| タバコは徐々に。 短くなって。
履いていたサンダルの裏に、押し付けた後に。
バス停に設置されていた缶詰の灰皿に捨てた。
「売って正解だったんだ。どうせ長くは持たないと思ってた。」
だからリョウに対して。 そこまで悪くは思えない。
プライドはあったけれど。
「ナツさんの失敗…か。全然想像つかないけど。」
「リョウが建て直すよ。」
心配ない。 あの子は優秀過ぎる位。
一県に一人位のね。
「全部置いて来たんでしょ?」
もう噂になってるわ、と。 ブルガリのブレスレットが小さく揺れた。
「ん。置いて来たよ。」
「もったいない…。」
マセラティ売ってくれれば、と。サキは小さく笑った。
「ここには必要ない。」
静かな街並みや。 自然と、 歴史と、
海がある。
「あの子だけで充分って訳ね。」
かっこいい〜、と。 ふざけた口調で。
「それだけじゃない。」
「え?」
「家族もいる。」
うるさい親父がね。
「え、本当に?」
「ん。」
「知らなかった。」
「誰も知らないよ。」
店の人間だって、 知ってるのはカズだけだし。
思えば父さんは。
やけにカズの事を、 気に入っている気がするな。
父娘そろって…。
「ナツさんがそんな顔するの、おかしい。」
「ん?あ……。」
顔が緩んでたか。
「信じられない。」
「ん?」
「全てを手にしてたのに。」
「………。ふ。」
「気付くと鎌倉で、ジーンズとヨレヨレのシャツで、ビーサン履いて、」
「ふふ。」
「女の子とバケツ片手に歩いてるなんて…。」
わからない、と。 サキは夜空を見上げた。
「確かに…。」
すごい変化かな。
「あの子が知ったらひっくり返るんじゃない?ナツさんのワルっぷり。」
「ん…。かな。」
「金、女、酒、ドラッグ、なんでもござれの越後屋だったのに。」
そんなイメージか。 ま、仕方ない。
「わからないなぁ……。」
私にはわかる。
色んな物を失って。
もうここしかないと、 思った時。
…あの子が作ってくれた。
あの時私は。
本当の自分の居場所を確認出来た気がして。
嬉しかった。
純粋に嬉しかったんだよ。
(携帯)
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