ビアンエッセイ♪

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Nomal 犬に願えば /つちふまず (08/02/25(Mon) 09:09) #20614
Nomal 犬に願えば 1 /つちふまず (08/02/25(Mon) 09:12) #20615
Nomal 犬に願えば 2 /つちふまず (08/02/25(Mon) 09:15) #20616
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Nomal 犬に願えば 4 /つちふまず (08/02/25(Mon) 09:27) #20618
Nomal 犬に願えば 5 /つちふまず (08/02/25(Mon) 09:32) #20619
Nomal うわっ!? /ワンコ (08/02/25(Mon) 12:41) #20620
Nomal わんこさん /つちふまず (08/02/26(Tue) 00:52) #20624
Nomal わぁ♪ /黒 (08/02/26(Tue) 00:41) #20623
Nomal 黒さん /つちふまず (08/02/26(Tue) 01:03) #20625
Nomal 犬に願えば 6 /つちふまず (08/02/26(Tue) 01:08) #20627
Nomal 犬に願えば 7 /つちふまず (08/02/26(Tue) 01:15) #20628
Nomal 犬に願えば 8 /つちふまず (08/02/26(Tue) 10:24) #20636
Nomal 犬に願えば 9 /つちふまず (08/02/26(Tue) 12:22) #20638
Nomal わぉ↑ /ルー (08/02/26(Tue) 12:14) #20637
Nomal 犬に願えば 10 /つちふまず (08/02/26(Tue) 12:45) #20640
Nomal ルーさん /つちふまず (08/02/26(Tue) 20:18) #20641
Nomal 犬に願えば 11 /つちふまず (08/02/27(Wed) 08:18) #20642
│└Nomal Re[2]: 犬に願えば 11 /もも (08/02/27(Wed) 13:16) #20643
Nomal お久しぶりですね /春坊 (08/02/27(Wed) 16:11) #20644
Nomal ももさん /つちふまず (08/02/27(Wed) 22:18) #20645
Nomal 春さん /つちふまず (08/02/27(Wed) 22:23) #20646
Nomal 犬に願えば 12 /つちふまず (08/02/27(Wed) 22:43) #20647
Nomal ここはビアンエッセイ長屋♪ /ゆらら☆ (08/02/28(Thu) 01:54) #20648
Nomal 待ってました!! /mh (08/02/28(Thu) 12:32) #20649
Nomal ゆららさん /つちふまず (08/02/28(Thu) 21:22) #20654
Nomal mhさん /つちふまず (08/02/28(Thu) 21:24) #20655
Nomal 犬に願えば 14 /つちふまず (08/02/28(Thu) 21:33) #20657
Nomal 犬に願えば 13 /つちふまず (08/02/28(Thu) 21:25) #20656
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Nomal 犬に願えば 16 /つちふまず (08/02/29(Fri) 11:13) #20660
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Nomal 犬に願えば 20 /つちふまず (08/03/01(Sat) 18:30) #20668
Nomal 犬に願えば 21 /つちふまず (08/03/02(Sun) 09:02) #20670
Nomal 犬に願えば 22 /つちふまず (08/03/02(Sun) 09:06) #20671
Nomal 犬に願えば 23 /つちふまず (08/03/02(Sun) 09:19) #20674
Nomal 犬に願えば 24 /つちふまず (08/03/02(Sun) 10:05) #20675
Nomal 犬に願えば 25 /つちふまず (08/03/02(Sun) 10:12) #20676
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Nomal 犬に願えば 29 /つちふまず (08/03/02(Sun) 10:28) #20680
Nomal 犬に願えば 30 /つちふまず (08/03/02(Sun) 10:32) #20681
Nomal 面白いです /明 (08/03/02(Sun) 17:38) #20687
Nomal つちふまず様 /みん♪ (08/03/02(Sun) 18:23) #20688
Nomal 明さん /つちふまず (08/03/03(Mon) 06:32) #20690
Nomal みん♪さん /つちふまず (08/03/03(Mon) 06:41) #20691
Nomal 犬に願えば 31 /つちふまず (08/03/03(Mon) 09:00) #20693
Nomal 犬に願えば 32 /つちふまず (08/03/03(Mon) 09:07) #20694
Nomal お久しぶりです! /水マー (08/03/03(Mon) 09:42) #20695
Nomal ファンより(笑) /匿名 (08/03/03(Mon) 20:03) #20696
Nomal 水マーさん /つちふまず (08/03/04(Tue) 00:24) #20698
Nomal ファン?さん☆ /つちふまず (08/03/04(Tue) 00:32) #20699
Nomal 犬に願えば 33 /つちふまず (08/03/04(Tue) 16:44) #20702
Nomal 犬に願えば 34 /つちふまず (08/03/04(Tue) 16:47) #20703
Nomal NO TITLE /ニンニン (08/03/04(Tue) 17:00) #20704
Nomal ニンニンさん /つちふまず (08/03/05(Wed) 08:24) #20705
Nomal 犬に願えば 35 /つちふまず (08/03/05(Wed) 08:35) #20706
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Nomal 犬に願えば 38 /つちふまず (08/03/05(Wed) 23:28) #20711
Nomal 犬に願えば 39 /つちふまず (08/03/05(Wed) 23:32) #20712
Nomal 犬に願えば 40 /つちふまず (08/03/09(Sun) 00:59) #20716
Nomal 犬に願えば 41 /つちふまず (08/03/09(Sun) 01:03) #20717
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Nomal 犬に願えば 48 /つちふまず (08/03/09(Sun) 01:32) #20724
│├Nomal 追いついた〜 /アイズ (08/03/09(Sun) 22:24) #20725 1205069087.jpg/8KB
│└Nomal 私もファンです。 /みい (08/04/09(Wed) 09:51) #20783
Nomal アイズさん /つちふまず (08/03/10(Mon) 08:25) #20726
Nomal 犬に願えば 49 /つちふまず (08/04/16(Wed) 21:10) #20796
Nomal みいさん /つちふまず (08/04/16(Wed) 21:22) #20797
Nomal NO TITLE /美紀 (08/06/08(Sun) 23:36) #20915


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■20614 / 親階層)  犬に願えば
□投稿者/ つちふまず 一般♪(1回)-(2008/02/25(Mon) 09:09:32)
    軽くギャグです(^0^)



    (放置小説はさておき…すみまそん)



    よろしく♪




    つちふまず





    (携帯)
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20615 / 1階層)  犬に願えば 1
□投稿者/ つちふまず 一般♪(2回)-(2008/02/25(Mon) 09:12:17)
    ガサガサ。




    ポリポリポリポリ。




    ガサガサ。




    ガサガサ。









    あ、なくなっちった…。




    …………っと。




    あぶなっ!!
    ……………………!!





    特に寝不足だった訳でもましてや酒を飲んでいた訳でもない。




    “ピーポーピーポー”




    危惧するような出来事があった訳でもなく。




    “おおい!こっちだ!”



    恋は終わり、打ちのめされていた時期はとっくに過ぎていたし。




    “こっちです!はい!”



    帰ったらいつも通り、ピーナッツを摘みながらビールでも飲んで。




    “あちゃー…”




    面白そうなテレビも無ければ。




    “ひでーな…”




    古本屋で買って来たドラゴンボールでも読んで。




    “運転席が無くなってるな…”




    風呂に入って寝るのみ。なーんて思っていたのに。




    “無理ですかね?”




    その日は一日中冷たい雨が降っていて。




    “諦めんな。見えるか?何とか出してやらないと…。”




    夜には雨は雪へと変わっていた。




    “いくぞ!せーの!”




    首都圏に住む人間ならノーマルタイヤで充分だって思うし。




    “よし、見えたぞ。…大丈夫ー!?聞こえますかー!”




    ましてや“凍結注意”の表示があったとしても大して気に留めはしない性格だから。




    “おおい、そこの新人!気分悪くなってる暇はねーんだ!シート持って来いや!”




    ─自分がまさか
    こうなるなんて。




    “ピーポーピーポー”




    思ってもみなかったんだ。




    “ピーポーピーポー”




    今日私は。




    “ピーポーピーポー”












    生涯を終えた。


    (相原 晴香 享年25)




    (携帯)
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■20616 / 1階層)  犬に願えば 2
□投稿者/ つちふまず 一般♪(3回)-(2008/02/25(Mon) 09:15:20)





    スタスタスタ─






    「…いたいた。やっと見つけたニャ。」




    コン。




    ─いて。




    「…そろそろ起きるニャ」




    コンコン。




    ───いたい…。




    「起きるニャ」




    コンコンコン。




    ──もう、ちょっと…。最近残業続きだったんだから…。




    「寝起きの悪い子だニャ」




    ─…もうちょっと寝かせ、て…。




    「仕方がないニャ」




    ──そう。あと五分…。









    ─ゴン!!




    「いだーーーー!!」


    「起きたニャ♪」


    「いだいいだい!………って、」









    え。






    こ、ここは…。




    見渡す限りの。





    白、白、白。





    足元を見れば、
    ふわふわと白く。
    ドライアイスみたいな。


    雲の、上…。




    「おはよう。」




    「え。ぎゃあ!!!」




    化け猫!!!




    「そんな驚くニャ。お前さんのイメージをそのまま具現化したニャ。」




    「具現化!?」




    上から下まで真っ白い毛に包まれた、身長は私の腰位だろうか。




    2頭身に近い体型。




    百日紅のようなツルツルとした木目の、


    杖を持っている。




    「こういうイメージを持つ人間も珍しいニャ。」



    自分の体を眺めた後に、まん丸の肉球から伸びた短い爪で。


    長い髭を撫でた。




    どっかで見た事あるような…。



    …そんな場合ではないわ。




    「あの、えー…。」



    「簡単に言うと」



    コン、と杖を鳴らした。



    「お前さんは死んだニャ」




    「…………。」




    「見つけるのに時間がかかってニャ。一年位、時は経ってしまったニャ。」


    「…………。」


    「という訳で待たせた分しっかり働いてもらうニャ。」




    「えー…」




    私は、死んだ…。




    「現状を把握出来ないのも無理無いニャ。」




    ふう、とため息をついて白い体躯を折り畳み座った。




    「死んだ…。」




    手の平を見ても、とてもそうは思えない。




    「そう、交通事故ニャ。即死だったから苦しまなかったニャ。」




    見ると、
    大きい口から伸びた舌で肉球を舐めている。




    「事故…ああ、そうだっけ、か…。」









    記憶を辿る。




    (携帯)
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■20617 / 1階層)  犬に願えば 3
□投稿者/ つちふまず 一般♪(4回)-(2008/02/25(Mon) 09:19:41)
    「ハンドル切り損ねて…。」



    夜の闇と─
    ワイパーの速度。


    流れるテールランプ。


    「そう、じばく。ニャよ。」


    「はあ…。」



    その瞬間を思い出せないって事は、
    相当な勢いで突っ込んだんだろうなぁ。




    「は。ははははは」

    「ニャ?ニャハハハ…何を笑っとるニャ」




    バカだなぁ。
    まだ25だったのに…。



    あら。
    って、事は。



    「あなたはさながら…」


    「ニャ?」


    「神様?」




    どう見ても猫だけど。



    「神様は別にいるニャ。」

    「じゃあ…、?」

    「送り手、ニャよ♪」



    ポーズは招き猫である。



    「?」


    「こちらの世界では、ラファエルと呼ばれとる。ラフィと呼んでニャ♪」


    「ラフィ…。」



    「では説明するニャ♪」


    よいしょ、と腰を上げる。でっぷりしたお腹だ。



    「…その壱。
    死者は皆一旦送り手の元へ預けられるニャ。


    …その弐。
    預けられた死者はその送り手の指示に従うニャ。


    …その参。
    死者が天国、または地獄へと向かうかは送り手によって判断されるニャ。

    …その四。
    死者が天国へと向かい、また再びの生を受けるためには…、」




    「ちょ、ちょちょっと、待って下さい!」


    「なんニャ」


    「混乱しまくりです…。」


    「とても分かりやすく説明したつもりニャ。」


    「あの、冗談ですよね?」


    「ニャにを言っとる」


    「……あ。私行い良かったですよ?ヒャクパー天国行きかと…。」


    「若くして死んでしまったからニャ。命を全う出来なかった者には役割が与えられるニャ。」


    「そんなのおかしいですよー…。」


    「そう言うニャ。天国も地獄も最近は人口過多ニャよ。」



    「………。」





    そんなもんなの?



    「シャて。お前さんが天国へと向かい、新しい生を得るためには…、」



    「?」



    「仕事を与えるニャ♪」


    仕事?



    「…姿を変え、現世に生きる人間へ幸せを与える事。」





    突然猫調でなくなる。





    「幸せ?」




    「そう。その数と質で、お前さんのこの先の道が決まるニャ。」



    「幸せ…。」



    「下界の人間は、それを奇跡と呼ぶニャ。」




    ……奇跡。




    「お前さんは順応性がある。良い仕事を期待してるニャ♪」










    奇跡。
    ねぇ…。




    (携帯)
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■20618 / 1階層)  犬に願えば 4
□投稿者/ つちふまず 一般♪(5回)-(2008/02/25(Mon) 09:27:49)
    「…奇跡の数で、私が天国に行けるかどうか決まるって訳ですか?」




    果ての見えない雲の海を見渡し。
    上を見上げれば、
    夏のように抜ける。




    青…。




    こんな仕組みに、なってたの…。

    あの世ってのは。




    「ま、そんな所ニャ。」




    「いくつか質問しても?」



    「もちろんニャ。」




    「天国でも地獄でも、はたまた生まれ変われなくても…どっちでもいい場合は?」




    どうせ死んじゃったんだしねぇ。




    「…………。」



    スタスタスタ─


    え。


    近付いて来た。



    「お前さんの今までの生き方、今の一言で見えたニャ。」



    ………。



    「たまにいるニャ。最近の若者に多いニャよ。」




    「………。どっちでもいい場合は?」




    「それでも役割からは逃げられないニャ。運命と同じくして。」




    「………誰でも通る、道ですか。」




    「そう、命を全う出来なかった者は必ずニャ。」




    「ところで…。」



    「ニャ?」



    「なんで猫なんですか?」



    「送り手は死者の神に対する最後のイメージが具現化したもの…。お前さんの神のイメージが、」



    「まさか猫だったって事?」



    「みたいニャ。」



    「……………。」



    あ。


    何かに似てる、


    と思ったら。




    「カリン、様…。」




    そうか。
    死ぬ直前に。


    帰ったら読もうと…、




    「カリン?なんニャそれは。」




    喋り難いったらありゃしニャいわ、と。




    「はははははは…。」




    一番お気に入りの。




    キャラなんです、


    とは言えず…。




    「まぁいいニャ。お前さんが仕事をしなければならない“対象”はもう決まってるニャよ」




    「へ?」




    「姿を変え、幸せを与えるニャ。アイデアを駆使してニャ。」




    「ちょちょちょっと待って、幸せを与える相手って…決まってんの?」




    「もちろんニャ。」




    「…………。」




    「この人ニャよ。」




    杖が空を切ると。




    雲が割れ…。




    ぼんやりと浮かぶ人影。




    「え゛」





    「女の子ニャ♪」




    可愛い子ニャ、と。





    「こ、これは…」












    元、彼女が。









    そこにいた。




    (携帯)
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■20619 / 1階層)  犬に願えば 5
□投稿者/ つちふまず 一般♪(6回)-(2008/02/25(Mon) 09:32:08)
    「…無理、無理無理。」


    「ニャ?」



    「ぜーったい無理!ほらもっといるでしょ?いかにも不幸な人っていうか…、とにかく無理です!」


    「何を動揺してるニャ。」


    「二度と関わりたくない人間って生きてる内に一人は二人はいるでしょー?」


    「お前さん死んでるニャ」


    「…………そりゃ、ま、……そうですけど。」



    けど。
    よりによって…。



    「事情は分かってるニャ。」


    「え゛」


    「愛し合ったんニャロ?」


    「………。」


    「履歴によるとお前さんが振った事になっておるようニャ。」



    「………。」



    「でもお前さんは引きずったまま誰も好きな人も作れず死んでしまった訳ニャ。哀れよのう」



    「…………。」



    「じょ、冗談ニャて。こっちの世界に偏見はニャいわ。」



    「それはどうも。あれでも確か…結婚して、るんじゃ。」




    “彼氏が出来た”
    “結婚するらしい”




    生前聞いた2つの噂。




    「お前さんが死んでからニャ、この子は随分苦しんどったニャよ。」



    「え」



    「結婚もまだ延期になっとるみたいニャ。」




    …………。


    なに、それ…。


    「仕事先は、この子しかリストに載ってなかったニャよ。」



    いつの間にか分厚いノートを捲っている。



    「そうそう、今なら“対象者”限定でポイント二倍ニャよ!」




    「は?」




    「……のちのち説明するニャ。」


    「………?」




    「ふむ、お前さん…生きてる内に幸せにしたいと思える人は他にいニャかったのかい?」



    「………。」




    そう。
    …かもね。



    「そうニャのか。ふむ。」


    「…姿を変え、って言いませんでした?あれはどういう意味です?」



    「知りたいニャ?では、…変身してもらおう。」


    へ。


    変身?








    コン─


    杖を突くと、
    まるで合図のように。








    ぽん。




    …………。


    「ほう、可愛いニャ♪お前さんはこの系列か」



    「(…ええっ!これ!ちょっと、何!?)」



    「大抵の生物には変化出来るニャよ。1人につき1種のみ、ニャけど。」


    「(ちょっと!ラフィ!)」



    「人間には変身できニャいけどニャ♪」




    見事に、


    それは生物学上。








    “犬”と呼ばれる生命体へと変身した自分がいた。




    (携帯)
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20620 / 1階層)  うわっ!?
□投稿者/ ワンコ 一般♪(1回)-(2008/02/25(Mon) 12:41:01)
    はじめまして!
    久しぶりにつちふまずさんの小説が読めたので、興奮した勢いで初レスです!


    出だしで一気にはまりました(^O^)まさか、カリン様が登場するとは!私も大好きなキャラです♪


    体調に気をつけて更新してください。のんびり楽しみにしてます♪

    (携帯)
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■20624 / 1階層)  わんこさん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(7回)-(2008/02/26(Tue) 00:52:34)
    ども(^0^)☆
    わんこさん。
    初めまして。


    今回は…。
    ズバリわんこが主人公ですよ☆
    (いよいよ何でもアリに)

    結構前に書いたものなんですが、
    少し手直ししてます。


    カリン様…。
    ぼてっとした、
    愛くるしいキャラって。私は相当好きなんだと思います(笑)


    JR東日本のスイカペンギンが踊ってるポスター…。
    こっそりパクったらマズいかなぁと日々思っている位です。(そりゃマズいってね)


    ではわんこさんのコメントに感謝しつつ、


    少し更新しておきましょう。


    久しぶりに、
    楽しみにしていて下さい。




    (携帯)
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■20623 / 1階層)  わぁ♪
□投稿者/ 黒 一般♪(2回)-(2008/02/26(Tue) 00:41:50)
    つちふまずサン作品読めて嬉しいです。
    更新が待ち遠しいですが、つちふまずサンのペースで体調崩されませんように。


    (携帯)
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■20625 / 1階層)  黒さん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(8回)-(2008/02/26(Tue) 01:03:06)
    初めまして、
    でしょうか黒さん。


    どもども(^0^)☆
    私の事はご存知のようで…。

    皆さんが忘れた頃に何か書こうかな、なんて思ってたんですが(笑)

    ありがとうございます。感謝申し上げます。

    それでは黒さんの期待に答えるためにも、
    少し更新しておきましょう。

    では、
    おやすみなさい。




    (携帯)
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■20627 / 1階層)  犬に願えば 6
□投稿者/ つちふまず 一般♪(10回)-(2008/02/26(Tue) 01:08:06)
    「キャンキャンキャンキャン!!」



    (訳:何で犬なんですかぁー!!)



    「まぁ落ち着くニャ。ほれ、………お手。」



    ─ぽす(手)



    あれ。


    「いい子ニャ。」



    「クゥー…」
    (体が自然に)。



    「送り手とは喋れるニャよ。ほい。」



    コン、と杖を再び鳴らす。



    「ぐすん。なんで?犬になっちゃったんですかー…?」



    「人間のまま降りたら大混乱ニャよ。でもお前さんは運がいいニャ。」



    「?」



    「子犬に変化できる死者は稀ニャよ。」



    「…………。」





    犬なのに?(涙)



    茶の短い毛に包まれた自分の姿を見る。



    今までに無い異物感を感じて振り返ると、



    短い尻尾があった。



    「とりあえず行くニャ。論より証拠。知識より経験ニャ。」



    「む……。(不満)」



    「ほんニャ、行ってニャっしゃーい!!」



    ラフィは両手を上げた。


    「えええ!!」



    パシュ─








    「………やれやれ。やっと見つけたニャ。頑張るんニャよ。」










    下界─





    パシュ!




    ……っつ。



    ………。






    ここ、は…。



    アスファルトの感触。


    わ。
    わわわわわ。



    目線ひくっ!!



    くんくん。


    くんくんくんくん。




    色んな匂いがするな…。


    あ、私犬っぽいよ今の!やだなー私。




    ……って。



    ホントに犬、
    になっちゃったんだ。



    とほほ…。


    四つ足を使って歩いてみる。


    トボトボ。


    ─リンリンリン!!


    え。


    「あぶなっ!!」


    ぎゃあ!


    目の前を大きな円が通り抜けて行った。
    思わず尻もちをつく。



    「犬かー。あーびっくりした…。」




    ─キーコキーコ





    自転車…。




    ってあんなにビッグだったっけ!?



    こ、怖い…。
    もうやだよー…。




    “あの子を探すニャ”




    空から突然、
    声が振って…。



    ラフィ?



    “匂いは覚えてるニャ?近くにいるニャよ。”



    お、
    覚えてる訳ないでしょ!





    …………。


    あれ。








    くんくん。
    くんくんくんくん。








    懐かしい、




    匂いがする。




    肉球がアスファルトを確かめつつ足を進める。






    “その調子ニャ♪”







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■20628 / 1階層)  犬に願えば 7
□投稿者/ つちふまず 一般♪(11回)-(2008/02/26(Tue) 01:15:01)
    この匂いは、




    ……。






    ─いつも鼻をこすりつけるよね。それ癖なの?”




    ─…んー。いや?






    ─くすぐったいよ…。ふふっ。






    サト。



    引き出した記憶。



    忘れたつもりでも、思い出してしまう。



    この鼻のせいか、
    記憶のせいかは。



    とりあえず置いておいて…。




    探そう。




    狭い路地裏を抜けると、広い大通りへと。




    人通りも、
    車も無かった。




    歩道の脇には整備された芝生。




    ここは…。




    木々の匂いに混じって、独特の。




    ああ、どこか何となく分かった。



    “知っている”
    場所だった。




    それに気付くと、
    再び微かな匂いを辿る。



    季節は冬、
    なんだろうか。




    湿った鼻に当たる風がちょっと冷たい。




    体は毛に覆われているからかなり暖かいけど。




    スタスタスタスタ─




    大分慣れて来た四つ足の速度を速める。




    懐かしい匂いが、



    形を成すように。



    はっきりとして来たから…。



    ………っと。



    ピタリと足を止めた。



    ……………あ。





    ………見つけた。



    割と早く、
    見つかった。




    ラフィはピンポイントで私を送れるのかな…。




    心臓がバクンと、
    高鳴る感覚。




    記憶の中でのみ、
    生きていた人が。





    今目の前にいる─






    あー…。




    相変わらず物持ちがいいなぁ…。




    そう思った理由は、



    あの頃と同じ黒いコートを着ていたから。



    カシミアで、
    肌触りがいいんだって。


    私に自慢していた。




    俯き気味にサトは静かに佇んでいる。




    髪が伸びた…。かな。




    風にさらわれて、
    髪が踊っている。



    ツンとした横顔。



    高くはないヒール。




    正確には2年振り、になるんだろうか。


    私には1年ぶり、
    だとしても…。




    “石”




    に隠れて。


    その佇む姿を眺める。




    なんて。




    寂しい…、




    ……ううん、懐かしい。




    顔…。




    スラリとした体が屈んだ。




    顔を上げて、
    白く吐き出されたため息と共に。




    そっと手を合わせる姿に。




    思わず犬である事も忘れ。




    私はサトの元へと。
    足を進めた。






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■20636 / 1階層)  犬に願えば 8
□投稿者/ つちふまず 一般♪(12回)-(2008/02/26(Tue) 10:24:02)
    スタスタスタ─




    「…………。ん?」




    “その人”は。


    半径2m以内に座った私を一瞥した。



    「…………。?」



    何でここに犬が?とでも言いたげなリアクション。


    左右に小さく頭を動かしている。



    私は努めて静かに─
    “お座り”のまま。



    「キャウ」
    (久しぶり)



    「どこから、………?」


    「クゥー」
    (雲の上からだよ)



    私は冗談を言ったつもりだけど。




    伝わるはずも無い。


    少し怯えたように、サトの綺麗な眉が歪んだ。




    …そりゃ、そうだ。


    説明なんて出来るはずはない。




    とそこで、




    パタパタパタパタ─




    あれ?




    パタパタパタパタ。




    勝手に、
    尻尾が…。




    自身の短い尻尾が、小刻みに左右に揺れる。




    戸惑っていると─




    サトの表情は、先ほどよりも緩んだ気がした。




    パタパタ、と。
    再び揺れる尾。








    “嬉しい”







    “嬉しい”




    喜んで、いるの?


    犬の私は…。






    「迷ったの?……おいで。」




    優しい声に、
    変わらない声に。


    体に染み付いた声に。




    体が支配されていく。




    綺麗で長い指が、
    差し伸べられる。



    スタスタ。




    …………。




    ふわりとした温もりが、頭上に乗った。


    「…ノラくん、なのかな。」




    よしよし、
    と小さい声と同時に頭を撫でられる感触が伝う。



    懐かしい匂い。


    懐かしい温もり。




    「クゥー…」


    「あ、怒った…?」


    「キャウ(ちがう)」



    ちがうよ。



    「名前はなんていうの?どこから、来たの?」



    「…………ウー」



    私だよ。











    …ハルカだよ。





    「…綺麗な毛だね。」






    ……。








    「この人もね、おんなじ髪の色してたよ。」





    向けられた視線の先─



    ん?



    相原…。






    ………あ!そっか…。




    そういう事、か。




    目線が低いから全然気付かなかった。




    ましてや生前は。
    足を運ぶ事も少なくなっていたから…。







    そこには紛れもなく。





    私の母と─







    そして私自身が。











    眠っている場所に他ならなかった。



    (携帯)
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■20638 / 1階層)  犬に願えば 9
□投稿者/ つちふまず 一般♪(13回)-(2008/02/26(Tue) 12:22:56)
    「車の事故でさー。…バカだよねー。」



    ピン、と墓石に向かって長い指を弾くジェスチャー。



    …………。



    「…そんな事あなたに言ったって分からないか。」




    “あれからどう?”




    生きていれば─


    きっと当たり前のように交わされる再会の会話。



    「なーんで死んじゃったのかなぁ…。」




    切ない声で、
    サトは言う。





    ………。


    ホントだよ。




    私もまさか、
    こんな事になるなんて。



    しゃがんだままのサトの小さな肩を。





    ……抱いてあげたい。




    そんな小さな欲求にかられて─


    私は思わず手を伸ばす。






    ─ぽす(手)




    「…………。」




    あれ。


    サトは自分の太ももに乗った私の短い手を見る。




    くそう…。
    こ、この手じゃ。
    キマらない。


    ただの反省のポーズになってしまった私を見て、





    サトは微笑んだ。




    「…大丈夫。私もうすぐ結婚するんだよー」





    いい子いい子、
    と私を再び撫でた。




    ………。




    うん。




    そうらしい、ね。






    するとサトはもう一度墓石を見て。




    「うん。結婚…するんだよね…。」




    呟いた。




    迷いとも、
    納得とも。


    取れる表情。


    これは…?



    「…あ、いけない。」



    腕時計を確認した後、再び私の頭に手を置いた。


    「ノラくんじゃなければ家に帰るんだよ。」



    小さく微笑んで、






    手桶を持ち直し、




    足早に去って行く。







    私はサトの背中が見えなくなるまで、


    動けずにいた。










    ……サト。






    …結婚、か。




    軌跡を辿るように徐々に遠ざかっていく、サトの匂い。





    “迷い”
    の原因は。





    私に、
    あるのだろうか。





    …………。



    なんなんだよ、もう。




    そもそも何がおかしいって…。




    「………キャウ。キャン!」



    (お前が死んだのが悪い)




    私はかつての肉体が眠る場所に向かって鳴いた。






    何で…。





    なんなのさ、もう…。












    「…キャウーン!!!」




    踏ん張った肉球の隙間に砂利が入ったけど。










    私は叫ばずには、
    いられなかった。




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■20637 / 1階層)  わぉ↑
□投稿者/ ルー 一般♪(1回)-(2008/02/26(Tue) 12:14:00)
    久しぶりにのぞいたら、つちさんの小説が…。
    寒いですがお元気ですか?更新楽しみにしてます♪
    体調には気をつけて下さいね(^O^)

    (携帯)
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20640 / 1階層)  犬に願えば 10
□投稿者/ つちふまず 一般♪(15回)-(2008/02/26(Tue) 12:45:38)
    「キャウーン!!!」



    三回ほど鳴いた所で─



    「…嬢ちゃんよ」



    低い声が冷たい空気を割いた。



    …え?



    「珍しいな。女の子か。」



    しゃがれた声…。


    キョロキョロと見回す。人影は全く無い。


    「アウ (誰?)」


    「ここだよ。ここ。」


    えっ。



    声の主は、
    私の墓石の隣。



    「まだ子供だな。可愛い顔してら」



    濡れた翼。
    カーブした口。
    犬目線で見ると、





    かなり大きい。






    烏…。


    カラス?


    「気を付けな。そんな大声出したら通報されちまうぜ。」


    か!!!


    「カラスが喋っ…、ええっ!!」


    「お前さんだって犬なのに喋ってるぞ」


    「あれ?」


    「俺も同じ。なんだ?お前さん来たばっかりか。」


    「あの、えー…」



    「俺はゲン。烏のナリしちまってるがな。」


    「ゲン、さん…。」


    「おう。そうだ。」


    良く見ると、
    片目を失っているのか。


    額から首にかけて×と大きな傷が見えた。




    「…私、ハルカです、はい。」


    「かしこまるな。俺はつついたりしねーよ。」



    この人も、
    …死者?



    「事故か?病気か?まさか殺られちまったとか?」



    たたみかけるような質問。



    「あの、事故で…」


    「だろうな。犬は優等生にしかなれない」


    「優等生?」


    「お前ホントに来たばっかりなんだな。…いいか?」



    太い声に体が縮こまる。



    「はい」



    「簡単に言えば、どういう生き物に変身するかは生前の行いによって決まるんだ。」



    「はい」



    「…それだけだ」



    「え。あ、はい」





    「……なんで俺が烏になっちまったのか聞かねーのかい?」



    「え?あ、すみません。聞きたいですはい。」



    「ピリッとしねーなぁ…。」


    「すみません…」








    「まぁいいや。生前の俺と言えば札付のワルでな、街を歩けば誰しも視線を合わせず思えば人様に迷惑かけっぱなしで、それでもオギャアと男と産まれて来たからには、」






    …。










    「…一旗上げるのが筋ってもんよ。ってな事でまだ毛も生えてねぇ頃の話からになるが、義務教育もそこそこに盗んだバイクで旅をする事2年、そこで出会ったサブローって兄貴がまたいい男でよ?」









    ……。




    つづく。




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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20641 / 1階層)  ルーさん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(16回)-(2008/02/26(Tue) 20:18:03)
    おす(^0^)☆
    オラつちふまず!
    (懐かしい)

    久しぶりですね、
    ルーさん。
    お元気でしたか?

    私は花粉症ノックアウツ…。
    鼻トールメントールという飴が手放せません。

    三寒四温とは正にこの事…ルーさんも体調にはお気を付けて☆




    (携帯)
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▲[ 20614 ] / ▼[ 20643 ]
■20642 / 1階層)  犬に願えば 11
□投稿者/ つちふまず 一般♪(17回)-(2008/02/27(Wed) 08:18:04)
    ゲンさんの武勇伝は、まだまだ続く…。




    ヒューるり〜(北風)




    「という訳でサブローの兄貴が俺に裏で生きるための処世術を…処世術ってわかるか?教えてくれた訳だ。そりゃもう、」


    とそこに─






    「ただのヤクザよ。流れ弾に当たって死んだの。つまんない喧嘩でね」







    ……あれ、
    いつの間に。



    我が家の墓石に─





    はと。







    今度は鳩…。
    (段々慣れて来た)




    「おうフジ。なんだよいい所で。」




    「いい加減におし。…変なオジサンの話聞かされて鼻が乾いてしまうわよ。」




    ねぇ、とフジと呼ばれた鳩は首を傾げた。



    「いえ、はは…」



    「いやーついついな。若えもん見ると舌が滑っちまって…」


    「始末に負えない烏だよ。…ところで、来たばかりなのかい?」




    羽を揺らせてお座りをした私の目の前で、


    フジさんは止まった。




    「ええ。そうなんです…。」



    何が何だか。



    「私はフジ。よろしくね。」



    「私…、は」
    「ハルカだよな♪」
    「お前さんは黙ってて」





    …………。


    何か、
    こういう会話。




    「はははは…。」




    「あらやだ。笑うと可愛い。若いっていいわ…」


    「お前はただの鳩婆だろ」


    「うるさい!」





    はははは…。





    暫くの会話ののち─




    「と、いう訳なんです。」




    私が死んだ理由。
    与えられた“仕事”。
    などを説明した。




    私とサトの関係性は、敢えて伏せたけど…。




    「なるほど。お前さんの送り手はラフィか…そりゃ運がいいぜ。」





    ゲンさんは頷いた。




    「そうなんですか?」




    「そうよ。いい送り手だもの。」




    「部長クラスだな。」




    部長クラス?



    「ただ…“対象”が結婚するとなると難しいわね。」


    「んだなぁ…。」



    「どういう意味です?」


    「考えてみろよ。これから幸せになるって事だろ?…俺らの仕事は、人間様に幸せを届けること」


    「既に幸せな状態にある対象者には難しいわ。」



    「そう、ですか…」




    ただ─




    サトのあの表情…。


    “迷い”


    があったような…。






    とそこで─




    “おーい!一旦戻るニャよー!”









    ラフィの声が、
    天から響いた。



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▲[ 20642 ] / 返信無し
■20643 / 2階層)  Re[2]: 犬に願えば 11
□投稿者/ もも 一般♪(1回)-(2008/02/27(Wed) 13:16:13)
    はじめまして^^つちふまずさん。
    もう、何年も前からよく読ませてもらってましたよ〜「スマイル」とか?

    なんか、作風がかわいくていいですね〜。小さな子犬が頭の中に浮かびます。
    ほんと読みやすくて感心します。今回はパターンが違うのでほんと楽しみ♪
    ホントはもっとお話したいとこですが、邪魔になると困るので!!
    頑張ってくださいね〜
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20644 / 1階層)  お久しぶりですね
□投稿者/ 春坊 一般♪(1回)-(2008/02/27(Wed) 16:11:21)
    名を見てつい書いてしまいました。
    今更ながら再認識し好きだなこのテンポ(^O^)つちふまず節(笑)では、又。

    (携帯)
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20645 / 1階層)  ももさん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(18回)-(2008/02/27(Wed) 22:18:39)
    はい初めまして(^0^)
    どもども♪
    読みやすい、ですか。
    それは良かった☆

    難しい理屈も表現も苦手な私です(笑)

    恐らく性格でしょうね。最後までお付き合い頂ければ幸いです。




    (携帯)
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20646 / 1階層)  春さん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(19回)-(2008/02/27(Wed) 22:23:30)
    久しぶりですね!(嬉)
    春さーん(^0^)☆

    お元気でしたか?
    最近春一番が吹き荒れましたよ。
    もうすぐ、
    といった所でしょうね。

    節…(笑)
    恐らく春さんには分かってしまうんでしょうね。私が書いた恐ろしく拙い文章は。

    『土踏まZ』

    に改名しようか悩んだのですが、
    しなくて良かったです。

    仕事帰りの私です。
    春さんも忙しい日々を送ってるんでしょうか。

    少しでも息抜きのきっかけになれれば、
    幸いです。





    (携帯)
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20647 / 1階層)  犬に願えば 12
□投稿者/ つちふまず 一般♪(20回)-(2008/02/27(Wed) 22:43:46)
    ラフィの声が響いた瞬間─





    パシュ!


    眩い光を感じた。




    「中間報告だな」
    「またねー♪」





    ゲンさんとフジさんの翼がパタパタと上下しているのを見て。










    再び雲の上─



    「お疲れさんニャ。」



    瞬間移動した。



    「…………。」



    ………はぁ。


    「疲れておるニャ。ほい変身」





    ぽん。




    人間の姿へと戻った。




    「あのー…」
    「なんニャ。」




    「いえ、なんでもないです…」


    「大丈夫ニャ?」


    「ええ、まぁ…。」




    「“対象”に会った感想は?聞かせるニャよ」




    …………。


    サトの匂いを思い出して、思わず鼻をこすった。




    「…分かりません。」


    「ニャ?」


    「何で今更…。」





    わざわざ犬になってまで。




    …幸せとか奇跡とか。


    …もう私は、







    「もう私は死んでるんでしょ?…だったら、何で今更こんな事しなきゃならないんです?」





    「…………。」





    「…確かに私が突然勝手に死んじゃったからサトに元気が無いのはわかりますよ。でもそれを知ったからって、」





    「…………。」




    「どうしろと?これから結婚するんなら、幸せなら放っておけば、」








    「ハルカ。」






    え…。






    「対象が“忘れるべき人”であればこれほど辛い役目はニャいだろうて。」





    「…………。」








    「ただニャ、人間は幸と不幸の絶妙なバランスの上に生きているニャよ。」






    「…………。」






    「お前さんの人生はどうニャ?不幸な事実だけニャったか?」



    「…もう、思い出せません。」



    「お前さんの人生の履歴を読ませて貰ったニャ。父は離婚、母は病気で死亡、…大変な人生であったな。」



    「……。」



    「それでも素直に生きてこられた理由はなんニャ?」



    「………。」



    「お前さんの対象に神があの子を選んだ理由はただ一つニャロて。」




    「……え。」




    「…対象者に幸せになって欲しいと、一番願っている人間は誰ニャ?」









    ………。




    「しかもお前さんは子犬…運がいいニャよ。」





    「?」





    「いずれ分かるニャ」






    口の端を、
    ラフィは持ち上げた。


    (携帯)
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■20648 / 1階層)  ここはビアンエッセイ長屋♪
□投稿者/ ゆらら☆ 一般♪(1回)-(2008/02/28(Thu) 01:54:28)
    おっと。おかえり〜つちさん☆

    可愛くて切な甘苦しくて

    いいお話だねぇ〜☆続きが気になるってもんだぁ〜♪

    子犬なでなでしたくなるねぇ☆
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■20649 / 1階層)  待ってました!!
□投稿者/ mh 一般♪(1回)-(2008/02/28(Thu) 12:32:04)
    お久しぶりです、つちさん♪
    お元気でしたか?

    私は風邪でバタンキュ↓でしたが、つちさんのお話を読んで元気になりましたp(^^)q

    やっぱりつちさんのお話はいいですね☆前にも言いましたけど、不思議と心地が良くなって優しい気持ちになれるんですよ(^-^)

    続きがとても楽しみですが、無理せずゆっくり更新していって下さいね(^O^)


    (携帯)
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■20654 / 1階層)  ゆららさん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(21回)-(2008/02/28(Thu) 21:22:06)
    はい、こんにちは(^0^)

    お元気でしたか。
    良かったです。

    最後までよろしくです☆ほいではまたー♪




    (携帯)
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■20655 / 1階層)  mhさん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(22回)-(2008/02/28(Thu) 21:24:39)
    お久しぶりです(^0^)

    風邪は大丈夫ですか?
    私も花粉症でして↓
    お大事になさって下さいね☆

    元気になれる文章、
    とまで行かなくても。

    少しでも楽しい気分が降りてくれるなら。
    幸いでございます。





    (携帯)
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■20657 / 1階層)  犬に願えば 14
□投稿者/ つちふまず 一般♪(24回)-(2008/02/28(Thu) 21:33:56)
    ふぉ、ふぉ、
    とラフィの声が響く。







    天空─



    “部長クラスだぜ”



    「あ、そうだ。」



    ゲンさんの言葉。



    「なんニャ?」



    「ゲンさんが、その…ラフィの事“部長クラス”って言ってましたけど…」




    あれは一体─




    するとラフィは杖を持ち直し。




    「私の様な送り手は他にも沢山いるニャよ」




    空を仰いだ。




    「あ、そうなんですか?」




    「そうニャ。正確な数は私にも分からんニャよ。」




    うーん…。
    そうなんだ。




    「ちょっと変わった所でヴィンセントという送り手もいるニャよ。」




    ラフィは丸い指を一本立てた。




    「変わってる?」




    「人間に不幸を与えるべき送り手ニャよ。」




    「不幸ですか、へー…。…って。………ええっ!そんなのもいるんですか?」




    不幸って…。




    「人間は幸と不幸の絶妙なバランスの上に立っておると説明したニャろ。言うなれば“必要悪”ニャ♪」




    「ふーん…」




    必要悪…。




    「ヤツは人間にも変身出来るニャよ。下界の日常に潜んでおる。」




    「ええっ!こわっ!」




    さながら。


    悪魔みたいな?


    感じなのかな…。




    ふーん…。





    すると突然─




    「これ食べるニャ?」




    好きニャろ、と。
    ラフィはムクムクした手を差し伸べた。





    良く見ると。


    肉球と肉球の間に、










    一粒の、豆。





    「ほい♪」





    「こ、これ………。」







    ももももしや。





    こ、これは…。






    一粒で体力回復。






    カ、
    カリン様と言えば…、




    ごくり。




    「いた、だきます…。」



    一粒摘んで、
    口に入れた。




    ぽりぽり。


    ぽりぽりぽり。




    む、


    むむむむむ…。










    「ピーナッツが好きだとお前さんの履歴に書いておったニャ♪」






    私も好きニャ、と。




    ラフィは。
    小さな袋から沢山のピーナッツを取り出し。





    「ニャ♪ニャ♪ポリポリ」







    ……………。







    ピーナッツ…。






    私の口の中でも。
    ぽりぽりぽり、と。










    音が響いた。




    (携帯)
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■20656 / 1階層)  犬に願えば 13
□投稿者/ つちふまず 一般♪(23回)-(2008/02/28(Thu) 21:25:51)
    「………どちらにしても抗えない、って事ですか。」



    するとラフィは、
    無表情のまま。



    「“対象”以外でポイントを稼ぐのは大変ニャよ。…それもいずれ、わかる事ニャ。」




    ……………。




    ラフィの話は─




    全く説得性もなければ、根拠も無い。




    だけど、




    「分かりました。サトには幸せになって欲しい。それは間違いない。」




    こう答えるしか、




    私には出来ないと思った。




    「ふむ。頑張るニャ。」



    「あ。そうだ。ゲンさんとフジさんって人…、烏と鳩でしたけど。会いましたよ?」




    ずっと立ちっぱなしで話していた自分に気付いて─




    私は雲の上にあぐらをかいた。




    ラフィも大きなお尻をついて、足を投げ出した。



    「またお喋りな2人と知り合ったもんニャ。元気ニャったか?」



    ふぉ、ふぉ、とラフィは笑った。




    「ええ。いい人達ですね?」




    「烏のゲンに鳩のフジ…。彼らもいつかは、転生出来ればいいんニャが」



    「?」




    「ゲンはともかく。フジは背負うべき業が思いニャよ。」




    「業?」




    「フジはニャ、海に身を投げてしまったんニャ。」




    「………そう、なんですか。」




    そんな過去が。




    「自殺に原因は問われないのニャ。深い業となるニャよ。」




    「原因は問われない…。」




    「そう。ゲンは…ちょっと変わりものでニャ、もう転生してもいいはずニャんだが…。」




    「え?」




    「強い意志で下界にとどまっておるニャ。わざわざ人間に嫌われやすいカラスの姿でニャ」




    不思議なヤツニャろ、


    とラフィは笑った。




    そうなんだ…。





    「………ゲンさんもフジさんも、元々は人間なんですよね。」




    「そういう事ニャ。」




    「一杯いるって事ですか…。死者の魂が入った生物は。」




    「ふむ。お前さんの想像以上にニャ。」




    「………そうなんだ。」




    生きてる時には、
    全然分からなかったけど…。




    「全ては神の意志によって決まるニャ。疑問は持つだけ無駄ニャよ」



    「怖いですね、なんか」


    神様とか、
    なんか。





    「そう思うのが、普通ニャろて。」




    ふぉふぉ、と。
    ラフィは笑った。






    (携帯)
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■20659 / 1階層)  犬に願えば 15
□投稿者/ つちふまず 一般♪(25回)-(2008/02/29(Fri) 11:07:13)
    数日後の、



    下界─



    さて、と…。




    アスファルトの上を歩く。




    時は夕暮れ─


    とは言っても、
    夕焼けは見えず。



    空は薄曇り、
    といった所か。



    サトの住むこの街には、かつては良く来たので地理には詳しい。




    物凄い都会に住んでなくて良かった…。




    華やかな場所は駅周辺のみで、
    簡単に言えば郊外のベッドタウン。



    野良犬がいても、
    目立つ動きをしなければなんとかなりそうだった。



    歩き方はすぐに覚えた。


    この鼻は、私が思う以上に便利なセンサーだった。



    下校途中の小学生ほど危険なものは無いと分かったのは最近だ。


    この鼻はそういった危険を回避する役目も果たしている。


    気付いたのはペットとして飼われている犬とは、会話は出来ない事。



    私の匂いを嗅ぎ分けてもさほど興味を示さない。



    丘の上公園に誰もいない事を確認して植木の影に座る。



    自然に、
    野良犬に変化している自分に驚くばかりだ。




    すると─


    パタパタと羽が擦れる音と共に、
    慣れた匂い。



    胸に安心感が広がる。



    「いたいた、お嬢さん。調子はどう?」



    「フジさん。」



    フジは私の隣にある大きな樫の木の枝に止まった。



    「幸せポイント、稼げそう?」



    ラフィも言っていたけど“仕事”はポイント制らしくて。



    まるで会社だ。



    「うーん…どうでしょう。とりあえず今日会ってみますけど」



    「どうやって?」



    「ちょっと考えが、あるんです。」



    「あらまぁ。前向き♪」



    「性格を知ってないと、出来ない事ですけどね…」



    「頑張って。応援してるわよ♪」



    「あ、はい。フジさんは?」



    「…そうね。所詮は私は鳩だから。それなりに。またねー♪」



    くるっくー、と。
    喉を鳴らせて。


    冷たい空に、
    フジさんは飛び立った。


    自由だなぁ…。
    飛べるのは羨ましい。



    風に乗って様々な匂いが濡れた鼻を掠める。


    カレーの匂い。
    鰹ダシの匂い。
    ガソリンの匂い。


    通り過ぎる女性の、
    香水の匂い…。




    夜の帳が、
    降り始める頃。




    特別な匂いが鼻を掠める。




    そろそろかな。



    サトが改札をくぐり抜けたのを鼻が感知して。









    私は再び歩きだした。

    (携帯)
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■20660 / 1階層)  犬に願えば 16
□投稿者/ つちふまず 一般♪(26回)-(2008/02/29(Fri) 11:13:05)
    もう帰っているみたいだ。




    事実─
    私の鼻はサトの匂いを確実に捉えて。


    家路に着くまでのルートを確認していた。



    慎重に目的地に近付いた頃、




    灰色の空から、
    雨が降り始めていた。




    サトのマンションは、あの頃と変わってない。




    結婚する前に、
    同棲するつもりは無いのだろうか…。






    ─オートロックの方が安全じゃない?





    ─んー…そうかな?





    ─心配だよ





    ─こんなオンボロマンションに泥棒入る人なんていないよね。ふふ




    こんな話、
    したっけなぁ…。





    管理人さんの部屋の窓からは見えない位置をすり抜けて。



    集合ポストからは離れて、



    ぶるぶるぶる─


    体の水滴を払った。




    務めて静かに、
    階段を昇る。



    んしょ、んしょ。



    足が短いもんだから(涙)



    5階に着くと、
    私は舌を出して熱を発散させた。




    はぁ。はぁ。




    502…、と。



    あったあった。




    さて、ここからだ。





    ………むん(気合い)




    私が思い付いた、


    “案”


    と言えば。




    ………せーの!!




    ─タタタタ、ドン。


    いて!




    ─タタタタ、ドン。


    あいたたたた!




    ただただ単純に。
    ドアを、


    “ノック”


    しようと思った。




    ─タタタタ、ドン。


    いち〜。




    だって難しい事は考えつかないし。




    ─タタタタ、





    「…はい、どちらさま?」




    何となく、
    これが一番かなって…。



    「………あれ。」




    いた。
    …………サト。



    訪問者が、
    “かなり”小さかった事が意外だったか。





    足元に座る私を見て。




    「この前の…、」




    サトはドアを支えたまましゃがんで。




    「また会ったね。」




    一つ、笑顔を見せた後に私の頭を撫でた。




    「冷たい…。寒くないの?」




    そう、
    サトは優しいから。




    きっと私を迎え入れるだろうと。


    どこか確信めいた自信があった。






    ─どうして雨の日には良く来るの?





    ─なんだろ……物悲しいからかなぁ




    ─じゃあ、毎日雨ならいいのにね。




    ─……はは。











    私はいつもその優しさに甘えていた。






    (携帯)
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■20661 / 1階層)  犬に願えば 17
□投稿者/ つちふまず 一般♪(27回)-(2008/02/29(Fri) 11:18:12)
    「よいしょ。」




    サトは片手で私を持ち上げ静かにドアを締める。



    同時にふわりと広がる、懐かしい匂い。





    「ちょっと待ってね…。」



    洗面所にサトは入ると、タオルを片手に取り。




    リビングへと足を進めた。



    良かった…。
    この鼻も示していたが、サト“一人”らしい。




    フローリングに静かに足が着地した後、
    柔らかくタオルに包まれる。



    「大人しいんだね」



    体に這うタオルと手の感触が少々くすぐったいが。


    「………キャウ」


    (ありがと)



    「あ、鳴いた。ふふ」



    再び体が持ち上がる。



    「で、君はどこから来たの?」



    両脇を抱えられて。



    「…………。」



    顔。




    サトの顔が近い。




    長い睫。
    気にしている広い額。


    真っ直ぐに伸びた鼻筋。



    は、
    恥ずかしいー…。




    「どこから来たんですかー?」




    ふりふり、と左右に揺らされて短い足が空を切る。




    「あ、女の子なんだ。」



    下半身に目を遣るサト。





    は、
    恥ずかしいっちゅーねん!!




    「イヤイヤしてる。ごめんね。ふふ」




    ストンとフローリングに下ろされた。



    ふう…。



    「不思議なワンちゃんだ。飼い主さんはいないのかな…。」



    うーん、とサトは指で顎をさすった。



    サトが考え事する時の癖。




    「ミルクでも飲む?」




    思い付いた様にサトは言うとキッチンへと向う。



    部屋を見渡す。



    ある事実に気付く。



    こんなにさっぱり、
    してたっけなぁ…。



    必要最低限の家具、と言った所だろうか。



    雑貨が好きなサトにしては物が少ない。




    ………あ。



    テレビの横にある、小さな棚の上を見ると。


    そこには、
    私が“仕事”をする上で重要なポイントがあった。




    …………。



    近付いて、
    目の前で座る。





    この人、か。




    うーん…。


    まぁ。


    いい男に、見えなくもない。かな。




    …………。



    幸せを形にするとしたらこんな感じだろうか。



    フレームに入った写真。



    胸の痛みは感じないように心がけていた。




    それなりの覚悟を持ってここに来たつもりだから。







    けどやっぱり。










    結構悔しいもんだ。




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■20666 / 1階層)  犬に願えば 18
□投稿者/ つちふまず 一般♪(28回)-(2008/03/01(Sat) 18:20:59)
    ぼーっと2人が寄り添う図を見ていた私に、



    「写真を見てるの?」



    ホントに不思議なワンちゃんだね、と。




    キッチンから戻ったサトは私の隣にしゃがんだ。



    コトリ─




    ミルクを入れた小皿を、フローリングの上に置く。



    わざわざ温めてくれたのかな。



    小皿はゆるく、湯気を立てているのを見て。




    こういう所はサトだなぁとぼんやり思う。




    「いい人、なんだよ」




    見上げるとサトは目を細めて写真を見ていた。




    …………うん。




    それは何となく、




    わかるよ。




    「いい人、……なんだけどね…。」




    「…………。」




    「はぁ。」




    ため息…。





    の後に─





    「ゲプ」


    (↑私)




    ええっ!




    「あら、げっぷした…お腹は一杯なのかな?ふふ」




    ななななんだ!?




    サトの前で、
    いやいや。


    人前ではしないはずのげっぷが…。




    出ちゃった(恥)




    ………あれ。


    なんだこれ。




    口に、
    広がる甘い味…。




    そんなおかしな犬の私の変化に気付く事もなく。



    サトは私の背中を撫でている。





    むずむず─


    鼻、が。


    真冬の雨が堪えたのか、


    「プシュン!」



    おっと…。
    (今度はくしゃみが)



    「くしゃみした。ふふ…。まだ体が冷たいね。」



    「…キャウ」
    (大丈夫だよ)



    「…ふふ。あ、そうだ。」









    「お風呂、入ろっか♪」




    ……………。





    えー…っと。




    「入ろう♪あったまろう♪行くよー」




    ヒョイと私を抱きかかえる。




    ええっ!




    「キャウ!キャウ!」
    (いいよ!いいって!)




    「じたばたしないー」




    サトに抱かれつつ、
    イヤイヤするも。




    抵抗虚しく…。




    そういや、


    サトは優しい上に。





    ─お風呂たまったよ〜




    ─いいよーサトの後で。



    ─冷え性なのはそっちでしょう?ほら、早く入って




    ─面倒くさいー




    ─…んもう。髪、洗ったげるから。ほらほら。




    ─へいへい。分かった分かったって。







    かなりのお節介だったなぁと。









    私は思い出していた。





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■20667 / 1階層)  犬に願えば 19
□投稿者/ つちふまず 一般♪(29回)-(2008/03/01(Sat) 18:24:29)
    シャー…(湯)



    「気持ちいい?ふふ」



    そりゃ、まぁ。




    期待、してた。


    …ワケじゃないけど。




    “一緒に”なんてさ。




    そんな私の下心は、
    ともかく。




    部屋着の裾と袖を捲って髪をアップにしたサト。



    さながら風呂掃除、と同じ格好だろうか。




    産毛の中までお湯が入り込む感覚。




    ふ、


    ふいー…。
    (気持ちええ)



    温まって行く体。




    ふと上を見ると、サトは笑顔を見せた。




    私は思わず、
    視線をそらす。




    実際は毛に覆われているのにそうは思えないから…。



    (裸にされている気がする)



    「シャンプー、はマズいよね。やっぱり石鹸かな。」



    「キャウ」
    (どっちでもいいっすよ)


    モコモコと体が泡立つ。やっぱりちょっと…。



    「キャウ」
    (くすぐったい)



    「あれ、ダメ?」



    ダメじゃないけど…。
    くすぐったいよ。





    ぼんやりと思う。




    サトは─




    いいお母さんになりそうだなぁ。




    今までそんな事思った事無かったけど…。




    うん、


    きっとなれるわ。




    「はい、キレイキレイ♪」



    再びシャワーから湯を出すサト。




    「ギャウ!」
    (あちっ!)




    「ごめんごめん!古いから温度調節が難しくて。…」




    慌ててサトはノブを調節する。




    オッチョコチョイなのも相変わらず、かぁ。




    「はい、終了ー。」




    水分を含んだ自分の姿は…。




    「細っ!かわいー♪ふふ」




    酷くピタピタで情けない。



    むむ…。



    あ。
    (いい事思い付いた)



    ─ぶるぶるぶる(反撃)



    「わっ!ここでぶるぶるしないのー!」




    へへっ。


    犬の特権だね。




    下らないやり取りの中─


    口一杯に広がる甘い味と徐々に膨れて行くお腹。



    そんな変化に気付かない位…。




    ふりふり(尾)




    「んもーびしょびしょだよー」



    「キャウ」
    (ざまぁみろ♪)




    ふりふり(尾)




    私は、





    嬉しかったんだと思う。






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■20668 / 1階層)  犬に願えば 20
□投稿者/ つちふまず 一般♪(30回)-(2008/03/01(Sat) 18:30:31)
    「ふわふわだね♪」



    私の体をタオルで充分に水気を取った後に。



    サトは満足そうに私の背中を撫でた。



    リビングのソファに伏せの状態で私はジッとしていると。



    「私も入って来ようかな…。」



    サトは結った髪を解いた。



    長い髪は、あまり見慣れていないから。



    とても大人っぽく見えるなぁ、と。



    思わず目を細めた。



    そんな私の心中も察する事も無く、
    サトはバスルームへと再び足を運ぶ。



    ガタガタ、
    とサトがお風呂に入るのを確認すると。



    上げていた顎をソファに付けて、辺りを見回した。



    片付けられた部屋。





    …………あ。
    そうか。



    3つほどのダンボールを見て、一つの結論に達した。



    もしかしたら、
    もうすぐ“引っ越す”のかもしれない。



    私が知るサトの部屋にあった本棚は無く。



    フローリングに直に文庫本やハードカバーが積まれていた。




    …本の好みは。
    変わってないのかな。




    見覚えのあるラベルと表題がそこにはいくつも存在していた。




    …………ん。あれ?




    積まれた本の上の隣に、小さな収納箱。


    その上にはサトがこだわって使っていたスキンケアメーカーの瓶が並ぶ。


    その場所に、



    ある“モノ”を発見して。



    私はソファの下に降りてそれを目指した。




    あ、やっぱりそうだ…。


    頭が届きそうなので、体を伸ばして。




    それをくわえた。


    そっとフローリングに下ろす。




    ─しょっちゅう止まるらしいから、あんまり使えないかもだけど…



    ─ううん、嬉しい




    ─お金があれば、もっといいもん買えるのにね。ごめん




    ─そういう問題じゃないよ。嬉しい






    いつかのクリスマスに。



    あげたね。



    これ。




    アンティークの腕時計。



    予想通り、


    針は時を刻んではいなかった。








    しばらくして─




    「……それね、貰いものなの」




    お座りをしたまま、時計を見ていた私に。




    タオルで髪を拭きながらサトは声をかけた。




    「キャウ」
    (知ってる)




    やっぱり止まってんね。安物だしなぁ…。




    「あなたに会った日…お墓にいたでしょ?その人から貰ったんだ。」




    ストンとサトは、ソファに腰を下ろした。





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■20670 / 1階層)  犬に願えば 21
□投稿者/ つちふまず 一般♪(31回)-(2008/03/02(Sun) 09:02:47)
    私は時計をくわえると。


    サトは私を抱いて再びソファに座った。



    「気に入ったの?…ふふ。やっぱり不思議なワンちゃんだね」



    私の頭を撫でる。



    すると私の口から時計をそっと手に取り。




    「…私の時計も。………止まったままなのかもね」





    ……………。




    サト。




    ダメだよ。




    それじゃ…。





    思わず立ち上がって、サトの太ももに乗る。




    「キュー。ウー。」
    (ダメだよサト)




    「どう、したの?」




    「ウー、キャン!」
    (ダメなんだってば)






    こんなもの─



    早く捨てて。




    「何…。あっ」



    私は時計をくわえて、勢い良く投げ捨てた。



    ボトン、と。
    重たい音がする。



    「…………。」



    サトを見上げると、
    悲しい顔を。


    …していた。



    「わかってる。もういないんだもん、ね…」




    サトの柔らかい胸の中にいるのに。





    ちゃんといるよ。







    ぽた、ぽた、と。




    私の顔に当たる何かに、上を見ると。




    サトは泣いていた。




    長い睫では、
    せき止められてない。




    …………。







    ─泣き虫だなぁ




    ─だって…好きなら泣きたくなる時だってあるでしょ?




    ─良くわかんないよー




    思えば私は、
    サトが悲しくて泣く姿なんて。



    見た事が無かった。



    別れの時でさえ、サトは必死に涙をこらえて。



    ─ばいばい。



    って笑ってた。





    …違う。


    私はサトの泣く姿なんて見たく無かったんだ。


    最後にサトが笑う姿を見て、
    どこかホッとした自分がいたから。




    …………ごめん。




    体を伸ばして、
    私はサトの頬に。




    舌を伸ばした。




    ホントにごめん。




    「ん?………ふふ。くすぐったいよー」




    幸せにならなきゃね。



    「ふふ。んもー…大丈夫だよ?あー鼻水まで出て来ちゃった」




    サトなら出来るから。




    「ありがと。いい子だね、優しい子だ。」




    サトの涙は、
    これまでに無く。




    不思議と甘い味だった。




    ねぇ、サト。




    私もさ。





    本当はね?







    ホントは私も…。










    幸せになりたかったんだ。




    (携帯)
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■20671 / 1階層)  犬に願えば 22
□投稿者/ つちふまず 一般♪(32回)-(2008/03/02(Sun) 09:06:44)
    サトの頬に舌を伸ばして涙を拾っていたその時─



    ブーブーブー




    リビングテーブルの上の携帯が鳴った。



    「…ん」



    私を胸に抱き直して、サトは携帯に手を伸ばす。


    カチ、と携帯を開いて、メールだろうか。



    文章を確認する。



    私からは内容は見えない。



    というよりも。
    私の残る人間的部分がそうさせたのか、


    画面を見る気にはなれなかった。




    …彼氏さん、かなぁ。




    やがてサトは何かを考えるように顎を指で触ると。



    口元が少し、緩んだ。



    どうやら、
    悪い内容では無かったみたいだ。



    するとサトは指を動かしてキーを打ち始める。



    私はその一連の動作中。



    サトの顔を眺めていた。



    サトが画面を通して誰かと会話する時の表情。


    初めて見る顔に少し戸惑いを感じつつも、



    サトが生きている事。



    サトが笑ってる事。



    凄い事なんだなーって。



    感動すら感じていた。




    短い内容にとどめたのかサトは携帯をパタンと閉じて。



    もうこんな時間、
    と呟いた。





    そっか。
    じゃあ私は…。




    「いこうか♪」




    え。




    サトは私を抱っこしたままソファから立ち上がり。



    リビングを抜け、
    電気を付けつつベッドルームへと。




    ジタバタジタバタ
    (いいよ!いいって!)



    「一緒に寝ようねー」



    私をベッドの上にストンと下ろす。



    ……………。



    な、なんか。




    「固まってる。寒いのかな?」




    いや、そうではなくて…。




    「大丈夫、私寝相はいい方なんだからさ」




    嘘こけ。


    しょっちゅう起きたら逆さまになってたのは。


    どこの誰だい?




    軽い掛け布団の中にサトは入ると、


    私はその上に伏せの状態のまま、サトの隣に位置を取った。



    「ホント不思議な子だね。新しい家で…、」







    「飼ってあげる、から…。ね。」



    …………。



    すぐに小さく息を吐いてサトは眠りについた。



    相変わらず寝つきのいい事…。









    って。







    …………飼う?




    私を?









    そりゃ、
    マズいっしょ!








    ……………。









    マズい、のかな。
    やっぱり。






    ラフィに聞いてみよう。

    (携帯)
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■20674 / 1階層)  犬に願えば 23
□投稿者/ つちふまず 一般♪(35回)-(2008/03/02(Sun) 09:19:14)
    「おかえりニャ♪」




    ─ぽん。
    (変身)



    「ふいー…戻りました」



    サトの眠る夜、私は再び天上へと戻った。



    「今日は凄いニャ♪沢山ゲットニャよ!」



    ひょひょーと。
    ラフィは杖を回した。



    「…あぶなっ。え、ゲット?って何が?」



    「ポイントニャよ。お前さん初めてにしてはいい腕ニャ!」



    前にも手にしていた分厚いノートを捲っている。


    白紙だったページに、何やら文字が書かれている。



    「なんですそれ?」



    ラフィからそのノートを受け取ると、







    ○ 笑顔 152
    ○ 喜び 86
    ○ ぐち 43
    ○ なみだ 424







    と、書かれていた。




    ………。




    「なんすかコレ」




    「ポイントの内訳ニャ。」




    「……………。」




    「この涙ポイントは大きいニャよ…。ウニャ!」




    「ふざけてません?」




    ラフィの腕を掴み肉球を強く、うにうにした。



    「ニャハハハハ!ニャにをする!くしゅぐったいニャー!」



    「ったくもう…」



    何なのさ。ったく。



    …………。





    あれ、
    でももしや。



    あのげっぷと。



    口に広がるあの、
    不思議な甘さは…。



    思わず口を抑えると、





    「気付いたニャ?そう、味わえばわかるニャよ」



    ………なんと、


    まぁ。





    「あの…“ぐち”ってありますけど、これは?」




    「幸せは与えるだけが幸せではないニャ。対象の苦しみや悲しみを受け止める事も、それもまた幸せの一部ニャよ。」




    「…………。」




    「意外といい事言うニャーと思ったニャロ?」




    「ははは…」




    苦笑いで答えた。




    「この調子で頑張るニャよ♪」





    「あ、そうだ…。あの、“対象”が実際に私を飼う事って出来るんですか?」







    「ニャに?」




    ラフィは髭をピンと伸ばした。






    「サトにそう言われたんです。新しい家で、飼ってあげるからねって…」







    「出来ない事はニャい」






    ラフィは笑わずに、
    杖を持ち直した。




    「ただし…」






    「え?」







    「人間であった記憶は全て抹消されるニャよ。」




    「そう、ですか…」










    そうなんだ。




    (携帯)
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■20675 / 1階層)  犬に願えば 24
□投稿者/ つちふまず 一般♪(36回)-(2008/03/02(Sun) 10:05:50)
    「ウニャ。子犬に変化したお前さんは運がいい、そう言った理由が分かったニャ?」




    「……なんとなく。」




    「2つの選択肢が出来た訳ニャ。ポイントを貯めて天国に行き、生まれ変わるかはたまた…」



    「“対象者”に飼われるか…」



    「そういう事ニャ。」



    ほれ、
    とラフィは小さな袋を差し出す。




    『やちまたピーナッツ』



    と書かれていた。




    「どうも…」



    手を伸ばして2、3粒取り。



    口に放り込んだ。



    ぽりぽりと、
    砕く音。



    「考えときます。」



    「ニャ♪では私はちょっと出るニャよ。」




    やちまたピーナッツの袋を私に渡して。




    コン、と杖をついた。




    「…はい、用事?」




    「送り手も忙しいニャよ。」




    提出する書類が多くてニャーと。


    長い髭をまん丸の指で撫でながら言った。




    「会社みたいですね…そうですか、分かりました。」



    「ではまたニャ。下界に降りる時はあそこから飛び降りるニャよ。」




    ラフィが杖で示した先は雲の切れ目。



    水たまりのように─
    ぽっかりと小さい穴が開いている。




    「はい、分かりました」



    「あ、そうニャ。」



    「?」





    「…歯に詰まりやすいから気を付けてニャ。」





    ラフィは背を向けたままそう言った。



    「へいへい、分かりました。」



    するとラフィは光を放って、



    すぐに消えた。








    うーん…。




    雲に座り。




    ピーナッツを口に放る。




    飼い犬、かぁ…。




    わしわし、
    と髪を撫でる。




    石鹸の匂いが舞う。




    お風呂に入れてくれたサトを思い出した。






    サトは優しい─




    これから新居に移って。




    幸せな家庭を築いて…。






    だからきっと、
    私は飼われても。




    幸せに、
    生きれるのかもしれない。




    “ただし犬として”







    ぽりぽり。





    2つの選択肢、かぁ。





    「もうよくわかんないなー…」





    ゴロンと大の字になって空を見上げた。




    青いなぁ…。




    何もない…。







    幸せか…。








    ぽりぽり。




    「んっ。」










    (詰まった)




    (携帯)
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■20676 / 1階層)  犬に願えば 25
□投稿者/ つちふまず 一般♪(37回)-(2008/03/02(Sun) 10:12:02)
    下界─




    ピピピピピピピピ




    「キャウ」
    (起きろー)




    「う、うーん…」




    相変わらず、
    寝相も悪い上に。




    ピピピピピピピピ!




    「キャン!キャン!」




    起きないんだよなー。
    コイツは。


    ったく。



    ピピピピピピピピ!!



    ……んしょ(足)


    ぽん(止)




    …やれやれ。




    「う、………うん?あー…おはよ…ふふ」




    がばちょ(抱)



    ………げ



    「ニュー!(苦しい!)ギャウ!(起きろ!)」



    「あれ、…ごめんごめん。ってこんな時間!!」



    がばちょ(布団)


    ゴロン◎


    ゴン!(頭)



    「ウー…(いだい)」



    「きゃあごめん!」



    朝起きて私がいない事は不自然に感じるだろうと思って…。



    下界に降りてみたけど。


    来ない方が良かったかな…。



    バタバタと支度をするサトを見ながら、



    犬なりにため息をついた。




    30分程で支度が終盤に差し掛かったサトを見る。




    髪をセットした後、



    大人びた仕草で、ワンピースを整えている。



    揺れる髪に、
    朝日が当たって。




    「…キャウ」




    (綺麗だね)





    「ん?んー…。あっ。」



    私のお座り姿を見て。


    さながら、



    “この子をどうしよう”


    と言った所か。
    戸惑っている。




    ……それは心配ないよ。



    私は玄関に向かって。




    体を伸ばしてドアに両足をかけた。




    「キャウ、キャウ」
    (私も出るから)




    「え。出たいの?」




    サトは慌ててコートとバッグを手に、ブーツを履いた。




    「キューン」
    (心配ないから)




    「…………。」




    サトは戸惑った顔をしたまま、
    玄関の扉を開けた。




    私が飛び出すと。



    「えっ!」



    サトも玄関の外に出る。



    お座りをしてサトを見上げる。




    (行ってらっしゃい)




    ふりふり、
    と尻尾を振ると。



    サトはしゃがんで。



    「また来るよね?」



    私の頭を撫でた。




    (うん)




    私はサトを置いて、
    廊下を駆けた。




    そうでもしないとサトは遅刻するから。




    5階から一気に降りて。(ずっこけながら)




    足早に通りを過ぎて。





    いつもの丘公園に着いた。



    (携帯)
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■20677 / 1階層)  犬に願えば 26
□投稿者/ つちふまず 一般♪(38回)-(2008/03/02(Sun) 10:17:43)
    息を整えつつ─




    サトが無事に駅に着いた事を鼻で確認した。




    滑り台に照らされた朝日が反射して、思わず私は目を閉じる。



    「おう、ハルカ」



    バサバサ、
    と羽が擦れる音。




    この匂いはゲンさんだ。



    「おはようございます」


    ゲンさんは滑り台の頂上に止まると。



    「おいっす。どうだ?調子は」



    「まだ良くわかんない事だらけですよ。ゲンさんは?」




    「今日は燃えるゴミの日だからな…。バカな輩がゴミを荒らさないように見張ってる訳よ」




    ゴミの日…。



    「カラスが、って事?」



    「ああ。これが俺の仕事。地味でやんなるぜ」



    カラスが。
    烏を見張る…。



    「大変、ですね…」



    「あ?まぁ楽しくはねーわな。この傷も思い起こせば五年前年末と言えば沢山出るのはゴミってな訳で、」

    「フジさんは?いないのかなー…」



    話が長くなりそうなので途中で遮る。



    「おう、フジか。んー…どうだろうな。あいつも対象がいないしな」



    「え?」



    どういう意味?



    「俺らは幸せを届ける特定の対象者がいないのさ。だからこうやって地道にポイント稼ぎするしか道はない」



    「そう、なんですか…」



    「俺は好き好んでここに止まってるけどな…。フジはもう長いぜ。なんせハトだしよ…」



    出来ることなんて、
    限られちまう、と。



    ゲンさんはため息混じりに呟いた。



    そうなのか…。



    ラフィもフジさんの業は重いって。


    言ってたっけ…。



    「でもおかしいよな。フジの意思で死んだ訳じゃないんだぜ?」



    イデオロギーのせいさ、とゲンさんは続けた。





    「………イデオロギー?」




    「フジはなー沖縄で死んだのよ、いわゆる戦死だ。…もう60年になる」




    せつねーよなぁ、と。
    ゲンさんは空を仰いだ。




    そんな。




    60年も…。






    「………。」





    胸がモヤモヤした。



    フジさん…。



    そんなの早く生まれ変わるべき、なんじゃないの?





    「これが俺らの世界よ。矛盾だらけだぜ。」









    こっちの世界と大して変わらねーよ、と。




    ゲンさんは言った。




    「そうだハルカ。」



    「はい?」



    「お前さんにいいものを見せてやろう」











    (携帯)
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■20678 / 1階層)  犬に願えば 27
□投稿者/ つちふまず 一般♪(39回)-(2008/03/02(Sun) 10:22:09)
    するとゲンさんは─



    キョロキョロと辺りを見回した後。



    「あったあった」



    何かを発見し、羽を広げてふわりと飛ぶ。



    あの木を目指しているみたいだ。









    と。
    すぐにゲンさんは戻って来た。



    何かくわえて…。



    「あらよっと」




    大きな羽を広げて─




    ゲンさんは私の前で着地した。




    「こん中入れや」



    ゲンさんのくちばしから私の目の前に落ちた、
    とあるモノ。




    「…………。入る?」



    「おう、そうだ。楽しいぜ♪」




    …………。




    ま、まさか。




    「や、やだやだやだ。絶対無理!無理!」




    「いいから入れって」




    ぽこん(足)
    ↑ゲンさん




    ころん◎
    ↑私




    ガサガサ(in)





    「やだ!やだやだやだやだー!!」



    ゲンさんの持って来た、とあるモノとは。




    『7』のマーク。




    コンビニ袋。




    「っしゃ!行くぜ!」


    「いやーっ!!」




    ふわっと体が浮いた感覚。




    足を踏ん張りたくても、



    ビニールの中では…。





    「こわいー!ゲンさん!!」




    袋の中で上になったり下になったりする私に。




    「顔だけ出してみろやー」




    ゲンさんは言う。




    袋の隙間から上を見ると、




    ゲンさんは器用にくちばしの間に袋を挟んでいて。




    私は極めてそうっと、袋から顔を出した。




    小さく見える、
    朝日を浴びた街。




    流れて行く冷たい風。




    こわい…(ぶるぶる)




    でも、
    綺麗だなぁ…。




    凄い…。




    「空飛ぶ犬だぜ!ハッハー!」




    「揺れる揺れる!やめてゲンさん!」




    全く袋は安定しない。




    すると─




    「ゲンちゃーん♪最近来ないじゃなーい♪」




    ん?


    甲高い声に、
    また恐る恐る顔を出す。


    三羽の雀が、
    チュンチュンと声を合わせながら。



    列を成して飛んでいた。




    「おう!今夜行くよ♪待ってろよギャルちゃん達♪」




    「そのチビちゃんも一緒にね〜♪」




    バハハーイ、と。
    雀達は離れて行った。




    「ゲンさんモテるんだね!?」



    「女泣かせのカラスと呼んでくれや!ほっほーい!」



    「あああ危ない!!」





    ひーん(涙)




    (携帯)
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■20679 / 1階層)  犬に願えば 28
□投稿者/ つちふまず 一般♪(40回)-(2008/03/02(Sun) 10:26:06)
    「ほい、終了〜♪」



    ゲンさんはそっと─
    私の入ったコンビニ袋を地上へと下ろした。



    ガサガサ。



    「…………はー」



    「楽しかったろ?」



    「おえ゛ー(吐)」



    「おおっと!酔ったか?すまねぇ…」




    子犬は、
    良く吐く…。




    「だ、だいじょぶです…」


    シパシパ、と。
    まばたきを繰り返し。


    川沿いの、
    空き地に着いた事に初めて気付く。



    「いつでも飛んでやるからよ。言ってくれ」



    「もういいです、はい…」



    「じゃ、そろそろ…あ。今夜あの裏山で会合があるからよ。お前も来い!」



    羽ばたきながらゲンさんが示した先は。



    住宅地の向こうに見える小さな山だった。




    「会合?」




    「来りゃわかるよ!ほんじゃ夜にな!」




    あっという間にゲンさんは見えなくなった。




    会合…。




    って何だろ…。




    うっぷ。




    「おえ゛ー…(吐)」




    ヨタヨタと川面に向かい冷たい水に。



    頭を突っ込んだ。



    あー…、気持ちいー。



    ぷはっ。



    ぶるぶるぶるぶる。




    「体調が悪いのかしら…。」




    ん?




    上品な声、に。




    耳がピンと立つ。




    「ごめんあそばせ。入浴中でした?」




    声の主は。




    スラリとした細い足。




    真っ白の羽に覆われた、スタイリッシュな体。





    「あ……ども」




    「いいえ。こちらこそ。おはようございます。」




    白鷺………。




    細長いくちばしは、とても鋭いけれど。




    怖い雰囲気はしない。




    「ハルカです。」




    「シラトリ、と申します。」




    …………。


    会話が止まってもうた。




    「す、素敵な名前ですね…。名字ですか?」




    「ええ。そうですの。……よろしければこちら、いかが?」




    シュン、と。
    くちばしが川面を刺したと思った瞬間。



    再び上げたくちばし。




    ピチピチ─



    その端から小魚の尾が揺れていた。



    そしてゆっくりとした動作で…。



    私の目の前にシラトリさんは魚を置いた。




    「け、結構なお手前ですね……」




    「オホホホ、大した事ありませんのよ」





    はははは…。




    い。
    色んな人が、





    いるなぁ…。




    (携帯)
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■20680 / 1階層)  犬に願えば 29
□投稿者/ つちふまず 一般♪(41回)-(2008/03/02(Sun) 10:28:45)
    話を聞くと─



    シラトリさんは麻布に住んでいたとってもお金持ちのお嬢様で。



    (お父さんは白鳥物産の社長らしい)



    大学生の時に、
    心臓の病に侵され。



    二年の闘病生活の後─



    そのまま亡くなったらしい。




    「儚いですわ。人生なんて…そう思いません?」



    シラトリさんは静かな声でそう呟いた。




    「全くですね…。」




    私は伏せ、
    の状態で。




    シラトリさんに耳を傾けていた。




    「心残りは、無かったんですか?ご両親は悲しんだでしょうね…。」




    「もう10年も前の話ですのよ。妹もいますし…すっかり元気になっていますわ。」


    忘れる事は無いにしても、と。



    シラトリさんは優しい声で呟く。




    「そうですか」




    「ただ…。」




    シラトリさんは俯いた。



    「?」




    「好きな人が、いましたの。」




    照れ臭そうに、
    そう呟く姿を見て。




    シラトリさんに初めて親近感が湧いた。




    「そうなんですか。思いは伝えなかったんですか?」




    「手の届かない人ですもの。そんな事しません。」




    バサっ!




    照れ隠しか─



    大きな方翼が私の体にヒットして。



    ごろんごろん◎



    「あいちちち…」



    「あらごめんあそばせ。」



    「いえ…はは。」



    「実は毎朝、ここを通るんですのよ。ワンちゃんと一緒に…」




    まだかしら、




    と言わんばかりにシラトリさんは遠くを見た。




    「へぇ…」


    「やっとこの場所を見つけましたの。本当に長い年月をかけて…。」




    「すごいですね…」




    「10年の歳月は、あの方を更に素敵にしていましたのよ。見ているだけで本当に幸せ…」



    再び照れ隠しか─




    シラトリさんは巨大な羽を振り回したので。




    「おっと」




    私はそれをかわした。





    「あ、いらっしゃいましたわ!」




    途端にそわそわし始めたシラトリさんの視線を追うと。





    誰かがこちらに、










    向かって来ていた。







    (携帯)
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■20681 / 1階層)  犬に願えば 30
□投稿者/ つちふまず 一般♪(1回)-(2008/03/02(Sun) 10:32:10)
    足の長い、人と。


    おっきな、犬…。




    見ると躾がキチンとしているのか。




    犬にリードはされていなかった。




    シラトリさんを見ると。




    「今日も素敵…」




    うっとりとその人に、見入っていた。




    「ウォウ!オン!オン!」




    え?


    見ると大きな犬は。




    ダダダダダ─




    砂煙を立てて、




    私に向かって、
    まっしぐら…。




    「ええっ!」




    こっち来るし!!




    と思ったらもう手遅れ。




    ドン─




    ごろんゴロゴロ◎


    「ギャン!(どわっ!)」



    襲われる!
    殺される!




    ジタバタしていると─









    「こらこら…。エリー。」








    落ち着いた声に、
    目を開けると。




    大型犬のでっかい頭と。


    小さな整った顔が。
    覗き込んでいた。




    「…………おや」




    私に気付いたその人は。




    私を両脇から抱えて、
    高く持ち上げた。





    「…………雑種?」



    ふりふり、
    と左右に揺らされる。




    こ、
    この人…。




    ゾクリと背筋に、
    鳥肌、否。




    毛が逆立つ。






    女?男?




    めちゃくちゃ、
    美形…。



    日本人離れしてる。




    形のいい眉と鋭い目の間が極端に狭い。





    短い金髪の髪が、
    似合っていた。




    思わず見とれる。




    鼻が拾った匂いは。
    何とも言えない、




    甘い匂い…。





    「可愛い。エリーも気に入ったのかな」




    目を細める顔に、
    心臓がドキドキした。




    下を見ると、
    エリーと呼ばれた犬は。


    尻尾をパタパタと左右に振っていた。









    「ナツさぁーん!待ってぇー!」





    ん?




    見ると遠くから、
    小さな女の子が駆けて来る。




    私と同い年位、だろうか。




    なかなか可愛い。





    「ハァ、ハァ。起こしてくれればいいのに…」





    追いついた女の子は、少々不機嫌な顔をして。




    超美形なこの人の事を見ている。




    「カズは起こすと不機嫌になるから。」




    はは、と笑いながら。私を胸に抱き直した。




    わ、


    わお。











    ぽっ(赤)




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■20687 / 1階層)  面白いです
□投稿者/ 明 一般♪(1回)-(2008/03/02(Sun) 17:38:20)
    楽しみにしてます♪更新頑張って下さい☆

    (携帯)
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■20688 / 1階層)  つちふまず様
□投稿者/ みん♪ 一般♪(1回)-(2008/03/02(Sun) 18:23:01)

    ナツさんに、
    かずに、
    エリーだなんて…




    なつかしくて思わずレスしてしまいました(笑)
    本当は終わってからするつもりでしたが…


    すみません m(__)m




    お久しぶりです (*^^*)



    つちふまずさんの文章はやっぱりいいですね〜




    応接しています♪

    (携帯)
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■20690 / 1階層)  明さん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(42回)-(2008/03/03(Mon) 06:32:21)
    おはようございます♪

    初めまして(^0^)
    頑張りますですよ☆

    最後まで宜しくです!




    (携帯)
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■20691 / 1階層)  みん♪さん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(43回)-(2008/03/03(Mon) 06:41:28)
    おはよさんです(^0^)
    久しぶりですね!
    元気ですか?

    懐かしい人から言葉を頂けるのは嬉しいもので…。

    ってな訳で懐かしい三人を書いてみました(笑)

    あらま!と。
    ちょっとびっくりして頂けたなら、
    私も嬉しい訳です。

    またお待ちしてますね☆




    (携帯)
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■20693 / 1階層)  犬に願えば 31
□投稿者/ つちふまず 一般♪(44回)-(2008/03/03(Mon) 09:00:07)
    「あれ、この子どうしたの?可愛いー!」




    カズ、と呼ばれた女の子は私を見て。




    キラキラと目を輝かせた。




    「エリーが見つけた」




    「ウォウ!」




    この人達は…。




    家族?


    ………いや、


    違う。




    美形の人から女の子に私が移ったかと思うと。




    女の子も私を持ち上げ、左右に揺らした。




    「可愛いーむちむちしてる〜」




    頭だけ振り返って美形の人の顔を見ると、




    「……………。」




    考え事をしているように腕を組んで私を見ている。





    すると─






    「カズ。この子はここに置いて行くよ。」






    声に見上げると、



    美形の人の腕が伸びて、カズと呼ばれる子の頭に触れている。



    それからゆっくり私の体を受け取り、静かに土の上に下ろされた。




    「ええっ!なんでー?捨てられちゃってるかもよ?」






    「違う。」







    「何で分かるの?」








    「そう言ってる。ここでいいんだって」








    …………。






    この人…。








    「さ、帰って朝ご飯にしよう。」





    「ウォウ!」






    「えー…。」







    満足出来ない女の子の背中を柔らかく抱いて。




    その場を離れようと、足を動かし始めた。









    ふと、
    超美形の人がこちらを見る。










    笑顔で、




    バイバイ、と。
    小さく手を振りながら。




    “またね”






    口の動きだけが、
    確認出来た。




    「…………。」








    不思議、な人だ…。




    なんで。




    捨て犬ではないと、
    分かったんだろう。





    人間離れした、
    そんな人に初めて出会った驚きに。









    川面を見ると─






    「素敵…。素敵過ぎます」




    うっとりを通り越して、






    くねくねと体を揺らすシラトリさんを見て。






    「はは、は…。」










    私は苦笑いだった。




    (携帯)
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■20694 / 1階層)  犬に願えば 32
□投稿者/ つちふまず 一般♪(45回)-(2008/03/03(Mon) 09:07:57)
    「羨ましいですわ…」



    シラトリさんの羨望のくちばし…、


    否、眼差しが。
    少々心苦しかったが…。



    「素敵な人、ですね…」



    いるんだなぁ。
    あんな人…。



    「そうなんですの。昔の鋭い雰囲気も好きでしたけれど…。」



    笑顔も素敵で、


    とシラトリさんは再び照れ隠しか。



    巨大な羽をパタパタと上げ下げした。



    「ええ。素敵な笑顔、してましたよ。」



    「大切な人と一緒だから、でしょうね。雰囲気が柔らかくなったのも…」



    一緒にいた女の子。
    カズと呼ばれたあの子は恐らく、


    恋人だろう。




    私には何となく分かった。




    「………人って、やっぱり人によって変わるんですかね?」




    私も、
    そうなんだろうか。




    ふとした疑問をシラトリさんに投げかける。




    「どうでしょう?ハルカ様にはそんな経験がおありなの?」




    シラトリさんは首を傾げながら私を見下ろした。



    ハルカ様…。
    はは(苦笑)




    「うーん…。どうなんですかね。根本的には変わって無い気もしますけど…」




    「どちらにしても、人としての部分ですものね。今はこの姿。」




    「確かに。ははは」



    「オホホ。」



    シラトリさんの小さな瞳も心無しか細くなった気がした。




    高くなった陽が─
    私の鼻を温めていく。




    「あ、そうだ。今日、会合があるって聞いたんですけど…シラトリさん、知ってます?」




    ゲンさんに言われたっけ。




    「ええ。月に一度の会合…私も参加させて頂いておりますわ。」




    「そうですか。…私初めてなんですけど…」




    大丈夫かなぁ。




    「大丈夫ですわ。楽しい会ですもの…。あ、ただ…」




    「?」




    「気になる点が、一つだけありますわ。」




    大した事じゃ、
    ありませんけど。




    と。
    シラトリさんは川面からゆっくりと上がって、
    私の前に座った。




    「気になる点?」




    「ええ、少々とっつきにくい方がいらっしゃるの。私も苦手で…。」



    「ふーん…。そんな人いるんだ…」





    「人、ではありませんわハルカ様…正確にはスコティッシュフォールド。」




    「スコ…、スコティッシュ?






    簡単に言えば─










    猫です、と。





    シラトリさんは言った。



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■20695 / 1階層)  お久しぶりです!
□投稿者/ 水マー 一般♪(1回)-(2008/03/03(Mon) 09:42:25)
    覚えてますか?
    水マーです(^o^)

    また始まりましたね♪久しぶりにつちふまずさんの文章が読めて嬉しいです♪つちふまずさんの文章の世界観大好きです!!

    続きがスゴい気になります!

    更新頑張ってください(^-^)v楽しみにしてます☆

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■20696 / 1階層)  ファンより(笑)
□投稿者/ 匿名 一般♪(1回)-(2008/03/03(Mon) 20:03:13)
    面白いです♪
    やっぱりつちさんの書く小説好きだなぁ。
    久しぶりに楽しんでます。

    つちさん確か花粉症でしたよね。
    鼻つらそうだなぁ。
    私も目にきてます。
    今週、首都圏は飛散量多いらしいです。
    花粉症にヤクルトが効くと耳にしましたが、実際のところどうなのか(´ー`*)
    効果は人によるみたいです。
    まだでしたら気休めにでも試してみて下さい。

    面倒だと思うので、レスいりません。
    マイペースに更新して下さい。
    それでは、続き楽しみにしてます♪


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■20698 / 1階層)  水マーさん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(46回)-(2008/03/04(Tue) 00:24:00)
    やぁ久しぶりですね!
    水マーさん(^0^)☆

    キャンパスライフは順調ですか?

    あ、そうだ。
    いつだったかなぁ…、去年の話になりますけど。

    休日に車で水マーさんの学校の近くまで波乗りしに行ったんですよ!
    へ○ラというポイントです♪
    波良かったなー…。
    (遠い目)

    偶然にも高校時の同級生がサーフショップをオープンさせてまして。

    近々また休みが出来たら行きたいなぁと思っている次第です。

    またお会い出来て嬉しいですよ!
    今夜は報告まで。
    明日更新します(笑)

    おやすみなさい。





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■20699 / 1階層)  ファン?さん☆
□投稿者/ つちふまず 一般♪(47回)-(2008/03/04(Tue) 00:32:06)
    レスいりません、

    と言われると返したくなる天の邪鬼。
    つちふまずです☆
    (^0^)

    初めまして、
    なのかな?

    そうではないような気もしますが…。

    それはさておき、

    そう。花粉症です。
    日によって症状はかなり差がありますが(+_+)
    でも元々鼻が詰まり気味の私なので…。

    両方詰まると何もかもやる気が失せるのは不思議ですよね。

    この時期は特に、
    コンタクトレンズの様に。パカッと外して…。

    鼻を洗えたらどんなに楽だろうなと。
    そんな事を真剣に考えてしまうもうすぐ29歳の私です。(あらやだ)

    鼻、だけで。
    意外と沢山の文章が書けそうですね(笑)

    私なりのペースで更新して行きます。
    最後までお付き合い、宜しくお願いしますね!





    (携帯)
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■20702 / 1階層)  犬に願えば 33
□投稿者/ つちふまず 一般♪(48回)-(2008/03/04(Tue) 16:44:02)
    「スコティッシュフォールド、とニャ?」




    夜の会合まで─




    いったん天空へと戻ろうと思った私。




    シラトリさんと交わした会話の内容を、


    ラフィに伝えた。




    「ええ。シラトリさんは気を付けた方がいい、って言ってましたけど…」



    「ふニャ。うーん…」




    ラフィは首を傾げて、暫く考えた後に。




    丸めた手を、
    ポンともう片方の手に打って。




    「思い出したニャ。あの子の事ニャ」




    ラフィは口をもぐもぐと動かした。




    「誰です?」




    「3年位前だったニャ。シズカ、という子ニャ。事故で亡くなったニャよ」




    「ふーん…事故」




    人間の姿へと戻っていた私は腕を組んだ。




    「まだ産まれ変わって無かったのニャ…それはまた困ったニャ」




    「?」




    「ハルカ。シズカはニャ、人間に対して憎悪にも近い恨みを持っているはずニャ。」




    「なぜです?」




    「事情は知らニャいが…。確か手をこまねいた送り手が人の手に飼われやすいように、」




    わざわざ子猫へと、
    変化させたんニャ。



    と、ラフィは言った。




    「ふうむ…」




    複雑だ。




    「ちなみに、送り手が変わったと聞いておるニャ。」



    「変わった?」



    「担当が変わる事もあるニャよ。確かあの子の担当は今、ヴィンセント…」



    「ええっ!この前言ってた?」



    「どういう使い方をしてるか、によるニャが…」



    へ。


    使い方?




    良く分かんないなぁ。




    「…でもま、なんですか。大丈夫ですよ!」




    私は犬ですし、と。
    胸を張ると。




    「ふ…ふぉ!ふぉふぉふぉ!」




    「…何笑ってんですか」



    「いや、何でもニャい。」



    「さっき川っぺりで、コレ拾って来たんですよねー」




    じゃーん、
    とそれを見せると。




    「ニャ?」




    フリフリ、と。


    私が左右に揺らせた、




    “猫じゃらし”




    「………むむむ。…………ニャ♪ニャ♪」





    「はははー」





    「ニャ…って遊ぶニャ!こりゃ!」






    「そーれ」







    ポンと投げると、





    「ニャーっ♪」



    ダダダダダダ─










    ラフィはそれを目掛けて走って行った。



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■20703 / 1階層)  犬に願えば 34
□投稿者/ つちふまず 一般♪(49回)-(2008/03/04(Tue) 16:47:42)
    午前0時過ぎ─




    裏山にて。




    っしょ………っと。


    ここ、かな?



    畦道を登ると、
    小さな神社があった。




    「ハルカー。」




    バサバサ、と木々を掠めてこちらに向かって来る。




    「フジさん。来てたんですかー。」




    「もちろんよ。もうみんな集まってるわ」



    パタパタと、
    羽を上下させながら。



    「みんな?」



    「そうよ。紹介するわ!先行くねー」



    神社の鳥居をくぐると、ざわざわと物音がする。



    「おうハルカ!こっちだ!」




    聞き慣れた声。
    夜の闇の中。


    ゲンさんだ。




    ゲンさんの声に、一斉にこちらを向く観衆達。





    一杯いるなぁ…。




    雀、鳩、狸、リス、
    鷹、鷲、鴨…。




    まるで祭りだわ。
    (異種格闘技戦)




    “珍しい…犬だぜ”


    “子犬…羨ましいわ”


    “さっさと飼われればいいのにねー”




    んー…。


    か、歓迎…。


    されてないような。




    うつむきがちに、
    輪の中を通ると。




    「ハルカ様。ようこそ来て下さいました」




    「シラトリさん。」



    闇の中でも、
    シラトリさんのくちばしはキラリと光る。



    良かったー。
    シラトリさんがいて。



    「何だ、もう知り合いなのかい?」



    チョンチョンチョン、と。


    ゲンさんが近付く。



    「あ、はい。」


    「今朝、知り合ったばかりですのよ」


    「そうかそうか。ハルカをみんなに紹介するぜ」



    するとゲンさんは高く飛び上がって。




    「おーい聞けや!新入社員を紹介するぜい!」




    し。
    新入社員?



    注目が集まる。




    「雑種のハルカだ!みんな仲良くしてやれよー!可哀想に事故で死んじまったらしい。因みにメスだ!盛ってるオスは狙わないよーに、」



    長くなりそうな挨拶に間髪入れずに、



    キーンと何かが飛んで…。



    「ぐはっ!!」



    フジさんの蹴りが、ゲンさんの脇の下辺りに。



    ヒット。



    “おおーっ!”



    盛り上がる観衆。



    「はーい、じゃあ今日は歓迎会ねー」



    フジさんは羽を揺らせながら、
    明るくアナウンス。




    「毎回、コレを見に来てるんですの。皆様。オホホホ。」



    シラトリさんが笑う。



    「はははは…」



    不思議な会だ…。




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■20704 / 1階層)  NO TITLE
□投稿者/ ニンニン 一般♪(1回)-(2008/03/04(Tue) 17:00:48)
    初めまして!この小説すごい面白いです。犬のハルカが幸せになると良いなぁ…


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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20705 / 1階層)  ニンニンさん
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(50回)-(2008/03/05(Wed) 08:24:37)
    はいどうも(^0^)
    初めまして!
    ハットリさんでしょうか(笑)

    ハルカちゃん幸せになれるんでしょうかね…。
    ううむ作者も心配です(無責任)

    “面白い”シンプルにそう思って頂ければ幸いです。

    またどうぞ!




    (携帯)
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20706 / 1階層)  犬に願えば 35
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(51回)-(2008/03/05(Wed) 08:35:08)
    会と言っても、
    酒が出る訳でも無く。


    ご馳走に舌鼓する訳でもないようで。
    (そりゃそうか)



    「えーそうなんだー」
    「アハハ!」



    世間話をみんなただしているだけ。



    まぁ─
    生物の食物連鎖の図形を壊すにしても、



    どういう過去があるにせよ。



    仲間が集まる事は、ささやかな慰めになるのかもしれないなと思った。



    「ハルカ様。…あの子です。いらっしゃいました。」



    シラトリさんが、
    闇の先を示す。



    「はい?」



    良く見えない…。



    「今朝話した、シズカ様です。」



    ん?



    目を凝らすと。



    木々の間に、
    小さな何かが。



    ジっとこちらを窺っていた。



    …………。



    んー…。



    良く見えないので、
    そっと近付く。



    シルエットが確実なものとなるまで時間はかからなかった。




    金色に覆われた毛に、愛くるしい瞳。



    極端に耳が小さいのは、品種のせいか。



    か、



    か!





    超可愛い………☆





    思わず駆け寄る。




    私が人間なら、自然と手を伸ばしたくなるなるような。




    完全に、子猫だ。




    私が近付いてもお座りの状態で。




    逃げようとはしない。




    「こんばんは。」




    挨拶をすると、




    「…………。」




    あれ。




    「ハルカです。…その、私来たばっかりで。」




    「…………。」




    無言…。




    ???




    「シズカさん、ですよね?」



    違うのかな?



    「…………。」



    ジっと瞑らな瞳が。
    全然動かない。



    「あのー…。」







    すると─







    「………ふん。たかが雑種に。」



    何が出来るの?




    と。




    小さな声。が。




    聞こえた。




    するとくるりときびすを返して。





    ゆっくりと足音を立てずに、




    シズカは去った。









    ……………あ、




    あのー…。






    パタパタ─




    「感じが悪いでしょう?大丈夫ですか?」



    ハルカ様、と。




    いつの間にか背後に立っていたシラトリさん。





    「たかが雑種…。」





    かぁ。はは…。






    可愛い猫だったなぁ…。






    まぁ確かに…。






    性格は最悪、


    みたいだけど。




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■20708 / 1階層)  犬に願えば 36
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(53回)-(2008/03/05(Wed) 08:49:41)
    「あいつはなー…。まぁちょっと曲がってるというか何というか。」




    ゲンさんがシズカについて口を開く。





    「生前、相当嫌な思いをしたみたいよ。会社でイジメられたとか何とか。」





    フジさんの意見。




    「社会人…だったんですか?」




    「24歳で亡くなったと聞いてますわ。」




    シラトリさんのくちばしがキラリと光った。




    あれ。
    私とそんな変わらない…年だったのか。




    「何。ハルカちゃん興味が湧いたの?」



    止めときなさい、と。フジさんは私に促す。




    「あんまり危険そうには見えないですけど…」




    「そこが問題なの。シズカはね、他人の“対象者”を食べちゃうのよ。」



    「へ?」



    どういう意味?





    「送り手を操るんですわ。」




    シラトリさんの口調は極めて冷静だ。




    「…ま。まさか、ヴィンセント?」




    噂の?




    クリーチャー?





    「そういう事だ。ヴィンセントもなぁ、別に悪いヤツじゃないんだぜ?」



    「え。ゲンさん、悪魔みたいなのじゃないの?」



    「ははは、そんな空恐ろしいヤツじゃねーよ。」




    「要は使い手によって…動物によってね、変わるのよ。大抵問題のある死者の送り手になるからそう見られるけど。」




    ゲンさんとフジさんはお互いにコクコクと。



    同じリズムで頷いた。




    複雑だな…。




    「あまり関わらない方がいいですわ、ハルカ様。子犬で対象者がいるとなると…」




    「そうね。シズカに狙われないように気をつけた方がいいわよ。」



    そうだそうだ、と。




    三人…三羽は頷いた。




    ふーむ…。





    元来─
    私は他人にはあまり興味が湧かないタイプの人間だから。




    「ですね。まぁ、関わらないようにしときます。」




    シズカの事は─




    大して気にも留めない存在になるだろうと、
    思っていた。






    でも私はその時、
    気付いてはいなかった。





    「ところでハルカ様、明日の朝も川にいらっしゃいません事?」




    「え。なんで?」




    「あのお方をゆっくり拝見出来るんですもの。ハルカ様に気を取られて…。」




    「はは、は…。」







    遠くからシズカが─












    私を見ている事に。




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■20710 / 1階層)  犬に願えば 37
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(54回)-(2008/03/05(Wed) 23:24:09)
    それから数日後─



    私は再びサトに会いに、マンションを訪れた。



    玄関が開いた瞬間、




    「………やっぱり来た!良かった〜。」




    サトは満面の笑みで、私を迎えてくれた。




    何をするでもなく─




    愚痴を聞いたり、
    テレビを見て笑うサトを眺めたり。




    そのたびに、
    相変わらずな満腹感に襲われた。




    それは決して嫌なものではない。




    サトの結婚式の準備は、着々と進んでいるようだ。




    文庫本が積まれていたスペースに引き出物のカタログや、タイムスケジュールが置かれているのを見て。




    正直…。




    私はホッとしていた。




    心からそう思えるのは、自分が犬だからという諦めではなく。




    ゲンさんやフジさん、それからシラトリさんに出会った事が大きい。




    もちろんラフィの存在も外せないけれど。




    ともかく─


    環境って人の心理に大きく左右するんだなと正直に思った。




    自分は死んでいる、という事実以上に。




    犬になってしまった事実に早くも馴染んだ自分がいたからだ。




    そして今夜も─




    サトが眠るまで、
    私はただ。




    側にいただけ。






    そして。
    サトがおやすみ、と。
    私の頭を撫でた瞬間に。




    私の口の中に甘い味が広がって、




    今までに無い満腹感に包まれた。







    “幸せ”






    与えるよりもむしろ得ていた事の方が多い事に。




    今更ながらに、



    生前の私は気付いていなかったんじゃないかと。




    サトの静かな寝顔を見ながら思った。






    その後─


    完全にサトが深い眠りに着いたのを確認して、


    私はそっと玄関から外に出る事にした。




    サトの家のドアは、
    エントランスがオートロックでない分。




    部屋のドアは閉まれば鍵がかかる仕組みになっている。




    ズボラなサトを心配して玄関に鍵を付けたのは、他ならない私だから。




    こんな時に役に立つとは思ってもみなかったけれど…。




    パタンと閉まる玄関を確認して、




    私は廊下を歩き出す。






    月光が─









    私の目の前の道を、









    明るく照らしていた。





    (携帯)
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■20711 / 1階層)  犬に願えば 38
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(55回)-(2008/03/05(Wed) 23:28:39)
    よいしょ、よいしょ、と。階段を降りて。



    エントランスを抜けて、人通りの無い道路へ出る。



    街灯が小さく点る夜─




    月明かりの下、




    私はお座りをして少し考えていた。




    このまま川まで行って、朝までシラトリさんを待ってみようか、とか。




    1つの臭いを頼りにずっと歩いてみようか、とか…。




    不思議と不安は無かった。



    眠くもならない事をふと疑問に思ったけれど。



    犬の夜行性と死んでいる事実が私の体を納得させた。




    肉球の感触を確かめていた、




    その時─







    …………。




    え。




    電柱の陰から、


    誰か、が……。




    独特のフォルム。




    あれは。




    それがシズカだと分かるまで、そう時間はかからなかった。




    私を視界に入れると、シズカはそっとこちらに近付いて来る。




    「びっ、くりした…」




    いくら死んでるとは言え物陰から急に出てこられると。



    怖いって。






    シズカはゆっくりとした動作で私に近付き。



    上方を見た─




    「あなたの対象はここに?」




    小さな声で、
    呟く。


    まだ幼さが残る。
    高めの声…。




    「ん?んー…そう、ですけど…」



    「ふうん…」



    子猫ながら、優雅な動作といった所か。




    尾の先がセンサーのように揺れていた。




    「………対象を食う、ですっけ?聞きましたよ」




    「……噂好きの鳥類。」




    「?」





    ………嫌みを、
    言ったのか。





    「あなたは、どうやって与えるの?」




    対象者に、と。




    座っていた私の周りをゆっくりと歩いて。




    何故だろう、
    のんびりしたやり取りをしているはずなのに。




    張り詰めた緊張感。




    確実に、
    “いい感じ”
    ではない。




    むしろ─



    テリトリーを侵された気がした。



    敵意と悪意は、
    ビンビンに伝わって来る。



    私を“肯定”している態度ではないからだ。



    私は自分を肯定しない人間に対しては昔から、


    関わろうとする意欲さえも失うタイプだった。


    戦うなんてまずもって有り得ない事だったし。




    けれどこの体の緊張はなんなんだろう。










    犬としての、
    本能なのだろうか。




    (携帯)
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■20712 / 1階層)  犬に願えば 39
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(56回)-(2008/03/05(Wed) 23:32:09)
    「どう与える、って言われても…」




    ただ側にいるだけ、とは何となく言いづらい。




    「…気付いていない訳ね。あなたもまだ。」




    ふん、と。
    シズカは鼻で笑った。




    「は?」




    人に馬鹿にされるのは、あまり好きではない。




    間違えた、…猫か。




    「所詮、私達は動物。人間なんてね、人によってしか幸せなんて得られないものよ。」




    「…………。」




    そりゃ…、
    そうだろうな。




    妙に説得力がある。




    頭の良い子なのか。





    「そんな虚しい行動、やってられないわ。」




    んー…。





    「だから壊すの?対象者との関係を。」




    警戒心は持ちつつ、私は質問した。




    「築くよりも壊す方がよっぽど簡単だからよ。」




    シズカも私と距離を取りつつ、そう呟いた。






    …………。




    それもまぁ、




    一理なくもないか。



    けど。




    「でもシズカ、さんでしたっけ?あなたも所詮は猫ですよね。」



    何が出来るんです?




    私が言うと。




    「そこが私の違う所よ。」




    ペロリと小さな舌を出す。子猫ながら、




    背中の毛が逆立つような嫌な感じがした。





    「私には、いるのよ」




    「はい?」




    「彼がね」




    シズカが示した先に。





    …………。




    いつの間にいたのだろう。




    人間─





    いや違う?




    “無臭”だ…。




    長身で、
    とても細身。



    短い黒い髪は、ツンツンと立っている。




    小さな顔に、
    涼しげな目元。




    “下界”に紛れていれば恐らく。




    イケメンの部類。





    良く見ると─




    不思議な事にとても人の良さそうな目をしていた。




    それが余計に魅力を高めている。




    夜の闇から現れた彼は─



    ゆっくりと屈んでシズカを持ち上げると。


    手の上で、
    大切そうに撫でた。




    「……………。」





    まさか。





    これが噂の、









    「彼はヴィンセント…」





    私の送り手。


    と。












    シズカは小さく呟いた。




    (携帯)
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■20716 / 1階層)  犬に願えば 40
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(57回)-(2008/03/09(Sun) 00:59:58)
    「ヴィンセント…」




    私が呟くと、




    …え。



    彼は─



    少年のような笑顔で私に微笑んだ。



    クリーチャーでも、



    はたまたモンスターでも無く…。



    とても悪魔には、
    見えない…。




    ニコニコ、と。
    私を見下ろしていた。




    とても魅力的な笑顔。






    「あなたの送り手は?」




    手元のシズカが、
    私を見下ろしながら言う。




    「え?…ラフィ、ラファエルだけど。」




    「あー…あのおばさんね。」




    お、




    「おばさん!?」




    メスだったの!?




    「…何も知らないのね、本当に。」




    呆れるわ、
    とシズカはため息を吐く。





    「いやーだってラフィは猫…」



    って別に言う必要も、無いか。






    「とりあえずあなたの対象者、頂くわ。」







    ……………。



    「はい?」



    何だって?






    「……見たところ、単純そうな女だしね。」







    …………。




    カチンと来た。






    「ウー……」





    今までに無い“状態”が私を襲う。




    全身の毛が逆立ち。




    喉の奥から唸り声が出た。




    「…無駄よ。所詮は犬。あなたには何も出来ない。」




    行くよヴィンセント、とシズカの声を合図に。




    ヴィンセントは私を見ずに、



    ゆっくりと回れ右をして。




    夜の闇に─




    消えて行った。





    ウー…。




    ふう。





    静寂が少しずつ、私の体を落ち着かせて行った。





    “私が頂くわ”






    多分ムカついたのはこの言葉よりも…。






    “見た所単純そうな女だしね”







    こっちだ。







    私はサトの部屋を見上げる。




    んー…。





    どうするかなぁ。









    とりあえず、
    ラフィに相談しよう。






    (携帯)
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■20717 / 1階層)  犬に願えば 41
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(58回)-(2008/03/09(Sun) 01:03:22)
    「ニャるほど。」




    ヴィンセント&シズカのコンビに出会った旨を、ラフィに伝えると。




    ラフィはさほど驚く様子も無く、
    ゆっくりと頷いた。



    「どうやってサトに近付くつもりなんでしょう?」



    “私が頂くわ”



    挑戦状とも言うべき、シズカのあの言葉。



    サトの家の前で箱の中にでも入って。
    飼って下さい、とでもお願いするつもりだろうか。



    「ヴィンセントが仕掛けるだろうニャ。」


    シズカが使う手ニャよ、と。



    「え?」



    「対象者…サト、ニャったな。サトと婚約者の間に割り込むつもりニャて」



    「…………。」



    割り込む、って。




    「ヴィンセントに出来ない事はニャい。」





    やれやれ、と。
    ラフィはため息をついた。



    「何でそんな面倒な送り手がいるんですか?」




    ったく…。



    「神のみぞ知る。神が作った人間、それがヴィンセントと言う訳ニャ。」



    神が作った人間…。




    「エヴァみたいですね…」



    「なんニャ?それは。美味いニャか?」




    「食べ物じゃないですよ。たまーに休みの日にパチンコやってたんで。」




    あれは稼がせてもらったなぁ…(遠い目)




    「パチンコニャと?けしからん!」





    コン!っと。
    私の頭上に、
    久々にヒットした杖。





    「いだっ!いいじゃないですかー…暇な時に何してたって。」



    そんな怒んなくたって…。




    「とにかく。対象者から目を離すニャいように。」



    「へいへい…。」




    何だか面倒だ…。



    「ポイントは順調に溜まって来てるニャよ。」



    ペラペラとノートを捲るラフィ。



    「あ、忘れてた…。」



    本来の“仕事”があったんだっけ。



    「頑張ってニャ♪」



    ラフィは普段から上がっている口角を、
    さらに持ち上げた。




    「そういえばラフィってメス…女性なんですか?」



    そうだ。
    これを聞こうと思って…。



    「誰から聞いたニャ?」



    「へ?いや、シズカが…。“あのおばさん”って言ってたから。」



    「…あの小娘め。余計な事を…ぶつぶつ」



    「おーい、」



    「なんでもニャい!早よ行くニャ!」



    コンっと私の頭に再び杖がヒットして。



    「いだっ!」









    私はまた頭を抱えた。




    (携帯)
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■20718 / 1階層)  犬に願えば 42
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(59回)-(2008/03/09(Sun) 01:06:14)
    目を離すな─




    と言われても。




    犬の私が出来る事と言えば限られている訳で…。



    「と、いう訳でやっぱりシズカに目を付けられてしまいました…。」




    いつもの丘公園。




    「そうなんだ…。困ったわねぇ。」




    樫の木のから─
    地上の私と会話しているのは、




    フジさんである。




    「ラフィから目離すなって言われてるんですけどね。サトの勤務先は渋谷ですし…。」



    「渋谷…子犬じゃ動き辛いわよねぇ。」



    クルクル、とフジさんは喉を鳴らせた後。



    パタパタと私のすぐ目の前で、羽を休めた。




    「スクランブル交差点とかもう二度と渡れなそうだな…ちょっと寂しいかも。」




    「子犬とはまるで縁の無い場所よね。…ゲンに頼んだら?袋に入って。」




    「あれ無理!気持ち悪くなるんだもん…。」




    ぷるぷる、と頭を振ると。




    「ゲンは女の子には優しいのよ。きっと助けになってくれるわ。」




    フジさんは私を見ずに、そう言った。




    ……………。




    「あのー…。」




    そういえばちょっと、気になっていた事が。


    あったのだ。




    「何?」




    「フジさんと…。」





    ゲンさんって。




    仲いいっすよね。




    「何、ハルカちゃん。」




    「いや、あのー…」




    付き合ってんですかー?なんて、


    聞けるはずもない。


    烏と鳩だし…。





    私が気になっていた理由には根拠があったのだ。




    なぜなら─




    ゲンさんから、
    フジさんの匂いがする事が…。


    たびたびあった。




    また逆に─




    フジさんから、
    ゲンさんの匂いが。




    する事がたびたびあった。






    今日も実はそうなのだ。





    私の鼻は─




    そんな事さえも1つのセンサーとして機能してしまう。




    「何よーハルカちゃんったらモジモジして。おしっこかな?」




    「違います!…えー、あのー…。」




    勘違いだったら悪いから…。




    黙っとくか。




    うん。




    「もうすぐサトが帰って来ると思うんで…行きますね〜。」





    私が慌ててその場から立ち去ろうとすると、




    「あらあら。頑張ってねー。」





    フジさんもすぐに飛び上がって、




    どこかに消えて行った。




    (携帯)
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■20719 / 1階層)  犬に願えば 43
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(60回)-(2008/03/09(Sun) 01:08:57)
    ふんふんふーん♪


    っと…。




    サトが帰って来る気配と匂いは無かったので。




    夕日の眩しい川へと、私は足を伸ばした。




    シラトリさーんっと…。いるかな?




    キョロキョロと見渡していると。




    川の中ではなく、
    長い芝生の中に。




    見覚えのある白い羽。




    珍しく、
    羽を休めているのか。




    いたいた…。




    「シラトリさーん。」




    タッタッタ、と。
    シラトリさんのすぐ近くまで寄ると。




    「あらハルカ様。珍しいですわね、この時間に…。」



    スラリと立ち上がって、私に向かって長い首を曲げて挨拶をする。



    「サトがまだ帰って来ないんですよねー。」




    私も尻尾を振って、それに応えた。




    「そうですか。」



    シズカの事を話そうと思ったけど…。



    シラトリさんの顔を見てホッとしたのか。



    何となく、
    話すのをやめた。




    「どうしたんですの?ボーっと私の顔をご覧になって…。」




    あ、いけね(笑)




    「いえ、シラトリさんって。どんな顔してたのかなーって。ふと思ったんです。」




    きっと美人さんだったんだろうなぁ…。




    「イヤだわハルカ様ったら!オホホホ!」




    シラトリさんはぶうん、と羽を回したので。




    ころん◎
    ↑私




    「ははは…。」




    「あら、ごめんあそばせ。」



    ひっくり返った私を見てシラトリさんはくちばしで起こしてくれる。




    「見てみたくなるものなんですね。どんな人だったのか…。」




    「ゲン様は大体想像がつきません事?」


    「ですね(笑)ははは。」


    「オホホホ…。」





    その時ふっと─





    遊歩道に目を向けた時。





    ………………!





    鼻よりも目で先に認識する事もあるものだ。





    「どうしました?…ハルカ様。」





    「…………。」




    「あれは…、まさかヴィンセント?」




    シラトリさんの体から、緊張が一気に吹き出して来る。





    そう。
    ヴィンセント、だ。





    意外と行動に出るのが、早かった…。







    隣で笑顔を惜しげもなく浮かべているのは、









    サト。









    ウー…。





    喉の奥から、






    唸り声が湧いて来る。




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■20720 / 1階層)  犬に願えば 44
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(61回)-(2008/03/09(Sun) 01:12:22)
    「ハルカ様、落ち着いて。」



    シラトリさんは唸り声を上げていた私の背中に、そっと白い羽を乗せた。



    「…あれがサトです。」


    「隣にいらっしゃる女性?」



    「ええ。対象者です」




    ふうん…、と。
    シラトリさんは全てを察知したのか。


    低い姿勢のまま、
    芝生の隙間から遠くを窺っていた。




    サトは─


    私と知り合った頃、待ち合わせの場所に私がいるのを発見した時のように。


    はしゃいでいた。




    ゆっくりと歩く2人は、まるで恋人同士だ。




    ………どうする。


    携帯も無ければ、
    (あってもどうにかなるものでもない)




    私が出て行って、
    吠えたてても…。




    私は、犬だ。




    「ハルカ様。今は耐えて。」




    すぐ近くでシラトリさんの声がする。




    「…ヴィンセントは、女性を誘惑するんですか?」



    「…女性だけではありませんわ。」



    何もかも、です。


    救いようの無い、シラトリさんの答えだった。




    ただ芝生の隙間から、ジッと2人を見ていると。




    ふいにヴィンセントが、立ち止まった。



    そして、
    迷う事なく。



    こちらを見る。




    その顔は─











    ニヤリ。









    「……………。」
    「……………。」







    無言のまま、
    私とシラトリさんは向かい合った。





    突然立ち止まったヴィンセントにサトは気付き、すぐに戻り。




    再び2人は歩きだす。




    歩く速度を若干上げた2人は、




    段々と小さくなり。




    遊歩道から消えて行った。






    …………。




    「あんにゃろーめ…」






    笑ってた…。




    「落ち着いてハルカ様。」




    シラトリさんは悲しい小さな瞳をして。


    頭を私の背中にこすりつける。





    「………………。」





    もうすぐ結婚するって時に…。




    私は伏せの状態から立ち上がって、





    「ハルカ様!待って!」




    すぐに駆け出した。





    もう覚えたその“匂い”は無いだろうかと、


    全神経を集中させる。





    車が通っても、
    買い物帰りの女性がいても構わず走った。




    私が向かう先の匂いはどこかにあるはず。






    探せ。










    シズカを探せ。




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■20721 / 1階層)  犬に願えば 45
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(62回)-(2008/03/09(Sun) 01:14:47)
    タッタッタッタッ─




    ハァ、ハァ。




    「ママー。見てー。」
    「あら、可愛いわね〜」



    ハァ、ハァ。




    「何あれ!」
    「わんこ?マジ触りたーい♪」




    どこだ…。




    どこにいる。




    商店街や、




    ショッピングモールの駐車場。




    風下にあたるエリアをくまなく探す。




    ……………。




    ん?




    記憶通りの、
    探していた匂いが。




    チラッと鼻を掠める。




    これだ!




    どこだ…。




    再び走り出し、シズカの匂いをトレースする。




    段々と人通りの無い、工業地帯へと。




    上を見上げると、




    偶然にも私が事故った環状線の延長に当たる道路が見えた。




    今は感傷に浸っている場合ではない。




    ガツンとやらねば、
    気が済まない。




    ………ここかな?




    見上げると、
    窓が所々外れていて廃墟となったビル。




    工事中のフェンスが、放置されていた。




    私は迷わず、
    飛び込んだ。




    …おっとと。




    砂煙が舞う。
    長い間放置されているビルなのかもしれない。




    匂いを辿り、
    暗い階段を進む。




    目的地である三階部分へと辿りつき、
    広いフロアに足を進めた。




    ……………いた。




    ぶち抜かれた壁が、外界とは遮断されずに。




    下界を見下ろせる場所に─




    シズカは座っている。





    「ウー…………」




    私は憤りを隠せずにいた。




    サトは。




    サトは幸せな結婚を、これからするんだから。




    お前ごときに邪魔させる訳にはいかないと。




    「………意外と早かったじゃない」




    私に気付いたシズカは、ゆっくりと振り返って。私を見た。





    「ウー…………。」





    「ヴィンセントは優秀でしょ?」






    あっという間に落ちたわよ、あの女。






    シズカの言葉をきっかけに。








    私はシズカを目掛けて、








    勢いよく襲いかかった。






    (携帯)
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■20722 / 1階層)  犬に願えば 46
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(63回)-(2008/03/09(Sun) 01:18:38)
    湧き上がるような、相手に襲いかかる感情。




    人間の時には─




    無かったものだ。




    …違う。





    「ウォウ!!」



    人間の時にもあったけど。



    表現の仕方が、
    私には良く分からなかったんだと思う。







    シズカに一気に飛びかかった私は。





    砂煙を上げて。


    取っ組み合いになる。




    逆さまになったシズカの上に馬乗りになる。




    はたから見たら、




    子犬と子猫が。




    じゃれ合ってるようにしか見えないだろうけど…。




    「ウー…」




    シズカを見下ろし、小さくても鋭い牙を向けた。




    「……………。」





    子猫のシズカは、
    何も言わない。




    どころか、
    完全に力が抜けていて。




    やる気は、無かった。




    すると─






    「…あの対象者は、あなたとはどういう関係?」





    やっと口を開いたと思ったら…。











    「それを言う必要がある?」






    そんな事聞いてどうする。




    シズカは何かを探るように私の目を覗いていた。









    「無いわ。でもあなた、本音は別にあるんじゃない?」











    「…………どういう意味?」




    ドキリとした。








    「対象者の結婚、私がぶち壊す事をよ。」












    「……………。」














    「そうなればいい、って。」








    どこかで思ってない?











    「……うるさい。」





    違う。











    「どうして私を置いて幸せになるんだ、って。少しも思わなかったの?」










    違う。












    「うるさい!アンタに何が分かるの?」










    違う。




    違う。




    違う。











    「……分からない。けど、今のあなたは、」










    結構惨めよ。






    「………………。」









    「好きだったんでしょ、あの女の事。」












    「うるさい…」













    うるさい!













    私はシズカの喉を目掛けて、














    思いっきり、













    噛み付いた。







    (携帯)
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■20723 / 1階層)  犬に願えば 47
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(64回)-(2008/03/09(Sun) 01:23:06)
    首元に牙がめり込んで行く感覚を感じながら。




    「ウー……」




    シズカは何も言わない。




    私は何もかもを、見透かされていた気がして。




    怖くて怖くて。




    噛み付いた自分の口の力を抜く事が出来なかった。




    ……………?




    ふと疑問が浮かんだ。




    なぜなら、
    シズカはいつの間に私の首に手を伸ばしていた。



    まるで、




    “抵抗する気がない”




    それに気付いた私は、
    口の力を緩めた。




    シズカの口から小さな声で、




    「─────。」




    今。



    なんて…。









    とそこで。






    いてっ!!




    私は急激に首周りの肉が引っ張られる感覚がして。




    すぐに宙に浮いた。




    …………。




    ヴィンセン、ト。




    いつの間に。




    猫づかみされた私は。




    ヴィンセントの顔の目の前に─





    「………………。」






    怖い。




    無、表情…。





    笑顔は一つとして無く、


    冷たい目が、
    そこにはあった。








    ふいに強い力で、体が振られたと思ったら。





    私は弧を描いて、






    「………ギャン!!」




    壁に激突した。



    強い衝撃を受けた頭や背中の痛みを、
    すぐに理解出来ない。




    ヴィンセントはシズカを持ち上げて、手のひらで大切そうに撫でる。





    シズカはぐったりとしていた。







    再びヴィンセントは私を見ると、




    長い足をゆっくりと動かして私に近付いて来る。





    や、



    やだ…。







    動けない私は目を瞑ると─









    「そこまでニャ。」









    聞き慣れた声に目を開けると、






    ラフィ…。






    ずんぐりとした後ろ姿。



    確かにラフィだ。






    「ラファエル。」






    ヴィンセントが口を開いた。







    「悪いがこちらに非はニャいわ。」




    失礼するニャ。と、





    振り返って私を優しく抱えながら。






    「…もう心配ニャい。」




    静かにそう呟いて。




    光に包まれた後。





    一瞬にして天上へ。




    気付くと私はラフィの大きなお腹に顔をうずめて、










    大声で泣いた。




    (携帯)
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■20724 / 1階層)  犬に願えば 48
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(65回)-(2008/03/09(Sun) 01:32:22)
    天空─





    「…たんこぶが出来てるニャ。」






    ラフィのお腹に手を伸ばして─





    後頭部の痛みにも気付かない位。




    私はびんびん泣いた。





    「辛かったニャ。」





    優しく言われたから。




    ………余計涙が出た。






    「……誰でも見透かされたくない真実があるニャ。」





    …………うん。






    「…お前さんは悪くニャい。」







    …………うん。







    「…ラフィは優しいんだね。」






    見上げると、




    でっかい口で。




    「…ずっと見ておったからニャ。」




    ニッと。
    口角を上げて笑った。




    私はラフィのお腹に寄りかかりながら、






    「………私ね。」




    「ニャ?」




    「幸せなんて、サトに訪れなければいいって。本当はずっと思ってた。」






    「…………。」






    「思いたかったよ?別れてからずっとさ。…でもなかなか思えなかった。」


    幸せに、なんて…。





    「それが普通ニャて。忘れられない人ならニャ。」







    ぽんぽん、と。
    ラフィの肉球が、私の背中を撫でた。






    「…だから正直、私が死んでいる事を気にしてるサトを見てホッとしたんだと思う。」





    未だに─
    動かない時計を持っていたサト。





    「………別れた恋人にそう思わせたくて死んでいくバカもいるニャよ」






    「私もそう思った事あるよ。でも、虚しいね。」






    「そうニャ。」





    唯一生きて行く事だけが可能性のある道なのに。





    死んでからでは、
    何もかもが遅い。





    だけど─






    「ラフィ。もうヴィンセントを止める事は出来ないの?」




    体を離して、
    ラフィを見ると。




    「お前さんはもう無理をしなくてもよいニャよ?対象を外す事も出来る。」




    「…ううん。」


    もう、大丈夫。





    「………ふむ。実は少し手を打ってあるニャ。」




    「え?」






    「ヴィンセントの影響を受けない人間がおる。稀に存在するニャ。」




    「…………本当に?」






    「お前さんの対象者と関わるように、運命をいじっておいたニャ。神には内緒でニャ。」




    ふふん、と。









    ラフィは笑った。




    (携帯)
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▲[ 20724 ] / 返信無し
■20725 / 2階層)  追いついた〜
□投稿者/ アイズ 一般♪(1回)-(2008/03/09(Sun) 22:24:47)
    お久しぶりです。読み速度が遅くなりました、アイズですm(__)m
    やっと追いつきました〜って、元気でしたか?楽しく読まさせていただいてますwまさか、あのカップルが出るとは^皿^
    そのカップルの1人をちょっと某ファストフード店で見かけましたので、画像を添付させていただきますm(__)m多分、自分がイメージしたナツさんはもう少し細くて色白だと思っていますが・・・どうでしょうか??(苦笑)
    ではまた、体調には気をつけてください

120×160

1205069087.jpg
/8KB
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▲[ 20724 ] / 返信無し
■20783 / 2階層)  私もファンです。
□投稿者/ みい 一般♪(1回)-(2008/04/09(Wed) 09:51:08)
    久しぶりにこちらを覗いたら
    つちふまず様の作品を目にしてニンマリ

    本当に毎回楽しみにしていて過去の作品幾つか
    テキストにして保存してあります(笑)
    学校の先生の、タイトルがどうしても思い出せず…
    お気に入りだったのに何処か消えちゃって(涙)
    また書いていただける日がくるの楽しみに気長に期待してます〜
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20726 / 1階層)  アイズさん
□投稿者/ つちふまず ちょと常連(66回)-(2008/03/10(Mon) 08:25:10)
    おはようございます☆
    久しぶりですね(笑)
    画像付きだからドキドキしましたよ(^0^)♪

    ナツさんのイメージですか!なるほど…。

    この方素敵ですよね☆
    私もいつだったかエビフィレオを頬張りながら…、

    「む!」と目に留まった記憶があります。

    私のナツさんのイメージはですね?
    実は朝に必ずと言っていいほど立ち寄る、

    『DEAN & DELUCA』というデリのお店にいます☆

    いつもその人にラテを注文するんですが、
    あまりに美形過ぎて顔をまともに見た事がありません(笑)

    カウンターの高さがちと悔しい所です↓

    スタバやタリーズも敵わない位…、
    1日の初めに元気を頂けるスペシャルラテな訳ですが。

    でも今日は、たまには朝マックにしましょうかと思っております(^0^)

    I'm lovin'it !
    1日頑張りましょう。





    (携帯)
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20796 / 1階層)  犬に願えば 49
□投稿者/ つちふまず 一般♪(1回)-(2008/04/16(Wed) 21:10:10)
    ヴィンセントの影響を受けない人間─


    そんな人がいるんだろうかと、ふと疑問に思ったけれど。


    ラフィからその人の存在を知らされた時、




    「あ!あの人…ですか。はいはい。」




    妙に納得してしまった。




    私も“出会った事のある”人物だったのだ。




    「お前さんも感じたニャ?変わった空気の持ち主ニャったろう。」




    ラフィも上から見ていたのか。




    「ええ。何て言うか…人間離れ?してました。」




    「とりあえず、その人物と接触するニャ。いずれヴィンセントと対象者も現れるニャろて。」




    「飼われるんですか?」




    「一時的にニャがな。そのための子犬ニャろて。」




    よいしょ、とラフィは腰を上げて。




    座っていた私の人間の頭を撫でた。




    「シラトリさんに怒られそうだけどなぁ…」




    キーッ羨ましいですわ!とかなんとか…。







    「シズカはお前さんに惚れてるのかもニャ。」






    え。




    「はい?」




    …………今。




    なんと?






    「抵抗してなかったニャろ。お前さんに噛みつかれて。」






    ……………。







    「それが好きに繋がるとは到底思えませんが…」





    「送り手には人間の姿としてしか見えんニャよ。下界にいる時はニャ。」




    「そうなんですか?」





    それは知らなかった…。






    「私にはシズカがお前さんを抱きしめてるようにしか見えんかったニャよ。」




    恐らくヴィンセントにもニャ、と。




    ラフィは言った。






    「………良く思われてるなら、こんな事しないでしょうよ。」





    「確かにそうニャ。ふぉっふぉっふぉ!」






    シズカの本心は良く分からないけれど。





    あの時─






    私が首元に噛み付いた口を離そうとした時。






    小さな声で、
    確かにシズカは言った。









    ─あなたも同じね









    一体何が、
    同じだと言うのだろう。



    んー…。










    「久しぶりニャ♪」



    え。



    「はい?」



    どこかに向かって呟くラフィ。




    「挨拶ニャ♪」



    「…誰に?」



    見渡せど、
    誰もいる訳もなく…。










    「下界ニャ♪」






    ラフィは笑った。




    (携帯)
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20797 / 1階層)  みいさん
□投稿者/ つちふまず 一般♪(2回)-(2008/04/16(Wed) 21:22:53)
    どもども(^0^)
    返事遅くなってすんまそん。
    ニンマリ。
    ニンマリ…。
    ぐふふ(懐)

    やれ人事の季節だの新しい仕事だの、
    簡単に言えば忙しい。
    言い訳ですハイ。
    更新滞ってましたね。
    亀さんペースですが暇な時に書きます♪
    応援して下さいね☆

    あ、そうそう。
    nasty girls…。
    だー恥ずかしい。
    画面メモもプリントアウトも厳禁ですよ…。
    (著権は無いけど)

    最近携帯小説の作者が良くメディアに出てますね。(新聞で読んだ)
    私も1000ページ以上書いたんだからとっときゃ良かったかなぁとふと思ったり。

    けど録音した自分の声を聴くみたいに恥ずかしいから絶対無理だと思ってみたりと。
    ダハハ。


    『イカれてる彼女達』


    が。
    つちふまず的和訳です。ニシシ。




    (携帯)
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▲[ 20614 ] / 返信無し
■20915 / 1階層)  NO TITLE
□投稿者/ 美紀 一般♪(1回)-(2008/06/08(Sun) 23:36:22)
    続き、楽しみにしています(≧ω≦)

    (携帯)
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