ビアンエッセイ♪

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■11037 / ResNo.90)  和美のBlue 77
  
□投稿者/ つちふまず 大御所(1015回)-(2005/07/19(Tue) 08:26:48)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    タバコは徐々に。
    短くなって。


    履いていたサンダルの裏に、押し付けた後に。


    バス停に設置されていた缶詰の灰皿に捨てた。


    「売って正解だったんだ。どうせ長くは持たないと思ってた。」


    だからリョウに対して。
    そこまで悪くは思えない。


    プライドはあったけれど。


    「ナツさんの失敗…か。全然想像つかないけど。」


    「リョウが建て直すよ。」


    心配ない。
    あの子は優秀過ぎる位。


    一県に一人位のね。


    「全部置いて来たんでしょ?」


    もう噂になってるわ、と。
    ブルガリのブレスレットが小さく揺れた。


    「ん。置いて来たよ。」


    「もったいない…。」


    マセラティ売ってくれれば、と。サキは小さく笑った。


    「ここには必要ない。」


    静かな街並みや。
    自然と、
    歴史と、


    海がある。


    「あの子だけで充分って訳ね。」


    かっこいい〜、と。
    ふざけた口調で。


    「それだけじゃない。」


    「え?」


    「家族もいる。」


    うるさい親父がね。


    「え、本当に?」


    「ん。」


    「知らなかった。」


    「誰も知らないよ。」


    店の人間だって、
    知ってるのはカズだけだし。


    思えば父さんは。


    やけにカズの事を、
    気に入っている気がするな。


    父娘そろって…。


    「ナツさんがそんな顔するの、おかしい。」


    「ん?あ……。」


    顔が緩んでたか。


    「信じられない。」


    「ん?」


    「全てを手にしてたのに。」


    「………。ふ。」


    「気付くと鎌倉で、ジーンズとヨレヨレのシャツで、ビーサン履いて、」


    「ふふ。」


    「女の子とバケツ片手に歩いてるなんて…。」


    わからない、と。
    サキは夜空を見上げた。


    「確かに…。」


    すごい変化かな。


    「あの子が知ったらひっくり返るんじゃない?ナツさんのワルっぷり。」


    「ん…。かな。」


    「金、女、酒、ドラッグ、なんでもござれの越後屋だったのに。」


    そんなイメージか。
    ま、仕方ない。


    「わからないなぁ……。」


    私にはわかる。


    色んな物を失って。


    もうここしかないと、
    思った時。





    …あの子が作ってくれた。





    あの時私は。


    本当の自分の居場所を確認出来た気がして。




    嬉しかった。








    純粋に嬉しかったんだよ。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■11038 / ResNo.91)  和美のBlue 78
□投稿者/ つちふまず 大御所(1016回)-(2005/07/19(Tue) 08:33:48)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    もうそろそろ、
    と思い。


    腰を上げた時。


    「何であの子な訳?」


    めちゃめちゃ普通じゃない?と、皮肉たっぷりな口調。


    「……んー。」


    思わずまた腰掛けた。


    「遊びじゃなさそうなのが、また意外だし。」


    「遊びじゃない。」


    あの子は違う。


    「帝王ナツさんも遂に落ち着いた訳?」


    「落ち着いてないよ。」


    「え?」


    「不安で仕方がない。いつかこの子も…離れて行くのかな、と思うとね。」


    「……それがめちゃめちゃ意外。なんだけど。」


    何か聞きたくない、と。
    サキは耳を抑えた。


    「かもね。」


    「ふふ。」


    サキは抑えた耳から、
    手を離した。


    「飽きるんじゃないの〜。」


    どうせ、と。
    サキはカマをかけるように。


    「飽きない。」


    「あらあら。」




    飽きる訳がない。


    だって。


    ハンバーグは好きなんだよ。






    「明るいんだよ。あの子。」


    「……確かに、おめでたそうな子だったわね。」


    「ん。それがいい。」


    カズは。


    一人のくせに。


    欲しい物なんてまるでない、
    みたいな。


    嘘臭い人生観。
    すれてない目。


    私は何処に置いて来たのだろう。


    「………意外。すっっごい意外。」


    「娘みたいなもんだよ。」


    「それって…。」


    何か違くない?
    とサキ。


    「違う?」


    「恋愛対象じゃないって事じゃない?」


    「それはわからない。」


    「え?」


    「そもそも恋愛って物に対して現実味を感じない。」


    「傷付くわ……。」


    「失礼。」


    「ま、幸せに。また戻って来そうな感じしますけど。」


    東京に、と。
    言いながら、
    サキは立ち上がった。




    「……戻らないよ。」




    もう戻らない。
    私の場所は。


    ここだと決めた。


    「そんな優しい目で見ないでくれる?」


    「……失礼。」


    「そんなナツさんは見たくない。じゃね。」




    ずっと待たせていたタクシーに、素早く乗り込んで。


    振り返る事なく、
    サキは去って行った。







    見上げると。
    うっすらと。


    夜空の所々、
    雲が見える。







    変わった、か。


    確かに。







    早く帰らなきゃ。


    あの子が待ってる。







    カズは泣き虫だから。









    走って帰ろう。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■11039 / ResNo.92)  和美のBlue 79
□投稿者/ つちふまず 大御所(1017回)-(2005/07/19(Tue) 08:39:25)
http://www.hamq.jp/i.cfm?i=tsuchifumazu
    「ただいま。」


    「23、24…あ、おかえり、なさい。」


    びっくりした。
    こんなに早く…。


    ナツさんは30分位で、
    戻って来た。


    「カズ。何…してるの?」


    フローリングに。
    座っていた私を。


    不思議そうに見下ろした。


    「え?あ…腹筋してました。」


    見付かっちゃった(涙)


    「腹筋?こんな夜中に…。」


    「邪念を取り払いたい時やるんです。」


    「………。」


    「自分の中で、やだなって思う気持ちが産まれた時に。」


    やきもちとか。


    疑いとか。


    「結構スッキリするんですよ。」


    私が笑うと。


    ナツさんはキーをソファに投げて。私の隣にしゃがんだ。


    「腹筋…ね。」


    手を伸ばして。


    私の頬に触れた。


    私は思わず、
    うつ向くと。


    「また泣かせた。」


    涙の跡は。


    消えてなかったのかな。


    たどるように、
    長い指が触れる。


    「あくびしすぎたからです。」


    多分、と。


    ナツさんの手を。
    払おうとすると。


    「…………。」


    その手を掴まれて。


    見るとナツさんは。
    私の目を覗き込んだ。


    「…ダメ。」


    「え?」


    何が?


    「もう離さないって決めた。」


    ナツさんの手に力が籠る。


    「………。」


    不思議だなと思った。


    「カズ?」


    「……。」


    涙は何故か。
    同じ通り道を辿るんだもん。


    「おいで。」


    抱き寄せられて、ナツさんの肩に私の頭が乗るように。


    ナツさんのシャツが少し汗ばんでいたから。


    その時やっと。


    急いで帰って来てくれた事に気付いて。


    「だって…絶対……っ。」


    「……ん?」


    絶対。




    「帰って来ないと思ったんだもん!」




    「……ごめん。」




    よしよし、と。
    背中を撫でられて。


    私は子どもみたいに。
    声を上げて泣いた。




    本当は大人っぽく、
    行きたかったのにな。



    「…ふぇ。……ううっ。」


    「………。」


    「………っ!」



    少し強引にキスをされたから、


    私も少し乱暴に。


    ナツさんの頭を抱えて。


    涙まみれのまま唇を交した。







    私の意識は、そこまでで。


    眠ってしまったと気付いたのは、








    次の日の朝だった。


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■11070 / ResNo.93)  和美のBlue 80
□投稿者/ つちふまず 大御所(1018回)-(2005/07/20(Wed) 00:33:15)
    翌朝─


    んー。む……。


    今日は涼し…。


    ん?


    うちのベッドって…。


    こんなひろ、


    あれ!?


    目を開けた。


    白い天井。


    寝室のブラインドから。
    差し込む、
    夏の日差し。


    新築独特の匂い。


    「あ、そっか…。」


    ナツさん家だった。


    広いベッドに一人。
    ナツさんはいない。


    ベッドから降りると、
    フローリングがひんやりして。


    クーラーが効いていた事に気付いた。


    リモコンを探してオフにして、リビングルームへと。




    広いシンプルなリビングに立つと、ナツさんの気配はなかった。


    出かけたのかな。


    キョロキョロと見渡すと。


    リビングテーブルの上に。


    メモ書きがあった。


    それを手に取る。


    “一時位には戻るよ。冷蔵庫に、朝食が入ってるから。”


    二行だけの文章。


    それを持って、
    冷蔵庫を開ける。



    「わ♪♪」



    美味しそうなマンゴーが、二つに割られて、ラップしてあった。


    ちょこんとスプーンも。
    その上に。


    「わーい♪」


    両手でそれを持って。
    リビングへと座る。


    美味しい〜☆


    パクパクと。
    口を動かしていると。




    あれ、そういえば。
    今何時なんだろ(汗)


    部屋を見渡すと、
    時計がまだ無い事に気付いて。


    外を見ると、
    もう陽が高かった。


    お昼は過ぎて…るのかな。


    あ、そうだ。


    テレビ付ければ…、


    リモコンを探して。


    電源を入れる。


    ブン、と大画面に。


    わあっ!大きい…。


    初めて見る42型。
    改めて。


    「映画館みたい…。」


    感動していた(涙)



    すると─


    「ただいま…。あっ!」


    玄関から声。


    の後にパタパタと。
    何かが床を駆ける音。


    帰って来たのかな?


    リビングを歩いて、
    扉に向かおうと…。


    え?


    見るとドアを。


    何かがカリカリと。


    下の方を掻いてる。


    え。


    え?


    「わんぱくめ…。」


    ナツさんの声。


    私はドアを開けると、




    「…………あ。」



    ぬいぐるみがちょこんと、
    そこにお座りして。



    黒い毛と。
    クリクリした瞳。
    太い足と。
    合間に茶色い毛並。



    「きゃあ!可愛い〜!!」



    しゃがんで頭を撫でると。


    「……ただいま。」


    疲れた様子のナツさんが。
    玄関にいた。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■11071 / ResNo.94)  和美のBlue 81
□投稿者/ つちふまず 大御所(1019回)-(2005/07/20(Wed) 00:35:45)
    玄関から上がったナツさんは。


    ヒョイと。
    子犬を持ち上げて、


    私の胸の辺りに。
    抱かせてくれた。


    もこもこ♪


    「可愛い〜!買ってきたの?」


    ちょっと重いけど。


    ハッハッと舌を出して。
    大きな頭。
    すんごい愛敬。


    「ん。これで子犬だから。大きくなるよ。」


    「なんていう犬ですか?」


    「バーニーズマウンテンドッグ。」


    ナツさんはそう言って微笑んだ後に。


    「ゲージ車に取り行って来る。」


    また部屋を出て行った。


    「ふふっ。」


    よしよし♪


    ソファの上に降ろすと。


    キョロキョロと頭を振って。ここはどこ?とばかり。


    黒いクリクリした子犬らしい毛。の合間から。またクリクリした瞳が特徴的。


    「可愛いーっ!」


    メロメロ♪


    すぐにナツさんは戻って来て。


    リビングの窓際に、
    ゲージをセットした。


    さすがに大型犬用。
    大きなゲージ。


    「さて…と。」


    「出来たみたいだよ〜。」


    胸に抱いたその子を。
    入れ…、


    「カズ、入って。」


    「はい?」


    「いや、冗談。」


    「………。」


    言うと思った。


    ごめんごめんとナツさんは笑いながら、その子を抱いて。


    シートの上に乗せた。


    「びっくりしましたよ。こんな可愛い子連れて来て。」


    二人で覗き込む。


    「ん。ずっと飼いたかった。」


    ナツさんは、
    子どもみたいな目で。
    その子を見ていた。


    「この子男の子ですか?」


    下半身を覗き込むと。


    「いや、女の子。」


    「やっぱり。」


    「何やっぱりって。」


    「冗談です。」


    私が笑うと。


    「名前決めないと。」


    見るとその子は。
    クーラーの快適さを、
    もう覚えたのか。


    ちょっとうとうと…。


    「ですね…。あ、寝そう(笑)」


    「カズにしよう。」


    「やめてください。」


    「冗談だって。」


    「ナツにします。」


    「無理。」


    「冗談ですって。」


    「よく寝れた?」


    見るとその子は。
    むちむちした体を少し丸めて。


    ふーと一息着いた。


    「はい。昨日は…すみません。」


    わがままだった、よね。


    「私は眠れなかったよ。」


    クアと一つ。
    ナツさんは欠伸。


    「え、なんで?」


    「…………。」


    教えてはくれなかった(笑)







    んも〜(照)

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■11072 / ResNo.95)  和美のBlue 82
□投稿者/ つちふまず 大御所(1020回)-(2005/07/20(Wed) 00:38:34)
    それから仕事に行くまでは。二人でゲージを囲んで。



    「ゴン太!」


    「メスだよ…カズ。」


    「んーじゃあベス!」


    「シンプル…却下。」


    「ナツさんも考えてよー!!」


    「んー。」


    「ナイスな名前で♪」


    「む…。」


    「かつ可愛いやつで〜。」


    「うーん。」


    「みんなが呼び易いやつ…。」


    「駄目、無理。」


    思い付かない、と。
    ナツさんは両手を上げて。


    「んも〜。」
    「時間だ。」


    ナツさんは腕時計を見た。


    「えっ!!今何時ですか!?」


    「四時半。」


    早いな、とナツさんは溜め息をついた。


    「ちこくーっ!!」


    マズイよー!


    バタバタと。
    寝室に置いたバッグを、
    取りに行こうと。


    ナツさんも立ち上がって。


    「急いで。タイムカード切れないよ。」


    優雅なナツさんの一言…。


    んもう(涙)


    「ナツさんも早く入店して下さいよ〜!」


    超特急で、
    玄関に向かう。


    「いいの、オーナーは。」


    ミュールを引っかける私に。後ろから笑いながら。



    …あ、そうだ。


    やっぱりこういう時って…。


    “行って来ます”


    かな?


    うきゃーっ!
    照れるーっ!!




    「すぐに行くよ。」



    相変わらず、
    テンパる私を。
    なんのその。


    ナツさんは私に近付いて。
    私の腰の辺りに腕を回して。


    わわわわ。



    「行ってらっしゃい。」



    頬に一回。
    優しくキスされたもんだから。



    さ、先に。


    「言われちゃった、んもー…。」


    悔しい(涙)


    ナツさんは“何?”
    と言いたそうで。


    「何でもないですー。」


    首に手を回して。


    唇を開いて。


    少し深くキスした。


    「……ん、行ってきます。」


    唇を離すと。


    ナツさん…。


    あ。


    あれ?


    少し驚いた様な目で。
    長い睫毛をパチパチと。


    「なんですか?」


    私は手を緩めても。
    ナツさんは腰に回した手を。


    離してくれなかった。


    「あ…いや、なんでも。」


    ないよ、と。
    少し慌てたように。


    手を離した。


    ふふ。
    変なの…。


    「行って来ます。」


    改めてドアを開けながら言うと。


    ナツさんはハラハラと。
    何故か苦笑いで。


    手を振ってくれた。




    ものっすごいニヤニヤで。





    和美の出勤(笑)


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■11073 / ResNo.96)  和美のBlue 83
□投稿者/ つちふまず 大御所(1021回)-(2005/07/20(Wed) 00:40:56)
    「何だカズ、締まりのない顔して。」


    「ふぇ?あ…いえ。」


    締まるはずがない。
    何せさっきまで…。




    ラブラブの大盛り♪




    大皿を抱えていた私に。
    ヤスさんは呆れたように。


    「またミソギするか?」


    腕をモリっとさせたので。


    「い、いいいらないです。」


    キッチンにお皿を下げに走った。


    ふふ♪


    むふふふふ♪


    あ、ダメ(笑)


    笑っちゃう。


    なんていうか?


    「いらっしゃいませ〜♪」


    声に色が付いて?


    「ふんふんふーん♪」


    思わず鼻唄とか?


    自然に出ちゃうんだもん。



    「おはようございます。」


    ホールから聞こえる声。


    あ、もしや。


    急いで戻る。



    夕陽に照らされたテラス。
    その向こうに見える、
    オレンジ色の空。


    やっぱりきちんとした、
    白のスーツ。


    手にはノートPC。


    やっぱり早く来てくれた♪


    ホールの一人に。
    何か指示してる…。


    むふふふふ♪


    あーダメ。


    真剣な顔のナツさんに、
    思わずまた顔が緩む。


    ペチペチと頬を叩いて。


    こちらに歩いて来るナツさんに。


    「お疲れ様です。」


    小さく頭を下げると。


    「ん。」


    いつも通りに…。


    ──ポン。


    え。


    ちょっとした衝撃。


    頭にそっと。
    手が乗って。


    振り返るとナツさんは。
    いつも通りに店内へ。


    あ。


    んも〜(照)


    また私の顔が。
    緩んだり。


    マズイと思って絞めたり。


    緩んだり絞めたり緩んだり絞めたり…。


    なかなか。


    これは慣れるまでに、
    大変かもしれません。


    とは言っても真夏の繁忙期。汗をかきかき。


    動き回る私。


    ナツさんもホールに立って。


    満員御礼の店内で。
    ずっと頭を下げて、


    お客さんの要望や、料理の感想を聞いて回っていた。


    このお店をもっと良くして行きたいっていう姿勢が。


    私をもっと一生懸命にさせてくれる。




    〜♪〜♪


    あ。


    レジの方向から。
    電話の音。


    誰もいない事に気付いて、急いでそれを取った。


    「ありがとうございます。ブルーポイントです。」


    「お世話になっております。マネージメントシステムの…、」


    知らない会社だ。


    「…スミ、と申しますが。」




    知らない名前だった。

    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■11074 / ResNo.97)  和美のBlue 84
□投稿者/ つちふまず 大御所(1022回)-(2005/07/20(Wed) 00:43:44)
    「オーナー。電話です。」


    キッチンにいたナツさんの背中に声をかける。


    「ん。わかった。」


    「マネージメントシステムの…スミさん、とおっしゃってました。」


    一瞬ナツさんの背中。


    動きが止まったように見えた。


    「ありがとう。これ、16番。」


    料理が盛られたお皿を。
    私の手に乗せて。


    ナツさんはレジへと向かった。


    ホールは数組の客で、
    かなりざわついていたから。


    電話を握るナツさんの声は、届くはずもなく。


    でも。


    ナツさんは何度か、


    微笑んで。
    頷いていた。


    電話を終えたナツさんの。


    シャツをチョイチョイと。
    引っ張りながら。


    「お客様ですか?」


    それとなしに聞くと。


    ナツさんは小さく、
    苦笑いをした後に。


    「私の店を買った人。」


    なんのためらいもない、
    声が聞こえて。


    買った…、


    え!?


    「それってナツさん…。」


    中目黒と、
    恵比寿の人?


    買収されたって、
    聞いてた。


    って事は、


    あんまりよくない、
    相手なんじゃ…。


    「誕生日プレゼント送ったって。」


    今夜届くらしい、と。
    ナツさんは言いながらも、



    何故か笑ってた。


    「え?あ…、はい?」


    全然意味が…わからない。


    「何処に置くかな」


    と。
    ナツさんは混んだフロアを。


    ぐるっと見渡した。


    ???


    「後でわかるよ。」


    私の頭を、


    また優しく。
    ポンと撫でた。


    私は眉と眉の間を。
    困らせて。


    ?マークで一杯のまま。


    仕事に向かった。




    閉店後─


    「お疲れ様〜。」


    みんなと裏へ下がろうとした時。


    「カズ。」


    テラスから店内に、
    入るナツさんに呼ばれた。


    「はい?」


    ちょっと体を寄せて。
    ナツさんを見上げると。


    「今日遅くなる。先帰ってて。」


    私を見下ろしながら言った。


    「は〜い。」


    ちょっと私が頬を膨らますと。


    「ごめん、犬お願い。」


    「あ、ですね。」


    そうだ〜。
    あの子一人っきりだし。


    「名前決めた?」


    「決めてない…。」


    そうじゃん(涙)


    「決めないとね。」


    ナツさんは微笑んだ。


    オーナーなんだけど。


    恋人なんだよね。


    なんていうか、


    こういうコソコソ話。




    結構好きかも(笑)


    (携帯)
引用返信/返信 削除キー/
■11075 / ResNo.98)  和美のBlue 85
□投稿者/ つちふまず 大御所(1023回)-(2005/07/20(Wed) 00:46:06)
    暗いナツさんのマンション。


    「ただいま…。」


    ガチャ、とドアを開けながら。


    あ、


    そだ。


    ただいまって(笑)
    なんかなんだか。


    照れちゃうけど。


    むふふふふ♪


    って笑ってる場合じゃなくて。


    「ワンちゃん〜。」


    サンダルを脱いで、
    リビングに入って。


    電気を着けると。




    窓際で丸まっていた、
    彼女が。


    「………クア。ウ。」


    明かりに気付いて、
    駆け寄る私に。


    「………ハウ。」


    アクビをしながら、
    濡れた瞳で。
    うんと体を伸ばして。
    短いシッポを揺らせた。


    「ごめんね〜ごめんね〜。」


    可愛すぎて泣きそう(涙)


    抱き上げると。


    ふにふにのお腹が。
    クルクル、と。


    「お腹減ったかな。」


    ナツさんが出かけに、
    用意してくれていたのか。


    子犬用のドッグフードが。
    キッチンにあった。


    「ふがふがふが。」


    うーん。
    さすがの食いっぷり(笑)


    背中を撫でながら。


    「名前何がいいかな?」


    いつまでも名無しじゃ。
    可哀想だもんね。


    食べ終えると、
    その場にお座りして。


    耳の裏をカシカシと。
    短い足でかいて。


    「可愛い名前がいいね♪」


    頭を撫でると。


    おすわりしたまま。
    ジッと私を見上げた。


    可愛い♪


    おとなしいなぁ…。


    「今日ナツさん遅いんだってー。」


    寂しいね(涙)


    見るとその子は。


    左右をゆっくり見た後。


    トテトテ、と。
    フローリングの床を歩いて。


    あらら。


    どしたの?


    私も後に続くと。


    リビングのドアに両足をかけて。


    「クー。」


    と一回泣いた。


    ………あら。


    短いシッポをフリフリと。


    「もしや…あなたも寂しい?」


    抱き上げると。


    ふーふーと。
    鼻が鳴る音がした。


    「行っちゃおっか♪お店♪」


    どうせナツさんしか、
    残ってないだろうし。


    この子も随分のんびりしてるのか、全然暴れない。


    「よーっし。レッツゴー!」


    子犬を抱いて。


    いざお店へ。




    隠れて楽しい事しちゃ、
    ダメなんだからね♪






    ナツさん♪

    (携帯)
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■11076 / ResNo.99)  和美のBlue 85
□投稿者/ つちふまず 大御所(1024回)-(2005/07/20(Wed) 00:49:45)
    パタパタと。
    夜道を渡って。


    海沿いの、
    車道に出ると。



    あ。


    へ?


    なにあれ?


    お店に寄り添うように。


    クレーン車が。


    何かを吊り上げて、
    テラスの方へ。


    抱いていたワンコを。
    思わず抱き直して。


    テラスを上がると。


    ナツさんがいた。


    クレーンで上げられたそれを見ながら。


    「そのまま、そこで。」


    運送屋さんみたいな人に、
    指示を出してた。


    早足でナツさんの側に。


    「ナツさん…。何あれ?」


    見上げながら。
    聞くと。


    「ああ、カズ。」


    お前さんもと、子犬の頭を撫でた。


    「新しいテーブルか何か?」


    ゆっくり降りてくる、
    毛布にくるまれた。


    かなり大きな…。


    「違うよ。」


    フッとナツさんは笑った瞬間、ドン、とテラスにそれが降りて。


    大きな音に。
    抱いていたワンコも。
    びくっと反応した。


    あ。


    あーっ!!


    下から見てたからわからなかった。




    「ピアノ…。」




    グランドピアノだった。


    「ナイス、リョウ。」


    ふふ、とナツさんは笑った。


    リョウ?


    「さっきの電話の人?」


    「ん。商売敵からの誕生日プレゼント。」


    ナツさんは。
    作業に当たっていた人達に。


    「そこから店内へ。」


    グランドピアノを、
    店内へ運ぶ用に指示した。




    プレゼント、……って。



    は。



    は?



    はあーー!?







    セレブのプレゼント。


    それにしては。







    派手、過ぎ(汗)







    作業を終えて。


    店内は前もってナツさんが二席ほど減らしていたみたいで、


    ピカピカのグランドピアノが…。



    「すごーい!すごい!」


    子犬をリードで繋いで。
    ピアノに駆け寄ると。


    「調律済みかな。」


    ナツさんは扉を上げて、


    ポーンと一つ鍵盤を。
    叩く。


    「本物だ…。」


    響く、ソの音。


    「調律済みだね。」


    ナツさんは満足したように。
    微笑んだ。


    「まさか…ナツさん。」


    いや、ナツさんなら。
    全然ありえる。


    「ん?」


    「ナツさん弾ける…、」


    とか、ですか。
    あの。


    「ん。たしなむ程度ね。」


    微笑みながらグーパーと。
    両手を上げる。



    あの。


    すんごい。




    上手そうなんだけど(汗)

    (携帯)
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