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■13768 / 親記事)  りょうて りょうあし 白い花
  
□投稿者/ 平治 一般♪(2回)-(2006/02/28(Tue) 07:36:15)


     ふわふわ。

     色素の薄いこどものような髪の毛。

     華奢なからだ。

     ふわふわ。

     きれいな歌声。

     こぼれる息。

     ふわふわ。

     すらりと伸びた手足が

     まるで白い花のよう。


     −−−−。



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■13769 / ResNo.1)  りょうて りょうあし 白い花 (1)
□投稿者/ 平治 一般♪(3回)-(2006/02/28(Tue) 07:55:47)
     始業は八時半。
     日直や、朝の早い子なんかは八時くらいには学校へ来るので、私はそれよりもっと早く、七時半には学校に着いている。人目を避けるように。
     夏休みを過ぎてからしばらく学校へ来れなくなって、それから、教室へ入れなくなってしまった。それで行きつくのが保健室だった。
     どこの学校でもそうなのかな、と思うけど、保健室には体調の悪い子や怪我をした子以外に、教室へ行けなくなってしまった子も居る。サボるのが目的、って子もいるけど、そういう子もなにかしら心が不調だったりするのよ、とうちの学校の優しい先生は言っていた。なので保健室には私以外にも二人くらいは大体いつも居た。

    「おはよー」
     見知った顔ぶれに微笑む。みんな、朝は早い。もう既に本を読んでいるとか、コンビニで買ってきたパンを食べているとか。
    「牧野ちゃん来たら怒られるよ?」
    「しょうがないなぁ、紗祈ちゃんも共犯になって」
     パンのひとかけらをもらって口に放り込む。甘い苺のフレーバーが口内にひろがる。
    「初恋の味よねー」
    「何言ってんの、キスもしたことないくせに」
     ケラケラ。
     みんな此処ではこんな風に笑うけど、教室には居場所のない子たち。
     以前此処の子がひとり、教室へ戻ろうとしていたのを廊下から見に行ったんだけれど、とても緊張した様子で硬直していた。
     保健室へ行くまで交流のなかった子だったので、そんな顔をするのは初めて見たから驚いた。普段−−−保健室では、明るくておもしろい盛り上げ役、といったかんじの子だったのだ。

    「朝から賑やかね」
     眠そうな声がして、がらがらとドアが開いた。
     セーターとジーパンというラフな格好のおばさん、いや、保健室の先生だ。
    「おはよー」
    「牧野ちゃん、今日早いねえ」
    「職員朝礼だったのよ」
    「大変だねえ」
    「テスト前だからねえ。私あんまり関係ないけど」
    「うわー、テスト!嫌な現実!」
     保健室の子たちというと教室に行ってる子たちからしたら、みんなサボってるような印象かもしれないけど、実際まぁその通りだったりする。自習なんてみんな大してやっていない。でもテストだけは受けなさい、と言う家庭も多いらしいので、みんなそれなりに苦労する。

     −−−−キーン…コーン…
     始業のチャイムが鳴る。
    「さ、じゃあみんな自習ー」
    「はーい」



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■13770 / ResNo.2)  りょうて りょうあし 白い花 (2)
□投稿者/ 平治 一般♪(4回)-(2006/02/28(Tue) 08:13:34)
     お昼を過ぎた頃、みんなぱらぱらと帰宅しだす。
     下校時刻に重なって、他の子たちに会わないようにする為だ。
     時計を見れば、もうすぐ四時。今日は私が最後だった。
     先生はちょっとお手洗いに立った。四時半になれば下校時刻、そうすると保健室に何人か人が来たりするのだ。


     −−−−ガラガラ。
     扉が開いた。
    「失礼します」
     消え入りそうな小さな声が、体調を伝えていた。
    「あの、先生は?」
    「あ、今お手洗いで。どうかしたんですか?」
     背の高いひとだった。でもごつごつしてなくて、華奢な、病弱そうな感じの雰囲気。たぶんそう思わせたのは肌がとても白いからだ。
    「ちょっと…貧血みたい」
    「こっちのプリントに記入して。名前と学年。どこで、とか」
    「どこで、ってどこだろう」
    「さっきいた教室でいいんじゃない?」
     三年、一組、西本果子。三年一組教室。四時頃。貧血だと思う…。
    「見すぎ」
    「あ、ごめんなさい。でも綺麗な字」
    「そう? ありがとう」
     西本果子さんは力なく笑った。
    「しんどいですよね。少し横になります? ベッド誰もいないし」
    「本当? よかった」
     のろのろと立ち上がって、ベッドに倒れるように寝転がった。
     布団をかけてあげると「ありがとう」と小さな声がした。

     私がベッドから離れて本を読んでいたら、「ねえ、」と声がした。
    「呼びました?」
    「うん。先生遅いし暇だなぁと思って」
    「ゆっくり休んでたらいいですよ。しんどいんだったら」
    「しんどそうに見える?」
    「見えますよ」
    「よかった。実は仮病」
     力なく笑う仮病のひとのそばに椅子を持って行って座った。
    「名前、なんていうの?」
    「藤野紗祈です」
    「部活は?」
    「特に何も。西本さんは?」
    「ん、こないだまで合唱部」
    「ああ。だからかぁ。綺麗な声だなぁと思ってました」
    「本当? ありがとう。もう合唱しないけどね」
    「そうですか。三年生ですものねえ」

     西本さんは少し眠いようでうとうとして、どうでもよさそうな質問をずっと投げてきた。
     私は本を読みながらそれに答えた。
     先生が戻ってくるまでの短い時間だけど、ずっと。
     その時間はまるで気が遠くなるほど長いように思える。
     保健室っていうのは、他の世界と違う時間が流れているから。

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■13771 / ResNo.3)  りょうて りょうあし 白い花 (3)
□投稿者/ 平治 一般♪(5回)-(2006/02/28(Tue) 08:24:16)
     翌週。
     朝、保健室のドアを開けると、見慣れない人がいた。
     背の高い、髪の短い女の子…

    「あっ、合唱部の」
    「あ、藤野さん。おはよう。こないだはどうも」
    「貧血ですか?」
    「ううん。しばらく此処に通おうと思って」
    「そうなんですか」

     それまで西本さんは誰とも会話せず居たらしいが、私が話しているのを見て、他の子たちも少しずつ西本さんと話そうとしてきた。
     たわいもない話をしていたら始業のベルが鳴り、牧野先生が来た。

    「あのね、テスト期間で混み合うと思うから何人か別室に行ってもらおうと思うんだけど」
    「ええーっ」
    「そんなに嫌がらないのー。ちゃんとテストは受けられるから」
    「寧ろテストなんてなくていいよ」
    「こらっ。…じゃあまぁそういうわけなのでアミダでもして決めてちょうだい」
    「はーい」

     アミダの結果、私と西本さん、あと岡さん、杉原さん、吉岡さんというひとが別室組になったが、岡さんたちはほとんど学校に来ないので、実質二人である。

    「んー。まぁいいか。他の子たちも来たら伝えといてね」
     ちゃら、と鍵を手渡される。
    「じゃ、行きましょう」
     鍵についてるプレートには【憩いの部屋】という見慣れない名前が書かれていた。
    「え、これどこ?」
    「ああ。三年の校舎の一階だ。私わかるよ」
     西本さんが私の手からすっと鍵を取り、空いた私の手もついでのように取って握った。
     あまりに自然な動作で私は拒むことも忘れてしまって、そのまま手を引かれて歩いた。

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■13772 / ResNo.4)  りょうて りょうあし 白い花(4)
□投稿者/ 平治 一般♪(6回)-(2006/02/28(Tue) 08:52:18)
    【憩いの部屋】は三年の教室の棟にあった。
     あまり使われて居ないようで何のにおいもしなかった。
     ただ少し薄暗い、空気が沈殿しているだけ。
     広い室内、長テーブルが何個も並ぶところに、二人きり。
     ちょっと異様な光景だけど、私は何も気にせずいつものように本を取り出した。

    「なに読んでるの?」
    「格言の本」
    「おもしろい?」
    「一人を失ったからといって嘆くことはない。男と女は半分ずついるのだから。by礼記・後漢書…とか」
    「ふーん。別に男と女でくっつけなくてもいいのにねえ」
    「ええ?」
    「ん? なに?」
    「いえ、なんでも…」

     まだ知り合って間もなく、あまり話したことがないひとのことをこんなふうに思うのはどうなのかわからないけれど、すごく不思議なひとだなぁと思う。
     何の躊躇いもなく手をつないだり、同性愛を連想させるようなことを言ったり。

    「もしかして、西本さんは同性愛者なんですか?」

     そりゃ思わずこんなことも訊いてしまうわな。

    「えっ、ううん。私はまだ…人を好きになってことってないから…」

     西本さんは恥ずかしそうに笑った。

    「そうなんですか? でも西本さん背高いし女の子にモテそう」
    「うん、チョコはいっぱい貰えるよ」
    「運動部だったらもっとすごかったんでは」
    「でしょうねー。と言いたいところだけど運動音痴だから格好悪いところを露呈するだけだと思うけど」
    「運動全般だめ? 文科系ですか?」
    「うん。だから、というか歌好きだし合唱部に入ったんだけど、腹筋とか嫌だったなー。今思うと懐かしいけどね」
    「へえー」
    「藤野さんも、なにか興味が出たらクラブ入ってみなよ。きっと、何かをするのってたのしいから。ぁ、強制とかじゃないからね。興味が出たら、勇気出して行ってみなさい、ってことね」
    「行ってみなさいって、結構上から言うんですね」
    「だって上級生ですもの」

     くすくす。
     人の気配や匂いの全くなかった部屋に、徐々に空気ができる。

引用返信/返信 削除キー/
■13786 / ResNo.5)  りょうて りょうあし 白い花 (5)
□投稿者/ 平治 一般♪(7回)-(2006/03/01(Wed) 20:52:22)
     お昼休み。テスト中だから余計にだろうか、廊下の方がざわざわしている。
     普段使われないこの部屋に人の気配があるので、時々気にして足を止める人もいるようだ。
     足音が部屋の前で止まると、西本さんは少し緊張して体を硬くした。
     私は一年だからそれほど気にならないのだけど、西本さんからしたら、行けなくなった教室にいる人たち−−−というのはどうしても気構えしてしまうのだろう。私も一年生が来てしまったら、嫌だ。

    「ねえ、藤野さんはどうして保健室に?」
    「んー。それはまぁ、色々と。西本さんは?」
    「うんまぁ、色々と」

     沈黙。

    「じゃあねえ、藤野さんは人を好きになってことってある?」
    「ぶっ」

     コントのように、飲んでいた紙パックのジュースを吹きこぼしてしまった。

    「な、なんですか急に」
    「いやぁ、あるのかなぁと思って」
    「そりゃ、ありますよ」
    「じゃあもう経験済み?」
    「ちょ、ちょ待ってくださいよ、なんの質問ですか。もー」
    「この年頃だもの、気になって仕方ないじゃない」
    「・・・もぅ。急なんだから」
    「あはは。慌てちゃって可愛い」
    「でも経験済みですから」
    「そっかー。じゃあね、キス、したいと思ったことある?」
    「うん、ありますよ」

     なんだか、空気が変だ。
     さっきまでくすくす笑っていた西本さんは急に真剣な顔をして、私を見ている。

    「な、なんですか」
    「ううん。したいなぁと思って」
    「あ、ああ。そういう年頃ですものね」
    「ううん。そうじゃなくて」

     ぎしぃ。
     西本さんはパイプ椅子から立ち上がって、私の座ってるそばまできて座り込んだ。
     突然至近距離に入った人間の体温が、あったかくて、困惑した。

    「私ね、今まで人を好きになったことないし、経験もないから、よくわからないんだけど。昨日あなたを見たときから、なんでかなぁ」

     手持ち無沙汰に揺らしていた私の手を、捕まえて口元に寄せて。
     西本さんはまるで童話のなかの王子様のように私の手にキスした。

    「あなたに触れたいと思ったの」

     西本さんの手はしっかりと私の手を捕らえて、
     西本さんの目はしっかりと私も目を捕らえて、
     私は身動きできなくなった。

    「キスしたいな」

    「はい・・・」

     そっと、西本さんがひざをついて背を伸ばして、私にキスをした。

     今までしたキスと全然違った感じがした。
     やわらかくて、あったかくて、掠めるように一度触れて、離れた。
     経験がないと言っていた西本さんより、私の方がずっとドキドキしているんじゃないだろうか。だってこんなに、鼓動が早い。

    「もっと、してもいい?」

    「はい」


     まだ全然知り合って間もないのに、女の子同士なのに、好きとかわからないのに、
     そんなことはどうでもよくなっていた。

     どうしてこんなことになっているんだろう。

     でも全然、嫌じゃない。


引用返信/返信 削除キー/
■13787 / ResNo.6)  りょうて りょうあし 白い花 (6)
□投稿者/ 平治 一般♪(8回)-(2006/03/01(Wed) 21:26:42)
     翌日、職員室に【憩いの部屋】の鍵を取りに行くと、もう既になかった。
     部屋の靴箱に見たことのある靴が入れてあってほっとして扉を開けた。

    「おはよう」
    「おはようございます。早いんですね」
    「うん。先に来て、部屋あっためておこうと思って」

     それは誰のために?
     そんなの分かりきったことだった。
     嬉しいのと恥ずかしいのとで、私は胸がきゅっと締め付けられたような気持ちになって、俯いた。
     ふと視線の先に白い素足が見えた。

    「裸足で寒くありませんか?」
    「ううん。その方が好きなの」
    「なんか、歌姫みたいですねえ」
    「歌姫?」
    「なんかほら、ヒトトヨウとか、オニツカチヒロとか、裸足で歌ってるじゃないですか」
    「へえ、そうなんだ。テレビあんまり見ないから分からないや」

    「ねえ、それより」
     ぐっと手を引かれて、華奢な腕に捕らえられた。
     細くて華奢なひとなのに、力強くて、腕のなかはあったかかった。
    「おはようのキスは?」
    「えっ、でも誰か来るかも」
    「こんな朝から誰も来ないって。目閉じて」
     言われるままに目を閉じる。
     しばらくじっとしていたけれど、待っていたことが訪れず、目を開けた。
    「せ、先輩?」
    「ああごめん。つい見入っちゃって」
    「そんないいものじゃないですよ」
    「ううん。可愛い」
     ちゅっ、と頬に唇が触れた。
     そのまま唇が額や、耳に、首筋に、落ちるように滑っていった。
    「や、やだ、何ですか」
    「どんな味がするかなぁと思って」
    「味なんかしないでしょう」
    「うん。でもいいの」
     西本さんはそのままキスを続けた。
     段段、私の口から、抑えようとしていた息が洩れる。 
    「どうかした?」
     西本さんは、意地悪そうに微笑んだ。
    「分かってて、してるんですか」
    「ううん。今分かったの。感じるんだぁ、って」
     顔が熱くなる。
    「意地悪」
    「ごめんごめん」
     そう言うと、西本さんはパッと手を離して、私を解放した。
    「これ以上はどうすればいいかわからないから許してください」
    「あ、そっか。そうでしたね」
     私はほっとしたような、残念のような気持ちで、椅子に腰掛けた。
     西本さんも隣に座る。

    「ごめんね?」
    「え?」
    「年上なのに、自分から仕掛けたのに、知らなくて」
    「別にそんな…」
    「じゃ、おはようのキスしよう」

     不意打ちに、ちゅっと。
     西本さんの唇が私の唇を掠めた。

    「もうっ」
    「だって大事なところにキスするの忘れてたんだもの」

     くすくす。
     西本さんは、やわらかい顔をして笑うなとふと思った。
     優しそうな雰囲気の人だけど、笑うとすごく、そんな感じ。
     上手くは言えないけれど、下がった目尻とか、ゆるむ口元が可愛い。

    「ところでさー」
    「はっはい!」

     そんなことを考えてぼーっとしていたので返事が遅れてしまう。

    「ん? どうかした?」
    「いえっなにもないです」
    「そう? あのさー色気ないよね」
    「何がですか?」

     私のことかと思って軽いショックを受ける。
     が、西本さんはこの部屋の鍵をじゃらじゃら遊びながら、続けた。

    「この部屋の名前。愛し合うにはちょっとねえ、なんて」

     【憩いの部屋】。
     たしかに色気も何もない。学校の教室に色気を求めるのもどうかと思うけど。

    「秘密の部屋、とかはどうですか?」
    「あ、いいかも。秘密かぁ、ふふ」

     私が適当に出した提案に、西本さんは満足そうに微笑んだ。

    「秘密の花園みたい。読んだことある?」
    「映画になったやつですよね」
    「そうそう。結構好きだったなー」
    「実は映画見ただけで、本は読んだことないです」
    「そうなの? 図書室に入ってるよ」
    「そうですか」
    「今度借りてみー。本読むの好きみたいだし。藤野さんは何が好き?」
    「うーん。ライトノベルとか。まぁ何でも読みますけど」
    「ふーん。そういうのはよくわかんないや」
    「じゃ、西本さんはなにがお好きですか?」
    「目についたのを読む程度で、あんまり知らないの」
    「そうですか」

     会話が止まる。

    「あの」
    「はい」
    「西本さんはどうして、その…私なんでしょうか」
    「ええ? どうしてって」
    「まだお話するようになって間もないですし、そんなに共通点もなさそうに思うし、よくわかりません」
    「どうしてなんだろうね。ううーん…」

     西本さんは考え込んで机に突っ伏してしまった。
     つい、気になって訊いてしまったけど、あんまり突っ込まない方が良かっただろうか。

     −−−−キーン…コーン…
     そのまま時間は過ぎていき、始業のチャイムが鳴った。
     その音にびっくりしたようにがばっと顔を上げて、西本さんは言った。

    「どうしてだかわかんないや。こんな気持ちになったの初めてだもの。キスしたいなんて今まで一度も思ったことなかった」
    「そうですか…」
    「あ、でも、勘違いしないで、誰でも良かった訳じゃないと思うから」
    「はい」

     ないと思う…って、そんな曖昧な。
     私は少し切なくなった。



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■13804 / ResNo.7)  続きが気になります
□投稿者/ パンダ 一般♪(1回)-(2006/03/03(Fri) 18:42:52)
    とても、面白いです。
    タイトルに惹かれて読み始めました。
    楽しみにしていますから、また是非 続きを書いてください。

引用返信/返信 削除キー/
■13812 / ResNo.8)  Re:パンダさん
□投稿者/ 平治 一般♪(9回)-(2006/03/04(Sat) 09:48:56)
    気にかけて読んでいただいて有難うございます☆
    ちょくちょく書いていきますのでまた読んでくださいませ〜
引用返信/返信 削除キー/
■13813 / ResNo.9)  りょうて りょうあし 白い花 (7)
□投稿者/ 平治 一般♪(10回)-(2006/03/04(Sat) 10:30:33)
     キスがこんなに気持ち良いことだなんて知らなかった。
     私は今まで一人しか経験ないけど、そのひとがしたキスとは全然違っていた。
     やわらかくてふわふわしているような、キス。

    「紗祈は、泣きそうな顔するね」
    「え?」
    「キスした後、泣きそうな顔になってる。ほら、真っ赤」

     そう言って西本さんは私の頬に触れた。

    「泣かないですよ」
    「泣かれたら困るよ」

     西本さんはくすくす笑った。
     私もつられて笑ってしまったけど、驚いて鼓動が早くなった。
     −−−紗祈、って呼んでくれた。

     テスト期間中の三日間、私達はずっとこの【秘密の部屋】でキスをしたり抱き締め合ったり、それから色んな話をした。
     好きな本やテレビのこと、近所の美味しいケーキ屋さんのこと、もうすぐ公開の映画のこと、昨日の晩御飯が好物だったこと、段段寒さが厳しくなってきたこと。
     でも名前を呼んでくれたのは初めてだった。
     彼女自身は何も気にしていないかのようだけど。

    「名前で呼んでくれたの初めてですよね」
    「うん、呼んでみました。・・・もしかして嫌?」
    「いやっそんなことはっ、何でも好きなように呼んでください」
    「好きなように、じゃなくて。どう呼んでほしい?」
    「・・・じゃあ、紗祈と」
    「うん。わかった」

     言わされたような感じだけど、西本さんは満足そうに微笑んだ。
     彼女はそういう風に、自然に、私を支配する。

     −−−−キーン・・・コーン・・・

    「あ、もう終わっちゃったね」
    「本当。あっという間でしたね」
    「早く出よっか」

     これまでの時限のテストで、今期のテストは終わりだ。
     この後のHRが終わったら、全生徒ががやがやと外にあふれ出る。
     それまでに私達は職員室に鍵を返しに行って帰宅する。
     【秘密の部屋】に鍵をかけて。明日からはまた保健室登校だ。

     まだ誰もいない校庭の隅を、廊下を、階段を、並んで歩く。
    「紗祈は手袋もマフラーもしないの?」
    「はい。ちくちくするの好きじゃなくって」
    「でも寒いでしょう」
    「はい」
    「今日時間あったらデパート寄ろうよ」
    「え、今日ですか?」
    「予定ある? まっすぐ帰らないと怒られるかな」
    「そんなこと、ないです」
    「じゃ、いいよね。あたしも欲しいから一緒に見よう。ちくちくしないやつ」
    「はい」
    「じゃ、鍵返してくるね」
     そう言って西本さんだけ職員室へ入ってしまったので、私はその扉のまえで、廊下の壁に背中を預けた。

    「あれ? 藤野さん?」
     嫌な声が聞こえた気がした。
     顔を上げると、目の前にショートカットの女の子がいた。
     もうずっと会うこともなかった私のクラスの委員長だった。
    「あ・・・」
    「藤野さん、久しぶりね。元気そうね」
    「ええ、まぁ」
    「心配だったのよ。あれ以来教室へ来ないし、学校もそのうち来なくなってしまうんじゃないかしらって・・・あることないことみんな言っているし」
    「みんな、なんて?」
    「田中先生の子供でもデキたんじゃないかって」
     わざとらしく心配そうにくす、と笑った。
     私は自分の背筋が強張って、動けなくなるのを感じた。
     こわい。
     こわい。
     どうしよう。
    「ねえ、教室へいらっしゃいよ。みんなを安心させてあげて。『出来てません』って。あ、『もう堕胎しました』かしら?」

     −−−−カラカラ。
     職員室の扉が開いた。
     西本さんが出てきた。
     私が誰かといるのを見て、不思議そうに立ち尽くした。

    「おともだち?」
    「初めまして。同じクラスの五島です」
    「あ、どうも」
    「先輩は藤野さんと仲良くしてくださってるんですか? 良かったわ、新しいところでお友達が出来たみたいで。それじゃ教室に無理して戻ることないわね」
     私は何も言えなくて俯いていた。
    「藤野さん? そんな態度じゃ先輩に失礼よ」
    「いいのよ。放って置いてあげて」
     西本さんが庇うように委員長と私の間に立ってくれた。
    「優しいんですね。もしかして、先輩はあのこと知らないんじゃないですか。こんな人、わざわざ庇う必要ないですよ」
    「なんなの」
    「このひとね、」
    「やめて」
    「どうして? 本当のことでしょう? 先生誘惑して、不倫してたなんて、まともな生徒には考えられないことだけど。あなたのような人にしたら、なんてことないんでしょう?」
    「ちょっと、やめてったら」
    「先生とのことくらいなんてことないでしょう? みんな言ってるよ、他にも援助交際したりしてるって」
    「なにそれ・・・」
     鼓動が早くなるのを感じる。
     委員長は面白がって、次々言葉をつむぐ。
     私は何も言えなくなる。
    「何か言いたいなら言い返せばいいわ」
     何も、言えなくなる。


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