| はぁ・・
車に乗り込み、葉月はため息をついた。
あっ、あの子・・。
大学の駐車場の端で、座り込んでる・・。
葉月は、車を降りて、その子の傍まで寄って行った。
「どうしたの?こんなとこで座って。」
「ほら・・。見て・・。」
その子は、しゃがんだまま指差した。
「ん?」
その子の、指差した先には、行列を作って、アリが誰かが捨てたであろうお菓
子をせっせと運んでいる。
「もしかしてさ・・これ、ずっと見てた訳?」
葉月は少しあきれたように言った。
「だって、すごく面白いよ。」
「で、いつまでそうして、見てるの?良かったら、一緒にお茶でもしにいく?」
その子は、葉月を見て、嬉しそうにうなづいた。
車に乗ったその子は、言った。
「アリさんのとこは、通らないでね。」
わかってるよ、そんなことさ・・。フフ。
「で、行きたいとこある?」
「じゃ、山!」
「山ん中じゃ、喫茶店ないよ。」
「自動販売機でかってく。」
はいはい。わかりました。お姫様。
私、すっかり、この子のペースにはまってる・・。
ま、たまには、いいね。心地いい。
葉月は、夜景が綺麗だと言われる、ドライブスポットへと向かった。
車で30分。
まだ、明るい時間だから、そんなに混んでない。
山の麓にある自動販売機で、ジュースを買って、展望台へと向かう。
「わぁ〜。ここ初めてなんだ。」
今まで、彼氏いなかったのか?
ここは、誰もが来るって言われてるスポットなのに。
昼間そこへ行くのは、葉月も初めてだった。
夜とはまた違って、目の前に広がる景色は、結構いいものだった。
「ここ、夜景最高だよ。で、長谷部さんは、彼氏いないの?」
「今は・・、いないの。」
二人は、その広い景色をただ、じっと眺めていた。
夕日が真っ赤に景色を染める。
海で、夕日が沈むの見るのも好きだけど、山でこうして日没迎えるってもの、
なかなか、いいもんだね。
ふと、夕日に照らされた、その子の横顔を見た。
涙が、いっぱい溢れていた。
夕べのこと?
葉月は、何も聞かなかった。
ただ、そっと後ろから、その子を包むように抱きしめて、二人で沈む夕日を見ていた。
その時、いつもみたいに下心なんてなかった。
ただ、静かに
包んであげたかったんだ。
(つづく)
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