ビアンエッセイ♪

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■13814 / ResNo.10)  りょうて りょうあし 白い花 (8)
  
□投稿者/ 平治 一般♪(11回)-(2006/03/04(Sat) 10:50:40)
    「もうやめてちょうだい」
     ぴしゃ、っと綺麗な声が響いた。
     今まで聞いたことがないくらい、冷たい声だった。
    「それ以上無駄口を叩いて彼女を傷つけないで。行きましょう」
     ぐい、と私の手を引いて、西本さんは歩き出した。
     まるで、初めて【秘密の部屋】へ行った時のように。
     振り返ると委員長が唖然として突っ立っているのが見えた。
     西本さんは校門を出て、駅の方へ向かい、切符売り場にたどり着くまで全くうしろを振り返りもしなかったし、一言も喋らなかった。

    「あのっ」
    「え、なに?」
     西本さんはきょとんとした目で振り返った。
    「どこまで行くんですか?」
     我ながら間抜けな質問だった。
    「あ、えと、三駅だから、170円」
    「あ、私は定期券内です」
     私は西本さんが切符を買うのを待って、一緒に改札をくぐった。
     丁度ホームに着いた電車に乗り込む。
     見慣れた景色が動く車窓を見ながら、つり革に掴まった。
     西本さんはまっすぐ前だけを見て、私の方を見てくれない。

    「軽蔑しますか」
    「本当のことなの?」
    「・・・ほとんどは」
    「先生って」
    「数学の先生の手術入院で、代理で来てた先生覚えてます?」
    「分からない。私の学年には来てなかったと思う」
    「そのひとと、はい」
    「そっか」
    「援助交際ってのは根も葉もない噂です。してません」
    「そっか」

     援助交際はしてないからってなんなんだろう。こんな言い訳をして。
     先生と不倫していたのは事実なのに。
     
     どうやら私と先生のことは他の学年にまで広く知れてはいないようだった。
     代理で二ヶ月だけだった先生だし、そのことで謹慎をくらっていたのも夏休み中だったし。
     それでもこうして、彼女には知られてしまったのだ。

     −−−−ガタンゴトン。
     気まずいよどんだ空気が流れる。

     私はこの空気が怖くて、すぐ傍にあった手を繋ごうと触れた。

     ぱしっ。

     その手は弾かれてしまった。


    「ごめん。今日やっぱりやめとこう」


     元々家とは反対方向の西本さんは次の停車駅で降りて行った。
     その背中をなにもできずに見送ると、私は発車した電車のなかで、人目も気にせず泣きそうになった。ぼろ、と涙がこぼれそうになったので、あくびのフリをしてごまかして目を擦った。
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■13882 / ResNo.11)  りょうて りょうあし 白い花 (9)
□投稿者/ 平治 一般♪(12回)-(2006/03/14(Tue) 23:34:05)
     気が付くと、見慣れた天井が見えた。
     窓の外は明るくなっていて、時計もちゃんと時刻を読めた。10時50分。
     もう学校が始まっているなぁと思ったけど、私は気にせずベッドにもぐりこんだ。

     そうだ、昨日は我慢して我慢して、感情をおさえこんで歩いてやっと家に着いて、部屋に入るなりうんと泣いて、それで眠ってしまったのだ。
     ずいぶんと長い間眠っていたものだ。

     学校へ行かないなんて久しぶりだ。

     先生とのことがあって以来、私はあんまり学校へは行きたくなかったのだけど、それでも家にいて色々と考え込んでしまうよりは・・・と思って保健室登校していた。
     結構まじめに、毎日通っていたのだ。

     枕元にあった携帯電話を手に取る。
     着信履歴と、メール一通。全部母からだった。
    『学校行った?』
     母はもう仕事へ出ている時間だ。
    『何時でもいいから休む電話しといて』
     そうメールを打つ。

     久しぶりに学校を休んで家にいるのは、手持ち無沙汰で。
     何もすることがないからメールの受信ボックスをひたすら遡って読んだ。
     くだらない、友達とのメールも、顔も本名も知らないメル友とのメールも、夏頃のあの人からのメールもあった。

    『先生じゃなくなっちゃったけど、紗祈とまた会いたいよ』
    『俺のせいでしんどくなるけど、学校頑張って行けよ』

     うっかり開いてしまうんじゃなかった。
     私はまだこのメールを見て懐かしむ余裕なんて、ない。

    『先生元気? ひさしぶりに学校休んじゃった』

     気付けば何気ない風に、メールを送っていた。


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■14234 / ResNo.12)  りょうて りょうあし 白い花(10)
□投稿者/ 平治 一般♪(1回)-(2006/04/18(Tue) 02:34:05)
     何もない部屋でただぼんやりと。
     携帯電話をチェックしたり、ネットを見たり。
     12時を過ぎた頃、ようやく電話が鳴った。

    『もしもし。俺だけど』
    「先生・・・」
    『どうしたの? 具合悪いの?』
    「違うの、なんか・・・」
    『紗祈は繊細だからなぁ』
    「なにそれ」

     久しぶりに聞いた先生の声。
     嬉しいはずなのに、会話に集中できなかった。
     今は別の仕事をしていて昼休みだったみたいだった。

    『あ、もう行く』
    「うん。いってらっしゃい。頑張ってね」
    『おう。また会おうな』
    「うん。またね」

     またね。なんて。
     先生はきっと、私のことなんか好きじゃなかったくせに。
     奥さんもこどももいて、ただ私の体で遊びたかっただけのくせに。

     少し前の私だったら、延々とループする思考でナーバスになっていただろうけど、今は他のことばかり気になっていた。

     もう離れてしまったひとになら簡単にメールを打てたのに、どうしてかあのひとに自分からメールや電話するのは怖かった。
     きっともう、今更私を受けて入れてくれないんじゃないかな。
     そう思うと、もう。


     rrrr....
     また電話が鳴った。
     保健室の先生だ。
    「ねえ、西本さんもお休みしてるんだけど、おうちにいないって言うのよ。あなた仲良かったでしょう? どこか行ったか知らない?」
    「知りません」
    「そう。連絡があれば教えてちょうだい、親御さんがとても心配していて」


     私はいてもたってもいられなくて、すぐに西本さんの携帯にかけた。

    『もしもし?』
    「ねえ、今何処にいるの?」
    『紗祈にね、会うのがなんとなく怖くて、学校行けなかったんだ』
    「そうですか・・・」
    『でもね、おかしいんだよ。紗祈の家の近くにいるの』
    「どこ? すぐ行きます」

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■14235 / ResNo.13)  りょうて りょうあし 白い花 (11)
□投稿者/ 平治 一般♪(2回)-(2006/04/18(Tue) 02:43:18)
     西本さんは、私の家の最寄り駅のそばの喫茶店で、もうほとんど氷が解けて水みたいになってるカルピスを飲んでいた。寒いのか、ひとりで心細いのか少し背中を丸めて。
     私を見つけると困ったように笑った。

    「ごめんね。なんだか迷惑かけちゃって」
    「そんな・・・ことないです」

     私は紅茶を注文して席についた。

    「私ね、時々思ってたんだ。紗祈は時々私以外の誰かを見てるんじゃないかなって。こないだ話聞いて、もしかしてその先生のことまだ好きなんじゃないかなって。考えたんだ」
    「そんなことないのに」
    「ないかもしれないけど。私たちって、ほとんど私が押し切ったようなもんじゃない。本当は嫌だったんじゃないかな、とかさびしかっただけかな、とかいっぱい考えたんだよ」
    「私は・・・私は、嫌われたんじゃないかなって、汚いと思われたんじゃないかなって、考えて・・・怖くて・・・」
    「あはは。そんなわけないじゃない。紗祈に話してなかったね。私はもう紗祈のことしか考えられないもの」
    「西本さんは、でも、私のことなんて別に好きなわけじゃなかったんじゃないですか?」
    「え?」
    「私、先生に言われたんだけど。変な色気が出てるんですって。先生のこと好きな子何人かいたけど、手を出したのはお前だけやりたくなったからだよ、って。たぶん同じようなもんだったんでしょう」
    「なんでそんなこと言うの?」
    「だって、西本さん、私となんでキスとかするのとか、言ってくれなかったじゃないですか」

     私がうつむいてしまうと、西本さんは無言になった。
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