| 「あっつ〜」
何なんだ、この暑さは。 好きな暑さじゃない。7月なのに何かこう、じジメジメしている。
生徒に頼まれた資料を取ろうと、私は準備室の前に立ち鍵を開けた。 瞬間、ムシッとした空気が流れ出る。
開かれた窓からダラダラとした風が入り込みカーテンをフワッと揺らしていたのだ。
閉め忘れ‥不用心だな。 そんなコトを思っていたら
「‥んあっ!?」
揺れたカーテンの隙間、蒼白い足が見えた気がした。 驚き、思わず声が出る。
‥いや、今は授業中だし。それに鍵は閉まっていたから人はいない筈だ。
そう自分に言い聞かせながら恐る恐る窓に近づいた。 非現実的なコトは嫌いだ。
「あ〜」
「‥はっ!?」
やっぱり足だ!と思ったのと同時。確かに、気の抜けたような声が耳に入った。無意識にまた声が上がる。
驚いて勝手に腰が引けてしまい、足が後ろに下がる。 そのまま声のした方、ユラユラと揺れるカーテンを見つめた。
「‥あー?先生?」
そこから現われたのは‥見たことのある顔。
襟足だけを伸ばし自然に立ってしまう程短くした天辺と、シルバーのピアスに飾られた耳がチラチラと見えるサイド。一際目立つように染められた、髪。 そこから続く、綺麗なフェイスライン。
長谷山汐梨。
そう、彼女の名前。
「‥今授業中なんだけど?何してるの?」
人間だと解ったからいつもの冷静さが戻ってきた。 だからその調子で私は聞いた。
「や、別に。ココ涼しいから、ちょっと休憩してた。」
薄い唇をニッとあげると、彼女は言った。 しかし切れ長の目が、笑っていない。
「鍵、どうしたの?」
嫌でも目立つ生徒だった。職員会議でしょっちゅう名前が上がっていたから。
「簡単〜♪」
そう言うと彼女はご丁寧に、ヒラヒラと手にある針金を見せてくれた。
(携帯)
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