□投稿者/ 気まぐれメガネ 一般♪(2回)-(2017/10/27(Fri) 16:04:25)
| ―― No.2 動き出した音 ――
いつでもすぐに気が付くように左手に握っていたスマホが震えたのは、改札を出た時だった。 スマホのホームボタンを押すと、時刻は11:50分を表示している。
待ち合わせ時間は12時。 早いな。 コーヒー豆は遅刻しないタイプか。
メールを開く。
「待ち合わせ場所、北口イルカの銅像前に着いたよー!」
やはりコーヒー豆からのメールだった。 さっそく返信。
「早いね!私は今改札を出たよ」
どんどんコーヒー豆に近づいているんだ。 ヤバイ。 めっちゃドキドキしてきた。
イルカの銅像の前で待つコーヒー豆を探す。 ついつい目線が可愛い人を探してしまう。
可愛い人来い、可愛い人来い。
その時、もう一度私の左手に握られたスマホが震えた。
「あぁ、なんかドキドキする!(笑) 今どこ?もう銅像前に着いた?」
可愛いこと言うなー!もう! 私もめっちゃドキドキしてるよおおおおお!! でもコーヒー豆より年上の私としてはお姉さんぶりたいので、ここは余裕な振りをしておこう!
「ドキドキするの?可愛いね!笑 今銅像前に着いたよ」
「可愛くはないよ!(笑) すごいなぁ、ミューさんは余裕そうだね。 私、黒いコート着てるんだけど、分かるかな?」
うん。余裕そうな振りしてるだけで、心臓バックバクだけどなっ!!
一通り見渡してみる。 しかし今日はあいにくの日曜日だ。 黒いコートを着ている女性は多い。 返信できずにいる私にまたコーヒー豆からメールが来た。
「黒いコート着てる人多いね(笑) 髪型はボブだよ!見つけて!」
急いでメールの文章を書く。
「OK!任せて! この中で黒いコートを着てボブカットの一番可愛い人に声をかけるね!」
顔を上げ、今か今かと銅像の前で待ちわびる女性たちの顔を見ながら祈るような気持ちで送信ボタンを押した。 可愛い人・・・来いいいいいい!!!
見つけた!!
きっとあの人だ。 ドキドキと鳴る心臓がよりいっそう早くなる。 黒いコートを着て、ボブカットで、スマホを見ながらクスリと笑った女性が一人いたのだ。 私の左手の中でメールの着信を知らせるバイブが振動していたが、私はそれを無視し、一直線にその女性に歩み寄った。 私に気が付いた女性が顔を上げる。 大きくてたれた目の可愛らしい視線が、私のシャープなつり目とカチリと合った。 私はその可愛い目を真っすぐに見つめながら、
「コーヒー?」
女性はニッコリと笑い、言った。
「豆っ!」
私たちは吹き出すように笑っていた。 なんだこれ、合言葉みたいだ。 そう思っているとコーヒー豆が言った。
「なんか合言葉みたいだね!」
その一言に私の心臓はさらにドキリと拍動を強め・・・止まった。 一瞬、コーヒー豆とシンクロしたように感じたのだ。 私と感覚が似ているのかもしれない。
コーヒー豆にもっと近づきたい。 なんでもいいから、もっと彼女を知りたい。 できればコーヒー豆のブラジャーの下に凛と立つ二つのコーヒー豆も。 願わくばそのコーヒー豆の味も。
コーヒー豆の大きくてたれた目を見つめながら私の心臓は、ゆっくりと、だけど力強く、確かなリズムを刻み出す。 その拍動に合わせじんわりとしみ渡るような暖かい血液が、私の体中を駆け巡っていた。
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