ビアンエッセイ♪

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■18185 / ResNo.50)  スマイルストリップ 32
  
□投稿者/ mama' 一般♪(5回)-(2007/02/28(Wed) 00:18:00)
    お店を出たのは夕方で、
    そこからの理子の行動は早かった。

    「みんなで送別の色紙を書くので、早めに登校」

    そんな内容の連絡網が、クラスメートから回ってきたのが九時位だった。

    理子が話をまとめたんだろう。



    「連絡網、ちゃんと回ってきたから。」


    「ん。ありがとう。」


    連絡網の並び。

    末尾の私。
    先頭の理子。

    どんな顔、してるの?
    私、何を言えばいい?


    「色紙、理子が買い行ったん?」

    もう、こんなことしか思い浮かばない。

    「山っちが行ってくれたよ」

    学級委員の名前を挙げて。

    「本屋でバイトしてるから、社割きくらしいよ。」

    「え〜、この時期にバイト?」

    「最近まで塾すら行ってなかった未樹がいうの?」

    「いやぁ、クラスメートの心配でもと・・」

    「そんなに仲良しだとは知らなかったわ〜」

    「いや、実は顔も思い浮かばない・・」

    「まったくもう。いい加減なんだから〜」

    くすくす笑い声が受話器から震えて伝わった。
    いつもは「いい加減」だと怒るのに、かすかな声で笑ってた。

    だから、余計。
    私はその日、馬鹿なことばかり言ってたと思う。

    その度に笑ってツッコミを入れる理子と、


    初めての長電話だった。


    沈黙が怖いのも初めてで。

    今まで、誰と付き合ってても
    どんなシチュエーションでも

    こんな緊張なんてなかった。


    「じゃぁ明日」

    そう言って電話を切ったら、手にじっとり汗をかいてた・・。
    手って、毛穴もないのに汗かくんだ・・。



    じゃぁ、明日ね


    小さな当たり前の言葉がこだまする。



    先生、

    明日が別れの日になるの?


    当たり前の、ささやかな言葉さえ

    もう、理子は言えないの?

    (携帯)
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■18187 / ResNo.51)  スマイルストリップ 33
□投稿者/ mama' 一般♪(6回)-(2007/02/28(Wed) 00:20:45)
    あの日、私が白紙の答案さえ出さなければ、なんてことはない。
    ただの夏休みの登校日。


    最後に講堂に集まって、そのまま避難訓練がてら解散・・

    多分、そこで最後の挨拶がある。


    回ってきた色紙に、なんて書けばいいか分からず、
    「お元気で。」
    と、隣の言葉をそのまま書き込んだ。


    最後の方だったのに、どんなに探しても
    理子のコメントは見つからなかった。


    「ずいぶん考えてたじゃ〜ん」

    「授業、寝てたしなぁ」

    クラスメートの言葉に笑って答えながら、講堂に向かった。

    我ながら、無駄な笑いだ。

    どうでもいい会話を交しながら歩く。


    理子と一言も交さず。


    でも、自然と



    気配と声を追ってしまった。





    (携帯)
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■18188 / ResNo.52)  スマイルストリップ 34
□投稿者/ mama' 一般♪(7回)-(2007/02/28(Wed) 00:23:52)
    2007/02/28(Wed) 00:48:43 編集(投稿者)

    「続きまして・・突然ではありますが、杉山先生はこの度・・」

    長々と、残り夏休みの訓示をたれて、教頭がマイクを杉鉄に手渡した。

    簡単な形通りの挨拶の後で、それぞれのクラス委員から色紙と花束を受けとり、

    杉山はちょっとそれを見つめ
    考えこんだ後で
    一息に言った。

    「イギリスに行きます。」


    わぁっと黄色い声が、講堂に響いた。


    恋人に会いに行くの?
    先生、駆け落ちだ〜
    パツキン?
    かっこい〜

    そんなヤジが行き交う。

    「仕事です。」

    一喝。

    見事に、ホントに見事にしんとなった後、笑った。

    あの、鉄の杉山が、

    完璧冷静な杉山先生がにっこり笑って、

    「ですが、会いたい人はいます。」

    言い切った。


    今度こそ、割れるような歓声。


    私は、泣きそうだった。

    壇上、花束に囲まれ
    一人で立つ杉鉄が揺らめいた。


    止まない歓声。


    なんだかんだ、好かれてた証なんだろう。


    「静粛にっ」

    杉鉄の言葉にしんとなる。


    「If you ・・・」


    ゆっくりした英語が、マイクを通じて講堂に響く。

    あっけに取られる雰囲気には構わず、言葉を続けた。


    綺麗な発音



    聞き憶えのあるフレーズ。



    それは、あの日。
    私と理子が質問に行った文章だった。


    他人を理解するのが怖いなんて言ってたら、
    自分を理解することだって難しい。

    意訳すると、こんな感じかな〜


    あの日、遠い昔じゃないのに
    懐かしい感じがした。


    受験のための英文集だからね。
    一部分の抜粋で、多分ここで終わりじゃないのよ。
    これだけだと、確かに訳しづらいわね。


    そんな風に言ってた。



    あの日、質問した英文をそらんじ終えて、

    そこから、杉山は更にスピードを落とした。


    言葉は簡単で、私にもヒアリングできた。



    だから、自分に言いきかせる。
    自分や相手と向き合うのを恐れちゃだめだと。


    私はあの人が好きだから。

    きっと、もっと好きになるから。


    「以上。最後の課題です。

    分からなかったら、いつでも質問すること。

    私は、いつまでも


    ずっとあなたの先生です。」



    多分、最後の「I love you」に反応したんだろうみんなの、大きな歓声と冷やかし。

    収拾がつかないと判断した学年主任のダミ声が、投げ遣りに避難訓練という名の解散を告げた。


    目の前が更に霞んで

    気付いたら腕を強く引かれてた。


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■18444 / ResNo.53)  楽しいです
□投稿者/ テキーラ 一般♪(1回)-(2007/03/28(Wed) 18:16:48)
    なんか学生時代を

    思い出させる気がします



    気長に続きを待ってます

    (携帯)
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■18521 / ResNo.54)  スマイルストリップ 35
□投稿者/ mama' 一般♪(1回)-(2007/04/05(Thu) 23:06:58)

    ただ、私は引っ張らるまま。


    理子の手の湿度と
    私の気持ちは

    同調してて。


    廊下のきしみさえ、違和感なく。
    走って。

    たどり着いたのは屋上。


    そこで、やっと顔を上げた。



    理子。

    霞んで、表情が見えない。


    暑い夏。
    汗をかいた私の手を、離さずに


    しっかりと握って


    からまる足には

    でも躊躇しないで



    理子。



    理子。



    校舎を駆けた後。


    涙でぐしゃぐしゃだった私を

    抱きしめてくれたね。



    役立たずでごめん。


    泣くことしかできなくて。


    (携帯)
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■18522 / ResNo.55)  スマイルストリップ 36
□投稿者/ mama' 一般♪(2回)-(2007/04/05(Thu) 23:08:27)
    しゃくり上げる私を
    抱きしめて

    どれ位たったろう。

    日陰ではあったけど、
    背中をつたう汗の玉が、何度となく感じられた。


    「私ね。
    参考書の出版社にね・・電話したの」

    理子はゆっくり話し始めた。

    「出典が知りたいって。
    未樹が質問したあの英文の。

    そしたらさ。

    その問い合わせは今日2件目です、って
    同じ電話があったから、すぐ答えられますよ、って。」


    杉山先生がかけたんだ。

    あの時
    理子が関心を示したから。

    続きがあるなら読んでみたいと言ってたから。

    別れは目前だったのに。


    だから、

    「いつまでも、あなたの先生です」

    あのセリフは本心から偽りのないもので。

    理子のために
    あのスピーチはあったんだ。

    そらんじられる位、暗記して・・。


    「ねぇ、未樹。

    私、もっと先生と話せば良かった。
    もっと、もっと知れば良かった。

    怖かったの。

    拒絶されたらどうしようって。

    一生懸命、勉強して
    優等生扱いされて・・

    せめて、嫌われないようにって。

    でも、話しかける勇気がだせなかったの。

    お姉ちゃんのこと、先生から聞くのも怖かったし・・

    でも・・
    私、

    私・・・


    本当は、もっと、前みたいに・・
    マコ先生と話したかった。」


    「うん」


    「訳してもらったテキストね、
    私、自分のこと言われたみたいな気持ちだったのよ」

    「うん」

    「先生が問い合わせてくれてたって分かって、
    すごく嬉しかったの」

    「ん・・」

    「嬉しかったのよ」

    「・・。」

    「調べてくれてたのは知ってたけど、
    まさか暗記してるなんて、びっくりだったな」

    声は、どこまでも静かだった。


    「ほら、いつまで泣いてるのよ」

    ギュッと力が入った。

    「だって・・だって・・
    理子、泣かないから
    代わりに泣いてるんだよっ」

    「うん
    分かってるよ

    分かってる

    ・・ありがとう」

    いつもの皮肉もなく、素直に言うから、
    びっくりして顔を上げた。


    「未樹、ありがとう」


    理子は、笑顔だった。



    胸が締め付けられる位の。




    (携帯)
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■18523 / ResNo.56)  miyaさんへ
□投稿者/ mama' 一般♪(3回)-(2007/04/05(Thu) 23:17:10)
    お返事、誤ってけしてしまってたみたいで、遅くなってしまい失礼しました。

    書き込みありがとうございます。

    未樹、最初はモテキャラだったはずなのに。
    あらら・・です。

    また、読んでもらえてたら嬉しいです。

    (携帯)
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■18524 / ResNo.57)  テキーラさん
□投稿者/ mama' 一般♪(4回)-(2007/04/05(Thu) 23:24:13)
    書き込みありがとうございます。
    気長にお待ち頂けるとのこと、更にありがとうございます。

    たいして長くもない話なのに、もう季節が一巡りしてしまいました。
    せめて、物語の季節も春にして終わらせたいと思ってます。

    えぇ。春のウチに完結させます。

    校舎イメージは、私の母校です。登校日の感じもそのままです。



    (携帯)
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■18560 / ResNo.58)  スマイルストリップ 37
□投稿者/ mama' 一般♪(5回)-(2007/04/09(Mon) 00:21:27)
    2007/04/09(Mon) 00:22:19 編集(投稿者)

    そして、私達は揃って、屋上のフェンス越しから先生を見送った。
    花束に埋もれた先生。

    校門に呼ばれたタクシーに乗り込む前、大きく校舎を振り返り、
    彩り鮮やかな花びら越しに
    目があった。

    ゆっくり手を振ってくれた。

    私達も振り返えした。


    静かなお別れ。


    「いいの?下降りなくて?」

    「うん。
    伝えたいこと、吐き出しちゃったから。」

    にっと笑った理子。
    怪訝な私に教えてくれた。



    「好きだって、叫んじゃったもん」


    「へっ?叫んだっ?
    いつ??」

    「体育館で♪
    みんな好き勝手ヤジ飛ばしてたから、私もまぎれちゃった〜」

    誰も気付かなかったよと、イタズラっ子みたいに言った。

    「マジで?」

    「マジで♪」


    顔を見合わせて笑った。


    「あっ、佐々先生っ」

    まずい。気付かれたっ。
    避難訓練を放棄した私達。

    慌てて、屋上を飛び出した。


    怒鳴り声は明らかに私の名前を叫んでて。

    日頃の行いが悪いからだと、「優等生」は笑った。
    最初の頃の、笑い方とは違う。

    楽しそうな笑いだった。


    私も一緒に笑った。


    ずっと、一緒に笑いたいと
    笑った顔を見ていたいと



    ふいにそう思って気が付いた。



    自分の気持ち





    理子が好き


    理子のことが好き




    まだ夏
引用返信/返信 削除キー/
■18561 / ResNo.59)  スマイルストリップ 38
□投稿者/ mama' 一般♪(6回)-(2007/04/09(Mon) 00:25:31)
    2007/04/09(Mon) 02:16:51 編集(投稿者)

    実際のところ、夏が終わらないどころか、気が付いたら春だった。
    いつ秋が来て、冬になったのかも分からない。
    確かに衣替えもしてたし、コートも着てたけど・・ふと我に返ってみたら、コートを脱ぐどころか制服に別れを告げる季節になってた。

    それ位に必死で勉強した。


    恋の力はすごい。
    私は見事に志望校に合格した。

    理子と同じ大学に。



    そして迎えた春、一通の絵はがきが理子の元に届いた。


    「理子ちゃんへ

    卒業&合格おめでとう。
    元気ですか?
    私は仕事にも慣れて、毎日英語と格闘してます。
    英文科にしたと聞きました。
    サマースクールでこちらへ来たら、ぜひ遊びに来てね。
    杉山眞子より

    理子へ
    友達と来れば?案内位ならしてあげる
    聡子」


    最後の二行の筆跡だけ違うのは、お姉ちゃんからのだという。


    「ね〜ね〜。一緒に来いって〜」

    「いや、一人で行くし」

    「私がいないと寂しくない?」

    「別にっ」

    「大学、結局同じとこにしたくせに〜」

    「共学やっぱりイヤだっただけだもん、未樹は関係ないし」

    「ひっど〜。
    これから一緒に住む人に、なんてこと言うのよ」

    「ウチの親が、一人暮らしするなら寮に入れるって言ったからじゃないっ」

    「まぁまぁ〜
    楽しみだね、夏。」


    手が伸びる。

    理子の髪に。

    頭をなでる。


    「髪がクシャクシャになるじゃないっ」

    真っ赤になるのは、怒ってるからじゃないって
    もう分かってる。


    もう、次の夏なんてあっという間だ。

    あの夏がくるんだよ。


    白紙の答案を出した夏。
    理子を好きになった夏。



    もっと、いろんな顔を見せて。

    ずっと追いかけるから。


    もっと知りたいから。



    〜完〜
完結!
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