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■12814 / 親記事)  BLUE AGE─U
  
□投稿者/ 秋 一般♪(6回)-(2005/09/12(Mon) 15:58:19)
    ─青。


    それは可能性。
    それは未知なる広がり。


    深みを増して、
    けれどなお澄み渡る。





    透明な時代も、

    残りわずか──







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■12898 / ResNo.1)  秋さ〜ん!(>▽<)
□投稿者/ よー 一般♪(1回)-(2005/09/14(Wed) 00:13:15)
    1番げっと(笑)
    blue ageずっと更新待ってましたよ☆
    読みきりの方も読ませてもらいました。
    続き楽しみです!

    上手な感想文句を持ってないから上手く言えませんが、んも〜、すごく面白いです!
    更新いつまでも待ち続けるので、頑張ってください♪


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■12903 / ResNo.2)  よーさんへ。
□投稿者/ 秋 一般♪(34回)-(2005/09/14(Wed) 01:15:31)
    私の気紛れな更新を待つと言ってくださって、とても嬉しいです。
    のんびりしたペースで書いてはいますが、そろそろ終わりも見えてきました。一年越しでしっかり完結させたいと思っているので、最後までお付き合いくださいm(__)m
    ストレートな言葉は真摯に伝わります。ありがとうございました。


    (携帯)
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■13256 / ResNo.3)  NO TITLE
□投稿者/ hina 一般♪(1回)-(2005/10/09(Sun) 19:10:49)
    秋さん
    貴方の言葉はとても親しくまっすぐなのに読者と距離を置いてるように感じます
    私は貴方に近付きたい
    どうすればいいですか?
引用返信/返信 削除キー/
■13667 / ResNo.4)  hinaさんへ。
□投稿者/ 秋 一般♪(2回)-(2006/02/16(Thu) 15:28:01)
    「秋」はネットの中の存在であり、実際の私とは異なります。
    だからhinaさんにそう感じさせてしまったのも必然なのかもしれません。
    ですが、確かに私はここに居て、呼ばれればこうして応えます。
    それではだめでしょうか。


引用返信/返信 削除キー/
■13668 / ResNo.5)  ─restrict
□投稿者/ 秋 一般♪(3回)-(2006/02/16(Thu) 15:28:46)
    2006/02/16(Thu) 15:29:54 編集(投稿者)

    あ、まただ。

    彼女の姿が目に留まって、私は小さく息を吐き、そちらへと向かう。

    「こら、樋山。その制服の着崩し、何とかならない?」

    欠伸を噛み殺しながら教室へと入ってきたその人は、私をちらりと一瞥してもう一度大きく欠伸をした。

    「もう、ほんとにだらしないなぁ。ネクタイちゃんと締めて。上履きだって履き潰しちゃってるんだから。せめてシャツのボタンくらいきちんと留めなさい」
    いつも注意してるでしょ?と、彼女のシャツに指を伸ばして外れたボタンに手を掛けた。

    「はいはい、ごめんなさい」
    されるがままの樋山は大して反省を感じさせない口調で頭を下げる。

    「風紀委員長様の手を煩わせてほんとにすみませんねー」
    委員長自ら勧告してくれて感激ですよ、言いながら欠伸を一つ。

    「…服装ごときで毎回毎回目くじら立ててうるさいやつだなぁって?」

    かちんときた私は、ボタンを留め終えた胸元をとんと押して精一杯の嫌味を言ってみる。
    樋山はというと、あははと邪気なく笑い、
    「そこまで言ってないじゃーん。やだなぁ委員長」
    愛想の良い目元をふにゃりと緩めた。

    「委員長に構われるの嫌いじゃないし、あたしがだらしないから注意してくれんでしょ?」

    樋山は眼前で恭しく手を合わせて「感謝してます」と、私を拝んだ。


    …ずるいなぁ、この子は。
    こうやっていつも樋山のペースだ。
    邪気をすっかり抜かれた私はただ苦く笑むしかない。
    はぁ、と。
    溜め息を吐いた時。


    「──…でもね」

    拝む顔を上げた樋山は─

    「窮屈なのは嫌いなんだ」

    自身の首元から一気にボタンをひとつふたつと外した。
    うっすらと、白い肌と鎖骨が覗く。

    「締め付けられるのは苦しいでしょ」

    樋山は愛想良く垂れる瞳を鋭く光らせ、にっと笑った。


    それで私は、いつも何も言えなくなる。
    ふにゃふにゃと愛想の良い樋山の瞳は、とても優しく、そして時々冷たい。





    委員会が長引くのはよくある事。
    今日も風紀委員会は、生徒達の風紀の乱れについての議論で大盛り上がりだった。
    話し合いを終え、書類を仕上げた頃には会議室には既に私一人。
    この分では校内の生徒もほとんど下校しているだろう。
    薄暗い廊下を歩きながらそう思ってみる。
    まだ夕方だというのに、外はすっかり夜の気配。
    冬の空だな、と。
    窓から差す月の光を頼りに廊下を歩いた。
    見慣れた自分の教室の前を通り過ぎようとして、その足を止める。
    目を凝らして見てみると、窓際の席に突っ伏している人影が月明かりに浮かんでいた。

    ゆっくり近付く。
    寝息を立てるその人の肩にそっと触れて。

    「樋山」

    名を呼んだ。

    珍しく樋山は、一度声を掛けただけでもそもそと身を起こした。
    「ほら、起きて。帰ろ?もう暗いよ」
    「んー…」
    目を擦りながら立ち上がる樋山。
    やっぱり制服を着崩している。
    「起こしてくれてありがとね」
    樋山はふにゃりと笑うと、くるりと背を向けて出口へと歩き出した。

    束縛が苦手な樋山。
    窮屈なのが嫌いな樋山。
    それが何だ。
    知った事か。
    私は風紀委員長の使命を全うするのみ。

    悪戯心が芽生えた私は前を歩く彼女を追い掛け、その背中に思い切り抱きついた。
    首に腕を回し、きつくきつく締め付ける。

    「縛られるの、嫌いでしょ?」

    耳元で甘く甘く囁いてやった。

    さぞかし驚いている事だろうと口元が綻びそうになるのを堪え、冗談だよと回した腕を緩めようとすると─



    「こんな枷なら悪くはないね」



    優しい声が私に届いた。


    振り払われると思っていた腕には、意外にも彼女自身の手が添えられて。
    戸惑う私は、重なった肌から伝わる熱に浮かされ、樋山の肩に顔を押し付けるしかなかった。
    くっくっと喉を鳴らす樋山が憎らしい。
    きっとその目はいつものように愛想良く垂れているに違いないから。




    縛りが解けるその前に、
    この火照りを冷まさなければ。



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■13669 / ResNo.6)  ─fallin'
□投稿者/ 秋 一般♪(4回)-(2006/02/16(Thu) 15:32:01)
    「あんたの話にはいつもオチがない」

    さもつまらなそうに、目の前のカナコは言った。

    「だらだらだらだら喋った揚句、で?続きは?それで終わり?なんじゃそりゃぁぁ!」

    一人憤慨しているカナコを余所に、あたしはまた何を話そうかとのらりくらり考え始める。
    「ねぇカナコ」
    話し始めようと声を掛けると、カナコはキッとあたしを睨み、
    「つまんない話したら怒るからねっ」
    オチをつけろオチを、と。
    もう怒っているじゃないかと思わずそう言いたくなるような口調でまくし立てるから。
    あたしは開いた口を再びつぐんで、うーんと腕を組んで頭を捻った。
    そして、椅子に腰掛ける彼女の隣に屈んで、

    「あ」

    視線の少し上を指差した。

    カナコはあたしの声に釣られて顔を上げ、指先の方向をじっと見る。

    「何?何にもないじゃ──…」

    カナコの言葉を待たぬまま、あたしは空を仰いだ恰好の彼女の唇をそっと塞いだ。
    ゆっくり、顔を離す。

    「どう?話にオチついてた?」

    にやりと笑うあたしに、

    「…わたしが落ちたわ、アホ」

    カナコは俯きがちにぼそぼそと漏らした。


    その呟きを聞き逃してはあげないあたしは、にやっと口の端を持ち上げ。

    顔を必死に隠そうとするカナコの顎に手を添えて。

    わずかに上を向かせた彼女の額に、もう一度、キスを落とすのだ。



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■13670 / ResNo.7)  ─不器用な子供たち。《side A 》
□投稿者/ 秋 一般♪(5回)-(2006/02/16(Thu) 15:34:46)
    冬の寒さが体の芯まで堪える、一月も半ば。
    この日。
    授業中だというのに慌てた様子の担任が教室に飛び込んできて、笹木を廊下へと手招いた。
    そっと、担任は笹木に耳打ちする。
    その瞬間─笹木の顔が青冷めて、普段の彼女らしからぬ足音を立てながら廊下を駆けて行った。
    そんな様子を、私達クラスメートはきょとんとした顔をして見送っていたんだ。
    すぐさまそのざわめきは授業の担当教師によって静められてしまったけれど。
    …数学なんかよりも。
    あんな悲痛な表情をした笹木の方が、よっぽど気掛かりだった。
    結局笹木は、荷物もそのままに教室へは戻って来なかったから。



    その日の放課後、寮に帰ってからようやく事の真相を知る。
    どうやら笹木の祖母が倒れたらしい。
    急を要する為、笹木は学校まで迎えに来た両親の車に乗り込み、そのまま祖母の元へ向かったと言う。
    だからしばらく寮には戻って来ない、そう寮監の先生に聞かされた。
    その間の代打寮長を、私と川瀬で代わる代わる引き受ける事になって。
    夜の見廻りをしながら、おばあちゃん子の笹木の事だ、容態が落ち着くまでは学校休むだろうな、大した事ないといいんだけど、そんな事を考えた。
    夜の廊下を一人歩く笹木は、いつも何を想っただろう。

    ─その日の深夜、笹木の祖母は息を引き取った。



    告別式や心身を立て直すのに費やしているのだろう、笹木が休み続けて十日が過ぎようとしていた。
    彼女の居ない教室はどことなくぎこちなくて。
    笹木の笑顔がここの空気を緩和していたのだと、改めて気付かされた。
    「笹木大丈夫かなー。もう一週間以上経つし」
    昼食用のメロンパンをかじりながら皐月が言った。
    「向こうから連絡ないからさ、こっちからもメールしづらいじゃん?」
    ねぇ?そう言う皐月に、パックのレモンティーを啜って私も頷いた。
    どうしてるのかなぁ、陽子や弥生も心配そうに口にする。
    川瀬だけは何を考えているのかわからないいつもの仏頂面で黙々と弁当を頬張っていたので、私は横目でじろりと睨み、ふんと鼻を鳴らした。
    …本当に、笹木はどうしているのだろう。
    レモンティーをまた一口、ずずっと啜る。
    椅子の背にもたれ、うーんと大きく伸びをしてみた。
    と─

    「皆、久し振り」

    頭上から降り注ぐ柔らかな、声。
    その姿を確認しようと、がばっと振り返った。

    「笹木っ!」

    皆が一斉に振り返る。
    ふわふわと微笑む笹木がそこに居た。
    「十日くらい顔を見てないだけなのに、すごく懐かしい気持ちになるね」
    そう言ってまた微笑む。
    急速に、場が和む。
    もう平気なの?落ち着いた?
    そう口々に話し掛けるクラスメートに、笑って応えている。
    程なくして、私達の元へ寄ってきた。
    「笹木。もう…大丈夫?」
    恐る恐る尋ねる陽子に、
    「…ん。無事にお葬式は済んだし。それにね、おばあちゃん、最期は眠るように逝ったの。私がいつまでも悲しんでたら心配されちゃうでしょう?」
    そう言って笑う。
    「でも今こっちに戻ってきたんでしょ?今日くらい休んで、部屋でのんびりしてれば良かったのに」
    そう言う皐月にも、
    「んー…午後の授業には間に合いそうだったからそのまま来ちゃった」
    笑って返した。
    そしてこちらに目を向けると、
    「茜と川瀬が点呼やってくれてたんだって?ありがとう」
    ふわっと笑む。
    「今日から寮に帰るから、ちゃんと私が仕事するね」
    また、笑う。
    いつもの笹木の笑み─…じゃない。

    笹木はいつも、涙を見せない。
    振る舞うのは笑顔だけ。

    だけどそんな痛々しいあんたを、私は見てられないよ。

    何も言わない私の顔を、どうしたの?怪訝そうに覗き込む笹木。
    「…無理しなくていいよ」
    私はぽつりと呟いた。
    虚を突かれたのか一瞬笹木はきょとんとして、すぐさま体勢を立て直した。
    また、ふふっと苦笑する。
    「茜?何言ってるの?」
    そんなに無理矢理笑わなくていいのに。
    私は自身の腑甲斐なさに、奥歯をぎりっと噛み締めた。

    笹木の家は両親共働きで、朝も晩もあまり笹木と顔を合わす事はなかった。
    聞き分けの良い子供だった笹木は、それに対して何の文句も言わなかった。
    代わりに、近くに住む祖母が、笹木の面倒を見てくれていたから。笹木のおばあちゃん。言わば、育ての親だったんだ。
    いつも近くに居てくれたから、幼い笹木は寂しくなかった。
    支えだった、祖母は。
    その支えが折れてしまって、あんたがそんな風に笑っていられるはずがないだろう?

    「ばればれなんだよ」
    今度ははっきりと、強く告げた。
    「──…え?」
    笹木の目が思わずといった感じで、緩む。
    「高校からのあんたしか知らないけどね、そんなに浅い付き合いしてきたつもりはないよ」
    私は真っ直ぐに笹木を見つめる。
    「何で我慢しようとするんだ。無理しないでよ」
    せめて私達の前だけでは。
    そう続けようとした時、
    「無理なんか──…」
    口元に笑みを添えたまま、笹木の頬を涙が伝った。
    「…あれ?」
    自身の手の甲で頬を拭う笹木。
    「おかしいなぁ…何でだろ…?」
    自分でも戸惑っているのか、ごしごしと目元を擦るが、流れ始めた涙は止まらなかった。
    「───…っ」
    笹木から笑みが消え、彼女は声にならない嗚咽を漏らした。
    そして─
    「──ごめんっ…」
    一言呟き、教室を飛び出して行った。
    残された私達。
    陽子と弥生は事態が飲み込めずにぽかんとしていたが、慌てて笹木の後を追って教室から出て行った。
    皐月は事の成り行きを見届けるように、少しも動じずメロンパンをかじっていた。
    さて、と。
    彼女達では笹木の居場所を掴めないだろう。
    私はぼけっと突っ立っている川瀬のブレザーの襟をぐいっと掴んだ。
    背の高い彼女を、下から睨みつける。
    「何してんだよ。早く行け」
    川瀬は、はぁ?と私を上から見下ろした。

    本当に癪だ。
    何でこいつなんだ。
    …でも、仕方ないんだよなぁ。

    私は更に川瀬を睨みつけ、掴んだ胸倉を引き寄せた。
    「何でわかんないんだよ!ルームメイトだろ?!笹木だっていつも笑ってるわけじゃないんだっ。泣きたい時もあるんだよ!あんた、あいつの笑顔に救われてるくせに、その笹木を一人ぼっちで泣かせとく気っ?!」
    川瀬は、切れ長の瞳を微かに見開いた。
    「…部屋に籠もって啜り泣いてるよ、きっと。どうせあんた、授業なんか寝てんだから、出ても出なくても変わんないでしょ」
    言いながら、すっと川瀬のブレザーから手を離す。
    ぽん、と。
    小さく肩を押した。
    瞬間─
    「あたし、早退するから」
    言っといて、と。
    耳元に低い声が届いて、川瀬はゆっくりとその長い足を踏み出した。
    徐々に加速し、教室から駆け出していく。
    そして私は、大きく息を吐いた。
    自分から泣かせておいて…と、少し苦笑する。
    完全に教室のドアから消え去った川瀬の背中を見送り。
    口には出さないものの明らかに呆れ顔をしている皐月に気付かない振りをする。
    どうせいつものように「ばぁか」とでも言いたいんでしょう?
    何故自分で行かないのか、と。
    何故川瀬に行かせるのか、と。
    何が馬鹿なものか。
    今の笹木には川瀬だ。
    川瀬の方がいい。
    私ではなく。
    元気な時に更なる笑顔を振り撒くのが私なら、川瀬は笹木の微笑みを取り戻す。
    それを私は知っていた。
    こんなところで気が回る自分を少し恨めしく思いながら、けれど力不足は認めていたから。
    さぁ笑え。
    私がここまでお膳立てをしたんだ。
    次にあんたを見た時は、きっと笑顔でいるはずだよね?
    私も皆も、ここに居るから。

    だから、ねぇ…頼んだよ、川瀬。

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■13671 / ResNo.8)  ─不器用な子供たち。《side C 》
□投稿者/ 秋 一般♪(6回)-(2006/02/16(Thu) 15:35:54)
    完全に核心を突かれた。
    あ、と思った時にはもう遅かった。
    笑う事もできなくなった私は、逃げるようにしてその場から駆け出していた──



    久し振りに足を踏み入れた寮は、昼間という事もあって閑散としていて。
    久し振りに中を覗いた自分の部屋は、ルームメイトの性格そのものに生活感がまるでないさっぱりとしたもので。
    その相変わらずさにほっとしながらも、立ち尽くしたままの私は、止まらない涙を流し続けた。
    けれど、これも性格というものね。
    私は声を殺して泣く術しか知らない。
    ただ頭が痛くなるだけで、こうする事でどうやってすっきりさせるのかなんてわからなかった。
    だから笑っていた方が楽なのに、それでも私の意志とは無関係に涙は頬を伝うから。
    …私には、この止め方さえわからない。



    「結局学校休んじゃった…」
    何の為に教室まで行ったんだか、と苦い笑みが漏れる。
    あんな風に立ち去った後では、
    「今更戻れないよね…」
    思う事をぽつりと呟いてみたら、

    「いいんじゃないの、戻んなくて」

    低く響く声が私を包んだ。
    とっさにドアの方を振り返る。
    「いっつも生真面目すぎるってほど学校行ってんだ。こんな時ぐらい休めば」
    息を切らせたその人は後ろ手に部屋の扉を閉めて、ゆっくりとした足取りで窓際に立ち尽くす私の横に並ぶ。
    「川瀬…?何で……」
    私の問いを無視し、川瀬は呼吸を整えながら床にどかっと座り込んだ。
    彼女の制服のシャツから覗く細い首筋には、うっすらと汗が滲んでいる。
    「もしかして走ってきたの…?」
    小さく尋ねると、川瀬はわずかにむっとしてぷいっと顔を背けた。
    この仕草を、私は彼女との生活の中でわかりつつある。

    照れているんだ。

    そう思うと少しばかり可笑しくなって、そして何だか気が緩んだ。
    溜まっていた何かを吐き出すように、喉の奥から鳴咽が漏れる。
    それを必死に止めようと、私は口元に両手を添えて体を丸めるようにしゃがみ込んだ。
    押し殺そうとして、それでも声は、想いは、溢れ出ては止まってくれない。

    息が詰まる。
    喉が熱い。
    胸が灼けてしまいそう。

    身を強張らせて、縮こまって、口元を両手で覆って耐える私に、


    「我慢するな」


    そっぽを向いて隣に座る川瀬が口を開いた。

    「いいんだよ、我慢しなくて」

    顔を向こうに逸らしたまま、言う。
    ゆっくりとこちらを振り向いた川瀬は、私を見つめながら静かに手を伸ばした。
    そっと、彼女の冷たい手の平が私の頬に触れて。
    じわりじわりと目元が熱くなるのを感じながら、私は固く目を閉じた。
    頬を、一筋の熱さが伝う。
    その瞬間、川瀬が私の頭を引き寄せた。

    「全部、吐き出しな」

    手の平の冷たさと裏腹にふわりと包まれた川瀬の胸の温かさは、きっと彼女自身の優しさだったのだと思う。

    「もう、いいから」

    「───…っ」

    ぽん、と頭を撫でられた瞬間、頑なだった何かは緩やかに崩れた。
    うっ、と。鳴咽が漏れる。
    次第にそれは大きくなって。
    私の背中に回された川瀬の腕は優しい熱を帯びていた。

    「泣きたい時は泣けばいい」

    相変わらずの素っ気ない声で川瀬は言う。
    そして続けた。

    「皆あんたの笑顔が好きなんだ」

    腕に、わずかに力がこもる。

    「だけど辛そうに笑う姿だったら見たくない」

    低く響く、穏やかな川瀬の声。

    「だから泣く時は泣いて、そしてまた笑ってほしい」

    優しく、優しく。冷たいけれど暖かい川瀬の指先が私の髪を撫でて。

    「…もしも笹木が泣きたい時は、あんた一人じゃ泣かせないから」

    また笑えるようになるまでこうしているよ、小さく漏らした。


    川瀬の腕の中は心地が良くて。
    うっすらと香る川瀬の匂いが私の鼻先をくすぐる。


    ─私はきっと、此処でなら安心して泣けるみたい。


    川瀬の腕に包まれた私は、この日、初めて泣いた。
    彼女の胸に額を押し付けて、ブレザーの袖をぎゅっと握りしめて、声とも取れない声を上げて。

    その間中ずっと、川瀬は私を抱き締めてくれていた。





    この腕が欲しい、と。
    側に居てほしい、と。
    そう、強く思った。


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■13672 / ResNo.9)  ─不器用な子供たち。《side S 》
□投稿者/ 秋 一般♪(7回)-(2006/02/16(Thu) 15:36:58)
    ─もしも笹木が泣きたい時は、あんた一人じゃ泣かせないから。


    小刻みに震える笹木の肩を抱きながら漏れた言葉は、多分、本心だったと思う。

    この日、あたしは初めて笹木の涙を目にした。
    いつもにこにこと穏やかに微笑んでいる笹木が、こんな風に声を上げて泣く姿を。





    腕の中の震えが、少しずつ、少しずつ、治まってゆく。
    まだわずかにしゃくり上げる笹木は、それでも呼吸を整えながら落ち着きを取り戻していた。
    あたしの胸に押し付けた顔を離し、俯きながら鼻を啜る。
    ゆっくりと顔を上げた笹木は涙で顔がぐちゃぐちゃだったけれど、確かに微笑んでいた。
    いつものように、微笑んでいた。

    「ありがと、川瀬」

    鼻声ではあっても、おっとりとしたいつもの口調。
    すん、と鼻をもう一度鳴らして、ふふっと笑う。
    真っ直ぐに向けられる笹木の瞳が恥ずかしくて、先程までの自分の言動が照れ臭くて、思わず顔を背けてしまいたくなった。
    だけど。
    傾きかけた顔を引き止めて、あたしも笹木を見つめ返した。
    きっと眉を寄せたしかめっ面なのだろうけれど、それでもあたしは精一杯に笑ってみせる。
    笹木のそれとは比べものにはならない、苦い、苦い、あたしの笑顔。
    そんなあたしに笹木は驚いたように目を見開いて、「今日は何だからしくないね」すぐにふわりと微笑んだ。

    またひとつ、涙がこぼれてしまったけれど。
    きっとそれは、悲しい雫じゃないはずだ。


    互いの体が離れた後も、あたし達は部屋の片隅で隣り合って座っていた。
    何も口にはせず、それぞれに違う方向を眺め、肩が触れ合いそうなわずかな距離を保ちながら。

    繋がれた手だけは、しっかりと結んで。





    薄情なあたしは、あんたの悲しみを背負って共に泣いてやる事は出来ないけれど。
    あんたの笑顔のお陰で、仏頂面のこのあたしにもぎこちない笑みが宿るようになった。
    だから今度はあたしが、あんたが声を上げて涙するのを受け止める場所で在りたいと。
    …いや。
    もっと単純な事だ。

    ただ笹木の側にいたい。独りで泣かせる事はしないよう、すぐ手が差し出せるような、そんなすぐ側に。
    そしてまた、笑ってくれたら。
    そう、強く思った。


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