| 生徒名簿。 いつもは、"/"がついている長谷山汐梨の欄。
今日は、ついていない。
「それでは授業を始めます。」
3Bの授業。
汐梨の出席に、心臓が高鳴った。
「でさ〜」 「えっ!まぢ!?」 「ありえね〜」
授業開始をはっきりと告げているにも関わらず、相変わらずのうるささに嫌気がさす。 特に6時間目の授業は、寝てるかおしゃべりかで。 チョークの音も無意味にかき消されてしまう。
悪い子達ではない。 ただ、あまり頭の良いクラスではないから、"数学"と聞いただけで始めからあきらめてしまっているのだ。 それをどうにかするのも私の仕事なんだけど。
「ですから、x=は‥」
努力はしているのに報われない事が多い。 優しくすればケジメが無くなるし、恐くすれば文句を言われて無視される。
「ってか何で長谷山さん来てるの?」 「知らな〜い。」 「確か長谷山さんってさ‥」 「え、何なに!?」
いつしか話題は長谷山汐梨のものとなっていた。 私に聞こえてるのだ、汐梨にも聞こえているだろう。
彼女達にはxが何であろうと関係ないのだろう。まぁそんなもんだ。 ‥けれど、その話題は気に入らないな。
「なんかね、結構ヤバいことしてるらしいよ〜!」 「え、どんな?」 「聞いた話なん‥」
バン――ッ!!
教卓を力一杯叩いた。 それ以上は聞きたくなかったから。
「いい加減にしなさい。今は授業中よ、わかってる? そんなに喋りたいのなら出ていきなさい。」
勢いのまま喋り続ける自分がいた。 何故かこんな時も、口調は冷静なまま。 癖って、恐いね。
「・・・」
静まり返ったクラス中を見渡す。
顔を上げているのは数人。 その中でも一際は熱い視線を感じた。
『‥すごく可愛い。』
汐梨だ。
その視線に思わず昨日のコトを思い出してしまう。
いや、ダメだ。忘れろ、と。 そう自分に言い聞かせ、その視線から目を逸らした。
そのまま授業の終わりを告げるチャイムが鳴るまで、教科書通りのつまらない授業を続けていった。 私なりの、精一杯の強がりで。
(携帯)
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