ビアンエッセイ♪

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Nomal すこしづつ…@ /桃子 (16/11/07(Mon) 13:59) #22124
Nomal Re[1]: すこしづつ…A /桃子 (16/11/07(Mon) 14:02) #22125
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│└Nomal すこしづつ…30 /桃子 (17/02/19(Sun) 01:00) #22185
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Nomal すこしづつ…40 /桃子 (17/03/01(Wed) 14:34) #22198


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■22124 / 親階層)  すこしづつ…@
□投稿者/ 桃子 一般♪(1回)-(2016/11/07(Mon) 13:59:06)
    その日 私のイライラは 最高潮に達していた。

    「ご機嫌ナナメなのは 最近あの子の姿を見ていないから?」

    昼休み 同僚のミカに 痛いところを突かれた。

    「そんなこと ないけど…」

    返す言葉が 空しかった。

    「仕事 終わったら ごはん 食べに行く?」

    「ううん…今日はやめとく…また今度誘って(^^;」

    (冷蔵庫にあるもので 適当に済ませて お風呂に入って さっさと寝よう)

    ミカの誘いを断って 真っ直ぐ帰宅した。

    ありあわせの材料で炒め物を作り 半端に残っていた大根でお味噌汁を作り

    ごはんだけは 炊きたてのナンチャッテ食卓を整え

    (あたし なにやってんだろ…
     明日は なんか 美味しいものでも食べに行こうかな…)

    お箸を持った瞬間 インターフォンが鳴った。

    (今頃 だれ?)と思いながら

    「はい…」

    不愛想な応答をした。

    「お忙しい時間に申し訳ありません。隣に引っ越してきた坂本と言います。」

    聞き覚えのある声が飛び込んで来た。

    (えっ?うそ?…)

    職場でも見せたことないほど動揺したが そのまま表に出すわけにもいかず

    「お待ちください。今 開けます。」

    取り繕って ドアを開けた。

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▲[ 22124 ] / ▼[ 22126 ]
■22125 / 1階層)  Re[1]: すこしづつ…A
□投稿者/ 桃子 一般♪(2回)-(2016/11/07(Mon) 14:02:18)
    立っていたのは この数日間のイライラの元だった。

    もちろん 本人は そんなこと何も知らない…

    「今日から 隣に入った 坂本と言います。よろしくお願い致します。」

    「佐々木です。こちらこそ よろしくお願いします…学生さん?」

    (知ってるけどね)は 心でつぶやいた。

    「はい。来週から大学生です。これ つまらないものですが お納めください」

    「ご丁寧にありがとうございます。」

    「では 失礼します。」

    坂本クンは そのまま 自分の部屋に戻った。

    (図書館に来なかったのは 引っ越しだったんだ…大学 ここから通うんだ…)

    これからは 会える回数が増えるかもしれないと思えることが嬉しかった。

    翌日 坂本クンは 何事もなかった顔をして 図書館に現れた。

    「今日は 来てるね」

    ミカだけでなく 職場の女性スタッフ全員が そわそわしていた。

    「お隣さんだよ」は 私だけの秘密にしておくことにした。
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▲[ 22125 ] / 返信無し
■22126 / 2階層)  Re[2]: すこしづつ…B
□投稿者/ 桃子 一般♪(3回)-(2016/11/07(Mon) 14:07:07)
    しかし 期待は見事に外れ 職場以外で坂本クンを見かけることはないまま 季節は GWに入った。

    普段は お弁当を持って出勤しているが この日は なんだか気分が乗らず

    前から気になっていた 駅前ビルの1階 表通りに面したテナントの『駅裏』という

    喫茶店でランチをすることにした。

    「前」なのに「裏」…こういうの嫌いじゃない。

    お店に入ったのは ランチのピークを過ぎた時間だった。

    「いらっしゃいませ」

    (えっ?)

    迎えてくれたのは 坂本クンだった。

    「お好きな席へどうぞ」

    窓際の席にした。

    店内は 静かにジャズが流れている。

    テーブルに灰皿が無いのは店内禁煙なのだろう…

    「お待たせ致しました。こちら メニューです。
    お決まりになったら声をかけてください。」

    「ありがとうございます。レディースランチは まだ 間に合いますか?」

    「はい。大丈夫です。」

    「では それをひとつ…コーヒーは食後でお願いします。」

    「かしこまりました。少々お待ちください。」

     持っていた文庫本を読みながら 時々 目で坂本クンを追いかけた。

    カウンターの中で コーヒーを淹れているのが マスターだろうか…。

    店内には 女子学生グループも見られたが 大声で騒ぐことはなく

    むしろ 静かに ノートを広げている。

    (高校生かな? それとも 中学生?…宿題かな?)

    ファミレスではなく 喫茶店で…というのが 最近の流行りなのだろうか…

    見ると 時々坂本クンも そのノートを覗き込んで なにやら アドバイスをしているようだった。


    そうこうしているうちに 図書館に戻る時間になった。

    (そろそろ 行かなくっちゃ)

    「ありがとうございます」
    坂本クンの声に送られながら 外に出た。

    美味しい食事とコーヒーと坂本クンの笑顔で 午後からの仕事への気合いが入った。

    (ここでバイトしてるんだ…)

    やっぱり 職場には内緒にしておこう(笑)

    坂本クン 私のコト気づいてなかったし…
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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22127 / 1階層)  すこしづつ…C
□投稿者/ 桃子 一般♪(4回)-(2016/11/07(Mon) 14:49:01)
    「駅裏」には 1週間に1度くらいの割合で通うようになった。

    マスターやお客さんとの会話から

    坂本クンが「ヒロ君」と呼ばれていることを知った。

    その坂本クンとは タイミングが合わず 連休以降見かけることが無かった。

    5月最後の日 図書館に現れた坂本クンに 思い切って声をかけた。

    書架の間をのんびり歩いている姿を見て

    「坂本さん 今日はバイトですか?」

    坂本クンは 一瞬 驚いた顔をしたが

    「はい 夕方からですが…」

    丁寧に答えてくれた。

    「では その時に…」


    仕事の帰り お店に行った。

    坂本クンはこの間とは違って やや不機嫌そうに

    「いらっしゃいませ」

    「坂本さん 怒ってます?」

    「いえ そんなことはないですけど…」

    「私…」

    「図書館の人ですよね?」

    「それはそうですけど…隣の佐々木です」

    「えっ? 隣の佐々木さんって…マンションのですか? マジっすか?」

    最後の一言は 普段 決して お店では聞くことのないはずの言葉だった。

    「もしかして…と思っていましたが ほんとに気付いてなかったんですね?」

    「いつから気付いていらしたんですか?…」

    「引っ越しのご挨拶に来てくれた時から…」

    「えっ? でも…メガネ…」

    坂本クンは しどろもどろになっている。

    「仕事の時はコンタクトで ウチへ帰ったらメガネにしてるんです」

    「そうでしたか… 本当に申し訳ありませんでした。」

    「お詫びに 今日は ヒロがごちそうしますよ」

    マスターが言ってくれた。

    「ありがとうございます(^.^) なら…ひとつリクエストしてもいいですか?

    「なんなりと…」

    私も ヒロ君って呼んでいいですか?」

    「もちろんですっ」


    この日以来 坂本クンとは 図書館で目が合うようになった。

    そんな日は お店に行くと必ず会えた。

    いつの間にか カウンターの一番奥の席が私の指定席になっていた。

    話すことは お互いが観た映画とか読んでいる本の話がほとんどだったが

    その時間が嬉しかった。

    季節は梅雨に入ったが 私の心は いつも青空だった。
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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22128 / 1階層)  すこしづつ…D
□投稿者/ 桃子 一般♪(5回)-(2016/11/07(Mon) 14:53:47)
    7月最初の土曜日

    図書館の学習室で パソコンとにらめっこをしている坂本クンを見つけた。

    思わず…

    『今日 ウチで 一緒にごはん食べよ!』の メモを渡してしまった。

    メモには ケータイ番号とメルアドも書いた。

    それくらいの時間は あった。

    もちろん 正面から渡すなんてことは出来ず

    後ろから そっと忍び足で…差し出した後は 逃げるようにして部屋を出た。

    坂本クンからは すぐに返事がきた。

    「坂本です よろしくお願いします」

    夜 坂本クンは 冷えた白ワインをもってやってきた。

    ドアのインターフォンが鳴った時

    「カギ 開いてるから そのまま入ってきて!」

    そんなこと 今まで 誰にも言ったことがない!

    メニューは 冷製パスタと冷製スープ とサラダ…

    凝ったものは 何もなかったが 坂本クンは「美味しい」を連発してくれた(笑)

    お互いの緊張は 坂本クンが持ってきてくれたワインがほぐしてくれた。

    「ヒロ君 こういうの飲むんだ…」

    「時々ですけど…」

    「でも 未成年だよね?」

    「年末で19になるんで 今は18です…
     お家でこっそり なんで 世間には内緒にしておいてください」

    「どうしようかなぁ(笑)ところで バイトはもう長いの?」

    「高1の時からなんで…4年目になります」

    「なんで 喫茶店でバイトしようと思ったの?」

    「…たまたま バイトの募集をしてて…駅裏は 禁煙だし お酒も出さないんで
      環境も そんなに悪くないんじゃないかなって感じで…現在に至るです(笑)
     それよりも…」

    「なに?」

    「図書館で ″ナンパ″ されたのは 初めてでした」

    (図書館以外ならあるの?)は 口に出せず…

    「だって…昨日も一昨日も バイトお休みだったでしょ?
     ヒロ君に会いたいなぁって思ってたら あんなところで見かけて…
     これは もう声かけるしかない″ って…つい勢いで誘っちゃった…
     レポート大丈夫だった?」

    「あれから頑張って ちゃんと仕上げてきたんで ご心配なく(笑)」

    それからも 他愛ない話で 日付が変わるまで 楽しい時間を過ごした。

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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22129 / 1階層)  すこしづつ…E
□投稿者/ 桃子 一般♪(6回)-(2016/11/07(Mon) 14:55:48)
    秋が始まる頃 出かける時は 腕を組むようになった。

    初めて コウちゃんの腕を取った時

    (拒絶されたらどうしよう)

    と 思わなかった と言ったらウソになる。が コウちゃんは いつも通りだった。

    身長178pのコウちゃんと165pの私が並んで歩くと

    人に注目されることもあったが

    コウちゃんは 気にしているようには見えなかったので 私は その優しさに甘えた。

    出かける時だけでなく コウちゃんのバイト先から 一緒に帰る時も

    私は コウちゃんと並んで歩いた。

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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22130 / 1階層)  すこしづつ…F
□投稿者/ 桃子 一般♪(7回)-(2016/11/07(Mon) 15:00:14)
    2016/11/09(Wed) 14:36:28 編集(投稿者)
    2016/11/09(Wed) 14:36:23 編集(投稿者)
    2016/11/07(Mon) 15:03:21 編集(投稿者)
    2016/11/07(Mon) 15:03:00 編集(投稿者)

    その冬 最初の木枯らしが吹いた日

    どこで仕事の段取りが狂ったのか 妙に忙しい1日になってしまった。

    「今日 ごはん 食べに行かない?」

    ミカの誘いに

    「行っちゃおうかな(笑)」

    (コウちゃん 今日はバイトで遅くなるって言ってたし…)

    食事のあと

    「コーヒーの美味しいお店があるんだけど…行く?」

    ミカの言葉に

    「うん」

    彼女が連れて行ってくれたお店は…『駅裏』だった。

    内心 ビックリしたが そんなコト言えるわけもなく…

    コウちゃんは バイト用の顔で 窓際の席に案内してくれた。

    それぞれのオーダーを持ってきてくれたコウちゃんが

    カウンターの奥に入ったのを確認したミカが 口を開いた。

    「ねぇ…ひとつ訊いていい?」

    「なに?」

    「恭子 坂本クンと付き合ってる?」

    ストレートな質問に面食らった。

    「なんでそう思うの?…って ミカ 坂本クンが ここでバイトしていること
     知ってたの?」

    「坂本クンが バイトしていることは この間 友だちと一緒に来て 偶然知ったの…
     恭子たちのことは…夏の終わりに 2人が仲良く買い物してる姿を見ちゃったんだ…
     声かけようかなって思ったんだけど…
     それよりも 『しばらく眺めていよう』って…(笑)
     なぁんか…ほのぼのしたいい雰囲気だったんだよねぇ…
     それに…今だって…坂本クンが居るのに
     落ち着いてるし…で…そうなのかなって…」

    「そうだったんだ…」

    「真相は?(笑)」

    真相なんて 何もない。

    「いいお友達(^-^) 坂本クン お隣さんなんだ…」

    「えっ? いつから?」

    「今年の春から…」

    「それで?」

    「少しずつ 話するようになって…時々 一緒に出掛けたりしてる」

    「それだけ?」

    「うん。それ以上もそれ以下もない…」

    「だって…」

    「うん。私はね…でも…まだ…何も言ってないもん…っていうか…
     言えないって…」

    「言えない?」

    「ミカだったら言える?」

    「う〜ん…どうかなぁ…」

    「でしょ?」

    「でも…当たって砕けろ!で 突き進んじゃうかも(笑)」

    「私には そんな勇気ない…」

    「怖い?」

    「うん…砕けたら 立ち直れない…」

    「案外 大丈夫かもよ! 1回 当たってみたら?」

    「そんな 他人事みたいに…」

    「だって 他人事だもん(笑)砕けたら あたしが 拾って くっつけてあげる!」


    帰宅してから ミカに言われた『当たって砕けろ』を考えた。

    本当にこのまま 自分の気持ちを隠したままでいいのだろうか…

    好きな人に「好き」を伝えなくては 始まるモノも始まらないし

    終わるモノも終わらない…

    砕けた後は ミカに面倒見てもらえばいいっか…(笑)

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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22131 / 1階層)  すこしづつ…G
□投稿者/ 桃子 一般♪(8回)-(2016/11/07(Mon) 15:07:04)
    思い切ってコウちゃんに電話をした。

    「はいはい。どうしました?」

    いつものコウちゃんの声が聞こえてきた。

    「コウちゃん 明日 時間ある?」

    バイトが休みなのは 知っている。

    「4時半まで授業ですが…そのあとなら…」

    「夜 食事に行かない?」

    「いいですねぇ…」

    「ちょっと待たせちゃうけど 6時に大学の正門で待ってて!」

    「わかりましたっ」

    話は 1分足らずで終わった。

    「じゃね」

    こういう時 あれこれ訊かないコウちゃんが 電話を切る前に 珍しく引き留めた。

    「明日…ちゃんとした服の方がいいっすか?」

    「大丈夫!カジュアルなお店だから(^.^)」

    「了解ですっ じゃ 明日 待ってます」
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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22132 / 1階層)  すこしづつ…H
□投稿者/ 桃子 一般♪(9回)-(2016/11/07(Mon) 15:10:04)
    翌日の昼休み

    お弁当を食べながら ミカに

    「何かあった?」

    と訊かれた。

    「ううん…なんで?」

    「朝から ずっと 表情が強張ってるよ…」

    知らず知らずの内に緊張していたのかもしれない…

    「ミカ 明日の夜 予定ある?」

    「今夜じゃなくて明日?…何もないけど…」

    「なら 空けといて! 夜…残念会やろう!」

    「何の?」

    「あたしの…」

    「どういうこと?」

    「今夜… 当たってくるから…砕けたら拾ってくれるんでしょ?(笑)」

    「あっ!…それで 珍しく車で出勤だったんだ… 決めたんだ…」

    「うん…」

    「しっかり当たっておいで(^.^) 上手くいったら ちゃんと紹介してね(笑)」

    「砕けたら…」ではなく「上手くいったら…」

    ミカらしいひとことが 嬉しかった。

    仕事が終わって 駐車場に向かう私に

    「ふぁいと〜」

    ミカが 背中を叩きながら 追い越していった。

    車のエンジンをかけて 深呼吸をして

    「いざ出陣!」

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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22136 / 1階層)  すこしづつ…I
□投稿者/ 桃子 一般♪(10回)-(2016/11/09(Wed) 01:51:24)
    コウちゃんは 正門にもたれながら待っていてくれた。

    何処に居てもその容姿が注目を浴びていることを

    本人は気づいてないんだろうなぁ…

    助手席のドアを開け

    「お仕事お疲れさまでした」

    と言いながら乗って来た。

    「遅くなってごめんね」

    「いえいえ…ちょっと前に来たばっかですから…」

    車を走らせながら

    「今日の授業は どうだった?」

    ぎこちなさが情けなかった。

    「まだ 基礎ばっかですから なんとも…」

    「そうだよねぇ…コウちゃんは 将来どうするの?」

    「一応 教員試験は受けようかと…」

    「教職 目指してるの?」

    「いや そういうわけじゃないんですけど…
     恭子さんは 最初から 今の仕事考えてたんですか?」

    「あたし?…あたし 大学入った時は なぁんも考えてなかったなぁ(^^♪
     地元に帰って フツーに就職かなって思ってた(笑) 2年が終わる頃までは
     フラフラしてた…」

    「地元に帰るつもりだったんですか?」

    「そうよ 親から 1人暮らしは 大学だけ って言われてたんだから(笑)
     3年延長しちゃったけど…」

    車で15分程走って

    「はいっ 着きましたっ!」

    「ここ?」

    「うん」
    「こんなカッコですけど 大丈夫でしょうか?」

    コウちゃんは 白のシャツと黒のジーンズ 黒のジャケットで まとめている。

    「大丈夫だよ! あたしだって イブニングじゃないもん(笑)」

    エントランスで名前を告げて 席に案内してもらった。

    「ここ なかなか予約が取れないことで有名ですよね…」

    「持ってるコネ 全部使った(笑)」

    「仕事中に?」

    「まさか! 昼休みっ!」

    「安心しましたっ 恭子さん 何やってんだろ って 思うとこでした(笑)」

    お店は クラッシックとカジュアルが融合されているフレンチレストランだ。

    硬すぎず砕けすぎず…の雰囲気が好きで ミカと 2回ほど来たことがある。

    「人生の節目の食事は此処で!」と決めていた。

    とは言うものの… デザートが運ばれてきても

    肝心なことは 何も話せないままだった。

    (このまま明日の残念会に突入するのだけはイヤだ!)

    気持ちだけが空回りしていた。
[ 親 22124 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 22124 ] / 返信無し
■22137 / 1階層)  すこしづつ…J
□投稿者/ 桃子 一般♪(11回)-(2016/11/09(Wed) 01:53:14)
    支払いを済ませて 外に出た時

    「コウちゃん まだ時間ある?」

    と 切り出した。

    「ありますよ(^.^)」

    「どっか 静かな場所 知らない?」

    「2人っきりになれる」 とは 言えなかった…

    「えっ?」

    かなり切羽詰まった顔をしていたのだろう…

    コウちゃんは

    「運転代わりましょうか?」 

    と続けた。

    「お願い…」

    車内には 重苦しい空気だけが流れていた。

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■22138 / 1階層)  すこしづつ…K
□投稿者/ 桃子 一般♪(12回)-(2016/11/09(Wed) 14:10:30)
    2016/11/09(Wed) 14:33:30 編集(投稿者)
    2016/11/09(Wed) 14:32:46 編集(投稿者)

    「ここが 最近のお気に入りの場所です」

    コウちゃんが 車を停めたのは 高台にある公園の駐車場だった。

    「降りますか? それとも このまま?」

    「降りようかな…」

    「ここから見る夜景 わりとキレイなんですよ」

    「ホントだ…こんな場所があるなんて 知らなかった…」

    2人とも 黙って 眼下の風景を見ていた…

    どれぐらいの時間が経ったのか…

    少しずつ体の中の緊張がほぐれていくのがわかった。

    (今だ!)体からゴーサインが出た。

    「コウちゃん」

    「はい」

    「私たちって どんな関係なのか 考えたことある?」

    コウちゃんの返事を待たずに 続けた。

    「私…コウちゃんが…好きです」

    コウちゃんの顔を見ることは出来なかった。


    「それは…」

    直球が返ってきた。

    「恋愛対象として という意味でですか?」

    「うん」
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■22139 / 1階層)  すこしづつ…L
□投稿者/ 桃子 一般♪(13回)-(2016/11/09(Wed) 14:14:20)
    あとの言葉はスラスラと出てきた。

    「初めてコウちゃんを見かけたのは 3年前…働き出してスグの頃…

     最初は 見てるだけでよかったの(笑)
     カッコいい人だなぁって…顔ちっちゃくて 背も高くて
     足長くて…性別は気にならなかった(笑)
     そのうち…いい人だなぁって…

     コウちゃん 本借りる時とか返却する時 必ず バーコードを
     職員に向けてくれるでしょ…それに…必ず 挨拶してくれるし…
     そういうちょっとしたことが嬉しくて
     次はどんな本を読むのかなって興味が沸いて…
     でも カウンターで訊くわけにもいかないし…

     年齢を知った時は 驚いた(笑) 6歳も違うと 接点なんて 何処にもないでしょ…
     だから…今の仕事は大好きだけど…
     坂本クンが ココを離れたら 自分も地元に帰ろうって…
     それで 気持ちに踏ん切りをつけようって決めてたの…

     今年の春 お引越しの挨拶に来てくれた時は 飛び上がるくらい嬉しかった。
     でも コウちゃんは 全然気がついてなくて…
     『駅裏』でバイトしているのを知って…ちょっと勢いに乗って…
     一緒の空間に居られるだけでいいって思いながら…
     一緒に居ればいるほど「好き」は どんどん大きくなって…
     このままだと 私 窒息するって…
     で 『当たって砕けろ!』で 今 ここに居る…」

    一気に喋った。
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■22140 / 1階層)  すこしづつ…M
□投稿者/ 桃子 一般♪(14回)-(2016/11/09(Wed) 14:16:14)
    しばらくして コウちゃんが 大きく息を吐く気配がした。

    「返事 今 した方がいいですか?」

    少し 声が震えているように思ったのは 気のせいだろうか…

    「出来れば…」

    そういう私の声も 上ずっている。

    「恭子さんに惹かれていることは気付かれちゃいけないと思ってました」

    「えっ?」

    思わず コウちゃんを見た。
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■22141 / 1階層)  すこしづつ…N
□投稿者/ 桃子 一般♪(15回)-(2016/11/09(Wed) 14:18:21)
    コウちゃんの目は 真っ直ぐに私を見ていた。

    ずっと そうしていてくれたのだろうか…

    「時々遊んでもらえるだけでいいって!
     それ以上のことは望まないって決めてました」

    「いつから?」

    「『一緒にご飯食べよ』の時には もう…」

    「そんなこと 一度も言わなかったじゃない!」

    「言えるわけないじゃないですか…」

    「なんで?」

    「なんでって…不快な思いさせちゃうって…」

    「そんなこと…」

    「すみません…」

    「ねぇ…ほんとは?」

    「えっ?」

    「ほんとに 時々遊ぶだけでいいの?(笑)」

    「ほんとは…ずっと一緒にいられたらいいなって…」

    「ずっと って どれくらい?」

    「ずっとは ずっとです! 恭子さんが飽きるまで…」

     コウちゃんは なんのためらいもなく言い切った。

    「ずっと コウちゃんの隣に居てもいいの?
     私の方が 先におばあちゃんになっちゃうんだよ」

    「恭子さんに居てほしいんです(^-^)」
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■22142 / 1階層)  すこしづつ…O
□投稿者/ 桃子 一般♪(16回)-(2016/11/09(Wed) 14:20:06)
    思わず コウちゃんの胸に飛び込んだ。

    コウちゃんは しっかりと受け止めてくれながら

    「あ〜緊張した〜〜」

    「うそ…そんな風には 全然見えなかったけど?(笑)」

    「夕べ電話もらった時から ド緊張でした…
     いつもなら「ごはん食べにいこ?」が
     「時間ある?」「食事に行かない?」だったでしょ…
     もしかしたら 最後なのかも…って 思ってたら…
     着いた所は 雰囲気のあるレストランで…
     いよいよ 本気で『ラスト』なんだって覚悟したら
     とどめが「静かな場所」でしょ…

     そこで最後通告突きつけられるんだって…足 ガクガクしてました…
     おまけに…いつもなら 恭子さん 歩くとき 腕組むのに…それも無いし…
     ああ 本当に今日で終わりなんだなぁって…」

    「ごめん…」

    「こちらこそ “好きです” すっ飛ばしたみたいになって…」

    「ううん…すっごく嬉しい…」
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■22143 / 1階層)  すこしづつ…P
□投稿者/ 桃子 一般♪(17回)-(2016/11/09(Wed) 14:22:59)
    コウちゃんの胸にくっつけていた顔を離した。

    抱きしめていてくれたコウちゃんの腕が 少し緩んだ。

    私が 顔を上げるのが先だったのか コウちゃんが 目線を下げたのが先だったのか…

    お互いの視線が 近づいて…ゆっくりと 唇が重なった。

    背中に回っているコウちゃんの腕に 少しだけ 力が入ったのがわかった。

    静かな 優しいキスだった。

    いつまでもそうしているわけにも行かず…

    「そろそろ帰ろうか…」

    「ですね…」

    「帰りも運転いい?」

    「はい」

    車内の空気は 確実に変わっていた。

    「ねぇ…もし…今日が最後なんだ って話だったら コウちゃん どうしたの?」

    「結婚する ってお話だったら おめでとうございます…
     お引越しだったら お元気で って挨拶して
     今までのお礼を言って…で 歩いて帰ります って言ってました(笑)」

    「えっ?」

    「実は…ぶっちゃけて言うと…ココ 車だと遠回りしなくちゃなんないですけど
     歩くと マンションから めっちゃ近いんです(笑) 」

    「そうなの?…」

    「はい…最悪のコト考えて ちょっと ズルしちゃいました(笑)
     ちゃんと笑顔で挨拶して…スマホのアドレス帳から 恭子さんを消して…
     夜景見ながら そんなこと考えてました…」

    「バカ…」

    「真剣だったんですけどねぇ…」
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■22145 / 1階層)  すこしづつ…Q
□投稿者/ 桃子 一般♪(19回)-(2016/11/09(Wed) 14:39:00)
    マンションに着いた。

    部屋の前で別れる時

    思わず

    「後で行ってもいい?」

    コウちゃんは 笑顔で

    「カギは開いてるんで いつでもどうぞ…」

    と 言い残して ドアの向こうに消えた。
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■22146 / 1階層)  すこしづつ…R
□投稿者/ 桃子 一般♪(20回)-(2016/11/09(Wed) 14:42:14)
    2016/11/09(Wed) 14:44:41 編集(投稿者)
    2016/11/09(Wed) 14:43:25 編集(投稿者)
    2016/11/09(Wed) 14:43:10 編集(投稿者)

    リビングに入った瞬間 スマホが鳴った。

    発信者は ミカだった。

    「今 いい?」

    「うん。ちょうど 今 帰って来たとこ…」

    「どうだった? ちゃんと当たった?」

    「うん…心配かけてごめん。気にしてくれてたんだ…」

    「けしかけちゃったのは 私だから…それで…?」

    「うん…砕けないで帰って来た」

    「それって…?」

    「うん…坂本クンも 同じ気持ちだって言ってくれた…」


    「やっぱりね(^^♪ 2人 いい雰囲気だったもん(^-^) 」

    「ミカ ありがとね…ミカが背中押してくれなかったら あたし ずっと 何も言えなままだった…」

    「恩人に感謝しなさい(笑) なぁんてね…じゃ 明日の残念会は キャンセルってことでいい?」

    「うん…でも! もし 時間あるんだったら ご飯 一緒に食べない?」

    「2人で?」

    「うん」

    「断 ってもいい?」

    「えっ?」

    「だって あたし 坂本クンに 恭子との間を邪魔する女 って思われるのイヤだもん(笑)」

    「コウちゃんは そんなこと思う人じゃないよ!」

    「コウちゃん って呼んでるんだ…」

    「あっ…うん…2人で居る時は…」

    「その コウちゃんに ちゃんと訊いてきてよ(^-^)
    お互いの気持ちが通じたばかりで いきなり職場の友達とご飯食べに行ってもいいかどうか…返事は 明日の朝でいいからさっ じゃあね」

    ミカは 私の返事を聞かないまま一方的に電話を切った。

    彼女の気遣いが嬉しかった。
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■22147 / 1階層)  すこしづつ…S
□投稿者/ 桃子 一般♪(21回)-(2016/11/09(Wed) 14:51:36)
    お風呂に入ったあと…コウちゃんの部屋に行った。

    ドアのカギは開いていた。廊下のライトも点いたまま…リビングも明るいままだった。

    (あれ?コウちゃんは?)

    テーブルの上に メモがあった。

    『入浴中につき そのままお待ちください』

    (そのままって…立ってなきゃダメ ってことはないよね…)

    椅子に座ろうとしたところに コウちゃんが入って来た。

    「おかえりなさい」

    つられて

    「ただいま」

    「お茶でもいれましょうか?(笑) 」

    「ありがと(笑)」


    コウちゃんが淹れてくれたハーブティーを飲みながら

    「明日 ミカと 食事に行ってくるね」

    コウちゃんは いたって普通に

    「グルメのミカさんによろしく(笑)」

    ちょっと拍子抜けしてしまった私は

    「何故?とか どうして? とか訊かないの?」

    コウちゃんは 笑いながら

    「アレコレ訊いた方がいいですか?何処に何を食べに行くの とか どうしても行くの とか…」

    「それは…ちょっとイヤかも(笑)
     でも…さっき…ミカに 坂本クンに 恭子との間を邪魔する女 って思われるのは嫌だからちゃんと許可もらってくるように って言われたの…」

    「それで 報告してくれた?」

    「うん…」

    「大切な人の 大切なお友達 をアレコレ詮索するようなことはしません って お伝えください(^-^)」

    「それだけ?」

    「他に 何か言った方がいい? 恭子さんは あげません とか?(笑)」

    「バカ…」

    「あっ ひとつだけいいですか?」

    「何?」

    「いつか お目にかかりたいってコトも…」

    「わかった…でも… コウちゃん 会ってるよ!」

    「えっ 何処で?」

    「何処でって 図書館に決まってるでしょう! それに 昨日 あたし達『駅裏』に行ったよ(笑) もしかして…?」

    「うん…恭子さんの時と同じパターンかも…」

    「覚えてないんだ(笑)」

    「違いますっ
     覚えてないんじゃなくて 図書館の人と 昨日の人が 結びつかなかっただけです(^^;」

    「それも言っとく(笑) 坂本クンは ミカのこと 覚えてなかったよ って(^-^)」

    「自分 最低なヤツみたいじゃないですか(>_<) 」

    「大丈夫だよ ミカは そんなコト気にしないから…」

    「だといいですけど…(笑) お茶 新しいの淹れますね」

    「あっ ありがと」
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■22148 / 1階層)  すこしづつ…21
□投稿者/ 桃子 一般♪(22回)-(2016/11/09(Wed) 14:55:34)
    2016/11/09(Wed) 14:57:45 編集(投稿者)
    2016/11/09(Wed) 14:57:06 編集(投稿者)
    2016/11/09(Wed) 14:56:21 編集(投稿者)

    席を立ったコウちゃんの背中に

    「ねぇ コウちゃん… 今夜 帰りたくない って言ったら困る?」

    コウちゃんは 振り向きながら

    「別に困りはしないですけど…」

    続けて

    「ウチ お客さん用のお布団しか用意してないんで 恭子さんは 自分と一緒のベッドになりますがそれでもいいですか?」

    「えっ?」

    「だって 恭子さんは お客さん じゃないでしょ(笑)」

    「バカ…」


    会話が途切れ 心地いい沈黙が流れた。

    それを破ったのは

    「ボチボチ休みますか?」

    コウちゃんの気負いのないひとことだった。

    「うん」

    先に立ったコウちゃんに 声をかけた。

    「コウちゃん!ありがと…やっぱ 今夜は帰る…」

    コウちゃんは 驚くことなく

    「そうっすか…」

    「怒った?」

    「いや全然 (^-^) 」

    「…明日も会える?」

    「ドアのカギはいつでも開いてます (^-^)」

    「うん…」

    玄関まで見送ってくれたコウちゃんに

    「おやすみ」

    「おやすみなさい」

    ドアノブに手をかけた時

    「ちょっと待ってください」

    「ん?」

    コウちゃんは 何も言わずに 私を抱きしめて 耳元で囁いた。

    「おやすみ のハグ っす」

    「ハグだけ?」

    少し からかいながら言うと…

    コウちゃんは 私を離し そのまま…額に…

    目が笑っていた。

    「あたし 小学生の子どもじゃないんだけどなぁ…」

    「すみません。当方 コレが精一杯のお子ちゃまなんで…」

    「バカ…お子ちゃまに あんな優しいキスはできないよ」

    軽く小突いてから部屋に戻った。


    「ドアのカギはいつでも開いてます」

    コウちゃんのこの言葉にウソは無く 本当に 開いている。

    いつの間にか 私は 連絡も入れずに

    「ただいま」と言いながら リビングに 入っていくようになった。

    返ってくるのは 必ず

    「おかえりなさい」

    一緒に帰る日も 一旦 自分の部屋に戻ってから 必ず コウちゃんの部屋で お茶を飲むようになった。

    帰る時は 「ハグ」と「おやすみのデコキス」…

    コウちゃんの目は 笑っている…

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■22149 / 1階層)  すこしづつ…22
□投稿者/ 桃子 一般♪(23回)-(2016/11/09(Wed) 15:01:12)
    1ヶ月が過ぎた。

    街に クリスマスソングが流れ始めた。

    「コウちゃん クリスマスの予定は?」

    「バイトです(笑)」

    「あのさぁ…もうちょっと他に言い方があるんじゃない?
     2人で迎える初めてのクリスマスなのに…バイト って…」

    「そういう恭子さんは どうなんですか?」

    「あたし?…もちろん…仕事( *´艸`)」

    「初めてのクリスマス なのに?(笑)」

    「オトナは クリスマスってだけでは休めないの!(笑) 」

    「でも…その日は 6時で終わるんで それで勘弁してもらえませんかねぇ…(笑)」

    「もう!そういうことは 早く言ってよね!」

    「仕事の後 何か予定あります?(笑)」

    「あるよ! めちゃくちゃ大事な予定が…」

    「なに?」

    「一緒に過ごす…よね?」

    「もちろん!」

    「ウチでいい?」

    「はい(^^♪」

    「どんなお誘いも断って帰ってきてね」

    「恭子さんこそ…大丈夫ですか?」

    「ぜ〜んぶ蹴散らしてくる!」

     本当に蹴散らさなくてはならないのは コウちゃんの方だろう…
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■22150 / 1階層)  すこしづつ…23
□投稿者/ 桃子 一般♪(24回)-(2016/11/09(Wed) 15:05:46)
    ディナーの準備は 前日から取り掛かった。

    メインの『チキンの丸焼き』は 2人で下ごしらえをして…

    当日

    「駅裏でも お客様に出すんで 一緒にオーブンに入れときます(^^♪」

    パンは 出勤前に ホームベーカリーのタイマーで 焼き上がりの時間をセットした。

    サラダとスープを作り コウちゃんが選んだワインを飲んだ。

    2人で片づけを終え コウちゃんが コーヒーを淹れてくれた。


    「電気 消して キャンドル点けよっか?」

    「いいですねぇ…(^^♪」

    ソファを背もたれにして リビングのフローリングに 並んで座った。

    コウちゃんの肩に頭を乗せて 黙って キャンドルを見ていた。

    コウちゃんとの沈黙は 何故か心地いい…


    「そうだ! クリスマスプレゼント…」

    「交換ですね(^^♪」

    「うん ちょっと待ってて」

    私は 隣の部屋に置いてあるプレゼントを取りに行った。

    (あれ…コウちゃん…手ぶらじゃなかった?)

    戻ると コウちゃんは 先刻と変わらない場所に座っていた。

    「コレ…気に入ってもらえるといいんだけど…」

    「開けてもいいっすか?」

    「うん」

    「うわ〜っ(^-^) これで 明日から 寒くないっす(*^-^*)」

    普段 自転車通学のコウちゃんに似合いそうな手袋とマフラーのセットは 喜んでもらえた(^^♪

    「自分は…コレを…」

    コウちゃんは 手袋を箱にしまうと ジーンズの後ろポケットから 小さな箱を出した。

    ラッピングを外しながら

    (ピアスかな?)…

    出てきたのは…シルバーのリングだった…

    「これ…」

    「ちっちゃいですけど 誕生石も入れてみました(^^;」

    「はめてもいい?」

    「もちろん!」

    「あっ でも…」

    「ん?」

    「コウちゃん はめて!」

    「あっ はい…」

    コウちゃんは 私の右手を取ると薬指に 静かにはめてくれた。

    シルバーのリングだと思ったら プラチナだった。

    「今度は 2人で選びに行きましょう」

    「うん…まさか…リングだったなんて…(*^-^*) 」

    「先走り過ぎました?(^-^; 」

    「ううん…そうじゃなくて…ホントは 欲しかったもん♪ 言えなかったけど…
     それに…右手…」

    「左は もうちょっと 待っててください」

    コウちゃんは ごく自然に言った。

    「うん…でも なるべく早くね(笑)」

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■22151 / 1階層)  すこしづつ…24
□投稿者/ 桃子 一般♪(25回)-(2016/11/09(Wed) 15:09:01)
    年末は 実家に帰ることになっていた。

    仕事納めの日 いつものように コウちゃんの部屋でお茶を飲みながら…

    「帰るの…年が明けてからにしようかなぁ…」

    「ご両親 待ってるんじゃないですか?」

    「それはそうだけど… コウちゃんのお誕生日 一緒に居られないじゃない!」

    「すみません…大晦日生まれで(笑)」

    「コウちゃんは お正月どうするの?」

    「さすがに ウチも お正月は 帰ってこい ってうるさいんで
    恭子さんと同じ 明日帰ります(笑) 」

    「そうなんだ…じゃ 今度会う時は…」

    「19歳です(笑) 来年もよろしくです…」

    「こちらこそ…」

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■22152 / 1階層)  すこしづつ…25
□投稿者/ 桃子 一般♪(26回)-(2016/11/09(Wed) 15:12:02)
    新年2日の夜 コウちゃんに電話した。

    「コウちゃん…」

    「どうしました? 何があったんですか?」

    普段通りのつもりだったのに…声だけでわかるのだろうか…

    「ごめん…」

    声を聴いている内に 涙が出てきた。

    「話せますか?」

    「うん…父が …リング見て…誰からもらったんだ って しつこく訊くから
     付き合ってる大学1年の子にもらった って言っちゃった…」

    「お父さん びっくりしたでしょうねぇ…」

    コウちゃんの声は いつも以上にのんびりしていた。
     
    「うん。女の子だって言ったら ふざけるなって怒鳴って…そのあとは とにかく  会わせろって…しつこくて…年明け早々 グチっちゃってごめん…」

    「いやいや…大変な年明けにしちゃって…ごめんなさい」

    続くコウちゃんの言葉は 意外なものだった。


    「3が日の間は 遠慮した方がいいのかもしれないけど…
     そんなこと言ってる場合じゃないっすね…明日 佐々木家のご都合は?」

    「明日は 何の予定もないけど…」

    「だったら 明日の午後1時半に お邪魔します」

    「大丈夫?」

    「大丈夫っすよ(^.^) いきなり 取って食われることはないでしょ(笑)
     それに…恭子さん ひとりで泣かせるわけにはいかないじゃないですか!」

    「そんなこと…」

    「ない ってことないですよね(笑)」

    「なんでわかった?」
    「う〜ん…なんとなく…(^-^) とにかく 明日 お父さん 捕まえといてください(笑)」

    「うん…ごめんね…ありがとう…」
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■22153 / 1階層)  すこしづつ…26
□投稿者/ 桃子 一般♪(27回)-(2016/11/09(Wed) 15:16:21)
    翌日 コウちゃんは 時間通りに来てくれた。

    和室に案内し 2人で 両親を待った。

    しばらくして両親が部屋に入って来た。

    コウちゃんは 座布団を外して 挨拶してくれた。

    「恭子さんとお付き合いをさせて頂いている 坂本 宏海 と言います」

    「恭子の親です」

    父の方が 緊張しているように見えた。

    「恭子は 席を外しなさい」

    「えっ…」

    コウちゃんは 私を見ることなく 落ち着いた表情で 父を見ていた。

    その横顔が

    「大丈夫」と 言っていたので 私は リビングに戻った。

    しかし 何も手につかず 廊下を ウロウロするだけだった。


    1時間後

    コウちゃんが部屋から出てきた。

    「どうだった?」

    「うん…伝えたいことは 聞いて頂けたと思う…」

    「コウちゃん お茶…」

    「ありがとう…でも 今日は これで失礼します…」

    「そんな…」

    「大丈夫だから…」

    両親は 見送りに出てこなかった。

    「駅まで 一緒に…」

    「今は おうちに居てください…」

    「なんか 色々 ごめん…」

    「大丈夫 (^-^) いつかは通らなくっちゃいけなかったんだから…
     こっちこそ 新年早々 押しかけてかけてしまって…ご両親によろしくお伝えください」

    コウちゃんは 何事もなかったかのように 穏やかに 帰って行った。

    リビングに戻ると 母が アレコレ荷物を作っていた。

    「お母さん 何してるの?」

    「あんた いつまで ボーッとしてるの? コレ持って サッサと帰りなさいっ!」

    「えっ?」

    「坂本クン ひとりで帰らせて平気なの?」

    「だって…大丈夫だから 家に居ろって…坂本クンが…」

    「大丈夫なわけないじゃない…
     ひとりで 受けて立ったのよ…それが どんなことか…
     今から 車で走れば 坂本クンより早く着くでしょ…さっ…早く…」

    「わかった…」

    10分後…

    「じゃ 帰るね…おせち ありがとう…」

    珍しく 父が玄関まで見送りに来た。

    (コウちゃんの時は 出てこなかったクセに…)は 顔に出さず

    「帰ります」とだけ 挨拶した。

    父は

    「これからは 坂本クンと2人で遊びに来なさい」

    とだけ言って 奥に引っ込んだ。

    母は 何も言わず笑顔だった。
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■22154 / 1階層)  すこしづつ…27
□投稿者/ 桃子 一般♪(28回)-(2016/11/09(Wed) 15:18:43)
    2016/11/09(Wed) 15:19:08 編集(投稿者)

    部屋の前で コウちゃんを待った。

    しばらくすると エレベーターから コウちゃんが降りてきた。

    コウちゃんは 俯いていて 私に気がついていない。

    「コウちゃん!」

    足を止めたコウちゃんは ビックリした顔で

    「どうしたんですか?」

    「帰ってきちゃった…」

    「えっ…」

    「寒かったでしょ…中に入って…」

    「うん…」
     
    ドアを閉めて…部屋に上がろうとしたら…コウちゃんに 後ろから 抱きしめられた。

    「コウちゃん?」

    「ごめん…ちょっとだけ…このまま…」

    「うん…」

    「よしっ エネルギー補給 完了(^-^)」

    コウちゃんが 離れた。

    「どうしたの?」

    「いや…ちょっと 充電(^^;」

    「それだけ?」

    「うん(笑)」
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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22155 / 1階層)  すこしづつ…28
□投稿者/ 桃子 一般♪(29回)-(2016/11/09(Wed) 15:22:48)
    おせちをつまみながら 日本酒を飲んだ。珍しく コウちゃんが 酔った。

    口数が少なくなった分 笑顔になって そのまま 静かに寝てしまった…

    あどけない寝顔を見ていたら 母から電話が入った。

    「坂本クンに会えた?」

    「うん。今 一緒にいる…」

    「今日のこと なんか言ってた?」

    「会わせてもらえてよかったって…」

    「それだけ?」

    「うん…お父さんが「これからは 2人で遊びに来るように」って言ってくれたことを伝えたら
     すごく ホッとしてたけど…あとは 何も…」

    「そう… 今日 お父さん 坂本クンに 何も言えなくなっちゃったの…」

    「えっ?」


    「2人の付き合いを認めたら 孫の顔を見ることができない って 言ったら…
     坂本クン 何て答えたと思う?」

    「そんな…」

    「子どもは 父親と母親の下に生まれてくるべきであって 不自然な形は考えていないって…
     恭子が 子どもを望むなら 別れは恭子が決めることだって 言ったの…
     2人で話し合うんじゃなくて 決定権は 恭子が持っている って 言い切ったの…
     カッコよかったわよ(*^-^*) 私も もうちょっと若かったら…(笑)」

    「やめてよね(>_<)」

    「冗談よ(笑) それとね…坂本クン…」

    「なに?」

    「お父さんに 一度も お父さん って言わなかったの…」

    一瞬 母の言っている意味がわからなかった。

    「ほら ドラマなんかで よくあるでしょ 『おまえに お父さんと呼ばれる筋合いはない』ってやつ…
     お父さん 自分が おじいちゃんに やられたから 坂本クンに リベンジするつもりだったのに
     坂本クン 最後まで『佐々木さん』だったの…完全に お父さんの負け…(*^-^*) それからね…」

    「まだ 何かあるの?」

    「お父さん 坂本クンが帰る時 見送りに出なかったでしょ?」

    コウちゃんは 何も言わなかったけど 私は 気になっていた。

    「それ すっごく気になってた…どうしてなの?」

    「お父さん 立てなかったの」

    「えっ?」

    「慣れない正座で カッコつけちゃったから…」

    「なに それ? 足 しびれたってこと?」

    「そう(笑) 坂本クン それに気付いてね…
    『恭子には黙っていてください』って言って帰ったの…
    『黙っておきます』じゃなく『黙っていてください』 この違いわかるわよね?
     お父さん…坂本クンの前で ボロボロだったんだけど 最後のひとことに グッときたみたいで
    『恭子のこと 本当に大切に思ってくれてるんだな』って…
     親にとって それ以上のことってないからね…いい人に出会えてよかったね」

    (だから コウちゃん 顔を合わせないように お茶も飲まずに帰ったんだ…)

    「うん。ありがとう…」

    「じゃあね…これからは 1人で家に帰ってきても入れてあげないからね(笑)」


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▲[ 22124 ] / ▼[ 22177 ] ▼[ 22185 ]
■22156 / 1階層)  すこしづつ…29
□投稿者/ 桃子 一般♪(30回)-(2016/11/09(Wed) 15:26:14)
    2016/11/09(Wed) 15:27:08 編集(投稿者)

    母の電話を切ったあと 改めて コウちゃんの寝顔を見つめた。

    (19歳になったばかりだと言うのに…キミのその落ち着きは 何処からくるのかなぁ…)

    (でも…) 玄関での後ろハグ を思い出した。

    (キミだって…酔って眠ってしまうほど緊張してたって思っていいのかな?…充電』って言ってたよね?)


    片付けが終わっても コウちゃんは 起きる気配が無い。

    どんな夢を見ているのか…表情は 楽しそうだ…起こすのも なんだか…だったので そのまま寝かせることにした。

    マットレスを敷いて コウちゃんを転がした(笑) 枕に頭を乗せて 掛け布団をかけた。

    そして…私も そのままもぐりこんだ。コウちゃんの右腕を枕にした。
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▲[ 22156 ] / ▼[ 22180 ]
■22177 / 2階層)  感想です
□投稿者/ 飛鳥 一般♪(1回)-(2017/01/22(Sun) 17:50:44)
    とても面白く
    すごく感動しています。
    続き楽しみにしています♪
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▲[ 22177 ] / ▼[ 22183 ]
■22180 / 3階層)  飛鳥さんへ
□投稿者/ 桃子 一般♪(31回)-(2017/02/02(Thu) 14:24:07)
    感想 ありがとうございます。

    今後もよろしくお願いしますm(__)m

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▲[ 22180 ] / ▼[ 22184 ]
■22183 / 4階層)  NO TITLE
□投稿者/ miya 一般♪(1回)-(2017/02/12(Sun) 19:54:02)
    物語に引き込まれ、あと言う間に読んでしまいました。
    続きを楽しみにしています^^
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▲[ 22183 ] / 返信無し
■22184 / 5階層)  miyaさんへ
□投稿者/ 桃子 一般♪(32回)-(2017/02/19(Sun) 00:55:53)
    コメント ありがとうございます。

    これからも よろしくお願いします(^^♪
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▲[ 22156 ] / 返信無し
■22185 / 2階層)  すこしづつ…30
□投稿者/ 桃子 一般♪(33回)-(2017/02/19(Sun) 01:00:43)
    夜更けに目が覚めた。外はまだ暗い。

    コウちゃんの胸に耳を当てると 規則正しいリズムが響いてきた。

    心臓の音だろうか…呼吸のリズムだろうか…

    「何か聞こえますか?」

    コウちゃんの声がした。

    「ごめん 起こしちゃった?」

    「いえ…」
    「ここ 何処だかわかる?(笑)」

    「すみません 後片付けもしないで…」

    「気にしないで(笑) こうやって 寝込み襲わせてもらったから…」

    「えっ?」

    「ジョーダンよ (まだ)何もしてない…ちょっと 右腕を借りただけ…」

    そう言って もう一度 コウちゃんの腕に 頭を乗せた。

    「重かった?」

    「いえ… なんか 気持ちよく熟睡してました(^^;」

    体の向きを変えたら 視線が重なった。

    コウちゃんの体を ゆっくりと仰向けにした。

    それにつられて 私の体が コウちゃんの上に乗った。

    お互いの視線はそのままだ。

    ゆっくりと コウちゃんの方へ体を倒した。

    唇が重なった瞬間 目を閉じたのは 2人同時だった。

    あの夜の公園での優しいキスとは違う 何かが2人の間に流れた。

    (まだ流されちゃいけない…)


    「コウちゃん…部屋に帰った方がいいよ」

    コウちゃんより先に言った。

    「そうします」

    多分 コウちゃんも同じことを考えていたと思う。

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■22186 / 1階層)  すこしづつ…31
□投稿者/ 桃子 一般♪(34回)-(2017/02/19(Sun) 01:06:55)
    シャワーを浴びたら 目が冴えてしまった。

    (コウちゃん もう寝たかな?)

    さすがに 本気で寝込みを襲うことは出来ない(笑)

    ぼんやりと窓の外を眺めながら 夜が明けるのを見ていたら

    コウちゃんから Line が届いた。

       起きてたら コーヒー 飲みに来ませんか?

    (うそっ…なんで…)

    すぐ 部屋を出た。

    リビングに入ると シャワーの後の 少しさっぱりした顔のコウちゃんが

    笑顔で マグカップを手渡してくれた。

    「来ちゃった…」

    「呼び出しちゃった…寝てた?」

    「ううん 起きてた。なんか眠れなくなっちゃって…」

    「そっか…」

    「うん…Line ありがとう…ちょうど コウちゃんのこと思ってた時だったから
    ビックリした(^-^)
     なんでわかったのかなって…」

    「それはね…自分も 恭子さんに『会いたい』って思ったからです(笑)
     ずっと一緒に居て 会いたいもヘンですけど…(^^;」 

    「そっか…」

     コウちゃんの言葉を真似した。全てが府に落ちたような気がした。

    「コウちゃん!」

    「ん?」

    「あたし 今なら もう1回 眠れそうな気がする…」

    「うん…ベッド行く?」

    「帰れって言わないの?」

    「言った方がいいっすか?(笑)」

    「ヤダ!」


    2人でベッドに入った。

    「改めまして おやすみなさい(笑)」

    コウちゃんは 黙って右腕を出してくれた。

    私も黙って 頭を乗せた。

    先刻 眠れないと思ったのは この右腕が無かったからだ…と気がついた。

    そのまま 朝まで ぐっすり眠った…

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■22187 / 1階層)  すこしづつ…32
□投稿者/ 桃子 一般♪(35回)-(2017/02/19(Sun) 01:09:33)
    「おはようございます(^-^)」

    コウちゃんの声で 目が覚めた。

    「おはよう」

    「食事の支度が整いました(笑)」

    「えっ…」

    「軽くですけどね(笑)」

     テーブルには クロワッサンとサラダが 用意されていた。

    「何時に起きたの?」

    「20分くらい前かな…」

    コウちゃんが カフェオレを淹れながら言った。

    「全然 気がつかなかった…」

    「よく眠れましたか?」

    「うん…コウちゃんは?」

    「爆睡でした(^^;」


    「コウちゃん 今日 付き合ってほしいところがあるんだけど…」

    食事をしながら 切り出した。

    「何処へでもお供します(*^-^*)」

    「じゃ 1時間後に駐車場で!」

    「了解しました」
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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22188 / 1階層)  すこしづつ…33
□投稿者/ 桃子 一般♪(36回)-(2017/02/19(Sun) 01:13:13)
    新年最初のお出かけは 不動産屋さん巡りだった。

    今の部屋は 父と折半で家賃を払っているが

    定年まで 日本に帰ることはないと決まったので

    次の更新はしないことにしたのだ。

    コウちゃんと離れるのは 本望ではないけれど…

    ひとりで 家賃を賄えるほどの高給取りではない…

    そこは 冷静に考えなければならなかった。

    3月末の期限までに 新しい部屋を見つけなければならない。

    これからしばらくは 部屋探しが続くことになる…

    コウちゃんは 黙って聞いていた。


    午後から 2件の物件を回ったが…どれも 少しずつ 納得が出来ず…

    何も決められなかった。

    「付き合ってくれてありがとう…」

    「いえいえ…」
    「焦らないで探すね…」

    「それがいいと思います(笑)
    ところで ひとつ お薦め があるんですけど 行ってみます?」

    「今から?」

    「はい(^-^)」

    初めての道を コウちゃんのナビで走って 着いた所は…今のマンションだった。

    駐車場に車を止めて コウちゃんを見た。

    「トイレ・バス・キッチン・リビングは共同で
     恭子さんが自由に使える部屋は2部屋しかないけど…  
     ここで待ってるんで 見終わったら電話ください(^-^)
     部屋は 815 カギはこれです(^-^)」

    815は コウちゃんの部屋だ。

    「何も見なくていい! ここに決める!」

    「一件落着ですね(^^♪」
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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22189 / 1階層)   すこしづつ…34
□投稿者/ 桃子 一般♪(37回)-(2017/02/19(Sun) 01:15:23)
    夕食は 実家から貰ってきた ハムをステーキ風に焼いた。

    「ねぇ ホントにいいの?」

    「ん?」

    「部屋…」
    「もちろん(^-^) ひとつは寝室 もう1部屋をプライベートで使ってください…」

    「コウちゃん…」

    「はい?」
    「寝室は 一緒がいい(^-^)」

    「あっ…うん…はい…」

    コウちゃんの 照れた顔が 可愛かった(^^♪

    「お父さんの休暇が終わる前に ちゃんとご挨拶した方がいいですかねぇ…」

    「『娘さんをください』みたいな?(笑)」

    「いきなり ソレっすか?…先ずは ルームシェアの許可じゃないですか?(笑)」

    「え〜言ってくれないの?(笑) 」

    「それは 何れまた…ってことで…」

    「なんだ つまんない…」


    実家に電話をしたら…

    「ヒロ君に迷惑をかけないように」で終わってしまった…

    この様子だと 『娘さんを…』の出番は無いかもしれない…(笑)

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■22193 / 1階層)  すこしづつ…35
□投稿者/ 桃子 一般♪(38回)-(2017/03/01(Wed) 14:15:23)
    コウちゃんのスマホが鳴った。

    「うん…」

    「わかってる…」

    「そんな 勝手に決められても…」

    「あ〜ハイハイ…じゃ あとで 連絡します…」

    (ひょっとして お母さん?)

    「実家からでした…」

    「お母さん?」

    「はい…」

    「コウちゃん 随分 ぶっきらぼうになるんだね(^^♪」

    「そんなことはないと思いますが…(笑)」

    「お母さん なんて?」

    「今度の土曜日 この間 挨拶に行った彼女と一緒に遊びに来いって…」

    「一緒にって…あたし?」

    「他に誰がいます?(笑) 」

    「今度の土曜日って 明後日じゃない!…心の準備が…間に合わない…」

    「やめときます?会いたくないって言ってた って伝えときます(笑) 」

    「バカ…」
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■22194 / 1階層)  すこしづつ…36
□投稿者/ 桃子 一般♪(39回)-(2017/03/01(Wed) 14:18:40)
    土曜日…コウちゃんの実家に向かった。

    「どうしよう…緊張してきた〜」

    「大丈夫ですよ(笑)」

    (コウちゃんも ウチへ来てくれた時は こんな風だったのだろうか…)

    (いや…あの時 コウちゃんは ひとりだったから…あたしの緊張とは 比べ物にならない…)


    15分後…到着。

    コウちゃんは インターフォンを鳴らし

    「ヒロです…」

    「おかえり〜(^-^)」

    玄関のドアを開けてくれたのは…

    『駅裏』のマスターの奥様だった。

    (えっ Madam?…ってことは マスター?)

    「フフフ 驚いた? さっ 入って!」



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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22195 / 1階層)  すこしづつ…37
□投稿者/ 桃子 一般♪(40回)-(2017/03/01(Wed) 14:21:25)
    リビングでは マスターと コウちゃんのお姉さん・お兄さんが迎えてくれた。

    「その顔だと コイツ 何も言ってないみたいですね (^-^) 」

    マスタ−が 言った。

    「ハイ…今の今まで何も…」

    「言葉の足らないヤツで 本当に申し訳ない…」

    「いえ そんな…」

    「ようこそ…」

    お姉さんが お茶を出してくれた。コウちゃんの笑顔は お姉さん似だ…

    「お邪魔します」

    「ゆっくりしていってね(^^♪」

    「ありがとうございます…」

    「えっと…佐々木さんでしたっけ?」

    お兄さんが 声をかけてくれた。

    「はい…よろしくお願いします」

    「そんなに固くならないで(^-^)」

    (と言われても…)
     
    「ところで こんなキレイな彼女 どこで見つけたのかな?」

    お兄さんが コウちゃんに訊いた。

    「図書館で声かけられた…」

    お兄さんが 私を見た。

    「ホントです 先に声をかけたのは 私です…」

    「コレ 偏屈だから 大変でしょ? 佐々木さん 苦労してない?」

    コウちゃんは 困った顔でお茶を飲んでいる…

    「いえ 全然…いつも 楽しんでます(^-^)」 

    マスターとMadamは 何も言わず 微笑んでいる…
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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22196 / 1階層)  すこしづつ…38
□投稿者/ 桃子 一般♪(41回)-(2017/03/01(Wed) 14:24:44)
    「正月に言ってた ご両親に会うって…」

    お兄さんが コウちゃんに訊いた。

    「うん…」

    「なんか言われた? 罵倒されたり 張り倒されたり(笑)」

    「別に…特には何も… ご両親 驚いてたけど…」

    「そりゃ…驚かない親はいない と思うよ…」

    「うん…でも…」

    「何?」

    「お父さんが『これからは2人で遊びに来い』って言ってくれた…」

    「ほんと?」

    「いや 直接言われたわけじゃないけど…」

    お兄さんが 再び 私を見た。

    「はい…私が1人で帰ったら ウチには入れないそです(^-^)」

    「そんなこと言ってもらえたんだ…よかったな」

    「うん」
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■22197 / 1階層)  すこしづつ…39
□投稿者/ 桃子 一般♪(42回)-(2017/03/01(Wed) 14:28:25)
    「ヒロ! 今日のすき焼き 食べていくよね?」

    キッチンに立ったお姉さんの声に コウちゃんが 私を見た。

    (どうする?)

    (任せる)

    「うん…よろしく」

    「あのう…何か お手伝いさせてください…」

    思わず言ってしまった。

    Madamが

    「じゃ 甘えちゃおうかな」

    お姉さんが エプロンを貸してくれた。

    キッチンで 野菜の準備をしながら

    Madamとお姉さんが

    「ヒロ よく笑うようになったよね」

    と 盛り上がっていた。

    「去年の夏くらいからよ…」

    「それって 佐々木さんのお陰?」

    お姉さんに訊かれた。

    「いえ そんなことは…」

    「大いにあるわよ(^.^) 」

    Madamが 言った。


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▲[ 22124 ] / 返信無し
■22198 / 1階層)  すこしづつ…40
□投稿者/ 桃子 一般♪(43回)-(2017/03/01(Wed) 14:34:20)
    「そうなんだ…ねっ きっかけは 何だったの?」

    「私が 押しかけました(^-^)」

    「ホントに? さっきの話 ホントのことだったの?」

    「はい…」

    「何処がよかったの?」

    「どこって…」

    「だって…アレだよ(笑) マイペース過ぎるほどマイペースで…愛想もない…」

    お姉さんの目は なかなか厳しい…

    「私…図書館に勤めているんですけど…
    3年前 そこで ヒロ君を見かけたのが最初でした…
    はじめは 同僚たちと『カッコいい人が来た〜』って 陰で盛り上がってたんです…
    で…気がついたら…いつも 目で追いかけてました。
    だけど…親しくなるキッカケなんて 何処にもなかったんです… ただ 見てるだけで…
    それが変わったのは…
    去年の春 ヒロ君が 私の隣の部屋に引っ越ししてきてからです…
     それから『駅裏』で アルバイトしていることを知って…
    少しづつ …押し切りました(^-^)」

    「そうだったんだ…あの子 口数少ないでしょ? それが気になって…」

    お姉さんの目には コウちゃんは どんな風に映っているんだろう…

    「私のおしゃべりに ヒロ君が 合せてくれてます(笑) それに…」

    「なに?」

    「ヒロ君との沈黙は 心が落ち着くと言うか…安心出来るんです」
    「そう…」

    お姉さんが 初めてホッとしたような顔になった。

    「今度『駅裏』のぞいてみたらいいわよ(^.^) ウチでは見せたことのない顔してるから…」

    Madamが 助け船を出してくれた…

    「ガキんちょが ひとり暮らし始めて最初の冬に こんなステキな人と 帰って来るとは…
     31歳と29歳 何やってんだろ…完全に 先を越されてしまった…」

    お姉さんの言葉が 微笑ましかった…

    「言いたいコト言って…って呆れてる?」

    Madamが 笑いながら訊いた。

    「いえ…ヒロ君が 末っ子扱いされているのを見て ちょっと安心しました…
     普段は 一匹狼 ってカンジですけど(笑) 」

    「あの子 外では 狼の毛皮をまとった狼 ってカンジだもんねぇ」

    お姉さんも Madamの言葉に納得しているみたいだ。

    (まんま 狼 って(>_<) )
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