ビアンエッセイ♪

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■10824 / ResNo.50)  和美のBlue 42
  
□投稿者/ つちふまず 大御所(973回)-(2005/07/12(Tue) 08:17:25)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    ─土曜日。


    ナツさんの来る日。


    予定通り…。


    ドキドキ。


    でもこういう日に限って…。




    混む(涙)


    ホールを汗だくになりながら、右へ左へ…。


    「お待たせしました。」


    大皿に盛られた料理を運ぶ。


    ふう…。


    今何時だろ。


    時計を見ると、22時。


    クェッと店内のオウムが、
    一回鳴いた。


    ナツさん…。来ないな。


    どうしたんだろう…。


    事故、とかじゃないよね。
    縁起でもない…。


    プルプルと頭を振る。


    「カズ!持ってって!」


    「あ、はい!」


    ヤスさんの声に。
    またフロアを駆けた。







    日付が変わる間近に。


    ナツさんのアルファロメオ。


    到着。


    きたぁ〜♪


    ドキドキする胸。


    私の頭には。
    月曜日のキスがよぎって。


    体が熱くなった。


    好きな人が。
    現れる瞬間。



    高揚感。



    トントントン…。


    テラスを上がる、


    ナツ、さ、


    え。


    「………。」


    思わず、目を凝らした。


    ブラックのスーツ。


    手にはアタッシュケース。


    それはいつも通り。


    でも。


    違った。


    目の下に、クマ。


    ツヤのあるブラウンの髪も、水分を失っていて。


    しっかり歩いてるのにも関わらず、私には。


    今にも倒れそうに見えた。


    ナツさん…。


    「お疲れ様です。」


    すれ違い様。


    「ん。」


    間近で見ると。
    リアルに分かる。


    疲れた、顔。


    フッと一瞬見えた。


    こめかみの辺りに、


    白髪…。


    「どうし…、」


    たんですか?


    と言い切る前に。


    ナツさんは店内に入って行った。


    ふと視線の先に。


    ヤスさん。


    目が合った。


    ヤスさんもナツさんを。
    目で追った後。


    私に顔を向けて、


    “来い来い”と。


    手招き。


    急いでバーカウンターに向かうと。


    ヤスさんは手を動かしていた。



    「これ、オーナーに。」


    トン、と白色の液体。


    「あ、はい。」


    「あんまーいチャイだ。」


    持ってけ、とヤスさん。


    うん。


    やっぱりヤスさんも、
    ちゃんと気付いてた。


    「わかりました。」


    バンブートレイに乗せて、




    オーナー室へ向かった。


    何があったんだろう。






    ナツさん。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10825 / ResNo.51)  和美のBlue 43
□投稿者/ つちふまず 大御所(974回)-(2005/07/12(Tue) 08:22:25)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「失礼しま、す…。」


    オーナールーム。


    チャイを乗せたバンブートレイを片手に、恐る恐るドアを開いた。


    あ。


    あららら。


    また寝てる…。


    今日はフォーマルなスーツだけど、同じ体勢で。


    ナツさんは眠っていた。


    ソロソロと入り、
    テーブルにトレイを置いて。


    以前のように、
    ナツさんの側に座る。



    ナツさんの。
    疲労を抱えた顔。


    包みたいとか、
    触れたいとか、
    聞きたいとか。


    様々な動詞が頭に浮かんだけれど…。


    右手を伸ばして、
    ナツさんの柔らかい髪に。


    そっと触れてみた。


    以前のようにナツさんが、
    起きる事もなくて。


    “泥のように眠る”


    そんな感じ。


    「………。」


    こめかみの辺りに、
    触れてみる。


    やっぱりあった。
    何本かの白髪。


    元々色素の薄い人だけど…。


    マスカラはおよそ必要ないと思われる長い睫毛。


    どれくらい。


    大変なんですか。


    ナツさん。


    私は。


    私は知ることは、


    出来ないですか。


    「ん……。」


    あ。


    起きちゃったかな。


    眉間に皺を寄せて。


    イヤイヤをする子どもみたいに。頭を左右に揺らせた。


    「……風邪ひきますよ。」


    顔を寄せて、
    ナツさんの耳元で囁いた。


    ………!


    これ。


    ……やだ。


    目を反らした。


    ナツさんの首筋に、


    三つ四つの。
    紫の花びらみたいな。


    ………ハァ。


    思わず溜め息を着いた。


    そりゃ、ね。
    そういう人なのは、


    知ってるけど、さ。


    スパンコールがあしらわれた、カットソーでは。


    キスマークは隠せてない。


    私の家に、
    ナツさんが泊まったのは。


    月曜日。


    今日は土曜日。


    火・水・木・金…。


    四日間。


    誰と。


    何処で。


    何人。


    …抱いたんだろ。




    穏やかに眠るナツさんとは、裏腹に。


    私の心には。


    言いようのない、
    花を握り潰したような。


    水分の無い気持ちが。
    産まれてた。


    がっかり?


    違う。


    認識したから。


    この人は、


    「大人」


    ただそれだけの事。




    薄いブランケットを、
    ナツさんにかけて。



    私はオーナールームを出た。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10826 / ResNo.52)  和美のBlue 44
□投稿者/ つちふまず 大御所(975回)-(2005/07/12(Tue) 08:28:07)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「どうだ?」


    オーナールームから。
    出たらすぐに。


    太い腕を組んだ、
    ヤスさんがいた。


    「…眠ってます。」


    なんとなく。
    ヤスさんの顔は見れなくて。


    「そうか。」


    ヤスさんが溜め息を着く、気配だけが感じ取れた。


    「疲れてる…みたいです。」


    見た目にもわかる位。


    「中目黒の店が…ヤバイみたいなんだよな。」


    中目黒。


    「ヤバイ?」


    顔を上げてヤスさんを見た。


    「うん。元々競争が激しい土地だけど…。」


    「売り上げが厳しいって事ですか?」


    そんな感じはしなかったけど…。


    「いや、大手のカフェが狙ってたみたいなんだよな、店の土地。」


    「………。」


    そうなんだ。


    「オーナー的には、プラマイ、いや逆にプラスになる話だろうけどな。店で働く従業員には…。」


    「クビになっちゃうんですか?」


    「リストラせざるを得ないだろうなぁ。続けても…潰されちまうよ。」


    うーんとヤスさんは、
    髭を撫でた。


    「何か…大変なんですね。」


    土地とかお金とか。
    全然分かんない。


    「ゲームになりきれないんだろう。」


    ヤスさんはニッと笑うと。
    頬に深い皺が出来た。


    「オープンさせる時よりも、引き際が肝心なんだよ。経営ってのは。」


    「ふーん。」




    …………あ。


    一つの関連性に。


    気付いた。


    おばぁちゃん。


    ブランカの閉店日。


    ナツさんが。


    行った理由。


    あの時のナツさんは。


    もしかしたらすでに。


    自分のお店をたたむ事。


    決めてたのかもしれない。


    「…………。」


    ナツさん。




    「カズ?」


    「あ…すみません。」


    もしかしたら。


    ナツさんは私が思う以上に。


    「とりあえずクローズの準備するか。」


    ヤスさんは、
    静かにホールへ入って行った。


    「はい。」


    一回オーナールームを見て。


    それからホールに入った。







    私が思う以上に。


    本当は…。




    大人で。


    ううんそれはわかってる。


    一県に一人。


    そうかもしれない。


    お金儲けとか、事業とか、そこに絡む裏切りとか。


    全然わかんないけど。



    でも。


    本当は。




    「…………。」



    思い浮かばなかった。


    それだけナツさんの、


    首元のキスマークは。


    威力がありすぎた。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10878 / ResNo.53)  和美のBlue 45
□投稿者/ つちふまず 大御所(976回)-(2005/07/13(Wed) 10:12:18)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    それから二週間。


    ナツさんはお店には現れなかった。


    ヤスさんの話では。


    中目黒のお店に勤める社員さんの、再就職先を探す為に。


    毎日走り回っていたらしく。


    閉店させるまでにはかなり揉めたらしい。


    土曜日─


    暑い暑い熱帯夜。


    お客さんの入りはそこまで多くなかった。




    ヤスさんから中目黒の話を聞いていた時。


    「きついよなぁ。でもさすがだよ。」




    ヤスさんは。
    ナツさんを。


    オーナーとして凄く凄く認めてる。





    ヤスさんは見た目、
    ちょっと(かなり)怖い感じの人なんだけど。


    金髪だし。
    モヒカンだし。
    背中から腕まで、タトゥーだし。乗ってる車は、
    インパラだし。


    あ、そうだ。


    「そういえばヤスさんって何歳なんですか?」


    空いている店内を見渡しながら。聞いてみた。


    「俺?よんじゅーご。」


    45!?


    気持ちは20歳だけどな、と。


    ワッハッハと笑った。


    み、見えない…。


    「そうだヤスさん。」


    「なんだ和美。」


    私は。


    ある事を考えていて。


    でもヤスさんの協力が、


    ちょっと必要。


    だから思い切って、




    「ナツさんちって何処ですか?」


    見上げながら聞いた。


    「…………。」


    鼻の下を伸ばした後。


    ヤスさんはニッと。


    笑った。


    「な、なんですか。」


    「いやいや。」


    オーナーは、確か…、と。
    言いながら。


    ヤスさんはホールから、一旦消えて行った。


    やっぱり。
    笑われた(赤面)


    わかってたけどさ、


    でも…。


    心配なんだもん。


    ちっともバイト、


    集中出来ないし。


    「あったあった。」


    メモ用紙を片手に。


    ヤスさんがまた現れた。


    「港区…、六本木、ったく金持ってるよなー。」


    ほら、と。


    その紙を渡された。


    六本木…。


    まさかヒルズ族?


    んなわけないか。


    紙に書かれた住所を見つめた。


    ナツさん。


    行っちゃうからね。




    「ミソギが…効くかな…。」


    「え?」


    ヤスさんはふんふんふーんと。鼻唄を歌いながら去って行った。


    そのメロディは。


    やっぱり、


    ヤスさんの好きな。


    クレイジーケンバンドだった。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10880 / ResNo.54)  和美のBlue 46
□投稿者/ つちふまず 大御所(977回)-(2005/07/13(Wed) 10:16:36)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    夜の六本木─


    ここ…かなぁ。


    うわっ!


    た、たかい(汗)


    てっぺんが見えない、
    そのマンションを見上げた。


    すぐ近くに、
    六本木ヒルズ。


    ヒルズ族じゃないのは、
    安心したけど…。


    でもこれ、ちょっと。
    入りにくいよ〜(涙)


    鎌倉とは違って。
    周りを見渡すと。
    たくさんの人、車。


    浦島太郎気分で。


    恐る恐る、
    タワーマンションに入った。


    ピンポン、は…。


    あれかな。


    壁に埋め込まれた、
    四角いそれに。


    近付いて。


    「2207」と、ゆっくり押して、呼び出しのボタンを押した。


    ピーンポーン


    うちのチャイムとは違う、
    上品な音。





    …………。


    いない、かな。


    時計を見た。
    20時…。


    まだ外かな。


    もう一度。


    ピーンポーン





    ………。




    うーん(涙)
    いないかぁ。


    残念。




    背後にブーンと。
    自動ドアが開いた気配。


    慌ててその場を、
    離れようとして。


    「あ、すみません。」


    入って来る人の、
    行く手を阻んでしまった。


    右にずれると。
    その人も右にずれたので。


    と思ったら。


    左にずれると、
    何故かその人も左。


    あらら。


    顔を上げると。



    彫りの深い顔。


    「…………あ。」


    「ん。」




    ナツ、さん。


    ひぇ〜!!


    見るとナツさんは。
    やつれた顔は。
    少し良くなっていて。


    それでもやっぱり。


    こめかみの白髪が見えた。


    「こん、ばんわ…。」


    恥ずかしすぎて。
    顔が見れない。


    「学校帰り?」


    見上げるとナツさんは。
    私の胸に抱えていた、
    クリアケースを見つめた。


    「あ、はい。」
    「そう。おいで。」


    え。


    ナツさんは持っていた、ヴィトンのキャンパス地のバッグから。


    キーケースを取り出して、


    正面ドアの鍵穴に差し込んだ。


    わわわわ。


    スタスタと、
    歩いて行ってしまうナツさん。


    慌てて追い掛ける。


    エレベーターのボタンを、
    ポンと押すと、


    すぐに扉が開いた。


    二人で乗り込む。


    「………。」
    「………。」


    う、
    うわわわ。


    うつ向くだけの、私。


    何せ会うのは、


    二週間と、三日ぶり…。


    ドキドキする。




    心拍数と共に。




    エレベーターも上昇。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10882 / ResNo.55)  和美のBlue 47
□投稿者/ つちふまず 大御所(979回)-(2005/07/13(Wed) 10:31:18)
    2207、の意味が。
    わかりました。


    22階って事ですね(汗)


    「上がって。」


    静かなフロアの中で、
    上等そうなドアを。


    ナツさんは開けた。


    「お、じゃまします…。」


    一万円弱の、
    私のミュールが。
    全然似合わない玄関で。


    ナツさんは電気を付けながら、中へと入って行った。


    私もゆっくり、
    中へと入る。


    う、わ。


    「……………。」


    マンションって。
    違うよ…。


    ここはマンションじゃなくて。


    展望台。


    壁1面に大きな窓。


    パノラマの夜景が見えた。


    「かけて。」



    ナツさんはいつの間にか、
    荷物をリビングに置いて。


    キッチンへと向かっていた。


    すご…い。
    こんな所に、一人で?


    広すぎるリビング。
    もちろん家具の一つ一つが。


    モダンで。
    シャープで。


    大きな液晶のテレビ。


    計算された配置。


    絶対フカフカだろうなと、
    想像出来るソファに。


    キョロキョロしながら座った。




    夜景がきれい…。


    目の前に、
    六本木ヒルズ。


    ちょっと先に。


    恵比寿?
    ガーデンプレイスかな?


    って事はこっちが渋谷で、


    あ、東京タワー?


    夢中になって。
    見ていると。


    「はい。」
    「あ、すみません…。」


    冷えたタンブラー。


    アイスティーを持って、
    ナツさんは隣に座った。


    「ふー。」


    背もたれに深く腰かけて。
    頭をだらんと。


    ナツさんは上を見た。


    「だ、大丈夫、ですか。」


    うまく言えない(涙)


    ん、とナツさんは。
    頭を起こして。


    「疲れた。」


    固い顔で言った後に。
    すぐに口の端を持ち上げた。


    今日のナツさんは。
    ストライプのパンツに、
    シャツをインしたスタイル。


    素敵だけど、


    首筋は、見えない。


    見たくない。


    目を反らした。


    だってもし見えたら。


    私は多分。


    多分……。



    今更だけど。


    ここに来てしまった事が、すごく意味のない事に思えて。



    ヤスさんにクレイジーケンバンド、歌ってもらいたかった。


    やればできる。
    出来るよやればって。






    「変な顔。」


    「え?」


    我に返って隣を見ると。
    深く腰掛けたナツさんが、


    こちらを見て、クックッと。またいつもの笑い方。


    でもちょっと。









    寂しい笑い方に見えた。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10883 / ResNo.56)  和美のBlue 48
□投稿者/ つちふまず 大御所(980回)-(2005/07/13(Wed) 10:36:36)
    「無理、しないでください。」


    タンブラーを見ながら、私が言うと。


    「ん。」


    ナツさんはそれだけ。


    「…………。」


    それ以上は言えない。
    何て言っていいのか、


    わかんない。


    ナツさんは無口だから。
    絶対に、


    “なんで来たの?”


    とは、言わない。


    「ここから見ると…。」


    「…え?」


    隣を見た。
    ナツさんは目を細めて。
    でも口は笑ってなくて。


    「人は見えないね。小さすぎて。」


    ふう、と一つ。
    息が漏れたような。


    「そう、ですね…。」


    どんな意味なんだろう。


    大した意味は、
    含まれてないのかな。


    「多すぎる、人が。」


    フン、と。
    鼻で笑うような。


    「鎌倉とは…。」


    ん?とナツさんが。
    私の方を見たので。


    「あ、鎌倉とは…違うなって。ここまで来るのに、本当迷いました。日比谷線と大江戸線、どっち乗ればいいか分からなくて。」


    「………ふ。」


    何言ってんだろ。
    んも〜(涙)
    田舎っぷりアピールして、
    どうすんの…。


    「あ、でも私。あそこ、行った事あります。」


    窓の向こうを。
    指差すと。


    「ん?」


    「恵比寿の。ガーンプレイス。クリスマス…だったかな。」


    「そう…誰と?」


    「その時は…彼、…。」


    彼氏とだったっけ(汗)
    わわわわ。
    過去自慢してどーすんの〜。


    「彼氏と行ったの。」


    「あ…はい。今は何をしてるか、全く知らない、ですけど。」


    本当に知らない。


    「そう…。あそこで、いい事してるかもよ?」


    ナツさんは遠くに見える、高いタワーを指差した。


    「え?なんですか?」


    「新しく出来たホテル。」


    「…………。」


    「ふっ。」


    ナツさんを見た。


    何と無く。


    わかったのは。


    “投遣り”な。


    感じがして。


    すごく寂しくなった。


    今のナツさんは。


    私が知ってるナツさんとは。ちょっと違う気がする。




    目の前に見える、
    東京の景色のせいなのか。









    私にはわからなかった。


    「カズ。」


    「は、はい。」


    びっくりした。


    ナツさんは私に、
    体を向きなおすと。


    手に持っていたタンブラーを抜いて、


    テーブルにトン、と置いた。


    ゆっくりした動作はそこまでで。


    突然ナツさんは強引に。


    私を抱き寄せた。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10898 / ResNo.57)  和美のBlue 49
□投稿者/ つちふまず 大御所(982回)-(2005/07/14(Thu) 08:41:19)
    あ……。


    抱き寄せられて。
    ナツさんの胸。


    背中に回された、手。
    撫でられるように。
    確かめるように。


    首筋に、
    ナツさんの息。


    チュ、チュッと。


    唇を当てられる、音。


    う、わ。


    あ………。


    ナツさんの髪が。
    私の鼻をくすぐる。




    ゆっくりソファに。
    押し倒された。


    また首筋から、鎖骨にかけて。


    また音を立てて。


    ナツさんの唇が弾む。


    埋められる、小さな頭。


    「んっ。」


    刺激。


    ナツさんの唇。


    音がしなくなったら。


    今度は。


    暖かい感触。


    舌、が。


    這う。


    ああ。



    「ん、ん……。」


    目を瞑って。


    身を任せていると、


    ナツさんの唇が。


    今度は私の唇に。


    「ん、……っ、……。」


    絡む舌。


    ん…。


    唇が離れる。


    私のノースリーブのシャツのボタンが、外れる感覚。


    一つ、


    一つ…。


    目を開けた。


    ナツさんは。
    怖い位。
    真剣な目。


    何かにとりつかれてるみたい。


    ボタンに手をかけて。


    かけて……。



    角度がよく、なかった。


    ナツさんの首筋。


    見える。


    この前と同じ。


    同じ濃さで。


    首筋に、残ってた。


    日は経ってるのに、


    同じ濃さ。


    新しく付けられた物だと。


    すぐに認識した。


    …………。


    左を見た。


    大きなガラスに映る、


    横たわった私の上に。


    胸を愛撫する……。


    「……っ、あっ!」


    生肌に。


    ナツさんの長い指。


    強い刺激に。


    また夢の中へと。


    戻される。


    せわしなく動く手。


    私の荒い息。


    ナツさん。





    私は。


    左を見た。


    シャツがはだけて、


    ブラが外されて、


    胸を口に含む。


    愛しい人。


    見なくていい。
    見なければ、


    首筋の跡なんて。




    い、や。


    ダメ。


    「いや………。」


    ナツさん。


    「いや……。」


    好きなのに。


    好きだから、


    会いに来たのに。


    「いやぁ!!」


    いやだよ、ナツさん。


    私は、出来ないよ。


    「…………。」


    顔を上げた、ナツさん。


    驚いた瞳。


    「………。」


    「やめて……。」


    私の顔には。







    涙が伝ってた。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10899 / ResNo.58)  和美のBlue 50
□投稿者/ つちふまず 大御所(983回)-(2005/07/14(Thu) 08:44:10)
    「いやです…。」


    私は。
    あなたが好きなの。


    「…………。」


    でも、
    大勢の一人は…。


    ダメなの。
    身を任せれば、


    「……ごめんなさい。」


    それなりに、
    満足出来る事は。


    なんとなくわかる。



    「抱かれに来たんじゃないの?」


    …………。



    そんな。


    体を起こしてナツさんを見た。


    ………。


    見なければ、良かった。


    知らない、顔だった。


    人間は多分。
    こういう時、


    こんな顔をするんだと思う。


    “つまらない”


    ………時。


    「帰ります、ね。」


    立ち上がって。
    ソファの後ろに回る。



    ナツさんの声は、しない。



    足を止めて。
    目を瞑った。


    噛んだ唇のすぐ近くを、
    涙が流れて。


    広いリビングを、
    また歩く。



    玄関で─



    ミュールに足をかけた時。
    もう一度振り返ると。


    ナツさんが。
    その顔のまま。


    壁にもたれて立っていた。


    「………。」


    何も言えない。


    「手を出すつもりは、なかったんだけどね。」


    見るとナツさんは。
    まくったシャツの腕を、
    組んでいて。


    「…やめて下さい。」


    そんな事、
    言われたくない。


    「結構可愛くなったから。」


    油断した、と。
    ナツさんは笑った。


    「…………嘘。」


    見たくなかった。
    わかってたけど。


    知りたくはなかった。


    「でも寂しそうな顔してたから。」


    ついね、と。


    ………いや。


    ナツさん。


    嫌だよ。


    ボロボロと。
    涙が流れてくのが、
    わかる。


    「あなたじゃない…。」


    何言ってんだろ、私。


    「………?」


    「寂しいのはあなたでしょ…?」


    「………。」


    「…一人じゃ乗り越えられないくせに。」


    多分私は。
    あまりよくない目つきで。


    ナツさんを見たと思う。


    「………ふ。」


    クックッと。
    いつものように。


    ナツさんは口を押さえて、
    笑った。


    「何がおかしいんですか?」


    全然笑う所じゃない。


    「いや…大人になったな、と思って。」


    ……?


    「……涙も綺麗になったよ。」




    もう、限界。



    振り返って。
    私はドアを開けて。
    外に出た。





    上等なドアは、あまり。







    音がしなかった。


    (携帯)
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■10901 / ResNo.59)  和美のBlue 51
□投稿者/ つちふまず 大御所(984回)-(2005/07/14(Thu) 09:58:49)
    ガタン、ガタンと。
    必要以上に、
    揺れる電車。


    飲みすぎたサラリーマン。


    疲れたOLさん。


    いわゆる普通の、
    “世間”に生きる人達。




    …馬鹿みたい。


    なんにも伝えないまま。
    終っちゃった。




    終電間際の、


    横須賀線。


    窓の向こうに流れる、


    ビルのない景色を。
    ただ眺めてた。



    “……カズ……”


    反芻する、
    低くて。甘い声。


    思わず目を閉じる。


    あのまま抱かれれば…。


    頭を振る。


    違う。


    私が求めてたのは。


    そんな事じゃないの。


    ただ私は。


    ナツさんが心配で…。


    ううん。


    違う、それも違う。


    抱かれたかった。


    …それは正しいよ。


    けど私は。



    あ。


    そっか。


    妙に納得出来た。


    あれだ。


    “独占欲”


    が産まれたんだ。


    そっか…。


    いつの間にか私。


    欲張りになってたんだ。


    所詮は手が届かない、
    存在だと思ってた。


    けれど。


    『ありがとう』


    少しの優しさに触れて。


    『ネギミソチャーシュー…』


    少しの意外な面を見て。


    『いつも目、開けてるの』


    気まぐれにも触れられて。





    その気になって、たんだね。


    はは。


    そうだ…。




    “〜横浜。〜横浜。”



    華やかな街並み。


    ネオンやビル達は。


    やっぱり私には、合わない。


    それと同じ。




    ナツさんは。
    私とは違い過ぎる。


    ナツさんに何が有ったかは。私にはわからない。


    “疲れちゃったんだよ。”


    明らかにあの時葉山の防波堤で、見たナツさんとは違っていた。


    精神的な何かに、ナツさんは追い込まれていたのかもしれない。


    再び女性に、手を伸ばしたのは。何か理由があったのかもしれないけれど…。







    もう、やめようかな。





    結構…頑張ったし。


    唇をまた、噛んだ。





    気を張ってないと。


    涙が溢れそうになる。


    なるべく違う事を考えたくても。


    うまく行かない。


    こういう時長い前髪は都合がいいから。


    うつ向いていよう。





    流せない涙は。


    鎌倉に着いたら、


    思いっきり解放しよう。


    泣くだけ泣いたら。







    土曜日までには。








    笑顔を取り戻そう。

    (携帯)
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