| あの頃・・・
女性を愛することなんて、ありえないと思っていた。
ただ心の中は、
ぽっかりと穴が開いたように・・・
寂しいのに、それを口にすることさえせず
気乗りしない誘いも、断ることもできない。
「今日、皆でケーキ食べに行こうって話あるんだけど、行く?」
「うん。じゃ、頑張って早く仕事終わらすね。」
楓は、私と違って明るく活発で、同期の中でもリーダー的存在だった。
終業のチャイムが鳴って暫くすると、電算室の扉が開いて楓がひょこっと顔を覗か
せた。
「可憐。終われそう?」
「うん。後、10分くらいで終わるかな・・」
「じゃ、先に更衣室行って着替えて待ってるから。」
可憐が頷くと、楓は微笑んで部屋の扉を閉めた。
可憐は、小さくため息をついた。
今日は、朝から体調が余りすぐれなくて、たまにクラッと目眩がする。
少し熱っぽい。
昔から、そういうことを他人に漏らすようなことに慣れてない。
可憐は、打ち出しした書類のチェックをし、電算の電源を切った。
更衣室に向かうと、女の子達の賑やかな笑い声が廊下まで響いていた。
いつもの光景・・・。
扉を開けると、化粧直しをする女性達で一杯になっていた。
「お疲れ。遅かったね。他の皆は、先に店行って席確保してるってさ。」
楓はそう言って、更衣室脇に置いてある長いすに腰掛けた。
可憐は、ロッカーの鍵をあけ、制服を脱いだ。
「可憐ちゃん。その下着とっても可愛いね。」
隣のロッカーの同じ課の先輩が、可憐のブラを見てにっこり微笑んで言った。
余りにまじまじと見つめられ、可憐は、顔を赤らめて慌てて黒いセーターを
かぶった。
可憐は、慌てて簡単に化粧を直して楓のところへ行った。
「ごめんね。待たせちゃって・・・。」
楓は、微笑んで
「構わないよ。気にしないで。奈子先輩ももう来るはずだから。」
「お待たせ。ごめんね、遅くなっちゃって。」
お洒落な黒いセーターにベージュのパンツをはいた背の高い女性・・・。
「奈子先輩。お疲れさまです。」
楓が、ニコニコと立ち上がって言った。
可憐は、その人に軽く会釈した。
「お待たせ。」
その女性は、可憐を見て、にっこりと笑って言った。
こんな綺麗な人、会社にいたんだ・・・。
目が大きくて、色白で・・・、スタイルも抜群で。。
可憐は、その人に見とれていた。
その時・・・
それに気づいたのか・・・
奈子先輩が、可憐の方を見て、フフっと微笑んだ。
ハッと
可憐は顔を赤らめて、目を伏せた。
それがあの人との始まりの日・・・。
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