| お店を出たのは夕方で、 そこからの理子の行動は早かった。
「みんなで送別の色紙を書くので、早めに登校」
そんな内容の連絡網が、クラスメートから回ってきたのが九時位だった。
理子が話をまとめたんだろう。
「連絡網、ちゃんと回ってきたから。」
「ん。ありがとう。」
連絡網の並び。
末尾の私。 先頭の理子。
どんな顔、してるの? 私、何を言えばいい?
「色紙、理子が買い行ったん?」
もう、こんなことしか思い浮かばない。
「山っちが行ってくれたよ」
学級委員の名前を挙げて。
「本屋でバイトしてるから、社割きくらしいよ。」
「え〜、この時期にバイト?」
「最近まで塾すら行ってなかった未樹がいうの?」
「いやぁ、クラスメートの心配でもと・・」
「そんなに仲良しだとは知らなかったわ〜」
「いや、実は顔も思い浮かばない・・」
「まったくもう。いい加減なんだから〜」
くすくす笑い声が受話器から震えて伝わった。 いつもは「いい加減」だと怒るのに、かすかな声で笑ってた。
だから、余計。 私はその日、馬鹿なことばかり言ってたと思う。
その度に笑ってツッコミを入れる理子と、
初めての長電話だった。
沈黙が怖いのも初めてで。
今まで、誰と付き合ってても どんなシチュエーションでも
こんな緊張なんてなかった。
「じゃぁ明日」
そう言って電話を切ったら、手にじっとり汗をかいてた・・。 手って、毛穴もないのに汗かくんだ・・。
じゃぁ、明日ね
小さな当たり前の言葉がこだまする。
先生、
明日が別れの日になるの?
当たり前の、ささやかな言葉さえ
もう、理子は言えないの?
(携帯)
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