ビアンエッセイ♪

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■10915 / ResNo.60)  和美のBlue 52
  
□投稿者/ つちふまず 大御所(986回)-(2005/07/14(Thu) 20:52:09)
    それからは─
    ナツさんと顔を合わせても。


    「お疲れ様です。」


    「ん。」


    いわゆるオーナーと、
    バイトとして。


    必要最低源のコミュニケーションのみを取り、


    ユニフォームもリニューアルされ、夏本番を迎えた。


    夏の繁忙期には。
    毎年三人ほど、
    ホールはバイトを雇う。


    今年も新しいメンツを迎えて、せわしなく仕事をこなした。


    ナツさんもこの時期は、
    土曜日だけでなく。
    木曜日や日曜日にも現れる。


    中目黒をクローズさせた事は、鎌倉へ足を運ぶ時間が前よりも出来たのか。


    言葉を交しにくい私にしてみれば微妙だった。


    それでも。
    中目黒が閉店してから。


    少しナツさんは変わった。


    あの時見た白髪は、もう綺麗なブラウンに変わったけれど。


    より一層、


    はっきり言ってしまうと。


    厳しい人になった。


    もっと笑わなくなった。


    言葉を発しなくなった。


    テラスから海を眺める姿が、


    多くなった。


    ヤスさんが言うには。


    「何だか戻っちまったな。」


    らしい。


    ナツさんの過去は、


    想像もつかなければ、


    ほとんど知らない。


    けれど。


    一時期ナツさんと、
    近い距離にあった事。


    何だか嘘みたいに見えた。






    「カズちゃん、カズちゃん。」


    金曜日のクローズ前。


    食器を片付けていた、
    私の背中に。


    「ん、何?」


    臨時バイトで雇われている、希ちゃんに声をかけられた。


    希(ノゾミ)ちゃんは女子大生。以前から良く、うちのお店に食べに来てくれていたらしい。


    長い髪と。
    方エクボが特徴的。ナツさんとまでは行かなくても、背が高い。


    「今日オーナーってラストまでかなぁ。」


    希ちゃんは。
    テラスのオウムに餌をやっている、ナツさんを見た。


    「ん…どうだろうね。」


    さほど気にせずに、
    手を動かした。


    「素敵。もー遊ばれたい!」


    「………。」


    頼んでみたら、と。
    心に思ったけど。


    口にはしなかった。


    「ね、カズちゃんはオーナーと話した事、あるんだよね?」


    「…少し、だけどね。」


    本当に少し、なんだろうけど。


    「ね、どういう人?」


    ね、ね、と。


    「んー。」


    「ん?」


    「どういう人、なんだろうね…。」


    わかんないや、と。





    私は苦笑いした。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10916 / ResNo.61)  和美のBlue 53
□投稿者/ つちふまず 大御所(987回)-(2005/07/14(Thu) 20:55:23)
    希ちゃんを見ていると。


    何だか少し前の、
    私を見るようで。


    「やめといた方がいいよ。」


    と、喉元まで。


    その言葉が出かけていたけれど、敢えて口にしなかった。


    そんな言葉を言う資格、
    私には無いと思っていたから。


    でも。


    ナツさんの気まぐれは、
    相変わらずだなと。


    ある日感じた。


    それは土曜日のクローズ前。


    店内には、


    あと二組ほど。


    ホールには私と、希ちゃんだけが残る形になり。


    ナツさんは。
    奥の席でノートパソコンに向かっていた。


    一組が帰ったので。


    食器を片付けようと、
    同じサイズのお皿を。
    手早く重ねていた時。


    「オーナー。」


    「ん?」


    希ちゃんが、
    ナツさんを呼ぶ声がした。


    私はさほど。
    気にせずに手を動かした。


    「カクテル…教えて頂けませんか?」


    希ちゃんの、緊張した声。


    私の耳にハッキリ聞こえた。


    思わず手を止める。


    振り返るとナツさんは。


    あの時みたいに、


    チェアに深く腰掛けて、腕を組んでいた。


    希ちゃん、


    …多分。


    チャイナブルーから。


    教えて貰えるよ。


    良かったね。




    私はまた手を動かして。


    食器をまとめた。


    でも。


    「ごめん。…ホールに専念して。」


    ナツさんの。


    低くて甘い声。


    思わず手を止めて、


    また振り返った。


    「そうですか…。はい。」


    残念そうな、
    希ちゃん。


    ナツさんはまたパソコンに、真剣な目を向けた。




    気まぐれ、だね。


    ナツさん。


    相変わらず。




    でも。


    私は一瞬、


    喜んでしまった。





    だけど。


    そんな気持ちは、


    今の私には必要ない。


    手を動かして。


    また仕事に集中した。




    それから二日後─




    「お疲れ様〜。」


    自転車に乗る、希ちゃんに声をかけて。


    店を後にしようとした時。


    ファン、ファン、と。


    派手なクラクション。


    「カズ!乗れや!」


    大きくて、


    いかつい。


    ヤスさんのインパラが。







    私の真横に停車した。


    (携帯)
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■10928 / ResNo.62)  NO TITLE
□投稿者/ 由兎魔 一般♪(28回)-(2005/07/15(Fri) 00:21:39)
    続きがメッチャ気になります!!カズはナツさんとどうなっていくんでしょうか〜??新しくバイトに来た希ちゃんがひょっとしたらくせ者になってしまうんでしょうか??気になって仕方ありません。。。続き待ってますんで頑張ってさいね♪♪

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■10935 / ResNo.63)  和美のBlue 54
□投稿者/ つちふまず 大御所(988回)-(2005/07/15(Fri) 08:03:41)
    ヤスさんのインパラの。


    車中で。


    「んもーヤスさんボリューム下げていいですか?」


    ガンガン流れる、
    ボブマーリー。


    近所迷惑上等の、
    大音量。


    「ワハハ!うるさいか?」


    スマンスマンと。
    ヤスさんは音量を下げた。


    “軽く飯でも食おうや”


    無理矢理車に乗せられて。


    ヒュー、パチパチと。
    海で花火を楽しむ。


    若者を横目に見ながら、
    海沿いを走る。


    「リプテーションソ〜ング!イエ!」


    ヤスさんは夜でも…。


    元気(涙)


    リズムに体を揺らせて。


    深夜でも営業している、


    デニーズに入った。




    「おうおうこんな時間でも混んでるなぁ。」


    ガキは早く寝ろ!と。


    混んでいた駐車場を見渡して。


    「私まだ22ですけど…。」


    呆れた目で見つめると。


    「俺もまだまだガキだ。」


    ダハハ!と。


    ベンチシートの肩の辺りに、


    太い腕を乗せて、


    急旋回でバックで駐車。


    んも〜危ないなぁ(涙)



    ─店内に入って。


    「腹減ったなぁ!」


    何にしようかな、と。ヤスさんはメニューをめくる。


    深夜一時なのに。


    「ヒレカツ定ライス大盛り。」


    私はドリンクだけを、


    注文した。






    「なぁカズ。」


    もりもり、という擬音後が。ピッタリな食べっぷり。


    「なんですか?」


    レモンスカッシュのストローをくわえたままヤスさんを見る。


    「オーナーとは駄目か?」


    口いっぱいに。
    ヤスさんはご飯を入れて。


    「ど、どーいう意味ですか。」


    直球の言葉に。
    動揺。


    「ブランカに行ったろ?」


    ゴクン、と飲み込んで。
    ヤスさんは。
    優しい目を私に向けた。


    「行きましたけど…あれ、ヤスさん知ってるの?ブランカ。」


    「おう。長い付き合いだしな、オーナーは。」


    またもりもりと。


    ヒレカツを二口位で、


    食べてしまった。


    「ふーん。でも…。」


    行ったけど…。


    だから何かがある訳じゃ…。


    「お前は特別みてーだったからよ。俺、嬉しかったんだよ。」


    特別。


    「え?」




    そうは見えない。


    (携帯)
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■10936 / ResNo.64)  和美のBlue 55
□投稿者/ つちふまず 大御所(989回)-(2005/07/15(Fri) 08:06:49)
    「あいつはさ…。あ、オーナーな?」


    「うん。」


    ズズ、とヤスさんはお味噌汁をすすった。


    「男前だろ?男の俺が言うのもなんだけどよ。」


    「ふふ、そうですね。あ、ヤスさんお漬物下さい。」


    「おう食え。…ま、昔はもっと手辺り次第だったんだよな。」


    全く羨ましい、と。
    ヤスさんは箸を置いた。


    「まぁ…モテるのは分かりますけどね。」


    「モテるどころじゃねーよ。何人店に乗り込んで来たか。」


    「え。」


    「そのたんびにあれだ、まーまーってな。俺が抑えてた。」


    は〜。
    そうなんだ。


    でもま、何と無く。


    納得。


    「でもな、いつか聞いたんだよ。どーすりゃそんなモテるのかってな?」


    ナツさんに聞いたんだ(笑)


    何かヤスさん。
    可愛いかも。


    「そしたら?」


    「それがびっくりだ。」


    「え?」


    「何にもしてないんですけどね、って言われちまった。」


    ………。


    「変わってるよなぁ。」


    「ナツさんらしい…。」


    何にもしなくったって。


    人を惹き付ける。


    それは私も、
    良く良く承知。


    「でもよ、カズは違ったみてーだからよ。」


    「え?」


    「ブランカには誘われたんだろ?」


    「ええ、まぁ…。」


    「多分ブランカは俺とオーナーしか知らないよ。」


    珍しいよ、と。
    ヤスさんは笑った。


    「…………。」


    やだ、な。


    もう期待はしたくない。


    「あいつは、基本的に人に執着しないしな。でも…。」


    「え?」


    「中目黒の件もあって、少しは失う辛さも認識したみたいだな。」


    「失う事。」


    「ああ。人も店もゲームみたいなもんだって、いつか言ってたし。」


    ゲーム。


    そんな感じはする。


    「辛かったって事は、ゲームになりきれない心も、あるんだろ。」


    ちょっとホッとするよ、と。
    ヤスさんは水を飲んだ。


    「ヤスさん。」


    「あ?」


    「私とオーナーは、違い過ぎます。」


    全部。


    持ってる物も。


    見えない物も。


    ヤスさんは、ワハハハと笑った。


    「?」


    「何が違うんだよ。」


    「え?」


    「変わらねーよ。俺から見たら。まだまだ子どもだ。」


    ガハハ、と。
    またヤスさんは笑った。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10937 / ResNo.65)  和美のBlue 56
□投稿者/ つちふまず 大御所(990回)-(2005/07/15(Fri) 08:10:52)
    「そりゃヤスさんから見たら…。」


    子どもかもしんないけどさ。


    ふん(涙)


    「いい事教えてやろう。」


    ニシ、とヤスさんは笑って。


    Tシャツから伸びた、タトゥーの腕を組んだ。


    「なんですか?」


    「来週の土曜日。オーナーの誕生日なんだよ。」


    「え?そうなんですか?」


    「おう。そうだ。」


    そうだったんだ…。


    「で?」


    「で?じゃねーよ。祝うの!」


    ヤスさんはポッケから。
    ガラムを取り出して、


    火を着けた。


    「パーティーでもするんですか?」


    「それはしないな。多分喜ばない。」


    ですよね…。


    苦手そうだし。


    「カズの出番だ。」


    プハーと。
    ガラム特有の甘い煙。


    「なななんで?」


    そりゃ誕生日…。


    祝ってあげたいけど、さ。


    「任せろ。」


    またニシシと。


    ヤスさんは笑った。


    「……………。」


    「ミソギの力を信じろ、うまく行くから。」


    ははは…。


    「どうするんですか?」


    「それはな…。」







    ……………。







    全てを聞いて。



    「………やる。」


    やりたい。


    「だろ?そう言うと思った。」


    ダハハ、と。
    またヤスさんは笑った。







    私の作戦。


    最終章…。


    ううん違う。


    ここからにしよう。




    もう一度、勝負に出よう。







    夏はまだ。



    始まったばかりだから。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10949 / ResNo.66)  和美のBlue 57
□投稿者/ つちふまず 大御所(991回)-(2005/07/15(Fri) 23:23:31)
    翌週の土曜日までに…。


    ヤスさんと連絡を取り合い、綿密に計画は進んで。


    向かえたナツさんの、
    28歳の誕生日。


    従業員にしてみれば、
    オーナーの誕生日は。


    知らせていなければあまり関係ないみたいで。


    いつも通りに、
    お店はオープンした。


    この日は混む事は予想していたのか、


    ナツさんも18時過ぎに、
    お店に現れて。


    「おはようございます。」


    「ん。」


    いつも通り。





    …でも今日は、


    ちょっと違うんだ。


    「オーナー。」


    ナツさんの背中に、
    声をかけた。


    だってあなたの。


    やっぱり好きなあなたの。


    「ん?」


    誕生日なんだもん。


    この日のナツさんは。
    夏らしいベージュのスーツ。


    「今日、予定はありますか?」


    ドキドキしながら。


    「いや、ラストまでいるよ。」


    テラスは、
    夕陽が差し込んでいたから。


    眩しそうな瞳で。


    私を見た。


    「そうですか。わかりました。」


    良かった。


    「どうして?」


    「終わったらお時間頂けますか?」


    「ん、わかった。」


    すぐに振り返って、


    ナツさんは店内へと。


    入って行った。





    ふー。


    ドキドキした…。


    何度もセリフを、
    練習したかいがあった。


    バーカウンターを見ると。


    ヤスさんがニッと。
    白い歯を見せた。


    よし。


    準備は出来てるから…。


    後は仕事をこなすだけ!






    15分後─


    ぼちぼち混んで来た。


    あ。


    ……え?


    店内を歩く、その人に。


    びっくり。


    ナツさん。


    私達と同じ、
    ユニフォーム。


    でもオーナー特注かな。
    サロンが、
    私達と違う、黒。


    しかもすごく…。
    長い。


    素敵。


    「珍しいな。」


    ヤスさんもびっくり。


    ナツさんは、
    手を挙げていたお客に。


    すぐに注文を取る動作。


    ナツさん、
    立つんだ…。


    ホールに。


    珍しい…。


    でも私と変わらない動作を、してるはずなのに。


    「かしこまりました。」


    「お待ち下さいませ。」


    プロだ。やっぱり。


    素敵。


    「どういう心境の、変化かな。」


    ヤスさんはカウンターに肘をついて、








    私を見て微笑んだ。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10950 / ResNo.67)  和美のBlue 58
□投稿者/ つちふまず 大御所(992回)-(2005/07/15(Fri) 23:26:22)
    pm.20:00─


    ザワザワと。
    満席状態の店内。


    「カズ、三番。」


    「は、はい。」


    ナツさんの指示。


    同じユニフォームで。


    同じ仕事。


    なんていうか、


    こんなに嬉しい事はない。


    キッチンも、バーテンも。


    これにはかなり。
    驚いたようで。


    フル回転。


    ナツさんは。


    オーダーも取るし、


    会計もするし、


    レセプションもするし、


    シェイカーも振るし、


    盛り付けもしていて、


    どれも完璧な仕事のこなし方に。


    その日入っていたどのスタッフも。


    びっくりしてた。


    やっぱりこの人がオーナーなんだと、


    改めて実感した。







    pm23:15─


    「ありがとうございました。」


    良かった…。


    最後のお客さん、
    今日中に帰ってくれた。


    これなら間に合う。


    「お疲れ様。」


    ナツさんはサロンを取ると、


    私の肩をポンと叩いて。


    キッチンに向かい、


    「お疲れ様です。」


    一人一人に。
    声を掛けてた。




    ─全部の片付けが済んで。


    「カズ。」


    ナツさんの声。


    オウムに餌をやっていた手を止める。


    キッチンもホールも、
    みんな帰ったかな。


    「あ、すみません。オーナールームにいて頂けますか?」


    「わかった。」


    ナツさんが下がるのを確認して。


    「じゃ、頑張れよ。」


    テラスの下から、


    ヤスさんの声。


    下を覗き込むと。


    ヤスさんが手を振っていた。


    「ヤスさん。ありがとう。」


    「礼はいらねえぜ。」


    ダハハと笑って、
    地下の駐車場へと。


    消えて行った。







    よし。


    やるかな。


    サロンを取りながら、


    店内を抜けて、






    キッチンへと入った。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10951 / ResNo.68)  和美のBlue 59
□投稿者/ つちふまず 大御所(993回)-(2005/07/15(Fri) 23:33:10)
    好きな人の。
    誕生日。


    それは多分自分の誕生日より。


    大切な日。




    ─コンコン


    「失礼します。」


    ここに入るのも…。


    結構久しぶり。
    中に入ると、


    既に着替えたナツさんは。


    ソファに座って、
    煙草を吸ってた。


    「…………。」


    ナツさんの、
    驚いた顔。




    やば。


    すっごいドキドキして来た。


    「失礼します。」


    抱えていた、
    二つのお皿。


    静かにナツさんの前に、
    並べた。


    ナツさんは。
    ジッとお皿を。


    眺めていた。


    私も隣に座り。


    「お誕生日、おめでとうございます。」


    小さく頭を下げると。


    「よく知ってるね。」


    こっちを見て、
    目を細めた。


    あ、


    すっごい優しい、目。


    ホッとした。


    「ヤスさんから聞きました。」


    ナツさんは。
    口の端を持ち上げて。


    「そうか。」


    言いながら煙草を消した。


    「食べて下さい。」


    「ん。」


    ナツさんは。


    フォークとナイフを、
    手に取ると。


    それにナイフを入れた。


    うまく…出来てるかな。


    「…………。」


    もぐもぐ、と。
    小さく口を動かして。


    「ど、どうですか?」


    やっぱりダメ、かな。


    ひーん(涙)


    「どうやって…。」


    「え。」


    「どうやって作ったの?」


    これ、と。
    ナツさんは。


    本当に驚いた顔。


    「覚えてる人がいたんです。」


    「…………。」


    「長い付き合いなんですね、ヤスさんとは。」



    “俺、ブランカで働いてたから”


    “あっそうなんですか!?”


    “おうよ。あそこのハンバーグはオーナーの好物だよ。”


    “そうだったんだ…”


    「おばぁちゃんに直接聞いた方がベストだったんでしょうけどね。」


    「…………。」


    「でもヤスさんはブランカの味をちゃんと覚えてました。」


    おいしいおいしい、


    ハンバーグ。


    デミグラスソースは、
    苦労したけど。


    「辛い時、よく、食べに行ってたんじゃないですか?」


    だからこの前も。


    「…………。」




    「私もナツさんの為に、作らせてください。」





    「………カズ。」



    「これからは。」



    凝った愛の告白かな。


    でもナツさん。


    私はあなたが辛い時。


    こんな事しか出来ないけど。









    でも私の精一杯なの。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■10952 / ResNo.69)  和美のBlue 60
□投稿者/ つちふまず 大御所(994回)-(2005/07/15(Fri) 23:41:37)
    「…………。」


    ナイフとフォークを、
    お皿に置いて。


    ナツさんは目を伏せた。


    「いえ、そんな…、た、食べて下さい。ねっ?」


    こういう時位、
    テンパらずにいたいけど。


    できない私(涙)



    「おいしい。」



    ナツさんは満足したように、またハンバーグにナイフを入れた。


    「良かったー。」


    胸を撫で下ろした。


    「カズの分は?」


    ないの?とナツさん。


    「いえ、実は…。」


    あります。
    ちゃんと(笑)


    「ホールで食べようか。」


    「あ、はい、」


    二人同時に、
    立ち上がった瞬間。


    ブーブーと。
    携帯のバイブが鳴る音。


    ナツさんのだ。


    「ちょっと待って。」


    デスクの上にある、
    携帯を手に取る。


    私に背を向けて。


    「…もしもし。」


    “あ!ナツ!やっと繋がった〜!!”


    相手の声は、
    かなり大きいのか。


    丸聞こえ(汗)


    「何?」


    ナツさんはあくまでも、
    冷静。


    “何?じゃなくて…誕生日でしょ?今から家に…”


    「悪いけど。」


    一つ息を吸い込むような。


    そんな感じがした後、


    「今日はダメ。」


    “えー?何で?…”


    「ん…。」


    ナツさんは、


    少しの間を空けた後。


    また息を吸い込んで、



    「…今日だけじゃない。もう会わない。」




    え、


    あ。あら…。




    “ちょ、待って、なんで…”



    せっぱつまった、
    声が聞こえる。


    その瞬間。
    ナツさんは振り返った。









    「好きな子がいるから。」







    “…え?”










    「今わかったんだ。じゃ。」





    ピッとナツさんは。


    携帯を切って。


    デスクに置いた。




    今、わかった。


    …………今。




    「行こうか。」


    テーブルの上にある、


    ハンバーグのお皿に。


    手を伸ばした瞬間。





    「待ってナツさん。」



    「ん。」



    声が震えた。


    でもその腕を、遮って。







    私はナツさんの胸に、
    飛込んだ。



    「……ナツさん。」


    「ん。」


    背中に回される、手。
    少し力が籠るのがわかる。


    「……本当に?」


    首筋には。
    何も見えなかった。


    「………ん。」


    本当、と小さく。
    聞こえた瞬間。


    私の体は、







    どうしようもなく震えた。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/

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