもそんな簡単に行く訳、


    「ん、裏のマンション、買ったよ。」


    ナツさんは。
    店の裏手に、
    指を向けた。


    「おおそうか!そりゃいい!」


    めでてえなぁ!と。
    ヤスさん。


    あの。


    買った、って!?


    マンションを!?


    そんな醤油買っといたみたいな、軽いノリで…。


    買っちゃうもんなの!?


    「カズ。」


    「え、はい!」


    ヤスさんに呼ばれて、
    慌てて向き直る。


    ヤスさんはサングラスを外して、目がしらを押さえた。


    「こいつはふつつか者だが、これからは俺の事を…お父、」


    「やめて父さん。」


    バシ、と。
    ヤスさんのモヒカンが。
    縦に大きく揺れた。


    「いてえ!」


    「余計な事しないで。」


    「ぷっ!あはは。」


    ナツさん…。


    また意外な点、


    発見しちゃった(笑)


    「でもカズ、俺嬉しいぞ。」


    「え?」


    「娘が二人出来たみてーだし。父親としてこんなに幸せな事はない!!」


    「…………。」


    「…………。」


    ぷっ。


    ふふ…。


    ナツさんと二人。







    顔を見合わせて笑った。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / ▼[ 10962 ]
■10956 / 1階層)  和美のBlue 64
□投稿者/ つちふまず 大御所(998回)-(2005/07/15(Fri) 23:55:45)
    「びっくりでした…。」


    夜風が心地いい、
    帰り道。


    “送るよ。”


    ナツさんの言葉に甘えて。
    約五分程の道のりを。
    二人でゆっくりと。


    「ん…うるさい父親。」


    はぁとナツさんは。
    夜空を見上げながら、


    溜め息。


    「すっかり遅くなっちゃいましたね…。」


    今何時位なんだろう…。


    見上げるとナツさんは。
    していた時計を見ずに。


    「大丈夫。」


    前を見たまま。
    小さく呟いた。


    鎌倉の道は。
    海沿いから一本入ると。


    とっても静か。


    「…………。」


    無言だけど。


    何故か、安心。


    あ、……ふふ。


    追い付けなかったコンパス。


    今は。


    私の歩幅に合わせて、
    ゆっくり歩いてくれてる。


    シャワシャワ、と。
    虫が鳴く音。


    「ん。」


    はい、と。


    ナツさんは、
    利き手の左手を。


    差し出した。


    あ。


    これ、は。


    わわわわわ。


    ナツさんに見えないように、ゴシゴシと右手を。


    ジーンズで拭いて。


    ナツさんの左手を握った。


    あったかくて、
    大きくて長い指。


    う、嬉しい(歓喜)


    「………。」


    「ん、カズ?」


    やば。


    「……ふ、ふぇ。」


    「………どした。」


    突然、


    泣けてきた。


    立ち止まり。


    ナツさんは手を握ったまま、私に向き合った。


    ……止まんない。


    「カズ。」


    「す、すみません…、うっ。」


    収まらない。


    それ位好きで、


    ずっと夢見てた。


    叶わないものだと、


    思ってた。


    「………ですか。」


    「………カズ。」


    「私でいいんですか。」


    なんにもないよ。
    私。


    「……いいの。」


    「…………。」


    顔を上げて。
    ナツさんを見た。


    「カズがいい。」


    「う、……ふ、…っ」


    フワッと、
    抱き寄せられて。


    ナツさんにすっぽり。


    カンガルーの子どもみたいに。


    収まった。


    背中を優しく、
    さすってくれた。


    暫くして。




    「来週、引っ越すから。」




    顔を上げると。


    ナツさんは困ったように。
    でもこれは、


    照れ笑いなんだと。
    後から気付いた。






    街灯と。


    月明かりが、


    手を繋いで。


    終電が過ぎ去った、


    江ノ電の踏み切りにもたれて。









    いつまでも抱き合った。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10956 ] / 返信無し
■10962 / 2階層)  すごい!
□投稿者/ hiromi 一般♪(1回)-(2005/07/16(Sat) 01:36:02)
    ぐいぐい引き込まれて一気に読んじゃいました!今、1:30。明日早いのに(笑)素敵なお話でした♪情景がありありと浮かんできました。私の実家も湘南で、鎌倉はよく行ったから余計。葉山のマーロウあたりをイメージしてました。なんか鎌倉行きたくなりました♪また書いてくださいね!

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10982 / 1階層)  和美のBlue 65
□投稿者/ つちふまず 大御所(1000回)-(2005/07/17(Sun) 00:21:40)
    翌週─


    ナツさんの引っ越し日。


    それまではかなり忙しかったようで。


    会えずにいたから。


    どうしても手伝いたい私は。


    引っ越し先である、新築のマンションの前で。


    待っていた。


    「あっつ〜。」


    ジリジリと、
    差す太陽。


    今日も暑くなりそう…。


    あち、と。
    手をはらはら振っていると。


    赤いアルファロメオが、
    五分後位に現れて。


    来た♪


    マンションの前で止まったのを確認して、


    私は運転席側に回った。


    「おはよう。」


    ウィンドウを下げながら、
    ナツさんは微笑んだ。


    「おはようございます。…トラック、後から来るんですか?」


    引っ越し業者の、トラックがいない事に気付いて。


    「ん、来ないよ。頼んでない。」


    ナツさんは眩しそうに、私を見た。


    「え?」


    「とりあえず、乗って。」


    ウィーンと窓は閉まってしまったので。


    あらら。


    慌てて助手席側に、
    回って車へと。


    ─バタン


    「涼しいーっ!」


    ナツさんの車は、
    とってもクーラーが効いていて。


    「ごめん、待たせたね。」


    ………。


    や、優しい。


    照れるよ〜!!


    私のドキドキはおかまいなしに。車は発進した。


    「引っ越し…。あれ?」


    マンションに入らないの?


    「全部置いて来たから。」


    煙草いい?とナツさんは付け加えたので。


    「あ、はい。…置いて来た?」


    え?


    「家具付きで売った。ついでに車も。」


    車の天井にある、
    空気清浄器に。
    ナツさんは手を伸ばして。


    「か、家具付き?」


    マセラティも?


    ふーとナツさんは。
    煙を小さく吐いて。


    「ん。だからなんもない。」


    服以外は、とナツさんは笑った。


    な、


    なんもない!?


    へ!?


    「………という事は。」


    「今から揃える。付き合って。」


    煙草をくわえながら。


    ナツさんはこちらを見て、


    口の端を持ち上げた。


    あ、あの。


    それって、ね?


    ナツさん。


    意識してないかもだけど。


    「初デー…ト。」


    「ん?」


    「な、なんでも、ないです…。」


    「……そうだね。」


    「え。」


    「ちょうどいい。」


    「ちょうどいい?」


    「いやいや何でもない。」




    クックッと。
    またナツさんは笑った。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10983 / 1階層)  和美のBlue 66
□投稿者/ つちふまず 大御所(1001回)-(2005/07/17(Sun) 00:26:15)
    「とりあえず…。家電、かな。」


    横浜にある、大型のショッピングモールに入り車を止めた。


    サイドブレーキを引く。


    「あ、あの、ナツさん?」


    「ん?」


    バタン、バタンと。
    ドアを閉める音が。
    立体駐車場内に響く。


    「今日…、」
    「ん?」
    「あ、いえ。」


    まさか本当に。
    今日揃えるわけ、じゃ。


    ないよね。はは(笑)


    ウィーンと。
    電気ストアに入る。


    独特の活気が感じられた。



    洗濯機、洗濯機…と。
    呟きながら。



    スタスタと歩いてしまう。


    「あ、ま、待って〜。」


    追い掛ける私。







    とは言っても。


    「やっぱり乾燥機付き、いいなー!あ、今の洗濯機って静かなんですよねー!」


    電気屋さんは好きです♪


    すっかりナツさんの、
    引っ越しも忘れて。


    はしゃいでばかり。


    ナツさんは腕を組んで。


    「うん…よし。次。冷蔵庫。」


    アッと言う間に。
    あらら。


    ちゃんと見てるのかな?


    ま、いっか。


    「はーい!」


    楽しい♪




    冷蔵庫も、
    五分程見て。


    私がきゃあきゃあ騒いで見てるのを暫く見た後に。


    「ん。じゃあ次はテレビ。」


    テレビコーナーへ。


    「こ、こんなテレビで見てみたい…。」


    大画面の。
    液晶プラズマ。
    デジタル対応。


    それを囲むように、
    ホームシアターシステム。


    いいなぁ…。
    こんなテレビで。


    ナツさんと映画なんか、
    見ちゃったりして?


    くう〜っ(涙)


    「ん。オッケー。行くよ。」


    「あ、はーい。」


    スタスタとナツさん。


    レジに向かうと。


    「これ。お願いします。」


    は?


    お願いします?


    手には。


    気付かなかった。


    注文カード。


    五枚程持っていて。


    「あの、…ナツさん?」


    チョイチョイと。
    ナツさんのTシャツの裾を、私が引っ張ると。


    「ん?」


    優しい瞳で。
    見下ろされた。


    「ま、まさか購入?」


    「うん。もちろん。」


    ………。


    は。


    早い(涙)


    「あの…私が、選んじゃった、みたいな…。」


    ナツさんは、はしゃいでいた私を、見てただけだし。


    「今日届けてくれるって。」


    良かった、と。


    ナツさんは笑った。



    これ、これが。


    やるやるとは、
    聞いていたけど。







    金持ちA様?


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10984 / 1階層)  和美のBlue 67
□投稿者/ つちふまず 大御所(1002回)-(2005/07/17(Sun) 00:30:30)
    「さて…次は、と。」


    再び、アルファロメオ。
    電気屋さんにいたのは、
    約30分程で。


    「…………。」


    私は声を出せません(涙)


    「家具、かな。」


    あそこにしよう、と。
    ナツさんは言って。
    車は走り出した。


    「あの、ナツ、さん?」


    「ん?」


    立体駐車場から出ると。
    外はギラギラと。
    眩しい光に照らされて。


    「こんな早く、決めちゃって、というか私が決めちゃった、みたいな…。」


    日本語おかしい(涙)


    「いい。カズが使いやすい物、買いたかったし。」


    また空気清浄器のスイッチを押して、ナツさんは煙草に火を着けた。


    「はい?」


    使いやすい?


    なんで?


    「うちに来なよ。」


    「行きますよ?言われなくても遊びに行っちゃうけど♪ふふっ。」


    「…………。」


    へ。


    あり?


    シカト?


    隣を見ると。


    ナツさんは下唇を。
    出していて。


    びっくり。


    「………へ、変な、顔。」


    崩れたナツさんの顔を。
    初めて見た衝撃に。


    「あははは!」


    私はお腹を抱えて、
    笑った。


    「…………ふん。」


    れ?
    今度は機嫌が…。
    悪くなっちゃった。


    「あれ、ナツさーん。」


    「遊びに…遊びに、ね。」


    ふーと煙を吐いて。
    また下唇を突き出した。


    「あ、何か…怒って、」


    「遊びにじゃなくて。」


    思い直したような声。


    「はい?」


    「違う…んだけど。」


    車はいつの間にか。
    大きな倉庫見たいな、
    建物の側。


    広い駐車場に入った。


    「へ、違う?」


    何が?


    はーとナツさんは。
    溜め息をつきながら、
    車のエンジンを切った。


    「あのねカズ。」


    にぶいな…と。
    ナツさんは寂しい目をした。


    え。


    「鈍い?ですか?トロいとは良く…言われま、」


    「一緒に暮らそうって事。」


    口の端を持ち上げる仕草は。いつも通りのナツさんで。


    「……………。」


    「近いんだから。」


    さて、と。
    ナツさんは車のドアを開けて。


    バタンとすぐに閉めた。


    …………。


    くらす、


    暮らす?


    だれと?


    誰が?


    コンコン、と。
    窓をノックする音。


    いつの間にかナツさんは。


    助手席側に。
    立っていて。


    “い、く、よ”


    と。目の前の倉庫を指差した。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10985 / 1階層)  和美のBlue 68
□投稿者/ つちふまず 大御所(1003回)-(2005/07/17(Sun) 00:34:42)
    くらす…。


    「ソファ、と…。」


    暮らす、というのは。


    同じ屋根の下で。


    「これでいいかな。」


    一緒にご飯食べたり。


    「こっちの方が壁紙に合うかな…。」


    一緒にテレビ見たり。


    「カズ。」


    その…。


    生活するって。


    「カズ。」


    ことだよね。
    私と…。


    ナツさんが。


    「和美。」


    へ?


    「あっはい!」


    「どこに飛んでるの。」


    ふーとナツさんは。
    困ったように微笑んだ。


    「す、すみません。」


    リアルに飛んでた(涙)


    「どれがいい?」


    「はい?」


    「ソファ。」


    「あ、はい。………。」


    ぐるっと。
    店内を。
    初めて見渡した。


    広い倉庫の中は。
    古い建物とは裏腹に、


    モダンな輸入家具達が、
    所狭しと並んでいた。


    「お、洒落ですね…、ここ。」


    改めて。
    気付いた。


    「ん?ああ…。何かと世話になってるよ。うちの店は全部ここ。」


    アメリカン。
    ヨーロピアン。
    ジャパニーズモダン。
    アジアン。


    何でもありな、
    店内だった。


    「そうなんですか…。」


    一日見ても、
    飽きなそう。


    「で、どうする。」


    「はい?」


    「ソファ。」


    うーんとナツさんは。
    腕を組んだ。


    な、


    なんか。


    ほんのちょっぴり。
    リアルに感じて来た。


    “同棲”


    でもやっぱり…。


    嬉しいよ〜!!


    きゃあーっ!!


    バフ、と近くにあったソファに、なだれ込むように顔を抑えて座る。


    だめ。


    超嬉しい〜!!


    「それにするか。」


    「…………は。」


    はい?


    顔を上げると、ナツさん。


    「いいセンスだ。」


    と、私の座っていた。
    三点セット、低くてフカフカの白いソファを。長い指で撫でた。


    あ。あれ?


    「次は…と。」


    ナツさんはスタスタと。


    ベッドのコーナーへ。
    歩いて行ってしまった。


    「ま、待って〜。」


    また慌てて、
    ナツさんを追い掛けた。


    続いてベッド。


    ベッド…。


    ベッド(赤面)


    想像するなっていうのがおかしいから。


    照れる…。


    挙動不信な私をおかまいなしに。


    「ベッドは私が決める。」


    ナツさんの右眉が上がって、ちょっとエッチな目に見えたのは。


    意識しすぎかなと。




    私は赤くなった。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■10998 / 1階層)  hiromiさん
□投稿者/ つちふまず 大御所(1004回)-(2005/07/17(Sun) 11:15:36)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    初めまして(^O^)
    おや、湘南ですか?
    私も今実家なので。
    湘南にいますよ★★

    これから知り合いの不動産屋さんに行きまして。

    この辺で部屋を借りようかと♪
    実家に戻ってもいいんですが、一人暮らしにこだわるつちです。

    カズの舞台になってるお店も…結構有名ですよ(>_<)
    湘南スタイルや横浜ウォーカーにも良く載りますしね♪

    良かったらHPにも。
    お越し下さいね〜♪♪

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11000 / 1階層)  和美のBlue 69
□投稿者/ つちふまず 大御所(1005回)-(2005/07/17(Sun) 11:25:05)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    結局ナツさんは。
    ソファと同じメーカーの、シンプルなWベッドを選んで(照)


    その他にも棚やサイドボード、テーブルも数点。


    ベッドとソファは、
    白色系の物。


    それ以外の物は。
    濃いブラウン。


    きっと壁紙や、床の色を計算しているんだろう。


    そして。


    「これ、今日までに運んで。」


    「マジっすか!?無理っすよ〜!」


    「出来ない事はない。長い付き合いでしょ。」


    「いやいやナツさん…参ったなぁ。」


    若い店員さんと。
    そんなやりとりを交して。


    カードで購入(ブラックだった。やっぱり。)


    ま、まぁ?


    もうその辺は。


    慣れて…。


    「次は…と。」


    まだ行くんですか(涙)


    でもま、ね?


    「ナツさん。」


    車に乗る前に。


    「ん?」


    アルファロメオのキーを。取り出した時に。


    「嬉しい、です。」


    恥ずかしくて。
    やっぱり目が見れない。


    いつになったら、


    この人の顔を。
    まっすぐ見れるのかな。


    「…まだ足りない。」


    「え?」


    顔を上げると。


    「これからだから。」


    ナツさんは微笑みながら。


    車に乗り込んだ。







    それから買ったのは。


    数点の食器類と、
    調理器具。


    私はキリンの形をしたケトルを。買って貰った(可愛い)。


    ベッドカバーやラグも。
    専門店に行って。


    「これ、悪いけど夜までに。」


    運んでね、と。


    そのたびに得意先である店主は、焦りまくっていた。


    好きな人と、


    する買い物。


    二人の生活の為の買い物程。


    楽しいものはないんだと。


    今日一日で。


    凄く凄く実感した。







    「一通り、いいかな。」


    アルファロメオの後部座席は、いっぱいいっぱいになって。


    ナツさんは手を叩いて。


    満足そうに息をついた。


    「買いましたね…。」


    まさか本当に。


    全部揃えるなんて。


    やっぱりお金持ち、


    だなーなんて(涙)


    改めて実感。


    だってナツさん。


    まるで近所のスーパーに。
    夕飯の買い出しにでも、
    来たみたいなノリ。


    ははは…(汗)







    「あ、そうだ。もう一軒…。」


    「まだあるんですか?」


    「明日にしよう。」


    これは急がなくてもいい、と。ナツさんは頷きながら。


    車を走らせた。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11001 / 1階層)  和美のBlue 70
□投稿者/ つちふまず 大御所(1006回)-(2005/07/17(Sun) 11:27:41)
    得意先ばかりを選んで、


    家具や生活用品を購入した訳が。


    やっとわかった。


    「それはここで。」


    「ここっすか?壁に寄せます?」


    「うん。」


    「ナツさんこれ、組み立てときましたから。」


    「どうも。」


    「これお祝いです。観葉植物も置いてきますね。」


    「ありがとう。」


    ほとんどの作業。
    やってくれちゃったから。


    私はちょこんと座って。


    見てるだけでした(汗)


    電気屋さんも来て。


    夜にはナツさんの2LDKのマンションは。


    モデルルームみたいに、綺麗な形で。


    住む準備が整った。




    「さて、完了。」


    業者の人達がいなくなり、
    ナツさんはソファに。


    深く腰掛けた。


    隣のナツさんを見て。


    「お疲れ様でした。」


    「ん。」


    一瞬の静寂で。
    私はある事に気付いて。


    「今度はオーシャンビューですね。」


    「ん?あ…。うん。」


    開いたブラインドの向こう、多分耳をすませば。


    波音も聞こえる位。


    「贅沢過ぎて、バチ当たりそう…。」


    ナツさんの隣で。
    膝を抱えて。


    「ちゃんと働いてもらう。」


    心配しなくていい、と。
    ナツさんは煙草に火を付けようとしたので。


    「ナツさん。」


    待って。


    「ん?」


    くわえようとした煙草を。
    ナツさんは引っ込めた。


    「あ…あの。」


    くっつきたいなーなんて。


    「?」


    「あ、暑いですね!」


    「ん。クーラー入れる。」


    ナツさんは立ち上がり、まだビニールにかかったままのエアコンのリモコンを。


    手に取った。


    あ、あら。


    離れちゃった(涙)


    ああんもう…。


    「カズ。」


    ピ、という音の後に。
    エアコンはすぐに。
    冷風を吐き出してくれた。


    「はい?」


    ソファの後ろに回っていたナツさんが。


    急に私の耳元に顔を近付けて来て。


    思わず体が固まった。


    「水玉パンツは…部屋で干してね。」


    寝室を指差して。


    ナツさんは笑った。


    「んもう!」


    「クックッ。ふっ!」


    ペタペタと素足で。


    ナツさんは笑いながら。


    「着替え、とりあえず持っておいで。夕飯用意しておく。」


    あ。


    「は、はい!」


    振り向いて見る、ナツさんの背中。


    クックッと。






    いつまでも笑ってた。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11002 / 1階層)  和美のBlue 71
□投稿者/ つちふまず 大御所(1007回)-(2005/07/17(Sun) 11:30:25)
    ズルズル。


    「おいしーい!」


    ピカピカの浴室で、
    シャワーを浴びた後。


    ナツさんの用意した、
    冷たいおソバ。


    梅とシソ、大根おろしと…。なめこが絡まってて。


    夏らしい引っ越しそばを、
    二人ですすった。


    「ん。」


    ナツさんも満足そうに、
    蕎麦焼酎に口を付ける。


    波音ひびく、
    海沿いの部屋。


    「なんか…。」


    「ん?」


    「夢、みたいな。」


    気がします。


    「そればっかり。」


    クックッと。
    ナツさんは。


    笑ってばかり。


    「す、すみません…。」


    「カズの部屋の契約、切っておいたよ。」


    え?


    は、はやっ!


    「近い内に荷物、まとめておいて。」


    「は、はい。」


    「業者に連絡…、」


    「あ、いらないです。」


    「ん?」


    ふふ、と思わず。
    私は笑った。


    「私も体一つで来ます。」


    新しく始めるなら。
    そうしたい。


    「そう…わかった。」


    ナツさんは目を落として。
    またグラスに口を付けた。


    ヒューパチパチと。


    外で響く、
    花火の音。


    あ。


    そうだ…。


    「ナツさん。」


    「ん?」


    「あの…お願いが、あるんですけど。」


    「何?」


    「え、と…。」


    「何かまだ、欲しいもの…。」


    あるかな、と。
    ナツさんは広い部屋を。
    見渡した。


    「ち、違います!」


    欲しい物なんて、
    これ以上ない。


    「?」


    「花火…しませんか。」


    「花火。」


    ああ、そうか、と。
    ナツさんは外を見るように。


    「あ、いや!いいです!疲れて…ますよね。」


    「いいよ。」


    見るとナツさん。
    やっぱり優しい顔で。


    「え。」


    「やろう。」


    わ。


    わーい!!(涙)


    「もういいの?」


    おソバ、とナツさん。


    「た、食べます!美味しいし!……ゴホ。」


    慌てて口に入れたおソバ。


    「ゆっくり。…時間はあるんだし。」


    むせた私に。


    ナツさんは呆れたように。


    微笑んだ。







    時間はあるんだし。




    忙しいナツさんの言葉。







    すごく嬉しい一言だった。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / ▼[ 11010 ]
■11004 / 1階層)  和美のBlue 72
□投稿者/ つちふまず 大御所(1008回)-(2005/07/17(Sun) 11:35:01)
    夜の海。


    夏に酔いたい若者が。
    いつまでも帰る事はない。


    そこから少し離れて、


    誰もいない海の家の前。


    「花火が似合う。」


    手持ち花火を、
    両手に持った私を見て。


    ナツさんは目を細めた。


    「え?そうですか?」


    パチパチと光る、
    赤い火薬達は。


    顔が赤くなるのを隠してくれるから、都合がいい。


    「ナツさんも。はい。」


    「ん。」


    長い指に、
    一本渡すと。


    ろうそくにかざして、


    すぐにパチパチと。
    青い光を放った。


    「カズのパンツの色だ。」


    「え。」


    何!?


    慌ててかがんでいた、
    自分の腰の辺りに触れる。


    「今日一日見えてた。」


    「ひゃあ〜っ!」


    股上が浅いジーンズを。
    履いていた事に気付いて。


    気を付けないとパンツが見えちゃう形。


    気が緩んでた…(涙)


    「和美のBlue。」


    クックッと。
    ナツさんは口を抑えて。


    「んもー!!」


    頬を膨らます私に。


    ナツさんの顔は青い光りに照らされたまま。


    笑ってた。


    「締めは線香花火でー!」


    ナツさんの隣に座って。
    細い線香花火に火を付ける。


    ぶぶぶ、と。


    火がくすぶった後に。


    小さくパチパチと。
    音を立てる。


    「勝負しましょう。」


    これがやりたかったの♪


    「ん。」


    いい度胸だ、とナツさんも。私に体を寄せた。


    最初は小さくパチパチと。
    徐々に花開くように。


    「綺麗。」


    「ん。あ…。」


    「え?」


    見るとナツさんは。
    口を少し開けて。


    「…ックシュ!……あ。」


    ポトリ。


    ぷっ。


    「ふっ。アハハハハ!」


    「…………。」


    むーと。
    ナツさんは。
    火の消えた線香花火の。
    先を睨んで。


    「あっけない…。」


    ポツリと呟いた。


    「ナツさん…面白い。……あ。」


    私の線香花火も。
    静かに消えて行った。


    「ワンモア。」


    「はいはい。」


    次は勝つ、と。
    また花火を手に。


    ろうそくにかざす。


    またぶぶぶ、と。
    先端の塊が震えて、


    徐々にパチパチと。
    光りを放つ。


    夏のわずかな。
    赤い光達。


    ふと隣を見ると。


    ナツさんと目が合った。


    どちらともなく。


    顔を寄せて。


    パチパチと花開く、
    線香花火。





    玉が落ちても。








    キスを重ねた。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 11004 ] / 返信無し
■11010 / 2階層)  Re[2]: 和美のBlue 72
□投稿者/ 蓮 一般♪(1回)-(2005/07/17(Sun) 22:01:27)
    はじめまして、3日前からつちふまずさんの作品読ませてもらいました。
    何だか一気に読むのはもったいないくらい素敵な作品です。
    好きなものは最後に食べるたちなのに、どうしても読みたくて結局読んでしまいました。
    こちらは大阪なので海はそんなに(全然)綺麗ではないです。
    でも、この作品から急に海が恋しくなったので、今日は海に行ってきました。
    ついでにタコも釣りました。リオさん取れなかったタコ取りましたよ。えへへ
    続き楽しみにしています。
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11027 / 1階層)  和美のBlue 73
□投稿者/ つちふまず 大御所(1010回)-(2005/07/18(Mon) 23:18:04)
    夏と。


    夜の海と。


    誰もいない海の家。


    キスをするには。
    盛り上がり過ぎる、


    シチュエーション。


    重なりあった唇から、
    漏れる吐息と。


    体にかかる、
    海風に。


    このまま、と。


    考えてた。


    「……好きだよ。」


    少し離した唇から、
    低くて甘い声。


    「…私も。」


    言っては重ね。


    確かめ合う。


    背中に回された手が。


    長い指によって、


    敏感な体に。
    変化する。


    「………ふ。」


    体がびくっと。
    跳ねてしまったので。


    思わず顔を離した。


    ちょっとした。
    照れ隠し。


    「ね、ナツさん。」


    「ん。」


    額をつけて。


    「何でまた…私なんですか。」


    ん、と付けていた額を。


    ナツさんは離した。


    あ、ありゃ。


    ちょっとズレた…。


    質問しちゃったかな(涙)


    驚いたような瞳の後に。


    ナツさんの顔は、
    すぐに緩んだ。


    「さぁ…どうしてだろう。」


    遠い目をして。
    海を見た。


    「何だかまだ信じられなくて。」


    朝起きたら夢だった、


    なんて事…。


    「例えば。」


    「え?」


    いつもはナツさんは。
    あまり言葉が多くない。


    「例えば…。美人を100人探すのは、楽だと思う。」


    でも珍しく、
    少し早口で。


    「…………。」


    ん?


    「でも、“これだ”と思える人は…探すのは大変。」


    「あ、…はい。」


    「大抵私に近寄るのは…、同じタイプの人間が多い。」


    美人ばっかり、
    なんでしょうね…。


    「お腹一杯なんだ。もう。」


    ナツさんのお腹をさする仕草に、思わず微笑んだ。


    「お腹一杯…ですか。」


    「ゆっくり生きたい。」


    「ん……。」


    「まだ信じられない?」


    「え…あ、まぁ。」


    困ったな、と。
    ナツさんは頬を掻いた。


    「ふふ。でも…。」


    ん?とナツさんはこちらを見た。


    「…私も磨きます。待ってて下さいね。」


    “女を磨く”


    これはこれからも…。


    続行させなきゃね。


    「それが見えるからかな。」


    「え?」


    「カズがいい理由。」


    「そうですか(照)」


    「育てたくなる。」


    それって。


    「遊び過ぎですよ、今まで。」


    んもー。


    頬を膨らますと。
    ナツさんは私の肩を抱いて。





    額にまた唇を寄せた。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11028 / 1階層)  和美のBlue 74
□投稿者/ つちふまず 大御所(1011回)-(2005/07/18(Mon) 23:22:56)
    「しろくじちゅうも…、」


    手を繋いで。
    浜辺を歩き、


    「好きといって…、」


    階段をゆっくり登って。
    車道を渡る。


    「ゆめのなかへ、」


    人の少ない裏通り。
    街灯の少ない、
    古い路地。


    「つれていって…。」


    手を繋いで、
    歩き歌う私に。


    ナツさんはただ。
    微笑むだけだけど。


    それでもすごく。


    嬉しい。


    マンションが見えて来た時。


    私は歌うのをやめた。


    カツ、カツ、カツと。
    ミュールを響かせて。


    小柄な女性。


    こちらに近付いて来る。


    「…サキ。」


    誰が教えたんだ?と、
    ナツさん。


    「え、誰?」


    その女性は。
    私達の前で止まり。


    「随分毛色が変わった子、連れてるんですね。」


    向き合ったその人は。


    夏だというのに、
    肌が真っ白で。


    ナツさんが外人さんみたいに、彫りの深い顔なら。


    その人はいわゆる、
    日本美人。


    「なんでここに?」


    ナツさんは。
    冷たい口調で。


    「別にいいでしょう。」


    その人も冷たく放った後に。私を見た。


    う。


    うわわわわ。


    綺麗だけど、
    怖い…(涙)


    「この子?ナツさんに好きな子が出来たって…聞いたけど。」


    「そうだよ。」


    「……ふ。」


    鼻で笑われた(涙)


    繋いでいた、ナツさんの手に力を込めた。


    「カズ、行こう。」


    その人から。
    離れようとすると。


    「鍵、返して下さい。」


    その人の声が。
    静かな通りに響く。


    鍵?


    ナツさんは止まって。


    「郵送する。」



    背中合わせの会話。



    私は思わず、
    振り向いてしまった。


    ………あ。


    あれ。


    その人は。
    寂しい表情で。




    私を見てた。




    首元のシンプルなネックレスが、綺麗な顔を際立たせて。



    「頑張ってね。」


    え。



    その人は。
    回れ右をして。


    去って行った。


    …………。


    涙?


    一瞬見えた、ような。




    「行こう。」


    ナツさんは私の肩を抱いて。


    マンションに入った。


    エレベーターに乗り。


    「………ごめん。」


    見上げるとナツさんは。
    バツの悪そうな顔で。


    「ううん…。」


    大丈夫。


    大丈夫、だけど。


    「…………。」


    なんとなく。
    言葉を交しにくいまま。




    部屋に入った。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11029 / 1階層)  和美のBlue 75
□投稿者/ つちふまず 大御所(1012回)-(2005/07/18(Mon) 23:26:03)
    「元カノ…ですか?」


    部屋に入り。


    リビングテーブルに。
    キーケースを投げる、
    ナツさんに聞いた。


    「そんなんじゃ、ないよ。」


    鍵を。


    持っていたという事。


    まだ返されてないという。


    事実。


    「鍵…。返して、ないんですか。」


    ナツさんの隣に。
    静かに座る。


    「でももう、使わないし。」


    飲み物入れよう、と。
    ナツさんは立とうとしたので。


    「待ってナツさん。」


    「ん?」


    立った姿勢のまま、
    ナツさんは私を見下ろした。


    「どこにあるの?鍵。」


    「確か車の中に…。」


    あるよ、と。


    「返して来て下さい。」


    え?とナツさんの、
    驚いた瞳。


    「いいよ。後から送る。」


    断られた事が。
    少し嫌な気分を産んだ。


    「…………。」


    いや。


    なんとなく。


    それじゃ、いやなの。


    「でもあの人、もう終電間に合わないよ?」


    都内の人なら。
    ここからじゃ、
    遠すぎる。


    「…タクシーがあるよ。」


    「……でも。」


    うつ向いた私に。
    ナツさんはしゃがんで。


    「カズ。もう過去の事だし。」


    ね?と肩を、
    両手で撫でられて。


    「じゃあどうして、まだ鍵を持ってるんですか。」


    「…………。」


    「返さない理由が、あるんじゃ?」


    あの人は。
    なんとなく。


    “慣れてる”風だった。


    ナツさんに。
    彼女が出来た、
    という事実に対しても。


    「返す理由が、今までなかっただけだよ。」


    真剣な目。
    どういう意味?


    「お願い。行って。」


    「…………。」


    ナツさんは。
    何かを考えるように。
    うつ向いた後。


    「信じては、くれないの?」


    また顔を上げて。
    そう言った。


    信じたい。


    信じたいよ、ナツさん。


    でも。


    「…まだ無理です。」


    正直な気持ちだった。


    「わかった。すぐ戻る。」


    うつ向いていた私の額に。
    一回キスをして。


    ナツさんは早足で。



    部屋を出て行った。



    バタンと閉まる音─


    「…………。」


    バカ。


    私……。


    あれじゃただの、


    ワガママじゃない…。


    ソファにバタンと。
    横になった。


    行かせて良かったの?


    本当に彼女じゃない?




    考えたくない。




    疑う気持ちが。





    私の中に充満した。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11030 / 1階層)  和美のBlue 76
□投稿者/ つちふまず 大御所(1013回)-(2005/07/18(Mon) 23:31:33)
    何かを欲しいと思う事は。
    ここ何年もなかった。


    大抵の物は、
    手に入れて来たから。


    人も然り。
    良い女だと思ったら。
    自分の手の内に入れた。



    事業も同じ。
    お金も同じ。
    全て同じ。


    「…サキ!!」


    鎌倉駅のロータリー。タクシーに乗り込む瞬間を抑える事が出来た。


    「………。」


    何で此処にあなたが?
    とでも言いそうな顔。


    確かに。
    私は絶対に。


    人を追い掛けたりしない。


    「ビーサンで走るナツさんなんておよそ見たくないんだけど。」


    息を切らせる私に。
    呆れたようにサキは、
    溜め息を着いた。


    「これ。」


    握り締めていた鍵を。
    サキの手を取り、
    掌に滑り込ませた。


    「……。」


    サキは掌を広げて、
    小さく微笑んだ後。
    それを握った。


    「今まで返す機会がなかった。ごめん。」


    「一服付き合って下さい。」


    サキはロータリーの端にあった、バス停のベンチを指差した。


    「…わかった。」


    早く帰りたいけど、仕方がないか。





    静かなロータリー。
    二人でくゆらせる、


    煙がやけに目立つ。


    「…皮肉ですね。」


    フッとサキは。
    一つ笑って。


    「……何が?」


    「結局ナツさん…。してやられたんでしょ?」


    「………。」


    「リョウに。」


    「……まぁね。」


    トントン、と。
    ベンチの端で、
    灰を落とす。


    「かつての部下がね…。」


    「仕方なかった。それにもういい。」


    こう思えるのに。
    結構な葛藤があったけど。


    中目黒、
    そして恵比寿。


    私の経営していた二つのレストランバーは。同じ人間に買収された。


    かつて私の下にいた人間。




    「やり返さないの?」


    フフとサキは。
    面白い、とでも、
    言いたそうな。


    「しない。鎌倉があればいい。」


    「ふーん。そう。」


    つまんないの、と。
    一つ呟いて。


    「私には足りない物があった。だからリョウに負けたんだよ。」


    絶対に気付かなかった。
    多分失わなければ。


    「何?お金?」


    「違うね。」


    「じゃ、何?」


    「横の繋がり、縦の繋がり。人と繋がってなければ経営は出来ない。」


    「ふーん。」


    「それにリョウのバックには…。」


    「え?」


    「ん。いや…。ふふ。」



    敵うはずがなかった。


    リョウの上には。




    彩子がいるんだから。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11031 / 1階層)  蓮さん
□投稿者/ つちふまず 大御所(1014回)-(2005/07/18(Mon) 23:37:26)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    初めまして(^O^)
    タコ取れたんですか★
    ぬふふ♪

    HPも良かったらお越し下さいね!

    連休中は不動産に海に花火に彼女にと、中々ドタバタと…。
    遊んで参りました(>_<)

    小説は少しだけ、
    ナツさん視点にチェンジ。

    これからもよろしくお願いしますね〜(^O^)

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11037 / 1階層)  和美のBlue 77
□投稿者/ つちふまず 大御所(1015回)-(2005/07/19(Tue) 08:26:48)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    タバコは徐々に。
    短くなって。


    履いていたサンダルの裏に、押し付けた後に。


    バス停に設置されていた缶詰の灰皿に捨てた。


    「売って正解だったんだ。どうせ長くは持たないと思ってた。」


    だからリョウに対して。
    そこまで悪くは思えない。


    プライドはあったけれど。


    「ナツさんの失敗…か。全然想像つかないけど。」


    「リョウが建て直すよ。」


    心配ない。
    あの子は優秀過ぎる位。


    一県に一人位のね。


    「全部置いて来たんでしょ?」


    もう噂になってるわ、と。
    ブルガリのブレスレットが小さく揺れた。


    「ん。置いて来たよ。」


    「もったいない…。」


    マセラティ売ってくれれば、と。サキは小さく笑った。


    「ここには必要ない。」


    静かな街並みや。
    自然と、
    歴史と、


    海がある。


    「あの子だけで充分って訳ね。」


    かっこいい〜、と。
    ふざけた口調で。


    「それだけじゃない。」


    「え?」


    「家族もいる。」


    うるさい親父がね。


    「え、本当に?」


    「ん。」


    「知らなかった。」


    「誰も知らないよ。」


    店の人間だって、
    知ってるのはカズだけだし。


    思えば父さんは。


    やけにカズの事を、
    気に入っている気がするな。


    父娘そろって…。


    「ナツさんがそんな顔するの、おかしい。」


    「ん?あ……。」


    顔が緩んでたか。


    「信じられない。」


    「ん?」


    「全てを手にしてたのに。」


    「………。ふ。」


    「気付くと鎌倉で、ジーンズとヨレヨレのシャツで、ビーサン履いて、」


    「ふふ。」


    「女の子とバケツ片手に歩いてるなんて…。」


    わからない、と。
    サキは夜空を見上げた。


    「確かに…。」


    すごい変化かな。


    「あの子が知ったらひっくり返るんじゃない?ナツさんのワルっぷり。」


    「ん…。かな。」


    「金、女、酒、ドラッグ、なんでもござれの越後屋だったのに。」


    そんなイメージか。
    ま、仕方ない。


    「わからないなぁ……。」


    私にはわかる。


    色んな物を失って。


    もうここしかないと、
    思った時。





    …あの子が作ってくれた。





    あの時私は。


    本当の自分の居場所を確認出来た気がして。




    嬉しかった。








    純粋に嬉しかったんだよ。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11038 / 1階層)  和美のBlue 78
□投稿者/ つちふまず 大御所(1016回)-(2005/07/19(Tue) 08:33:48)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    もうそろそろ、
    と思い。


    腰を上げた時。


    「何であの子な訳?」


    めちゃめちゃ普通じゃない?と、皮肉たっぷりな口調。


    「……んー。」


    思わずまた腰掛けた。


    「遊びじゃなさそうなのが、また意外だし。」


    「遊びじゃない。」


    あの子は違う。


    「帝王ナツさんも遂に落ち着いた訳?」


    「落ち着いてないよ。」


    「え?」


    「不安で仕方がない。いつかこの子も…離れて行くのかな、と思うとね。」


    「……それがめちゃめちゃ意外。なんだけど。」


    何か聞きたくない、と。
    サキは耳を抑えた。


    「かもね。」


    「ふふ。」


    サキは抑えた耳から、
    手を離した。


    「飽きるんじゃないの〜。」


    どうせ、と。
    サキはカマをかけるように。


    「飽きない。」


    「あらあら。」




    飽きる訳がない。


    だって。


    ハンバーグは好きなんだよ。






    「明るいんだよ。あの子。」


    「……確かに、おめでたそうな子だったわね。」


    「ん。それがいい。」


    カズは。


    一人のくせに。


    欲しい物なんてまるでない、
    みたいな。


    嘘臭い人生観。
    すれてない目。


    私は何処に置いて来たのだろう。


    「………意外。すっっごい意外。」


    「娘みたいなもんだよ。」


    「それって…。」


    何か違くない?
    とサキ。


    「違う?」


    「恋愛対象じゃないって事じゃない?」


    「それはわからない。」


    「え?」


    「そもそも恋愛って物に対して現実味を感じない。」


    「傷付くわ……。」


    「失礼。」


    「ま、幸せに。また戻って来そうな感じしますけど。」


    東京に、と。
    言いながら、
    サキは立ち上がった。




    「……戻らないよ。」




    もう戻らない。
    私の場所は。


    ここだと決めた。


    「そんな優しい目で見ないでくれる?」


    「……失礼。」


    「そんなナツさんは見たくない。じゃね。」




    ずっと待たせていたタクシーに、素早く乗り込んで。


    振り返る事なく、
    サキは去って行った。







    見上げると。
    うっすらと。


    夜空の所々、
    雲が見える。







    変わった、か。


    確かに。







    早く帰らなきゃ。


    あの子が待ってる。







    カズは泣き虫だから。









    走って帰ろう。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11039 / 1階層)  和美のBlue 79
□投稿者/ つちふまず 大御所(1017回)-(2005/07/19(Tue) 08:39:25)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「ただいま。」


    「23、24…あ、おかえり、なさい。」


    びっくりした。
    こんなに早く…。


    ナツさんは30分位で、
    戻って来た。


    「カズ。何…してるの?」


    フローリングに。
    座っていた私を。


    不思議そうに見下ろした。


    「え?あ…腹筋してました。」


    見付かっちゃった(涙)


    「腹筋?こんな夜中に…。」


    「邪念を取り払いたい時やるんです。」


    「………。」


    「自分の中で、やだなって思う気持ちが産まれた時に。」


    やきもちとか。


    疑いとか。


    「結構スッキリするんですよ。」


    私が笑うと。


    ナツさんはキーをソファに投げて。私の隣にしゃがんだ。


    「腹筋…ね。」


    手を伸ばして。


    私の頬に触れた。


    私は思わず、
    うつ向くと。


    「また泣かせた。」


    涙の跡は。


    消えてなかったのかな。


    たどるように、
    長い指が触れる。


    「あくびしすぎたからです。」


    多分、と。


    ナツさんの手を。
    払おうとすると。


    「…………。」


    その手を掴まれて。


    見るとナツさんは。
    私の目を覗き込んだ。


    「…ダメ。」


    「え?」


    何が?


    「もう離さないって決めた。」


    ナツさんの手に力が籠る。


    「………。」


    不思議だなと思った。


    「カズ?」


    「……。」


    涙は何故か。
    同じ通り道を辿るんだもん。


    「おいで。」


    抱き寄せられて、ナツさんの肩に私の頭が乗るように。


    ナツさんのシャツが少し汗ばんでいたから。


    その時やっと。


    急いで帰って来てくれた事に気付いて。


    「だって…絶対……っ。」


    「……ん?」


    絶対。




    「帰って来ないと思ったんだもん!」




    「……ごめん。」




    よしよし、と。
    背中を撫でられて。


    私は子どもみたいに。
    声を上げて泣いた。




    本当は大人っぽく、
    行きたかったのにな。



    「…ふぇ。……ううっ。」


    「………。」


    「………っ!」



    少し強引にキスをされたから、


    私も少し乱暴に。


    ナツさんの頭を抱えて。


    涙まみれのまま唇を交した。







    私の意識は、そこまでで。


    眠ってしまったと気付いたのは、








    次の日の朝だった。


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11070 / 1階層)  和美のBlue 80
□投稿者/ つちふまず 大御所(1018回)-(2005/07/20(Wed) 00:33:15)
    翌朝─


    んー。む……。


    今日は涼し…。


    ん?


    うちのベッドって…。


    こんなひろ、


    あれ!?


    目を開けた。


    白い天井。


    寝室のブラインドから。
    差し込む、
    夏の日差し。


    新築独特の匂い。


    「あ、そっか…。」


    ナツさん家だった。


    広いベッドに一人。
    ナツさんはいない。


    ベッドから降りると、
    フローリングがひんやりして。


    クーラーが効いていた事に気付いた。


    リモコンを探してオフにして、リビングルームへと。




    広いシンプルなリビングに立つと、ナツさんの気配はなかった。


    出かけたのかな。


    キョロキョロと見渡すと。


    リビングテーブルの上に。


    メモ書きがあった。


    それを手に取る。


    “一時位には戻るよ。冷蔵庫に、朝食が入ってるから。”


    二行だけの文章。


    それを持って、
    冷蔵庫を開ける。



    「わ♪♪」



    美味しそうなマンゴーが、二つに割られて、ラップしてあった。


    ちょこんとスプーンも。
    その上に。


    「わーい♪」


    両手でそれを持って。
    リビングへと座る。


    美味しい〜☆


    パクパクと。
    口を動かしていると。




    あれ、そういえば。
    今何時なんだろ(汗)


    部屋を見渡すと、
    時計がまだ無い事に気付いて。


    外を見ると、
    もう陽が高かった。


    お昼は過ぎて…るのかな。


    あ、そうだ。


    テレビ付ければ…、


    リモコンを探して。


    電源を入れる。


    ブン、と大画面に。


    わあっ!大きい…。


    初めて見る42型。
    改めて。


    「映画館みたい…。」


    感動していた(涙)



    すると─


    「ただいま…。あっ!」


    玄関から声。


    の後にパタパタと。
    何かが床を駆ける音。


    帰って来たのかな?


    リビングを歩いて、
    扉に向かおうと…。


    え?


    見るとドアを。


    何かがカリカリと。


    下の方を掻いてる。


    え。


    え?


    「わんぱくめ…。」


    ナツさんの声。


    私はドアを開けると、




    「…………あ。」



    ぬいぐるみがちょこんと、
    そこにお座りして。



    黒い毛と。
    クリクリした瞳。
    太い足と。
    合間に茶色い毛並。



    「きゃあ!可愛い〜!!」



    しゃがんで頭を撫でると。


    「……ただいま。」


    疲れた様子のナツさんが。
    玄関にいた。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11071 / 1階層)  和美のBlue 81
□投稿者/ つちふまず 大御所(1019回)-(2005/07/20(Wed) 00:35:45)
    玄関から上がったナツさんは。


    ヒョイと。
    子犬を持ち上げて、


    私の胸の辺りに。
    抱かせてくれた。


    もこもこ♪


    「可愛い〜!買ってきたの?」


    ちょっと重いけど。


    ハッハッと舌を出して。
    大きな頭。
    すんごい愛敬。


    「ん。これで子犬だから。大きくなるよ。」


    「なんていう犬ですか?」


    「バーニーズマウンテンドッグ。」


    ナツさんはそう言って微笑んだ後に。


    「ゲージ車に取り行って来る。」


    また部屋を出て行った。


    「ふふっ。」


    よしよし♪


    ソファの上に降ろすと。


    キョロキョロと頭を振って。ここはどこ?とばかり。


    黒いクリクリした子犬らしい毛。の合間から。またクリクリした瞳が特徴的。


    「可愛いーっ!」


    メロメロ♪


    すぐにナツさんは戻って来て。


    リビングの窓際に、
    ゲージをセットした。


    さすがに大型犬用。
    大きなゲージ。


    「さて…と。」


    「出来たみたいだよ〜。」


    胸に抱いたその子を。
    入れ…、


    「カズ、入って。」


    「はい?」


    「いや、冗談。」


    「………。」


    言うと思った。


    ごめんごめんとナツさんは笑いながら、その子を抱いて。


    シートの上に乗せた。


    「びっくりしましたよ。こんな可愛い子連れて来て。」


    二人で覗き込む。


    「ん。ずっと飼いたかった。」


    ナツさんは、
    子どもみたいな目で。
    その子を見ていた。


    「この子男の子ですか?」


    下半身を覗き込むと。


    「いや、女の子。」


    「やっぱり。」


    「何やっぱりって。」


    「冗談です。」


    私が笑うと。


    「名前決めないと。」


    見るとその子は。
    クーラーの快適さを、
    もう覚えたのか。


    ちょっとうとうと…。


    「ですね…。あ、寝そう(笑)」


    「カズにしよう。」


    「やめてください。」


    「冗談だって。」


    「ナツにします。」


    「無理。」


    「冗談ですって。」


    「よく寝れた?」


    見るとその子は。
    むちむちした体を少し丸めて。


    ふーと一息着いた。


    「はい。昨日は…すみません。」


    わがままだった、よね。


    「私は眠れなかったよ。」


    クアと一つ。
    ナツさんは欠伸。


    「え、なんで?」


    「…………。」


    教えてはくれなかった(笑)







    んも〜(照)

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11072 / 1階層)  和美のBlue 82
□投稿者/ つちふまず 大御所(1020回)-(2005/07/20(Wed) 00:38:34)
    それから仕事に行くまでは。二人でゲージを囲んで。



    「ゴン太!」


    「メスだよ…カズ。」


    「んーじゃあベス!」


    「シンプル…却下。」


    「ナツさんも考えてよー!!」


    「んー。」


    「ナイスな名前で♪」


    「む…。」


    「かつ可愛いやつで〜。」


    「うーん。」


    「みんなが呼び易いやつ…。」


    「駄目、無理。」


    思い付かない、と。
    ナツさんは両手を上げて。


    「んも〜。」
    「時間だ。」


    ナツさんは腕時計を見た。


    「えっ!!今何時ですか!?」


    「四時半。」


    早いな、とナツさんは溜め息をついた。


    「ちこくーっ!!」


    マズイよー!


    バタバタと。
    寝室に置いたバッグを、
    取りに行こうと。


    ナツさんも立ち上がって。


    「急いで。タイムカード切れないよ。」


    優雅なナツさんの一言…。


    んもう(涙)


    「ナツさんも早く入店して下さいよ〜!」


    超特急で、
    玄関に向かう。


    「いいの、オーナーは。」


    ミュールを引っかける私に。後ろから笑いながら。



    …あ、そうだ。


    やっぱりこういう時って…。


    “行って来ます”


    かな?


    うきゃーっ!
    照れるーっ!!




    「すぐに行くよ。」



    相変わらず、
    テンパる私を。
    なんのその。


    ナツさんは私に近付いて。
    私の腰の辺りに腕を回して。


    わわわわ。



    「行ってらっしゃい。」



    頬に一回。
    優しくキスされたもんだから。



    さ、先に。


    「言われちゃった、んもー…。」


    悔しい(涙)


    ナツさんは“何?”
    と言いたそうで。


    「何でもないですー。」


    首に手を回して。


    唇を開いて。


    少し深くキスした。


    「……ん、行ってきます。」


    唇を離すと。


    ナツさん…。


    あ。


    あれ?


    少し驚いた様な目で。
    長い睫毛をパチパチと。


    「なんですか?」


    私は手を緩めても。
    ナツさんは腰に回した手を。


    離してくれなかった。


    「あ…いや、なんでも。」


    ないよ、と。
    少し慌てたように。


    手を離した。


    ふふ。
    変なの…。


    「行って来ます。」


    改めてドアを開けながら言うと。


    ナツさんはハラハラと。
    何故か苦笑いで。


    手を振ってくれた。




    ものっすごいニヤニヤで。





    和美の出勤(笑)


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11073 / 1階層)  和美のBlue 83
□投稿者/ つちふまず 大御所(1021回)-(2005/07/20(Wed) 00:40:56)
    「何だカズ、締まりのない顔して。」


    「ふぇ?あ…いえ。」


    締まるはずがない。
    何せさっきまで…。




    ラブラブの大盛り♪




    大皿を抱えていた私に。
    ヤスさんは呆れたように。


    「またミソギするか?」


    腕をモリっとさせたので。


    「い、いいいらないです。」


    キッチンにお皿を下げに走った。


    ふふ♪


    むふふふふ♪


    あ、ダメ(笑)


    笑っちゃう。


    なんていうか?


    「いらっしゃいませ〜♪」


    声に色が付いて?


    「ふんふんふーん♪」


    思わず鼻唄とか?


    自然に出ちゃうんだもん。



    「おはようございます。」


    ホールから聞こえる声。


    あ、もしや。


    急いで戻る。



    夕陽に照らされたテラス。
    その向こうに見える、
    オレンジ色の空。


    やっぱりきちんとした、
    白のスーツ。


    手にはノートPC。


    やっぱり早く来てくれた♪


    ホールの一人に。
    何か指示してる…。


    むふふふふ♪


    あーダメ。


    真剣な顔のナツさんに、
    思わずまた顔が緩む。


    ペチペチと頬を叩いて。


    こちらに歩いて来るナツさんに。


    「お疲れ様です。」


    小さく頭を下げると。


    「ん。」


    いつも通りに…。


    ──ポン。


    え。


    ちょっとした衝撃。


    頭にそっと。
    手が乗って。


    振り返るとナツさんは。
    いつも通りに店内へ。


    あ。


    んも〜(照)


    また私の顔が。
    緩んだり。


    マズイと思って絞めたり。


    緩んだり絞めたり緩んだり絞めたり…。


    なかなか。


    これは慣れるまでに、
    大変かもしれません。


    とは言っても真夏の繁忙期。汗をかきかき。


    動き回る私。


    ナツさんもホールに立って。


    満員御礼の店内で。
    ずっと頭を下げて、


    お客さんの要望や、料理の感想を聞いて回っていた。


    このお店をもっと良くして行きたいっていう姿勢が。


    私をもっと一生懸命にさせてくれる。




    〜♪〜♪


    あ。


    レジの方向から。
    電話の音。


    誰もいない事に気付いて、急いでそれを取った。


    「ありがとうございます。ブルーポイントです。」


    「お世話になっております。マネージメントシステムの…、」


    知らない会社だ。


    「…スミ、と申しますが。」




    知らない名前だった。

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11074 / 1階層)  和美のBlue 84
□投稿者/ つちふまず 大御所(1022回)-(2005/07/20(Wed) 00:43:44)
    「オーナー。電話です。」


    キッチンにいたナツさんの背中に声をかける。


    「ん。わかった。」


    「マネージメントシステムの…スミさん、とおっしゃってました。」


    一瞬ナツさんの背中。


    動きが止まったように見えた。


    「ありがとう。これ、16番。」


    料理が盛られたお皿を。
    私の手に乗せて。


    ナツさんはレジへと向かった。


    ホールは数組の客で、
    かなりざわついていたから。


    電話を握るナツさんの声は、届くはずもなく。


    でも。


    ナツさんは何度か、


    微笑んで。
    頷いていた。


    電話を終えたナツさんの。


    シャツをチョイチョイと。
    引っ張りながら。


    「お客様ですか?」


    それとなしに聞くと。


    ナツさんは小さく、
    苦笑いをした後に。


    「私の店を買った人。」


    なんのためらいもない、
    声が聞こえて。


    買った…、


    え!?


    「それってナツさん…。」


    中目黒と、
    恵比寿の人?


    買収されたって、
    聞いてた。


    って事は、


    あんまりよくない、
    相手なんじゃ…。


    「誕生日プレゼント送ったって。」


    今夜届くらしい、と。
    ナツさんは言いながらも、



    何故か笑ってた。


    「え?あ…、はい?」


    全然意味が…わからない。


    「何処に置くかな」


    と。
    ナツさんは混んだフロアを。


    ぐるっと見渡した。


    ???


    「後でわかるよ。」


    私の頭を、


    また優しく。
    ポンと撫でた。


    私は眉と眉の間を。
    困らせて。


    ?マークで一杯のまま。


    仕事に向かった。




    閉店後─


    「お疲れ様〜。」


    みんなと裏へ下がろうとした時。


    「カズ。」


    テラスから店内に、
    入るナツさんに呼ばれた。


    「はい?」


    ちょっと体を寄せて。
    ナツさんを見上げると。


    「今日遅くなる。先帰ってて。」


    私を見下ろしながら言った。


    「は〜い。」


    ちょっと私が頬を膨らますと。


    「ごめん、犬お願い。」


    「あ、ですね。」


    そうだ〜。
    あの子一人っきりだし。


    「名前決めた?」


    「決めてない…。」


    そうじゃん(涙)


    「決めないとね。」


    ナツさんは微笑んだ。


    オーナーなんだけど。


    恋人なんだよね。


    なんていうか、


    こういうコソコソ話。




    結構好きかも(笑)


    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11077 / 1階層)  ★読者の皆様へ★
□投稿者/ つちふまず 大御所(1025回)-(2005/07/20(Wed) 00:54:44)
    どどーんと!!
    やっときましたよ(^O^)
    更新♪♪

    ったくラブラブなんだから〜と。ツッコミ入れながら書いてるつちふまずです★

    たまにはいっか〜みたいな(笑)

    なので久しぶりに!
    引っ越ししまーす♪

    既に引っ越し先の甘い話も…。ちゃんと用意してます。

    つちふまず史上、
    一番時間かかりました(*_*)
    このシーン書くのに(涙)

    記憶を辿って書いたので、
    スペルミス等は御愛敬(^O^)

    OKナツさん後は…、
    頼んだ〜!!

    では引っ越し先で〜V(^-^)V

    (携帯)
完結!
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11076 / 1階層)  和美のBlue 85
□投稿者/ つちふまず 大御所(1024回)-(2005/07/20(Wed) 00:49:45)
    パタパタと。
    夜道を渡って。


    海沿いの、
    車道に出ると。



    あ。


    へ?


    なにあれ?


    お店に寄り添うように。


    クレーン車が。


    何かを吊り上げて、
    テラスの方へ。


    抱いていたワンコを。
    思わず抱き直して。


    テラスを上がると。


    ナツさんがいた。


    クレーンで上げられたそれを見ながら。


    「そのまま、そこで。」


    運送屋さんみたいな人に、
    指示を出してた。


    早足でナツさんの側に。


    「ナツさん…。何あれ?」


    見上げながら。
    聞くと。


    「ああ、カズ。」


    お前さんもと、子犬の頭を撫でた。


    「新しいテーブルか何か?」


    ゆっくり降りてくる、
    毛布にくるまれた。


    かなり大きな…。


    「違うよ。」


    フッとナツさんは笑った瞬間、ドン、とテラスにそれが降りて。


    大きな音に。
    抱いていたワンコも。
    びくっと反応した。


    あ。


    あーっ!!


    下から見てたからわからなかった。




    「ピアノ…。」




    グランドピアノだった。


    「ナイス、リョウ。」


    ふふ、とナツさんは笑った。


    リョウ?


    「さっきの電話の人?」


    「ん。商売敵からの誕生日プレゼント。」


    ナツさんは。
    作業に当たっていた人達に。


    「そこから店内へ。」


    グランドピアノを、
    店内へ運ぶ用に指示した。




    プレゼント、……って。



    は。



    は?



    はあーー!?







    セレブのプレゼント。


    それにしては。







    派手、過ぎ(汗)







    作業を終えて。


    店内は前もってナツさんが二席ほど減らしていたみたいで、


    ピカピカのグランドピアノが…。



    「すごーい!すごい!」


    子犬をリードで繋いで。
    ピアノに駆け寄ると。


    「調律済みかな。」


    ナツさんは扉を上げて、


    ポーンと一つ鍵盤を。
    叩く。


    「本物だ…。」


    響く、ソの音。


    「調律済みだね。」


    ナツさんは満足したように。
    微笑んだ。


    「まさか…ナツさん。」


    いや、ナツさんなら。
    全然ありえる。


    「ん?」


    「ナツさん弾ける…、」


    とか、ですか。
    あの。


    「ん。たしなむ程度ね。」


    微笑みながらグーパーと。
    両手を上げる。



    あの。


    すんごい。




    上手そうなんだけど(汗)

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 10567 ] / 返信無し
■11075 / 1階層)  和美のBlue 85
□投稿者/ つちふまず 大御所(1023回)-(2005/07/20(Wed) 00:46:06)
    暗いナツさんのマンション。


    「ただいま…。」


    ガチャ、とドアを開けながら。


    あ、


    そだ。


    ただいまって(笑)
    なんかなんだか。


    照れちゃうけど。


    むふふふふ♪


    って笑ってる場合じゃなくて。


    「ワンちゃん〜。」


    サンダルを脱いで、
    リビングに入って。


    電気を着けると。




    窓際で丸まっていた、
    彼女が。


    「………クア。ウ。」


    明かりに気付いて、
    駆け寄る私に。


    「………ハウ。」


    アクビをしながら、
    濡れた瞳で。
    うんと体を伸ばして。
    短いシッポを揺らせた。


    「ごめんね〜ごめんね〜。」


    可愛すぎて泣きそう(涙)


    抱き上げると。


    ふにふにのお腹が。
    クルクル、と。


    「お腹減ったかな。」


    ナツさんが出かけに、
    用意してくれていたのか。


    子犬用のドッグフードが。
    キッチンにあった。


    「ふがふがふが。」


    うーん。
    さすがの食いっぷり(笑)


    背中を撫でながら。


    「名前何がいいかな?」


    いつまでも名無しじゃ。
    可哀想だもんね。


    食べ終えると、
    その場にお座りして。


    耳の裏をカシカシと。
    短い足でかいて。


    「可愛い名前がいいね♪」


    頭を撫でると。


    おすわりしたまま。
    ジッと私を見上げた。


    可愛い♪


    おとなしいなぁ…。


    「今日ナツさん遅いんだってー。」


    寂しいね(涙)


    見るとその子は。


    左右をゆっくり見た後。


    トテトテ、と。
    フローリングの床を歩いて。


    あらら。


    どしたの?


    私も後に続くと。


    リビングのドアに両足をかけて。


    「クー。」


    と一回泣いた。


    ………あら。


    短いシッポをフリフリと。


    「もしや…あなたも寂しい?」


    抱き上げると。


    ふーふーと。
    鼻が鳴る音がした。


    「行っちゃおっか♪お店♪」


    どうせナツさんしか、
    残ってないだろうし。


    この子も随分のんびりしてるのか、全然暴れない。


    「よーっし。レッツゴー!」


    子犬を抱いて。


    いざお店へ。




    隠れて楽しい事しちゃ、
    ダメなんだからね♪






    ナツさん♪

    (携帯)
[ 親 10567 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/


Mode/  Pass/

HOME HELP 新規作成 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 発言ランク ファイル一覧 検索 過去ログ

- Child Tree -