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Nomal 二つの願い /槇 (08/04/07(Mon) 00:02) #20768
Nomal 二つの願い 1 /槇 (08/04/07(Mon) 00:05) #20769
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Nomal 二つの願い 3 /槇 (08/04/07(Mon) 00:14) #20771
Nomal 二つの願い 4 /槇 (08/04/07(Mon) 00:18) #20772
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Nomal 二つの願い 8 /槇 (08/04/07(Mon) 00:33) #20776
Nomal NO TITLE /槇 (08/04/07(Mon) 00:34) #20777
│└Nomal /きゅん (08/04/07(Mon) 14:35) #20778
│  └Nomal きゅんさんへ /槇 (08/04/14(Mon) 00:35) #20792
Nomal 二つの願い 9 /槇 (08/04/14(Mon) 00:19) #20788
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Nomal 二つの願い 15 /槇 (08/04/21(Mon) 02:11) #20803


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■20768 / 親階層)  二つの願い
□投稿者/ 槇 一般♪(1回)-(2008/04/07(Mon) 00:02:40)

    こんなに他人の幸せを願ったことはなかった…

    どうか…

    あなたは幸せに…

    誰の隣でもいいから…

    あなたは笑っていて…

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▲[ 20768 ] / 返信無し
■20769 / 1階層)  二つの願い 1
□投稿者/ 槇 一般♪(2回)-(2008/04/07(Mon) 00:05:29)

    「いい加減にしといたら?」
    親友は苦笑いでグラスを傾ける

    「既婚者なんてどうせ最後は家庭に戻っていくもんだよ。男も女も。」
    苦笑いを浮かべるだけで何も言わない親友にイライラしながら続ける

    「彼女に何言われてるんだか知んないけど、既婚者の本気なんて当てになんないよ。『本気だけど家庭は捨てられない』でしょ?その程度の本気なんだよ。そんな相手に真剣に付き合うなんて不毛じゃない?」
    ここまで言われても気分を害する様子もなく困ったように笑った。

    「別に、家庭を捨てて欲しいなんて思ってないよ。週に一度会えるだけで幸せ。会えなかったら声聞くだけでいい。メールだけでいい。彼女と繋がっていられるそれだけで私は満足だから…」
    ため息が出る

    「何、その一昔前の典型的な愛人体質。いつからそんな風になっちゃったの?なんか、純愛みたいな事言ってるけどさ、結局ただの不倫だからね。許されないことしてるんだよ?あ〜、もしかして、その背徳感ってのが逆に燃えるの?」
    わざと千尋を怒らせようとしている自分に気が付く。そんな私の心のうちを知ってか知らずか、千尋はただ微笑を浮かべて聞いてるだけ。

    「うん、那智の言うとおり、ただの不倫だよ。許されないことしてる。だから、ずっと続くとは思ってないよ。いつか別れる時が来るんだろうなあって思うよ。それはお互いに分かってる。だから、今がすごく大事に思えるの。終わりがくるの分かってるからつまらない嫉妬とか不安とかを相手にぶつけて、二人でいられる時間を無駄にしたくないんだよ。」

    なんだそれ

    「別れる事が分かってる恋愛なんて恋愛じゃないよ。終わりが来るから、言いたいことも我慢して?それで幸せ?なんだそれ。」
    最後は吐き捨てるように言った。


    なんだそれ

    なんだそれ

    そんな恋愛

    悲しすぎる



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▲[ 20768 ] / 返信無し
■20770 / 1階層)  二つの願い 2
□投稿者/ 槇 一般♪(3回)-(2008/04/07(Mon) 00:10:57)

    那智はこの話をする時はいつも泣きそうな顔をする。
    分かってる。
    私のことを非難するようなことを言うけど、那智はただただ、心配してるだけなんだよね。

    「我慢なんかしてないって。私は今凄い幸せなんだよ?大体、那智だって人妻と付き合ってたことあるでしょ?私の記憶が確かなら、それも一人や二人じゃないはずだよ〜」
    そう切り返してみると、那智は「ふんっ」と鼻で笑った。

    「別に、付き合ってないよ。ただHしただけ。向こうだって欲求不満の解消に人のこと使うだけだからね、こっちも同じように対応してるだけだよ。Hするだけなら既婚未婚関係ないから。」
    「那智は一回本気の付き合いしてみた方がいいよ。本気でその人のこと好きになっちゃったら、既婚だとか未婚だとかはどうでもいいことになっちゃうもんなんだって!」

    「本気ねえ…」口の端で笑いながら、好物のオムライスを口に運ぶ。

    「本気で好きになろうとしてる時点で、純粋な『好き』じゃないじゃん。私だって、本気で好きになれる人が現れたら、そりゃ一途にその人だけになるよ。でも、今のところそういう人と出会ってないし、それでも欲求はあるし、遊んじゃうのは仕方ないよ。自分の意思でできるようなお手軽な『本気のお付き合い』なんかしたくもないね。同じお手軽なら遊んでるほうがよっぽど罪はないと思うんだけどなあ〜」
    思わず吹き出してしまった。

    「なに?」眉間にしわを寄せて不機嫌そうな那智。
    「いや…なんでもないけど…。那智はかわいいなあ〜!そういうとこ好きよ。」
    「はあ?どこが!」更に不機嫌になってバクバクとオムライスを食べる。

    何人も何人も女の子をとっかえひっかえしてる割に考えてることは、すごく純粋なんだもんなあ〜。純粋に好きになれる人と出会えることを待っているんだよね。10代の女の子みたい…。かわいいなあ〜

    『遊ぶのやめたらいいのに。結構誤解されてるんだから…。』
    そう言おうと思ったけど止めた。

    『どうでもいい』
    そういう返事が返ってくることが分かるから。



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▲[ 20768 ] / 返信無し
■20771 / 1階層)  二つの願い 3
□投稿者/ 槇 一般♪(4回)-(2008/04/07(Mon) 00:14:33)

    「あれ?那智?」

    聞き覚えのある声がした。向かいに座っている那智の顔が微かに強張った。
    振り返ると、久美子さんがいた。彼女はこの店の常連で親しくしていた。那智はもっと親しくしていたみたいだが…。

    「那智〜!久しぶりじゃない。私、結構ここ来てんのに全然会えないんだもん〜。なんか私のこと避けてない?あ、千尋も久しぶりだね。」
    私には、全然そっけないくせに那智にはベタベタとすり寄っている。

    「いや〜、そんなことないですよ〜」と言いながら、体を硬くしている那智がおかしくて私はニヤニヤしていた。

    那智は一度関係を持った人と、再び関係を持つことはないらしい。それが深みにはまらない遊び方だそうで、だから、周りからは結構いろいろ言われてる。

    「お互い合意の上なんだから、周りがうだうだと口出すことじゃない」と、自分のスタイルを貫き通しているが、この久美子さんはやたらしつこく那智に迫っているらしく、那智はずっと彼女を避けていた。

    人妻である彼女がこんな遅い時間にこの店に来ることはなく、那智にとってはまさに想定外の出来事なんだろう。普段はふてぶてしい態度の那智が困っているのを見るのは本当に久しぶりだったから、面白さと、少し困らせてやろうという思いから自分のかばんを手にとった。

    「ごめん!那智。私、明日も仕事だからもうそろそろ帰るわ。」
    那智が目を見開いた。

    「え〜?久しぶりに会えたのに〜。美容師さんは日曜日関係ないもんね。残念。」

    全然残念そうじゃない久美子さんに「また遊びましょう」と社交辞令を言って、固まっている那智に「またね」と満面の笑みを残し背を向けた。
    その時に、初めて久美子さんが連れている大人しそうな女性に気がついたが、お辞儀だけして店を出た。

    「あとで那智なんて言ってくるだろう?」そう思っただけでおかしくて、街を歩く人たちに変な目で見られないように笑いをこらえるのが大変だった。



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▲[ 20768 ] / 返信無し
■20772 / 1階層)  二つの願い 4
□投稿者/ 槇 一般♪(5回)-(2008/04/07(Mon) 00:18:50)

    薄情な親友に見捨てられて、しばし呆然としていたが、千尋が帰って初めて久美子さんが人を連れていることに気がついた。べたべたと擦り寄ってくる久美子さんの気をそらすために聞いてみた。

    「久美子さん、その人はお友達ですか?」
    久美子さんははっと気がついたように体を離した。

    「そうそう!近所の人で仲良くしてるの。加奈子さん。きれいな人でしょ?」
    私はやっと久美子さんから開放されたことに安心して、そこで改めて、その『きれいな人』に目を向けた。

    確かに、『きれいな人』ではあるけど、大人しそうで、ぶっちゃけ地味な感じの人で、正直何の興味も湧かない。もっと綺麗で明るい人がいるから、遊びの相手にもならない。
    久美子さんのほうがよっぽど綺麗だ。今は少し面倒くさいことになっているけど…。

    千尋が帰ってからなんとなく帰るタイミングを逃して、なんだかわからないうちに3人で飲むことになってしまった。

    「この子ね〜、那智って言うんだけど、気をつけてね。ほんと手が早いの!女なら見境なしなんだから!」
    「一応、好みはありますよ〜」
    「私が見てる限り、ストライクゾーン広すぎだよ!まったく違うタイプの人でもひっかけてるじゃない!」

    別に引っ掛けてない。いつだって、向こうからやってくるんだ。別に断る理由もないから拒まないだけ。
    そう言ったところで納得するような人ではないから、曖昧に笑っておいた。

    それにしても、おとなしい人だなあ。さっきから私と久美子さんがほとんど2人で喋ってる。それをただニコニコしながら聞いてるだけで本当に静かな人…。っつうか、この人の声ってまだ聞いてないかも…

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▲[ 20768 ] / 返信無し
■20773 / 1階層)  二つの願い 5
□投稿者/ 槇 一般♪(6回)-(2008/04/07(Mon) 00:21:41)

    そう思いながら、まるで観察でもするかのように加奈子さんを眺めていたら、その視線を勘違いした久美子さんが少し強い口調で言った。

    「那智!加奈子さんに手ぇ出しちゃだめだよ。加奈子さんは完全なノンケなんだから」
    「そんなんじゃないですよ〜」
    思いがけないことを言われて、つい笑ってしまった。

    「加奈子さんには、こんな時間まで遊んでても文句ひとつ言わない理解のある、優しいご主人がいるんだから。しかも高学歴の高収入のエリート!あんたが手を出していい奥さんじゃないんだからね!」
    困ったように笑って、止めるように久美子さんの肩に手を置き、何事かを話している加奈子さんを見ていると、なぜだか無性に腹が立った。

    「ノンケで、理解のある優しい旦那さんがいるのに何でこんなとこ来てるんですか?ここは女が女を探すような店ですよ?」
    何か言おうとする彼女に割って入って久美子さんが答えた。

    「加奈子さんは真面目な人だから、今まで全然外に遊びに行くってことしたことなかった人なの!だから、息抜きにって私が誘って私がここに連れてきたの!」
    「あ、そうなんですか。すいません」
    訳の分からない胸のむかつきは収まらなかった。

    「ここにくる前にもどっか寄ってきたんですか?こんな遅い時間に来てるから。」
    「今日は昼間から色々行ったわね〜。ランチ食べて、ショッピングして、夕食食べて〜。さっきまでミックスバーにいたのよ。ゲイの人っておもしろいわよね〜!」
    「っていうか、久美子さん、旦那さん大丈夫なんですか?厳しいんでしょ?」
    「うちの旦那は今出張中なのよ。さっき、メールしたら一緒に行ってる同僚と飲んだから今日はもう寝るって言ってたわ。怪しいもんだけどね。」

    「へ〜」と何気ない風を装いながらも、さっきからのむかつきはどんどん大きくなるばかりで…。


    どうしたんだろ…、何でこんなにイラつくんだろ…。


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▲[ 20768 ] / 返信無し
■20774 / 1階層)  二つの願い 6
□投稿者/ 槇 一般♪(7回)-(2008/04/07(Mon) 00:25:05)

    そのうちに久美子さんは他の常連客の中に友達を見つけたらしく、「ちょっと挨拶してくる」と私たちを残して他のテーブルに行ってしまった。

    2人で残されても共通の話題を見つけることもできず、しばらくの間は気まずく笑いあうだけだった。こんなに久美子さんを待ち焦がれたのは初めてかもしれない。
    久美子さんが行ったテーブルを見てみると、すごく盛り上がっていて『ちょっと』で戻ってきそうな感じじゃなかったから、仕方なく話し掛けてみた。

    「なかなか戻ってきませんね。友達多い人だから…」
    「ええ…」


    それだけかよっ!!!


    えーと、えーと…
    「彼女、普段からあんな感じで友達多いんですか?」
    「ええ…」


    …って、それだけ!!!?

    「あんまり話したりするの好きじゃないんですか?」
    「あ、ごめんなさい。好きじゃない訳ではないんですけど初対面の人と話すのは少し苦手で…。だから、友達もあんまり作れないんです…」

    ああ、そんな感じ…。

    「そうなんですか。ここに来る前行った店…、楽しかったですか?こういう人間と話したりするの初めてだったんじゃないですか?」
    「そう…ですね。私はあまり話せなかったんですけど、楽しかったです。いい経験になりました。」

    いい経験ね…

    「加奈子さん、『普通の人』だから面白かったでしょうね。同性好きになるような人種なんて珍獣でも見たような気分なんじゃないですか?動物園でも行ってきたような感じ?」
    知らず知らずのうちに言葉がきつくなる。

    「そんな…」
    「久美子さんに連れてこられたって言っても、まったく興味なかったら着いて来ないですよね。少しは興味があったんでしょう?優しい旦那さんに守られてる平凡な幸せは退屈ですか?刺激が欲しかったんじゃないですか?」

    どんどん嫌な奴になっていく…

    「いいですよね〜。女同士なら子供できる心配もないし。ノンケの人からしたら、女同士のセックスなんて浮気にもならないんでしょうね。罪悪感もなく、退屈な毎日のちょっとしたスパイスになる。興味深々なんでしょ?」

    一番嫌いな言葉がどんどん溢れてくる。

    「よかったら、お相手しましょうか?そこらの男よりも気持ちよくさせてあげますよ?」

    最低だ…
    何で初対面の人にここまで言ってしまうのか…
    自己嫌悪に陥った


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▲[ 20768 ] / 返信無し
■20775 / 1階層)  二つの願い 7
□投稿者/ 槇 一般♪(8回)-(2008/04/07(Mon) 00:28:44)
    2008/04/07(Mon) 00:30:26 編集(投稿者)
    2008/04/07(Mon) 00:30:12 編集(投稿者)

    こんな酷い事を言われても、加奈子さんは黙ったまま俯いていた。

    無理やり連れてこられたとか、反論すればいいのに。自分で責めておいて身勝手にも加奈子さんのその態度にも苛立っていた。
    更に攻撃しようと口を開きかけた瞬間、いきなり後頭部を叩かれた。ただならぬ私たちの雰囲気を察したこの店の店長のナオだった。

    「那智!!なに、新しいお客さん苛めてんのよ!!営業妨害するなら出入り禁止にするわよ!!」

    自分では抑えられようもなかったこの苛立ちを、あっさりと止めてくれた友人に内心感謝しながら不平を漏らす。

    「別に、営業妨害なんか…」
    「してんのよ!あんたがそうやってチクチクチクチク人妻イビリするから、最近さっぱり結婚してるお客さん来なくなったんだから!平気で人妻と遊んだりするくせにネチネチ言うなんて、風俗行ってるくせにそこの女の子に説教たれるオヤジと同レベルだよ!」

    まったくその通りだ。ぐうの音も出ない…。謝ろうと加奈子さんのほうを向くと、彼女はすっと立ち上がった。

    「私は全然気にしてませんから。大丈夫です。でもそろそろ帰らないとさすがに主人も心配するので帰ります…。久美子さんにごめんなさいって言っておいてください。」

    そう言うと、私にお辞儀をして、「ごめんなさいね」と繰り返すナオに送られながら出て行った。ナオに笑顔を向ける加奈子さんを見送りながら、唇を噛んだ。

    さっきからのイライラがすべて自分に向けられる。あんなことを言いたかった訳じゃない。

    「あんた、あの人に何言ったわけ?」
    戻ってきたナオに言われた。何も答えられなかった…。

    「別にあんたがどう周りに言われてもあんたの責任だからどうでもいいんだけど、あんたが誰かを傷つけるのは無視できないのよ。自分の考え持ってるのはいいことだけど、人にはそれぞれ事情ってものがあるの。そういう人たちに自分の思想押し付けるのやめて。見てらんない。」

    分かってる…

    「ごめん、帰るわ。今日の分ツケといて」
    急いでカバンをつかんだ

    「は?話聞いてる?っていうか、うちツケ禁止だから」
    「そこをなんとか!明日絶対払いに来るから!」
    「ちょっと!!」

    止めるナオの言葉に耳を貸さず急いで飛び出した。
    タクシーを捕まえられる大通りまでは結構距離がある。急いで追いかければ追いつくかもしれない。



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▲[ 20768 ] / 返信無し
■20776 / 1階層)  二つの願い 8
□投稿者/ 槇 一般♪(9回)-(2008/04/07(Mon) 00:33:32)

    どうしてこんなに必死で追いかけてるのか分からない。追いついたところで何を言うつもりなのか…何がしたいのか…。
    今までだって似たようなことを言って人を傷つけたことは何度もある。他人にどう思われたってどうでもいい…そう思ってたのに…

    行き交う人の中に、それらしき後ろ姿を見つけた。暗くて少し距離があるからはっきりとは判らないけど、とにかくその後ろ姿を目指した。

    「あの!」

    どう声をかけたらいいのか、迷った挙句いきなり肩を掴んでしまった。いくらなんでもそれはないだろう。人違いならかなり失礼だし、間違ってなかったとしても…やっぱり失礼だ。

    その後ろ姿の人物は…

    加奈子さんだった。


    驚いたように振り返った彼女は、私だとわかると微笑んだ。あんなことをいわれた相手に対してどうしてこんな風に笑いかけられるのだろう?

    「どうかしました?」
    うまい言葉が見つからない。

    「あ…えーと、その…」
    言うべき言葉が浮かばない時は結局のところ、伝えたいことだけを伝えるしかない。

    「さっきはごめんなさい!ひどいことばかり…」
    加奈子さんは驚いたようだったが、ふっと微笑んだ。

    「わざわざ、それだけ言いに追いかけてきてくれたんですか?」
    「あぁ、はい。私…すごく口が悪くて…」
    「いいんです。気にしていませんから」
    改めて彼女の笑顔を見たら、スルスルと言葉が出てきた。

    「もしよかったら、送らせてもらえませんか?せめてものお詫びに。大通りまでまだ距離あるし、私の車停めてる駐車場のほうがここから近いんですよ。」
    「え…でも、お酒飲んでませんでした?」
    「ああ、私一滴もお酒飲めないんです。飲んでたのはウーロン茶。あの店やってるナオって、私の古い友人なんです。だから、特別メニューでご飯食べさせてもらってるんですよ。金にならない客だって嫌がられてるんですけど」
    「ああ、そうなんですか。そういう友達っていいですね。じゃ、せっかくなんで、お願いしましょうか」

    加奈子さんは笑っていた。
    私も知らないうちに笑顔になっていた。

    今日彼女に見せた初めての自然な笑顔だったかもしれない。




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▲[ 20768 ] / ▼[ 20778 ]
■20777 / 1階層)  NO TITLE
□投稿者/ 槇 一般♪(10回)-(2008/04/07(Mon) 00:34:43)
    久しぶりの投稿です
    今回は、少し長くなりそうです。
    皆さんよろしくお願いします。
[ 親 20768 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20777 ] / ▼[ 20792 ]
■20778 / 2階層)  
□投稿者/ きゅん 一般♪(1回)-(2008/04/07(Mon) 14:35:47)
    本物の愛を知って変わる那智さんと
    二人の関係がこれからどのような物語を綴っていくのか
    楽しみにしています。
[ 親 20768 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20778 ] / 返信無し
■20792 / 3階層)  きゅんさんへ
□投稿者/ 槇 一般♪(15回)-(2008/04/14(Mon) 00:35:43)
    コメントありがとうございます
    あまり頻繁に更新できないかもしれませんが、
    最終話まで気長にお付き合いお願いします。
[ 親 20768 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 20768 ] / 返信無し
■20788 / 1階層)  二つの願い 9
□投稿者/ 槇 一般♪(11回)-(2008/04/14(Mon) 00:19:14)

    車の中で彼女は先ほどとは比べ物にならないほど饒舌だった。
    今日行ったカフェやショップでの話を嬉しそうに話してくれた。しかし、昼間のことを話し終えると、その後でのことはやはり話し辛くなったのか、発する言葉は帰り道のナビだけになっていった。

    「さっきのこと…本当にすみませんでした。私はどうも相手の都合を考えないで自分の思ってることを押し付けてしまうんですよ。ほんとにごめんなさい」
    「正直なところ…落ち込みました。」

    静かな物言いに、内心ギクッとした。
    影でいろいろ言われるのは慣れてるけど、面と向かって言われるのはほとんどなかったから…

    「確かに好奇心だったんです。私は『普通』に生きてきたんです。あっ、また、いやな気分にさせてしまったかもしれませんね。ごめんなさい。でも、他にどう言ったらいいのか分からないんです」

    大体わかる…。
    世間一般の大多数の人たちのように生きてきたということだ。私たちのような『少数派』ではなく…
    私は笑みを浮かべて頷き、先を促した。

    「私は今まで平凡に普通に生きてきたから、そういう世界の人たちと接したことがなかった。だから、確かに好奇心があったんです。私にはそんなつもりではなくても、物珍しいものを見るような目で見ていたのかもしれない。『普通』の中にいるという安心感から一段高いところから見下ろしていたのかもしれない。檻の中の動物でも見るように…。そんな目をして私は、人を知らず知らずのうちに傷つけていたのかもしれない」

    私はショックを受けていた。
    私の無責任な言葉で、この人はここまで考えてくれたのか…
    どう答えればいいか分からなくて、結局茶化して逃げることにした。

    「気にしなくていいですよ。私たちみたいな人間は意外にタフです。そうでなかったら、同性愛者なんてやってらんないですよ」
    「私はその強さが羨ましいです。私にはないから…」

    加奈子さんは悲しそうに笑った。
    こういう笑顔をする人を、私は一人だけ知っている。なぜ加奈子さんがこんな悲しい顔をしなければならないのか。このときの私には想像もできなかった。



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▲[ 20768 ] / 返信無し
■20789 / 1階層)  二つの願い 10
□投稿者/ 槇 一般♪(12回)-(2008/04/14(Mon) 00:23:14)

    「久美子さんが言ってたことって本当ですか?」
    「え?何がですか?」

    いきなり話題が変わって少し驚いた。

    「気に障ったらごめんなさい。色んな人とお付き合いされてるとか…」
    「ああ、『女なら見境なし』ってやつですか?まあ、確かにそうですね。求められて拒むことはほぼないですから。友達にいつか刺されるよって言われてるんですよ」
    「本気で人を好きになったりはしないんですか?」
    「私が本気で好きになる人は、私のことを好きになってはくれないんです」

    親友の千尋にも言ったことのない素直な言葉がすらっと出てきた。
    そう、別に恋愛してないわけじゃない。私が好きになる人はみんな男が好きで、だから気持ちを伝えたことなんか一度もない。その人を失うくらいならいい友人でいたほうがましだから。

    「告白したことはないんですか?」
    「ないですよ。」
    「どうしてですか?」
    「どうしてって…。ストレートのあなたには分からないかも知れませんね。私たちは想いを告げたその瞬間に嫌悪されることだってあるんです。友人にさえもどれない…。好きな人にそんな目で見られるくらいなら言わない方がマシでしょ?」

    彼女は何も言わなかった。何も言わず、俯いていた。

    「どうかしましたか?」

    沈黙があまりにも長く続いたので、車酔いでもしたのかと思ってそう聞いた。

    「私は…、今日初めてあなたに会って、あなたのことはほとんど何も知らないけど…」
    「はい…」
    「あなたはすごく真っ直ぐな人なんですね…。私は那智さんはすごく素敵な人だと思います」

    いつもなら鼻で笑うような陳腐な台詞だけど、素直にうれしくて恥ずかしくて、どう返事をしたらいいのか分らなくて…。
    きっと顔は笑顔になるのをこらえるような、中途半端なニヤケ面をしていたんだろう。

    街灯だけの光しかない暗い道路がずっと続けばいいと思っていた。



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▲[ 20768 ] / 返信無し
■20790 / 1階層)  二つの願い 11
□投稿者/ 槇 一般♪(13回)-(2008/04/14(Mon) 00:28:19)

    数十分後、車は彼女のナビに従って、閑静な住宅街に入っていった。

    「あ、その先の自販機の所に停めてください。あそこから家すぐ近くなので。」
    「家まで送ります」という言葉を飲み込んだ。家は知られたくないのだろう。

    当たり前だ

    ほんの少し、ほんの少しだけ感じた寂しさを自分でからかいながら自販機のそばに車を停めた。

    「送ってくれてありがとう。助かりました」
    「いえいえ、気をつけて」
    そう言いながらも、加奈子さんは降りる様子がない。

    「遅くなりましたね。ご主人、心配されてるんじゃないですか?」

    そう言うと、私の方に振り向いて何かを言おうと口を開きかけて、何かを諦めるように口を閉じた。
    「そうですね…、帰らなきゃいけませんね。」

    ドアのレバーに手をかけて、思いついたように振り返って、笑って言った。

    「早く那智さんのことを本気で愛してくれる人が現れればいいのに」
    「あなたは愛してはくれないんですか?」

    ほとんど無意識に言ってしまった。自分の口から出た言葉を自分の耳で聞いて、そこで初めて何を言ったのか理解した。

    「え…」
    「いやいやいや!!!冗談ですよ!!あなたに対してそんな変な感情持ってないですよ!!今日会ったばっかりだし、立派な旦那さんいるし!!!」

    自分の口から出たとんでもない言葉と、それを聞いたときの加奈子さんの表情のおかげでありえないくらい動揺して、必死で弁解した。

    「そうですよね…。でも私は…」

    加奈子さんは目の前に続く暗い道に目を向けて言葉を続けた。

    「私は、もう少し那智さんと一緒にいたいと思ってます」
    「え…」

    私が言葉を発する間もなく、彼女はドアをあけて車を降りた。

    「じゃあ、今日はありがとう。おやすみなさい」
    「おやすみなさい…」

    オウム返しのようにそう答えて、暗い住宅地に消えていく加奈子さんの背中を、ただ見送ることしか出来なかった


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■20791 / 1階層)  二つの願い 12
□投稿者/ 槇 一般♪(14回)-(2008/04/14(Mon) 00:32:30)

    次の日の夜、またナオの店に行った。

    「昨日ごめんね。忘れないうちに払っとくよ」
    「ああ、はいはい。今日はどうする?なんかつくる?」
    「いや、今日はいいわ。忙しくてね、これからまた会社戻らなくちゃ駄目なんだよね」
    「え?じゃ、わざわざお金払うために来たの?今度来る時にまとめて払ってくれてよかったのに…」
    「う〜ん、ホント忙しくなるから、次来るの何ヵ月後になるかわかんないんだわ。だから早いうちに払っておいたほうがいいと思ってさ」
    「そっか…。あ!そうそう!」

    何か思いついたようにカウンターの向こうから手招きして私に耳打ちしようとしている。
    なんだろうと思って近づくと、
    「昨日、久美子さん怒ってたよ〜。私の友達に手を出すなんてって!」
    と、ささやいた。

    別に久美子さんが怒ろうとどうしようとどうでもいいけど、ひどい誤解をされていることに驚いて、必死に訂正した。

    「手なんか出してないよ!ただ送っていっただけ!」
    「ふ〜ん…」
    分かっているのかいないのか、ナオはただニヤニヤしながら私を見ていた。

    「ほんとだよ!!」
    「はいはい。ま、久美子さんも『私の友達に〜』とか言ってるけど、自分があんだけアピってんのにあんたにぜんぜん相手にされないで、二人が黙って消えたことにただむかついてるだけなんだろうね〜。惨めっちゃあ、惨めだもんね」
    「そんなの知らないよ」

    そう、そんなことはどうでもいい。とにかく今は早く仕事に戻らないと
    「じゃ、戻るわ」と店を出て行こうとすると、
    「ほんとに手出してないの?!」
    という声に引き止められた。

    「出してないよ!!!」
    思いのほか大声になってしまって、店の客の視線が一斉に私に集中した。

    「わかった、わかった、ごめんごめん」
    ナオは苦笑しながら右手を上げた。私は憮然とした表情でナオに背を向けた。

    「珍しいね。わざわざ追いかけて、送っていって手を出さないなんて」
    そんなナオの言葉も聞こえない振りをして店を後にした。

    そんなことない。私だって、いつでも誰でもって訳じゃない。
    別にタイプじゃなかったし、追いかけたのだって、ただ酷い事言ったのを謝りたかっただけだ。

    じゃあ、なぜ、彼女には謝りたくなったのか…。
    そんな疑問には気がつかない振りをした。

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■20801 / 1階層)  二つの願い 13
□投稿者/ 槇 一般♪(16回)-(2008/04/21(Mon) 02:02:32)

    『別れる事が分かってる恋愛なんて恋愛じゃない』

    那智にはそう言われた。私も綾子に出会うまではそう思っていた。
    既婚者との恋愛はいつか終わりがくるに決まってる。結婚している人はいつか必ず家庭を選ぶだろうから…。
    だから私は絶対に既婚者とは恋愛はしない

    綾子と出会ったのは、4年前。
    那智の古い友人がバーを開いたということで、初めてその店に連れて行かれた時だった。
    那智は顔が広いから色んな顔見知りがいて、その中の一人が綾子だった。

    私は初めて会った人に気さくに話し掛けるという芸当はできない人間だったから、綾子と一緒に飲んでいた人たちと合流しようという話になった時、正直、「参ったなあ」なんて思っていた。

    5,6人でわいわいと騒いでいても、私はその輪にいまいち入りきれずに、楽しそうに笑っている那智を眺めながら飲んでいた。
    気がつくと、人の輪から完全に外れてしまったはずの私の隣には綾子が座っていた。
    仕事以外の場で、初対面の人と話すのが苦手な私が、彼女には古くからの友人のように話していた。

    話の内容は覚えていない。多分、テレビ番組とか最近見た映画とか子供の頃流行ったモノだとか、つまらない内容だったと思う。そんなくだらない話で私たちは盛り上がり、いつしかグループから離れ、二人で飲んでいた。

    出会った夜はそれだけだった。
    ものすごく気の合う人に出会った。
    ただそれだけ。いい友人ができた。
    それで十分だった。

    綾子との再会はものすごく早かった。

    綾子は出会った夜の次の日、お客として私の前に現れた。驚く私を鏡越しに見て、してやったりと満足そうに笑っていた。

    それからは月に一回、店にやってきて私を指名した。私たちはどんどん仲良くなっていき、プライベートでも頻繁に会うようになっていた。

    ある日、ひょんなことから、綾子とよく遊んでいることを那智に話した。
    那智は、渋い顔をして言った。

    「綾子は結婚してるから止めときなよ。嫌でしょ?そういうの。」

    私は「そんなんじゃない」とすぐに否定した。
    でも那智は勘がいいから、すぐに分かったんだろう。


    私自身よりも早く…


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■20802 / 1階層)  二つの願い 14
□投稿者/ 槇 一般♪(17回)-(2008/04/21(Mon) 02:07:26)

    那智に「やめろ」と言われて初めて気が付いた。
    私はその時すでに自分では止められないほど彼女に惹かれていた。会えば会うほどその想いは強くなっていた。

    自分で気が付かなかっただけ…。

    既婚者だと知って、歯止めの利かなくなっている自分の想いを知って、後にも先にも進めない自分の状況を知った。
    そんな私に出来ることは、後にも先にも進まないことだった。

    プライベートで会うのは一切止めた。店には定期的に来てくれるからその時は美容師として接した。そうして、ひそかにどんどん大きくなってくる彼女への想いを抱え続けた。
    先に進めば泥沼にはまっていきそうで、それが恐ろしかった。


    ある日、仕事を終えて店から出てくると綾子がいた。彼女を避け始めてから数ヶ月が経っていた。

    「どうしたの?こんな時間に?」
    「どうしても話したいことがあって…」
    「それにしたってもう夜中だよ?旦那さんは大丈夫なの?」

    そう言った時、綾子の顔が微かに強張ったのを見て、しまったと思った。

    「今日は遅くなるって言ってあるから大丈夫。」
    「それにしたって…。家まで送っていくよ。話は車の中で聞くから」

    俯く彼女の背中に手を当てて、駐車場に促した。
    彼女の背中は冷たかった。
    いったいどのくらい待っていたんだろう。
    そう思ったら胸が熱くなった。


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■20803 / 1階層)  二つの願い 15
□投稿者/ 槇 一般♪(18回)-(2008/04/21(Mon) 02:11:44)

    車を走らせてしばらくは二人とも無言だった

    先に口を開いたのは、綾子だった。
    「那智に聞いたの?結婚してること…」
    前を見たまま軽く頷いた。何か言わなければと思ってはいるけど言葉が出てこない。
    「そう…」
    また、重い沈黙が続いた。
    「隠してたわけじゃないんだよ。言うタイミングが見つからなかったと言うか…。わざわざ言う必要もないと思ってたし…」
    「うん…」

    もうすぐ綾子の家に着いてしまう。このまま送り届ければ、友人にも戻れないような気がしたから、道路脇に車を停めた。夜中の上、街から離れているから車はほとんど通らなかった。

    「千尋…私のこと避けてたよね?それは結婚してるって知ったから?」
    「そうだよ」

    自分の想いは知られてはいけないと思った。だから強張った表情の綾子に満面の笑みを貼り付けて続けた。

    「だぁって、綾子はひどいよ。そりゃ、言う必要はないけどさ、基本的なとこじゃん?そこ。私は綾子は何でも話せる親友だと思ってたのにさ。結構悲しいもんよ?他からそんな基本的なこと聞かされるって。そりゃ、私だって拗ねたくもなるよ」

    「慰謝料として今度なんか美味しいもん奢ってよ」
    そう続けようとしたけどやめた。
    凄く悲しそうな顔をしたから…

    「ほんとは知られたくなかったの…隠しておきたかった…千尋にだけは…」
    「なんで…?」

    それには答えず、綾子は前を向いたまま話し出した。

    「私はバイなんだけど、同じバイの人の中に彼氏もいるけど彼女もいるっていう人たまにいるでしょ?私はそういう人昔から理解できなかったんだよね。男と女の違いはあっても二股かけてるって事と変わりないじゃない?結局二人とも本気で愛してないんだって、そう思うの。だから私はそういう人嫌いなの…。軽蔑してた…」
    「うん」
    「でも…でもね…」

    自分を落ち着かせるように、綾子は口を手で覆って、大きく息を吐いた。その手は微かに震えていた。

    「私は今からひどい事を言うけど、聞いてほしいの。それが私の本心だから」
    「うん」
    「私は夫を愛してる。彼は優しいし誠実だし不満なんてない。その気持ちは結婚を決めた時から変わってない。私たちは一生連れ添っていくんだと思う…」

    鼻の奥が熱くなってきた。涙が出そうになるのを必死でこらえた

    「でも止められない。どうしたらいいか分からない…私はずっと軽蔑してきた人たちと同じなの。自分が許せない…」
    「綾子…」
    「私はあなたを愛してる…少し距離を置かれただけで気が狂うほど寂しかった…自分ではどうしようもないほど千尋の事を愛してしまったの…」

    こらえきれずに溢れてくる…

    「私は最低…こんな事言うべきじゃない…選べないのなら…。私はあなたに愛される資格がない…っ!」
    「資格なんて…っ」

    あとは言葉にならなかった…
    何も言わずに抱きしめた

    「でも…千尋に愛されたいよ…」
    私の腕の中で綾子が呟いた

    私だってどうしようもなくあなたを愛してる
    ずっと前から…
    資格なんていらない
    あなたがあなたでいてくれればいい

    お願いします…

    どうか…
    一秒でも長く綾子といさせて下さい

    一生なんて言わないから…



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