| 始業は八時半。 日直や、朝の早い子なんかは八時くらいには学校へ来るので、私はそれよりもっと早く、七時半には学校に着いている。人目を避けるように。 夏休みを過ぎてからしばらく学校へ来れなくなって、それから、教室へ入れなくなってしまった。それで行きつくのが保健室だった。 どこの学校でもそうなのかな、と思うけど、保健室には体調の悪い子や怪我をした子以外に、教室へ行けなくなってしまった子も居る。サボるのが目的、って子もいるけど、そういう子もなにかしら心が不調だったりするのよ、とうちの学校の優しい先生は言っていた。なので保健室には私以外にも二人くらいは大体いつも居た。
「おはよー」 見知った顔ぶれに微笑む。みんな、朝は早い。もう既に本を読んでいるとか、コンビニで買ってきたパンを食べているとか。 「牧野ちゃん来たら怒られるよ?」 「しょうがないなぁ、紗祈ちゃんも共犯になって」 パンのひとかけらをもらって口に放り込む。甘い苺のフレーバーが口内にひろがる。 「初恋の味よねー」 「何言ってんの、キスもしたことないくせに」 ケラケラ。 みんな此処ではこんな風に笑うけど、教室には居場所のない子たち。 以前此処の子がひとり、教室へ戻ろうとしていたのを廊下から見に行ったんだけれど、とても緊張した様子で硬直していた。 保健室へ行くまで交流のなかった子だったので、そんな顔をするのは初めて見たから驚いた。普段−−−保健室では、明るくておもしろい盛り上げ役、といったかんじの子だったのだ。
「朝から賑やかね」 眠そうな声がして、がらがらとドアが開いた。 セーターとジーパンというラフな格好のおばさん、いや、保健室の先生だ。 「おはよー」 「牧野ちゃん、今日早いねえ」 「職員朝礼だったのよ」 「大変だねえ」 「テスト前だからねえ。私あんまり関係ないけど」 「うわー、テスト!嫌な現実!」 保健室の子たちというと教室に行ってる子たちからしたら、みんなサボってるような印象かもしれないけど、実際まぁその通りだったりする。自習なんてみんな大してやっていない。でもテストだけは受けなさい、と言う家庭も多いらしいので、みんなそれなりに苦労する。
−−−−キーン…コーン… 始業のチャイムが鳴る。 「さ、じゃあみんな自習ー」 「はーい」
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