| 「さ、今みたいにして、投げるの。そして、ゆっくりリールを巻いてみて。」
奈子先輩は生き生きとした表情で笑みを浮かべた。
奈子先輩に言われるがまま、見よう見真似で、竿を投げてみる。
奈子先輩みたいに遠くには投げれないけど、何とか飛ばすことができた。
ゆっくりリールを巻いて・・・。あっ。
いきなり、重みがかかって可憐の身体が、一瞬ぐらっとした。
「きたのねっ。さ、ゆっくりでいいから、竿を引きながら巻いていくのよ。」
奈子先輩が、竿を置いて可憐を見守っている。
可憐は、必死で、リールを巻いていった。
竿が、しなって、今にも折れそう・・・。重いっ・・・。
バシャバシャバシャ
真下で、何か長い魚が暴れている。
「そのまま、竿ごと、一気に上げるのよ。頑張って。」
奈子先輩が、背中にぴったりくっつくように、手を添えてくれた。
「せーのっ。」
一気に竿を上げると、そこには、えたいの知れない魚・・。
奈子先輩は手際よく、軍手をはめて、ペンチで針をはずした。
「この太刀魚、すっごいいい型ね。すごいよ。」
1メートルはある、ヒレがビラビラと波打つように動く光った魚。
可憐は、その蠢く魚が、太刀魚だということを初めて知った。
スーパーの切り身しか見たことがなかったから、正直驚いた。
「二人分なら、これ1本で十分ね。」
奈子先輩は、軽くウインクした。
そのまま、クーラーに入れて、片付けをし、車の中から、夕暮れを見ていた。
「驚いた?」
奈子先輩が、助手席の可憐を覗き込むように言った。
「まさか、本当に食料を調達するとは思いませんでした。フフ」
「好きなのよ。釣り。会社の人には言ってないけど。」
そう言って、奈子先輩は可憐に微笑んだ。
奈子先輩のまた一つ、秘密を知ったようで、可憐は嬉しかった。
沈む夕日は、海と空と、二人を紅く染めていた。
「綺麗だね。」
奈子先輩は、じっと沈んでいく夕日を見て呟いた。
可憐は、その横顔を見つめた。
夕日に照らされる奈子先輩も、とても素敵だった。
その瞬間、奈子先輩の手が、可憐の右手を包んだ。
「冷たいね。ごめんね。寒かったかな?」
奈子先輩の手は、とても暖かかった。
「暖めてあげるね。」
奈子先輩はそう言って、微笑んだ。
可憐は、異性との感情に似た、心の動揺を覚えた。
好きかも・・・・知れない・・・・。
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